ストレイガールズ   作:嘉月なを

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第2章 ゲートイン
#13-はじめての合宿


「さあ、着いたよ」

 

 トレーナーの合図で、あたしたちは勢いよく車から飛び出した。

 

「うわ、寒い」

 

 ここは山々に囲まれた、とある高原。熱い日差しは照り付けているけれど、吹き抜ける風が冷たくて、七月とはとても思えない。

 見晴らしのいい丘の上に立った、二階建ての大きなログハウス。ここが、あたしたちの合宿所になる。

 

「先輩、ありがとうございます」

「いいのいいの。ここ、親父が死んだあとはずっとほったらかしだったから。誰かに使ってもらわないとダメになっちまうんだよ」

 

 あたしたちと離れたところで、トレーナーは学生時代の先輩だという男の人と何やら話をしている。彼はここの所有者らしい。

 

「では、二か月間お借りします。合宿が終わったら、きちんと綺麗にしてお返ししますから、ご安心ください」

「マジ? 助かるわ。なんかあったら言ってな。できる限りのことはしてやるから」

 

 それからトレーナーはあたしたちを呼び出した。

 

「ほら、みんな挨拶しなさい」

「へえ、この子たちがお前の担当?」

「ええ、みんないい子たちですよ」

 

 お世話になります、と挨拶すると、先輩さんは腕組みをして、一列に並んだあたしたちをまじまじと見つめた。

 

「すげえなあ。あれだろ? 君ら、1000メートル1分くらいで走るんだろ? いいよなあ。俺もそれくらいで走ってみてえな」

 

 トレーナーはスポーツ系の学校へ行っていたと聞いた。ということは、この先輩とかいう人も、スポーツ関係の人に違いない。実際、腕や脚がよく鍛えられていて、何か運動をやっているんだなということがわかる。人間のアスリートから見ると、あたしたちのスピードはやっぱり、羨ましいって思うんだろうか。あたしたちからすれば、人間のマラソンランナーの持久力がすごいって思うのと、同じなのかな。

 

「ま、頑張って、こいつにタイトルをプレゼントしてやってくれよ。そん時は俺の別荘借りた合宿のおかげだって言ってくれ。俺もそうやって自慢するから」

 

 そう言うと、ニッと白い歯を見せて、先輩さんは自分の車で去っていった。

 

「素敵な方ですね」

 

 去っていく車の影が見えなくなったところで、レイアクレセントがぽつりとこぼした。

 

「うん、まあ結構いい加減なとこあるけどね。いい先輩だよ。実際」

 

 トレーナーの言い方にはどこか含みがあったけれど、あたしたちは気にせず、早速荷物を運び入れることにした。

 

「私ログハウスなんて初めて。わくわくする」

 

 車から荷物を下ろしながら、クラウンセボンは楽しそうに笑った。正直、あたしもちょっとその気持ちがわかる。高原のコテージって感じで、いろいろ想像してしまう。夜は星空が綺麗だろうなとか、朝の空気がおいしいだろうな、とか……。その先は、クラウンセボンが代わりに言ってくれた。

 

「昼間はトレーニングして、夜はみんなでお料理して、あれこれおしゃべりしながらゆったりと過ごして。そうだ、テンダーちゃんにヴァイオリン弾いてもらおうよ。持ってきてるでしょ?」

「そ、それは、クラウンさんに持ってきてって言われたから……」

 

 テンダーライトは、ヴァイオリンが弾けるらしい。この合宿にも、クラウンセボンたっての頼みで、自前のヴァイオリンを持参してきていた。

 

「きっと素敵な合宿になるよ! ああ、私このチームに入れて本当に良かった」

 

 すっかり舞い上がっているクラウンセボンに、あたしたちは苦笑いした。大げさだなあ、と思う一方で、みんなどこかその言葉に共感している。黙って積み下ろしをしているホープアンドプレイの顔も、心なしかほころんでいた。これから始まる合宿は、きっと素敵なものになる。誰もがそう思った。

 ところが、そんなロマンチックな想像は、次の瞬間音を立てて崩れていった。というのも、玄関を開けてすぐ目に飛び込んできた光景が、あたしたちがイメージしていたものとは全く違っていたからだ。

 

「きったな」

 

 あたしの第一声が、それだった。部屋の中は埃まみれ、というより砂まみれ。蜘蛛の巣がはり、雨漏りでできたらしいシミが部屋のあちこちにあった。もしやと思って確かめると、電気もガスも水道も止まっている。

 

「……ずっとほったらかしだったって言ってたけどね……」

 

 トレーナーも想像以上の事態だったようで、顔をひきつらせている。

 重苦しい沈黙を破ったのは、やっぱりクラウンセボンだった。

 

「お、お掃除しよう! みんなで! ね!」

 

 そうはいっても、ろくな掃除道具もない。結局あたしたちは、一時間ほど車を走らせたところにある(ふもと)の町まで、買い出しに行く羽目になった。

 

「素敵な方()()()ね」

 

 途中、あのログハウスの持ち主の話になった時に、レイアクレセントはそう言い直していた。

 埃を払い、家具を片付け、ようやく一息ついたころには、とっぷりと日が暮れていた。電気とガスはなんとか復旧したものの、残念ながら水道は間に合わなかった。明日の朝一で開けてくれるらしいけれど、今夜はお風呂にも入れないし、トイレも流せない。掃除用に買い込んだミネラルウォーターの残りのボトルが四本、部屋の隅にむなしく並んでいる。

 

「なんか、疲れた」

 

 本気で掃除したとはいえ、いつものトレーニングに比べればそれほどハードに動いたつもりはないのに、なんだか身体が重い。それはあたしだけじゃなく、他のみんなも同じようだった。みんなしてリビングのテーブルに突っ伏して、もう今日は何もしたくないというオーラを全身から放っている。

 

「初日から、災難でしたね……」

 

 レイアクレセントがうんざりした様子で口を開いた。

 

「でも、クレセントのおかげで、あたしたち今夜ちゃんと眠れそうだよ」

 

 あたしはそう言ってレイアクレセントに感謝した。何年も放置されていた備付けのベッドに寝ることを拒否したあたしたちのために、レイアクレセントは自前のクレジットカードを使って、あたらしいマットレスと布団を用意してくれた。こんなものに頼りたくなかったと言いつつ、安眠には代えられないと身銭を切ってくれたチームメイトに、あたしたちは足を向けて寝られない。文字通り。

 

「心配いりませんよ。費用はあとでトレーナーさんに返していただきますから」

 

 そういうところはしっかりしている。たしか結構な値段だったと思うけど、運送用のトラックを借りて走りまわったトレーナーも疲れ切っているのか、手を挙げて力なく「了解」と答えるだけだった。

 

「ねえ、おなかすいたよ」

 

 クラウンセボンが泣きそうな声で言った。実をいうとあたしも空腹だった。あたしがそうなのだから、大食らいのクラウンセボンはひとしおだろう。

 

「――今日はレトルトで」

 

 トレーナーはため息とともにそう言った。その姿、どこかで見たことがあると思ったら、あれだ。夜勤明けの母さんと同じだ。あたしは懐かしいやら面白いやらで、ひとり笑いが止まらなくなった。他のみんなからは、あまりの出来事にあたしがおかしくなったように見えたようで、その後全員、妙に優しかった。

 

「……ん?」

 

 気づくと、朝になっていた。いつ寝入ったのかなんて覚えていない。あまりにも疲れていたから。

 

(うわ、すごい部屋)

 

 あたしが寝ていた寝室は、もともとは二台のベッドが置かれた広めのゆったりとした部屋だった。それが、昨日掃除をしている時に、クラウンセボンの提案ですべての部屋のベッドをここへ移動させたものだから、部屋の光景は異様なものに様変わりしていた。実に六台ものベッドがギュウギュウに詰め込まれて、足の踏み場もない。奥の方のベッドなんて、他のを踏み越えていかなきゃいけないところにある。

 

(合宿感は、あるけどね)

 

 他のメンバーはまだ昨日の疲れが残っていると見えて、目を覚ます気配がない。あたしは起こさないように、慎重にベッドの間を縫って這い出した。

 ジャンパーを羽織って外に出てみると、ひんやりとした高原の空気で頭が冴えてくる。朝晩冷えると聞いていたから、上着を持ってきて正解だった。霧が立ち込めて、景色はほとんど見えないけれど、やっぱり都会とは空気が違って気持ちがいい。大きく息を吸って伸びをする。ちょっと寒いけど、ラジオ体操でもやりたくなる気分だ。

 

「おはよう」

「どわぁ! ビックリした!」

 

 急に後ろから声をかけられ、不意をつかれたあたしは思わず大声をあげてしまった。話しかけてきたのはホープアンドプレイだった。あたしの後を付けてきたらしい。気配を殺していたのか、全然気づかなかった。

 

「やめてよね。心臓止まるかと思ったじゃん」

「寒いね」

「こら、無視すんな」

 

 ホープアンドプレイは、そばにあった木製のベンチに腰かけて、ふうと軽く息をついた。あたしも追いかけるようにして隣へ座る。といっても、特に話すこともない。どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声と風の音に囲まれたまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 

「ん?」

 

 そんな中で、何か視線を感じると思って振り向くと、ホープアンドプレイがあたしの顔をじっと見ているのに気づいた。寝起きで顔によだれでもついているのかと思って口元を触ってみたけど、そんなことはない。なんだろう、あんまり見つめられると変にドキドキしてくる。

 

「なに、どうかした?」

 

 あたしはなんでもない素振りをして尋ねた。すると、ホープアンドプレイはパチパチと瞬きをして、同じようになんでもない風に答えた。

 

「いや別に。髪、黒いなって思っただけ」

「なにそれ。黒髪なんて珍しくもないでしょ」

 

 そんな当たり前のことを口に出すなんて、らしくないなと思った。第一、あたしが言ったように黒髪なんて珍しくもなんともない。ウマ娘じゃなきゃ、たいていの日本人は黒髪なんだから。あたしに尻尾と耳さえなかったら、それこそ目立たない地味なやつだっただろう。

 

「キミのは青鹿毛でしょ。ヒトの黒髪より、ずっと綺麗だよ」

「なっ……!」

 

 自分の顔が赤くなっていくのがわかった。こんなことを言われるのは、慣れてない。それも、よりにもよって、ホープアンドプレイからだなんて。

 

「バッカじゃないの!? なに変なこと言ってんの!」

 

 あたしは立ち上がって、ホープアンドプレイに背中を向けてから、パンパンと顔を叩いた。鏡が無いから、いま自分がどんな顔してるかわからないけど、絶対に見られたくない。その感情を誤魔化すために、あたしは勢いよくまくし立てた。

 

「だいたいね、普通に手入れしてたら、髪も尻尾もこれくらいにはなるの! アンタみたいに水で洗っておしまいじゃないんだから。そうだよ、アンタこそもっとちゃんと手入れしたらいいんだよ。短いだけでボサボサじゃん! せっかく綺麗な芦毛なんだから、他の子みたいにトリートメントもテールオイルもちゃんと使って、そんで……」

 

 そこであたしの耳に、クスクス笑う声が聞こえてきた。その控えめな笑い声はだんだん大きくなって、ついにはアハハとはっきりとした声になった。あたしは我慢ならなくなって、真っ赤な顔のまま振り向いた。

 

「なんだよ、なに笑ってんの! 他人のことからかって、そんなに楽しいの!」

 

 怒鳴りつけられた芦毛のウマ娘は悪びれる様子もなく、目元を指でぬぐい、お腹を抱えたまま首を振った。

 

「からかってなんかないよ。キミがあんまり必死になってしゃべるから、おっかしくって」

「もとはと言えば、アンタがおかしなこと言うからでしょ!」

「ボクは思ったことを言っただけだよ。いつもそうしろってキミが言うからさ」

 

 そうして、ホープアンドプレイはまた声を上げて笑った。悔しかったけど、何も言い返せない。思ったことはちゃんと言えって、たしかにあたしが言ったことだし。でも、なんか納得いかない。どうも、うまく丸め込まれたような気がする。

 

「あーもう! あたし、シャワー浴びてくる!」

「まだ水出ないよ」

「そうだった!」

 

 吐き捨てるようにそう言ってログハウスへ戻ると、あたしは乱暴に音を立てて玄関を閉めた。

 ちょうどそこへ、寝室からトレーナーが出てきたところだった。

 

「……どうしたの、ルピナス」

「なんでもない!」

「ならいいけど、借りものなんだから扉は丁寧に扱ってよ。ただでさえ出費が痛いんだから」

「あっ……ごめんなさい」

 

 トレーナーの現実的な言葉に、頭にのぼっていた血は一気にすうっと冷めていった。

 それでも、あたしの心臓はまだ早鐘をうっている。別に、毛並みが綺麗だと褒められるのは初めてじゃない。トレセン学園の入学試験でクラウンセボンに出会った時も、似たようなことは言われた。むしろ、あの時の方がよほどオーバーな褒められ方をした気がする。

 

『ルピナストレジャーさんの青鹿毛の髪、すっごく綺麗! 黒い宝石みたいにキラキラしてて、ヒトの黒髪とは全然違って……吸い込まれちゃいそう』

 

 クラウンセボンらしい、大げさで、聞いてる方が恥ずかしくなるような表現。だけど、あたしにとってはなぜか、今日のアレの方が何倍も恥ずかしかった。

 その後水道が開通して、あたしが真っ先にやったことは当然、冷たいシャワーを頭から浴びることだった。

 

 

 

「さて、それじゃあ早速今日からトレーニングに入るわけだけど。そのまえに、どうして私が合宿地としてここを選んだか、わかる?」

 

 朝食後のミーティングで、トレーナーはみんなにそう尋ねた。そう言われてみれば、なぜだろう。トレセン学園の合宿と言えば、海のそばにあるあの合宿所が有名だ。ここは山の上で、環境としては正反対と言ってもいい。理由として思いつくのは、海だの夏祭りだの、誘惑があるところを避けたかったのかな、なんてことくらいだった。

 

「はい、高地トレーニング、ですよね!」

 

 クラウンセボンが勢いよく答えた。

 

「さすが、ボンはよく勉強してるね。そう、私たちは高地トレーニングをするためにここへ来たの」

 

 高地トレーニング。どこかで聞いたようなことがある言葉だけど、ウマ娘のトレーニング法としては授業で習ったことはない。

 

「ここは標高2000メートルくらい。普段生活しているところより空気は薄いけど、高山病になりにくいギリギリのところなの。昨日、みんな掃除しながら、かなり疲れてたよね。あれは、ここの空気が薄いからなんだよ。空気が薄ければ、当然息も上がりやすい。肺にも負担がかかる。そういう環境で生活していれば、心肺機能が自然と強化されていくってわけ」

 

 なるほど、と思った。昨日やたら疲れたのは気のせいじゃなかったんだ。

 

「なら、トレーニングもこの環境でやるってこと?」

 

 そうだったらかなりキツいな、と思いながらあたしは尋ねた。なにせ、掃除だけで疲れちゃうくらいの場所なのだから、ランニングでもしようものなら1000メートルだって持ちそうにない。

 すると、トレーナーは首を横に振った。

 

「そういう方法もあるけど、今回は、トレーニングは昨日買い出しに行ったふもとの町でやるよ。ここじゃ全力で動けなくって、かえって体力が落ちちゃうからね。空気の薄いところで生活して、運動は普通のところでやる。この方法は人間のアスリート向けとされてきたトレーニング法なんだけど、最近の研究でウマ娘にも効果があるってことがわかってきたの。特に、スタミナ強化にはね」

 

 それからあたしたちはジャージに着替えて、トレーニング場へと移動した。車に揺られること一時間程度。その間に、標高差1000メートルほどの道を一気に下る。昨日の顛末が無ければわくわくする峠道も、いまのあたしたちにとっては掃除用具を買いに行った道になってしまった。どうもいまいち、テンションが上がらない。

 ふと見れば、クラウンセボンがスマホをポチポチといじっている。何やらメモ帳アプリのようなものを開いているらしい。

 

「ねえ、なにそれ?」

「あ、これ? これねえ、トレーニング日記。トレーナーさんが指導してくれたメニューとか、新しいトレーニング法をメモしてるの。今日は高地トレーニングについて」

 

 クラウンセボンはそう言うと、これまでの日記の一覧を見せてくれた。チームトレーニングが始まった四月から、たくさんのメモがずらりと並んでいる。自分のメニューだけじゃなくて、チームみんなの分の情報もしっかり記録しているようだった。

 

「すごいじゃん。こんなことしてたなんて知らなかった。トレーナーも言ってたけど、ボンはほんとに勉強熱心だよね」

「えへへ、まあ勉強になるっていうのもそうなんだけど、それよりも思い出かな。読み返すと、みんなと一緒にこれだけ頑張ったんだって、そう思えるから」

「へえ……ねえ、あたしの記録、ちょっと見せてよ」

 

 いいよ、と快く手渡してくれたスマホを受け取って、あたしの名前がタグ付けされたメモをチェックしていく。見てみると、本当に細かくいろいろ書かれている。併走のタイム、坂路の記録、模擬レースのラップタイムから、トレーニングメニューの変化まで。あたし自身が忘れているようなことまでしっかり書き残されている。

 

「わあ……これ、他の人のもみんなこんな感じ?」

「うん、みんなの大事な成長の記録だからね」

 

 本当に感心してしまう。あたしじゃ絶対にこんな面倒なことできない。

 その後も夢中になってメモを読んでいると、横からテンダーライトが話しかけてきた。

 

「あの……ルピナスさん、大丈夫?」

「え? なにが?」

「その、なんだか、顔色が悪いから」

「えっ」

 

 そういえば、さっきからなんだか胸がムカムカする。クラウンセボンのトレーニングメモが面白くて気にしていなかったけど、そう言われた途端、一気に気分が悪くなってきた。

 

「うえ、気持ち悪い……あ、もしかして高山病……?」

 

 すると、ホープアンドプレイがあきれたように言った。

 

「バカじゃないの。酔ったんでしょ。山道走ってるのにそんな小さい文字読んでるから」

 

 あ、そうか。――やばい。一度自覚するとどんどんひどくなってくる。目の前がチカチカして、眠くないのにあくびが止まらない。

 

「わああ、ルピナスちゃん、しっかり!」

「なに? 具合悪い?」

 

 運転席から焦り気味な声でトレーナーが尋ねてきた。

 

「ん……大丈、夫……」

「トレーナーさん、一旦どこかに車を止めましょう」

 

 レイアクレセントも慌てたように言った。多分、いまみんなが考えてることはひとつだ。

 

「ちょっと、車の中で吐かないでよ」

 

 みんなが敢えて言わないその言葉を、ホープアンドプレイがはっきり口にする。「思ったことはちゃんと言え」っていうの、きっちり守ってんだな。……なんて思ってる場合じゃない。あたしの口の中にはもう、今朝飲んだにんじんジュースの味が蘇ってきていた。ぜんっぜん嬉しくないけど。

 

「うう、私が余計なことを言ったせいで……」

「テンダーちゃんのせいじゃないから! 私がルピナスちゃんに変なもの読ませたのがいけないの!」

「トレーナーさん、エチケット袋はありませんか?」

 

 まだトレーニングが始まってもいないのに、大混乱に包まれる車内。そんな中であたしは口と胸をおさえたまま、うつろな目をしていた。本当は、テンダーライトにもクラウンセボンにも「アンタのせいじゃないよ」と言いたいけれど、いま口を開いたら、()()が全部出てきそうで、何もしゃべれない。

 こうして、あたしのはじめてのチーム合宿は、前日から引き続いて散々な幕開けになるのだった。

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