わが輩は猫である。名前はまだない。
嘘である。
わたしの名前はカオル、高校生だ。
今の時代特に珍しい名前でもないだろうと思うし、ありがちな男と間違えられたりすることもほとんどない。周囲が期待するような稀有な経験といったものは一つもわたしの会話のレパートリーにはないのだ。
まあ、強いて言うのであれは、同じ名前の男の子がいて、小学生の頃それをイジられたというぐらいか。
その子とはお互い思春期だったためか、辛いというわけではないが、少し気まずい思いをしたのを思い出す。
小学生というのは、正直男も女もさほど変わりはない。
夫婦だなんだとイジられ、わたしはそれに対して(おい、それを言うなら苗字が一緒のやつらだろう、、、!)なんて思ってはいたが、羞恥心がそんな言葉を飲み込み、顔を赤くしたままわたしはただ黙ることしかできなかったのだ。
その後、わたしが別の学区の学校に通ってしまったため、彼とは中学を境に、それから何か言葉を交わすことは一度もなかった。
顔もあまり覚えていないので、彼に対して特に恋愛感情も湧かないし、会ってもなにを話せばいいのかわからないから会う気なんてさらさらないが、いま彼はなにをしているのだろうか。ふとそんな風に思った。
小学校の頃は、色んなスポーツをやっていた気がする。野球やスポーツ、かけっこもそれなり速かったかな?なんて気もしてきた。
今、わたしと同じく高校生である彼は部活動に勤しんでいるのだろうか、それとも全く別の道にすすんでいるのだろうか。
会って話すことや、一目見ることも望んじゃいないが、誰かわたしに教えて欲しい。
どうせ明日には忘れているだろうが、少し気になるものが、どうしても気になる。
親に怒られているのに、どうしてもTシャツの裾のほつれが気になってしまう。
さっきまでは100%気にすることなどなかったそれが。
その時にどうしてもケリをつけたくなるのだ。
なんて経験はないだろうか?今まさにそんな状態だ。
こうなってしまったわたしを何者も止めることはできない!!
事は早い方がいい。最も顔の広い友達に電話をしてみよう。
いまどんな事をしているのか、それだけでいいのだ。ただそれだけが知れればそれでいい。
そんな事を考えながら私は立ち読みしていたバキを棚にしまい、古本屋から外に出た瞬間に、私はもう一度店内に戻って、バキを手に取った。
外は32度。真夏だった。
こんなわたしの出歯亀根性は、ただの暑さに負けたのだ。
外のセミの鳴き声が、自動扉が閉まる間際まで聞こえた。
この男の子は以降出てきません