ストレイガールズ   作:嘉月なを

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#24-疑惑

「ルピナスちゃん、はい今日の四食め」

 

 午前の授業が終わって、ランチの時間も過ぎた午後のカフェテリア。その真ん中で、クラウンセボンが屈託のない笑顔を向けながら、巨大なタッパーを差し出してくる。あたしは目で無理無理と訴えたけれど、栗毛の親友はそんなことじゃ許してくれない。ニコニコしたまま、あたしが観念して受け取るのを待っている。

 

「――いただきます」

「よろしい!」

 

 弁当箱と言うにはあまりにも大きなそれを手に持つと、ズシリと重さが伝わってくる。いまからこれをお腹の中に入れるんだと思うと、食べる前から胸焼けしそうだった。

 とはいえ、デビュー戦からのキツいローテーションで体重を落としたあたしだ。食べないわけにはいかない。それにこのお弁当は、クラウンセボンが寮のキッチンを借りてわざわざ手作りしてくれたもの。日夜研究に励んだという、ウマ娘の身体づくりに必須の栄養素がたっぷり入ったメニュー。味だって、学園の寮やカフェテリアで出されるような料理にも負けていない。

 

「早く体重を戻してね。チューリップ賞、()()応援に行くから」

 

 クラウンセボンは目を輝かせながらそう言った。その瞳の奥に、()()食べさせるという別の強い意志を感じる。かれこれ一週間、あたしはこの優しげな鬼教官のもとで食べまくる生活を送っていた。

 

「悪いね。あたしのために時間取らせちゃって」

「私がやりたいんだからいいの!」

 

 その気持ちはありがたいけれど、諸手(もろて)を挙げて喜んでもいられなかった。もちろん、食事トレーニングがツラいからというわけじゃない。クラウンセボンにだって自分のレースがあるからだ。

 年明けの未勝利戦でテンダーライトが初勝利を手にしたために、うちのチームでまだ勝ち上がっていないのは、未デビューのホープアンドプレイを除けばクラウンセボンだけになった。本来、あたしの面倒ばかり見ている余裕なんてないはずだ。

 

「心配しないで。ちゃんと自分のトレーニングの時間は取ってるから」

「それならいいけどさ……こういうのって、ホントはトレーナーの仕事じゃん?」

 

 あたしはずっと気になっていたことを口にした。そう、今回のことに限らず、食事の管理についてトレーナーは、ほとんどあたしたちの自主的な活動に任せている。よそのチームの話では、食事はトレーナーが監視したり、特製のスペシャルメニューを作ってくれたりするのが当たり前だというのに。うちのチームでは、トレーナーは食事内容の指示を出すだけで、あとはちっとも見てくれない。なんなら、最近はその指示までクラウンセボンがやってるんだから、トレーナーは本当にほぼ何もしていない。

 

「追い切りとか坂路とか併走とか、そういうのはちゃんと見てくれてるけどさ……なんていうか、ボンが優秀なのいいことに手抜いてないかな」

 

 思えば、不思議に感じたのはこれが初めてじゃない。以前、ホープアンドプレイにも似たようなことを言った覚えがある。今のところは上手くいってるからいいけど、どうにもわからないことだった。

 

「私もそう思ったことあるよ」

 

 クラウンセボンのその言葉で、あたしはある意味安心した。この疑問を抱いていたのが、あたしだけじゃないってことがわかったからだ。

 

「あたし、聞いてやろうか。『なんでよ』って」

 

 指導のプロであるトレーナーに、選手という立場で意見するのは気が引けるものだ。でも、気になることならどこかで突っ込んでいかないとダメだ。わだかまりや不満は解消しておかないと、かえって良くない。そして、そういう役目なら、あたしが一番の適任だと思った。普段からなんでも聞きたがるあたしなら、多少生意気でも許されそうだし。

 ところが、クラウンセボンはもうその謎の答えを知っているらしかった。

 

「あ、いいのいいの。ちゃんと理由があるんだって、今はわかってるから」

「え? なにそれ。あたしにも教えてよ」

 

 あたしは身を乗り出してせっついた。クラウンセボンは小さく頷いて「あのね――」と話し始める。その時だった。

 

「あーっ、ルピナストレジャーさん! やっと見つけましたっ。今日も私はサボらずにしっかりと役目を果たしましたよ。何しろ『勤労は今なお成功への唯一の道』ですからね!」

 

 あたしの背後から興奮気味にまくしたてる声が飛んできた。振り返らなくてもわかる。クラスメイトのオリンピアコスだ。相変わらず訳の分からない格言を唱えながらずんずん近づいてくる。昼下がりのカフェテラスは人もまばらで、よく声が響く。あちこちから届けられる視線と、クスクス笑い。ああ、他人のふりをしたい。

 とはいえ、無視をすればもっと大きな声で呼びかけられるのはわかりきったことなので、おとなしく返事することにした。

 

「どしたの、オリ」

「先ほどURAの職員の方がお見えになりまして、ルピナストレジャーさんを保険室へお連れせよとおっしゃいました。我がクラスの仲間のことであれば、その役目、二年連続の学級委員長たる私こそが申し付かりましょうと――」

「あーわかった、つまり保健室に行けばいいってことね」

 

 演説が長くなりそうだったので、あたしは途中で遮るように用件をまとめてやった。それにしても、URAの人があたしを呼んでるって、どういうことだろう。何か考えられることはないかとクラウンセボンの方を見ると、その表情はなぜか強張(こわば)っていた。

 

「ボン?」

「……ルピナスちゃん、私もついてくよ」

「え? そりゃありがたいけど、なんで?」

 

 その問いには答えず、クラウンセボンは手早くあたしの食べかけの食事を片付け始めた。

 

「オリちゃん、URAの人は何か言ってた?」

「いいえ、私はただルピナスさんをお連れせよとの指令を受けただけです。私が想像するに、何かお祝いのお言葉でもいただけるのではないでしょうか? 勝ち方といい、レース間隔といい、ルピナスさんの快進撃には目覚ましいものがありますから!」

「ならいいんだけど……」

 

 保健室へ向かう道中、オリンピアコスとクラウンセボンがそんな会話を交わす後ろで、あたしは胸の中のざわつきと戦っていた。

 レースに出走するようになってから、検査やら何やらで保健室だの診療所だの、そんなところにばかり出入りしている。正直、行きたくないなというのが本心だった。病院で働く母さんを見て育ったあたしだから、そういう場所には慣れているつもりだったのに。もちろん、検査に行く度見せられてきた異様な雰囲気が理由のひとつだけど、今回はそれに加えて、クラウンセボンのやけに不安げな様子が気になる。きっと、何かよくない予感を持っているに違いない。その予感の内容は、怖くて聞けなかった。

 

「オリンピアコスです! 任務を無事遂行いたしました!」

 

 ふと気づけば、いつの間にかあたしたちは目的地へと到着していた。意気揚々と宣言しながら扉を開こうとオリンピアコスが手を挙げる。その瞬間、扉の方が勝手に開いて、中から見たことのない顔が現れた。

 

「おや」

 

 扉を開けたのであろう、スーツにURA職員のバッヂを付けた大人のウマ娘が目を丸くしている。

 

「オリンピアコスさん、私はルピナストレジャーさんを連れてくるように言ったはずですが」

「ええ、ちゃんと連れてきましたよ!『最大の美徳は、他人の役に立つことである』との先人の教えに従いまして――」

「必要のない子まで連れてこなくてよいのです」

 

 そのウマ娘は、いつもの演説を始めようとしたオリンピアコスには目もくれず、冷たい声色でクラウンセボンを指さした。

 

「私が付いて行くって言ったんです。ルピナスちゃんは私の大事な友達ですから」

 

 クラウンセボンは怯むことなく言い返した。普段そんな姿を見せないから驚いてしまうけど、こういう時、彼女は意外と肝が据わっている。相手のウマ娘も虚を突かれたような顔をして、しばらく押し黙った。それからオリンピアコスに向かって、(ねぎら)いの言葉をかけた。

 

「オリンピアコスさん、あなたはもう帰ってもよろしい。先生方にもよくやってくれたとお伝えしておきますよ。お疲れさまでした」

「ありがとうございます! それでは失礼いたします!」

 

 ビシッと音が鳴りそうな勢いで敬礼をして、オリンピアコスは上機嫌に尻尾を躍らせながらその場を去っていった。ひと仕事を済ませた達成感で、もう完全にこちらへの興味を失ったと見える学級委員長様は、一度もこちらを振り返らない。あたしはなんとなくホッとしていた。大声で呼び出されたときは恥ずかしかったけど、よく考えてみれば、呼びに来たのがアイツでよかったかもしれない。

 そんなあたしの内心を咎めるように、現れたURA職員のウマ娘は刺すような言葉を放り投げてきた。

 

「ルピナストレジャーさん、あなたには今から検査を受けていただきます」

 

 あたしは困惑を隠せなかった。だって、あたしはすでに二走めのあとの検査を終えている。もちろん、今回も所見なし。トレーナーから厳命されているから今週は走らないことにしているけど、その気になれば今すぐ全力ダッシュをしたって平気なくらい、疲労もない。それに、まだ大した実績もないあたしなんかの脚の検査くらいで、わざわざURAから職員を派遣してくるわけもないはず。

 

「それは、裁決委員のリクエストですか?」

 

 あたしの代わりに、クラウンセボンが聞き返す。すると、相手のウマ娘はほんの一瞬、目を見開いて驚くような素振りを見せた。

 

「察しがいいですね。そういうことですよ。話が早くて助かります」

 

 何のことだかわからないあたしに、クラウンセボンは厳しい表情のまま言った。

 

「ルピナスちゃん、この人はルピナスちゃんの検査に来たんだよ。脚じゃなくて、()()()()()()()()にね」

「は?」

 

 ますますおかしい、と思った。競走ウマ娘に対するドーピング検査は、レースで上位に入ったウマ娘に必ず実施されている。でも、それはレース直後に行われるものだし、当然あたしも済ませている。それなのに、数日経ってからもう一度だなんて、脚の検査以上に意味が分からない。

 

「なにか、検出されたんですか? ルピナスちゃんを疑うのなら、それなりの根拠があって仰っているんですよね」

 

 クラウンセボンの語気が強くなった。けれど、目の前のURA職員は意に介すこともなく淡々と事務的な口調で答える。

 

「レース後の検査では何も検出されませんでした。しかし、時期が公開された検査で望ましい結果を得るのは、それほど難しいことではありません。当該ウマ娘は環境および戦績を総合的に考慮して、期日を改めた再検査の対象とするとの決定が下されたのです。この調査は学園の理事長殿にも承認を得ておりますので、ご協力を願います」

 

 なんだか小難しい言い回し。でも、大体言ってることはわかる。つまり、あたしの勝ちっぷりをみて、疑わしいと思ったやつがいるってことだ。レース後の検査はうまいことごまかしたんじゃないか、と思われたらしい。

 

「ひどい! だって、クレセントさんのときは再検査なんてされなかったじゃありませんか!」

「彼女と当該ウマ娘においては状況が違いますから」

「それって――!」

 

 クラウンセボンはわなわなと肩を震わせて、声を詰まらせてしまった。その顔が真っ赤になっている。この職員が何を言わんとしているのかは、あたしにだって理解できた。要は、あたしがヒト生まれで、チーム〈プルート〉の選手だから怪しい、ってことだろう。ひどい話。いままで生きてきた中でも、最大級に侮辱的な裁定だ。

 それなのに、当事者のはずのあたしは、その様子を横からまるで他人事のように見つめるばかりだった。自分でも不思議なほど落ち着いていた。

 

「ボン、もういいよ」

「ルピナスちゃん……」

「いいから。あたし、何にもやましいことなんてないもん。受ければすぐ済む話でしょ」

 

 あたしは、レイアクレセントがうちのチームへ入ると言い出したときのことを思い出していた。

 あの時、たしか彼女のクラスメイトからも、あたしたちの不正を疑うようなことを言われた。レイアフォーミュラとの模擬レースで好走した後だったし、当然と言えば当然だったのかもしれないけれど、やっぱり気分がいいものじゃない。そういえば、その時もはじめに相手に食って掛かったのはクラウンセボンだった。つくづく、あたしはいい友達を持ったと思う。もしもクラウンセボンがいなかったら、あたしはきっと、もっと取り乱していただろうから。

 

「ではこちらへ」

 

 職員のウマ娘に促されて、あたしは検査所へと足を進めた。ついてこようとするクラウンセボンを手で制して、あたしはわざと周りに聞こえるような声で言った。

 

「ボンはここにいて。バカなやつが余計な疑いを持たないように」

 

 それが、あたしの精一杯の抗議だった。

 長い時間をかけて二種類の検体を提出して、ようやく解放されたあたしは、挨拶もそこそこに保健室を出た。後ろで何かごちゃごちゃ言っているのが聞こえたけれど、どうでもいいことだ。関わり合いになりたくないし、一刻もここから離れたい。

 

「あ」

 

 保健室前の廊下では、クラウンセボンが壁によりかかったまま、あたしの帰りを待っていた。それだけじゃなく、その横にはトレーナー以下チーム〈プルート〉のメンバーが一列に並んでいた。

 

「ルピナスちゃん……」

 

 クラウンセボンの呼びかける声は、涙でにじんでいた。

 

「何泣いてんの」

 

 あたしは思わず吹き出した。本当のところ、あたしもちょっと危なかったんだけど。でも、向こうがあんまり情けない顔をするもんだから、自然と涙は引っ込んでしまった。

 

「ミーティングのお時間になってもお二人がいらっしゃらなかったので、クラウンさんに連絡を取ったんです。そうしたら、こんなことになっているとお聞きして……」

 

 レイアクレセントの言葉に、他のみんなも頷いている。

 

「ああ、ごめんごめん。ちょっと手間取っちゃってさ。トレーナー、いまからでも間に合う?」

 

 トレーナーは黙って首を縦に動かした。

 

 

「今回のことは、私がいけなかった」

 

 部室に着くなり、トレーナーはそう言ってあたしの肩を撫でた。

 

「こうなることは、予想できていたんだ。だから、事前に一度、ちゃんとみんなに話しておくべきだったと思う。それなのに、私はずっとその話題を避けてきたから」

 

 そうしてトレーナーは、みんなの前で深々と頭を下げた。

 

「本当に、ごめんなさい。私はみんなを守らなきゃいけない立場なのに、みんなを不安にさせて。特にルピナスには、かえってつらい思いをさせてしまって」

 

 トレーナーの言いたいことはわかる。正直、事前に聞いておけば心の準備もできたかもしれない。ただ、だからといってあたしはトレーナーを責める気にはなれなかった。このチームが抱えている過去や、自分が血統的にどう評価されているかを考えれば、あたしにだってこの展開は予想できたかもしれない。身もふたもない言い方をすれば、()()()()()で見られることを承知でこのチームに入ったんだから。ただ、思ったよりも早かっただけだ。そういうのは、もっと活躍してから降りかかってくるものだと思っていたから。つまるところ、あたし自身甘く考えてたんだ。

 トレーナーの謝罪に、みんなしばらく何も言わずに黙りこんでいた。無視をしていたんじゃない、と思う。あたしと同じようにいろんなことを考えて、多分、何と言っていいのかわからなかっただけ。

 そんな中ではじめに口を開いたのは、クラウンセボンだった。

 

「……ねえ、みんな。トレーナーさんのこと、誤解しないであげてほしいの」

 

 そう言いながら、クラウンセボンは自分のスクールバッグから、分厚いファイルを取り出した。

 

「これね、私がトレーナーさんと一緒に作った、身体づくりのための食事メニューなの。最近、みんなの食事内容は、私が決めてるじゃない? クレセントさんのも、テンダーちゃんのも、もちろんホープちゃんやルピナスちゃんのも。……実はね、これには理由があったの。みんなには黙ってたけど」

 

 それはさっきあたしが聞こうとしていた話だ。クラウンセボンはそこで一度ちらりとトレーナーの様子をうかがって、意を決したように続きを話し始めた。

 

「去年から、トレーナーさんはみんなが口にするものに関わらないようにしてたの。ううん、関わらなくていいようにしようとしてたの。夏合宿のときに、みんなでごはんを作りあったのも、誰かの勝負メシを作るときは、交代で担当してたのも、私たちが自分で食事を選んで、自分たちで作れるようにするためだったの。私たちが――」

「安心して食事をとれるように、ですか」

 

 レイアクレセントがそうつぶやいた。クラウンセボンは頷いて、先を続けた。

 

「さっきトレーナーさんも言ったように、私たちはこのチームにいるだけで、他のチームの子たちよりも疑われやすいでしょう? だから、私たちが自分自身で『変なものを摂取してない』って自信をもっていられるようにしたかったんだよ。そこをトレーナーさんに管理されてたら……その、私たちが安心しきれないだろうって、トレーナーさんは思ったの。もちろん、代わりに私にちゃんと教えてくれたんだよ。栄養バランスのこととか、他にもいろんなことを。そうやって、トレーナーさんなりに私たちを守ろうとしてくれてたの」

 

 言いにくそうに、崩れそうな橋を一歩一歩確かめながら歩くように、クラウンセボンは慎重に話を進めた。

 

「なら、ちゃんと言ってくれればよかったのに」

 

 自然と、そんな言葉が口をついて出た。聞けばなんてことない話だ。事前に聞いておけば、本当に何の問題もなかった。むしろ話してくれなかったおかげで、ただの手抜きなんじゃないかと疑ってしまったくらいだ。

 その思いは、レイアクレセントも同じようだった。

 

「その通りです。私たちは、ウマ娘とトレーナーである前に、チームの仲間でしょう。……お立場を考えれば言いにくい話だったのかもしれませんが、それではあまりにも水臭いではありませんか」

 

 トレーナーはうなだれたまま、あたしたちの言葉にただ頷くだけだった。

 

「それに、クラウンさんだけ事情をご存じだったのも、気に入りません。このチームのメンバーにお料理を教えたのは、私なのですよ? そういうお話は、真っ先に私に伝えるべきでしょうに」

 

 わざとらしく頬を膨らませて、レイアクレセントは腕を組み、ぷいとそっぽを向いた。それを見たテンダーライトが「まあまあ」と言ってなだめにかかる。

 そこへ、新しい声が響いた。

 

「なんか――」

 

 それは、いままでずっと黙りこくっていたホープアンドプレイだった。みんなが一斉に彼女へ視線を集めると、芦毛の少女はふっと鼻で軽く笑って、一言付け加えた。

 

「みんな、子供だね。ボクら」

「じょ、冗談に決まっています! 本気にしないでください! ホープさんらしくもありません」

 

 慌てたようにレイアクレセントが組んだ腕を解いて、ぷるぷると首を振っている。名家のお嬢様の子供っぽい一面に、あたしたちはみんな笑った。

 

「とにかく! 私はもう気にしていません! いいえ、ルピナスさんが不当な疑いをもたれたことには、憤っておりますとも。当然です」

 

 ゴホン、と咳ばらいをして威厳を取り戻したレイア家の令嬢は、真剣な顔に戻ってトレーナーに向き直った。

 

「ですが、抗議文や意見書を出したところで、いまの私たちでは歯牙にもかけられないでしょう。……ですから、トレーナーさん。お願いです」

 

 トレーナーが顔を上げるのを待って、レイアクレセントは厳かな調子で言った。

 

「私たちを、もっともっと、勝たせてください。疑いが、圧倒的な勝利への妬みでしかなくなるまで。私たちにできることは、それだけなのですから」

「――うん。わかった」

 

 その返事が出たとたん、クラウンセボンが(せき)を切ったようにワッと声を上げて泣き出した。おかげであたしたちのミーティングは、残りの時間すべてが彼女を慰めるのに費やされてしまった。でも、あたしは妙に気分がスッキリしていた。これでよかったんだ。少なくとも、胸の中に抱えていたわだかまりは、全て解けたような気がする。大舞台を控える私にとって、これは決してマイナスの出来事じゃなかった。そう思えた。

 

 帰り道、あたしはホープアンドプレイに尋ねた。

 

「ホープ」

「なに」

「アンタが言ってた『みんな』って、どこまで入るの?」

「なんの話」

 

 それがすっとぼけた返事なのは、さすがのあたしでもすぐにわかった。もうそれでごまかされるあたしじゃない。

 

「『みんな子供だ』って言ったじゃん。アレの話だよ」

「ああ……まあ、キミが思ってることと同じじゃないかな」

 

 そう言って、小さなルームメイトはニヤッと笑うのだった。

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