ストレイガールズ   作:嘉月なを

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#36-挑戦者たち

 朝から、嫌味なくらいに抜けるような青空だった。

 

「いよいよ、この日が参りました」

 

 東京レース場のロッカールームで、あたしたちのエースは静かに、けれど闘志のこもった声で意気込んだ。

 

 場内はすでに、熱狂に包まれている。無敗の桜の女王を、無敗の皐月の王が迎え撃つ。同じレイアの名を持つ二人が、最も権威のあるレースで激突する。どちらが勝っても、無敗の二冠ウマ娘誕生となるこの勝負。いったいどんな戦いになるのか、だれもが胸を高鳴らせて、その時を待っていた。

 それぞれの想いが渦を巻くこの場所で、あたしはなんだか、足元がふわふわしたような不思議な感覚に包まれていた。ここはつい数週間前、あたしが勝負服を着て走った場所。デビューした場所でもあるし、入学前から何度も何度も通い詰めた馴染みのレース場。それなのに、今日はすべてが違って見える。

 

「落ち着いてね、クレセント。あとは貴女自身の力を信じて、最後までやり切りなさい」

「ええ。全身全霊をかけて。トレーナーさんには、私のわがままに付き合わせてしまいました。そのご恩は、今日ここで、必ずや返させていただきます」

 

 師弟の会話は、まるで映画の中から出てきたかのように、どこか現実離れした響きだった。

 その横で、備え付けのモニターには、本番直前の出走者リストが何度も何度もくり返し映し出されている。そうそうたる顔ぶれが名を連ねる中に、たったひとりのティアラ組。

 ああ、あたしはこんなにすごい子と一緒に走っていたんだ。直接戦ったこともあるんだ。そう思うと、妙に誇らしい気持ちになれた。

 

『東京レース場、第11レース。東京優駿、日本ダービーのパドックステージ、開演30分前となりました。出走者及び関係者は、ステージ控所までお集まりください』

 

 場内に流れるアナウンスは、当然ロッカールームにいるあたしたちにも届く。

 トレーナーは待ってましたと言わんばかりに手を叩いて、勢いよく立ち上がった。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 みんなもその後に続く。けれどひとりだけ、それに従わない者がいた。

 

「トレーナーさん、少し、お時間をいただけませんか」

 

 他でもない、レイアクレセントだった。

 

「何か、確認しておきたいこと?」

 

 トレーナーの問いに、レイアクレセントはゆっくりと首を横に振った。

 

「ルピナスさんと、二人きりにしていただきたいのです」

 

 はじめ、それは聞き間違いだと思った。大勝負の直前に二人きりになりたいというのなら、それは「あたしと」じゃなくて「トレーナーと」であるべき。そう思っていたから。なぜそんなことを言い出したのか、見当もつかなかった。けれど彼女の目は真剣で、とても冗談で言っているようには見えない。

 

「すぐに終わりますから」

 

 レイアクレセントの言葉には、だれもすぐには答えなかった。多分、あたしと同じことを考えていたんだろう。しばらくそのまま続いた静寂は、ホープアンドプレイが部屋を後にする音で破られた。いち早く出ていった芦毛の少女の方をちらりと見たあと、トレーナーはレイアクレセントへ振り返って一度だけ小さく頷き、残りのみんなを後に続かせた。

 

「さてと」

 

 二人だけになったロッカールームは、やけに広く感じる。不思議な居心地の悪さを覚えているあたしの顔を、桜の女王はまっすぐ見つめてきた。あたしはすっかり下民の気分で、思わず目線を手元へ下げてしまう。良家の誇りをたたえた深い緑色の瞳が、いまのあたしにはまぶしすぎたから。

 その態度が、レイアクレセントには気に入らないようだった。

 

「いつまで、そんな顔をしているんですか」

「……あたしのことは気にしないでよ。ほら、せっかくのダービーなんだから」

 

 深く大きなため息が、あたしの耳を叩く。

 

「ルピナスさん。私は失望しました」

 

 ズキン、と胸が痛む。それはそうだ。桜花賞であれほどの激闘を演じた相手が、あんな無様な負け方をしてしまったのだから。そんなこと、あたし自身が一番わかっている。あたしは思うように出ない声をどうにか絞り出して「ごめん」と小さく答えた。

 ため息の音はますます大きくなった。

 

「ルピナスさん」

 

 その言葉には非難の色が混じっている。何と言われても仕方がない。そう思って身構えていた。

 次の瞬間、バン、と大きな音が目の前で鳴った。それは、レイアクレセントが机をしたたかに叩いた音だった。

 

「こっちを見なさい!」

 

 驚いて顔を上げると、レイアクレセントは頬を震わせていた。その目が、部屋の蛍光灯に照らされて光っている。

 

「私が失望したと言っているのは、貴女の走りにではありません。ここ数日の、貴女の振る舞いに対してです」

 

 語気が強い。表情も、にらみつけるように眉間に皺を寄せている。一見怒っているとしか思えないその姿を見て、それでもあたしは気づいた。彼女の耳が、きちんとこちらを向いているということに。

 たいていのウマ娘がそうするように、レイアクレセントもまた、不機嫌な時にはいつもその大きな耳を後ろに絞る。だけど、今日はそうじゃなかった。

 

「こんなことを貴女に言うのは初めてですけれど」

 

 レイアクレセントは椅子から立ち上がり、あたしの目の前までやってくると、見下ろすようにしてあたしの肩口に触れた。

 

「私は、貴女が羨ましかった。憎いとさえ思うほどに、羨ましかった」

「え……?」

 

 意味が分からなかった。あたしより血統も、実力も、実績もある彼女が、一体あたしの何を羨むというのか。思い当たることと言えば無駄に丈夫な身体くらいのもので、そんなのは、彼女がすでに手にしている数々の栄光に比べればまったく釣り合わないもの。

 

「貴女がいま考えていることは、手に取るようにわかります。相変わらずわかりやすい方。……そう、貴女は私の手中にあるものを何も持っていない。ですが、だからこそ貴女は、私がどんなに望んでも手に入れられないものを持っている」

 

 桜の女王はグイと顔を近づけて、あたしの目を食い入るように見つめた。

 

「それは、夢です。ヒト生まれの娘が、良血のウマ娘たちを相手取り、戦いに挑む。そんな心躍る夢のような物語です。その夢の前では、私はいつだって(かたき)役なのです」

「そんなことは……」

「ならばなぜ、重賞を勝ったことの無いウマ娘が、私に迫らんとする数の激励の手紙を送られたり、人々の口の()にその名が上ったりするのです?」

 

 あたしは答えられなかった。確かに、実績から考えれば不相応な取り上げられ方をしているというのは薄々わかっていた。だからこそ、前走の走りは許せなかったし、あのいやらしい記者の言葉にうしろめたさを感じたりしたわけだから。

 レイアクレセントは穏やかに微笑んで、言った。

 

「だから、私はここへやってきたのです。日本ダービーという、恐ろしい舞台に。……ここなら、私も貴女のような挑戦者になれる。強大な相手に挑む夢として、人々の声援を受けることができる。……きっと、ここが最後になるでしょう。この舞台が終われば、私は再び、貴女の敵役に戻るのです」

「そんな、まだ菊花賞が」

「菊花賞!」

 

 ちゃんちゃらおかしいという風にレイアクレセントは息を吐きだした。

 

「私には、淀の3000メートルを走り切るなどとても無理です。はじめからわかっていたことですから」

「じゃ、じゃあ、秋天は。宝塚も、そうだ、大阪杯も。フォーミュラに挑むチャンスはこれから何度だって」

 

 レイアクレセントは笑った。何をバカなことをと言わんばかりに、喉を鳴らして笑った。

 

「だから貴女には失望したと言っているんです」

「どういう意味」

「いま貴女が言ったその舞台に、どうして貴女自身がいないと思っているのですか? ……いくらフォーミュラがいたとしても、貴女がそこにいれば、私は他の者と一緒にまとめて敵役なのです。まだわかりませんか」

 

 何も言い返せなかった。

 

「あの不逞の記者に何を言われたのかは存じません。ですが、貴女は間違いなく、このチームで誰よりも勝利を願われ、そしてそれを実現する力をも持った、特別なウマ娘なのです」

 

 そうしてレイアクレセントは、あたしの手を取った。

 

「しっかりと見ていてください。強大な王に挑むウマ娘が、どんな風に見えるか。……貴女のようなウマ娘が、どんな風に見えるか。今日だけは、私がそれになれるのですから。たった一日くらい、貴女の夢でいさせてください」

 

 あたしは頷いた。そうしなくてはいけないような気がしたから。

 

「ごめん、クレセント。あたしなんかに構ってる暇なんて、ないはずなのに」

 

 そのとたん、レイアクレセントの耳が動いた。今度こそ、本当に怒っているみたいだった。

 

「以前貴女自身が言ったこと、お忘れですか。『私たちは、みな支え合っていく仲間だ』と。……あれは、嘘だったのですか?」

「それは――」

 

 そんなことない。そう言いたかった。だけど、喉の奥で何かが引っかかっている。もどかしい。こんな話を彼女に問わせていること自体が情けないし、悔しい。どうしようもなく苦しくなったあたしは、胸元をゴシゴシとこすった。そんなことで何が変わるわけでもないけれど、思ったことを素直に吐き出したいと思った。せめて、一言だけでも。

 チームのエースは、ハンカチを手のひらに広げながら、さらに続けた。

 

「それに、私がこうしなければ、この話はトレーナーさんがするつもりのようでしたから。私、嫌なんです。自分のレースのときに、トレーナーが別の子のことを考えているなんて」

 

 やっぱり羨ましい、と呟いて、レイアクレセントはあたしの肩を軽く叩いた。それと同時に、ロッカールームの扉がコンコンとノックされる。どうやらURAの職員が、いつまでも集合場所にやってこないレイアクレセントにしびれを切らして、呼びに来たようだった。

 

「では、行ってまいります」

「クレセント!」

 

 ロッカールームの扉へと近づいていく彼女を呼び止めて、あたしは心からの言葉を送った。

 

「……ありがとう」

 

 それはあの日以来久しく口にしていない、まっすぐで、混じりけの無い言葉だった。

 本当のところ、あたしは全てを理解できたわけじゃない。胸の中のモヤモヤはしぶとく残って、消えてはくれない。それでも、このたった一言だけは、真実あたしの言葉だと信じられた。

 

 

 

『……それでは、第二回東京開催12日目、第11レース。東京優駿、日本ダービーの本バ場入場です』

 

 ゆったりとした足取りで現れた誘導ウマ娘たちに先導されるように、栄光の名が冠された入場曲が流れだす。場内の熱気は爆発寸前だった。場内アナウンスが一言発するたびに、ザワザワとまるで森の中を風が駆け抜けるような音の波が立ち上がる。

 最初に姿を見せたのは、褐色の肌が太陽の光に照らされてキラキラ光っている、クラウンセボンのルームメイトだった。

 

『南の海からやってきた極楽鳥が、府中のゴール板へ、最速のタッチダウンを決めるか。一枠1番、パレカイコ。身長174cm。チーム〈カペラ〉所属。三番人気です』

 

 降り注ぐ拍手と歓声の雨へ、パレカイコはにこやかに手を振っている。

 

「ボン、あの子の仕上がりは追い切りのときと比べてどう?」

 

 双眼鏡片手に、トレーナーは隣の助手へ尋ねる。助手は手元の資料と見比べながら質問に答えた。

 

「完璧に仕上がってます。追い切りのときよりも明らかに状態が良いです。枠順の有利を加味すれば、ある意味フォーミュラさんよりも警戒しないといけないと思います」

 

 トレーナーたちの作戦はこうだった。

 パレカイコは瞬間的な切れ味で勝負するタイプじゃない。それでも根底となるスピードの絶対値と持久力がトップレベルに高いため、最後までスピードが落ちることは期待できない。そうなると、最終コーナーを回った時点で、レイアクレセントは一バ身差以内の近い位置にいないと捉えることはほぼ不可能。道中は大外枠になったレイアフォーミュラよりも、パレカイコにぴったりマークする形でついていく。こうすることで最内の経済コースを回ることができるし、スタミナの消費も抑えられる。幸いにして今日はパンパンの良バ場。芝の傷みも少なく、前目でのレースは有利に働くはずだ。

 

「来た!」

「ほ、ほんとだ!」

 

 ショコラレインが大きな声を上げて指さし、テンダーライトがパチパチと拍手を送る。地下バ道のトンネルから、紺碧のマントをたなびかせて、あたしたちのエースが現れた。

 

『穢れ無き桜の女王は、無敗の変則二冠へ。若きチームの、そしてティアラの期待を一身に背負い、同郷のライバルへ宣戦布告。一枠2番、レイアクレセント。身長160㎝。チーム〈プルート〉所属。二番人気です』

 

 勝利予想の人気順位では、圧倒的多数の支持を集めたのは、レイアフォーミュラの方だった。それでも確かに、スタンドのあちこちから声援が飛んでいる。

 

「行けえ、クレセント!」

「フォーミュラに負けるな! レイアの主役を奪ってやれ!」

「頑張れ! 俺たちがついてるぞー!」

 

 それは、どこか反骨的な匂いのする応援。明らかに、迎え撃つ立場でのものじゃない。きっとこれは、レイアクレセントの競走人生で初めてのことだ。いままでずっと強者の立場だった彼女が、今日は挑戦者の立場で背中を押されている。

 

「……そっか」

 

 理屈ではわかっていたつもりだった。けれど、この声援を羨むレイアクレセントの気持ちが、初めて本当の意味でわかったような気がした。強さ、血統、そういったものとは違う、物語から呼び起こされる声援。その大きさはけっして一番大きなものではないかもしれない。それでも、そこには他とは違う温かさがあった。

 

「ルピナス」

 

 トレーナーがあたしの名を呼んでいる。あたしはあたしの夢から目を離さず「うん」と声だけで返事をした。

 

「カッコいいでしょう? 大勝負のゲートに向かうウマ娘の姿は」

「……そうだね」

 

 こんなに広いレース場と比べて、ウマ娘の身体はあまりに小さい。それでも、そのひとりひとりが、この広大なターフの上に歴史を作り出す力を持っている。そう思うと、その小さな身体に宿った力の大きさを改めて感じられるような気がした。

 

「私たち、いつもルピナスちゃんのことを見ながら、そう思ってたんだよ」

 

 クラウンセボンがにっこりと微笑んだ。虫にでも刺されたのか、頬が妙にかゆい。

 

「ルピナスちゃん、顔赤い」

 

 嬉しそうに笑いかけてくるクラウンセボンの丸い頬を、あたしはグイと指で押し返してやった。気を紛らわせようと本バ場入場のアナウンスに耳を傾ければ、ちょうど最後の名前を読み上げるところ。

 スタンドが揺れている。時代を作るヒーローの誕生を願った、十五万人の観衆。その三十万の瞳が、たったひとりのウマ娘に注がれていた。

 

『レイア家初のダービータイトル、そして無敗の二冠へ、視界良好。いまこそ世代の頂点へ。最高のライバルたちがそろったこの舞台で、その強さを見せつけるか。4戦4勝。八枠18番、レイアフォーミュラ。身長162cm。チーム〈カペラ〉所属。堂々の一番人気です』

 

 相変わらず、遠目でもわかるほどのものすごい威圧感。だけど、共同通信杯で見たときとは違い、周りのウマ娘たちもそれに張り合っている。さすがは最高の舞台に集まった18人だ、と思った。ここは大勢の同期達の中で、才能と運の両方が備わった者しか踏み入ることを許されない場所。ちょっとやそっとで揺らぐようなウマ娘はここにはいない。

 

(だって、いつもフォーミュラが勝つんじゃ、つまらないでしょ?)

 

 ふいに、あの道場破りの日にパレカイコが言っていたことが思い出された。当人はいま、内ラチ沿いでストレッチをしながらレイアクレセントと何事か言葉を交わしている。客たちの歓声にかき消されてその内容はうかがい知れないけれど、おそらくは、大外にいる大本命を打ち負かす算段をしているはずだ。

 

「やってるねえ」

「え?」

 

 聞き覚えのある声にふり向くと、そこにはつい数日前に、テレビに映っていた顔があった。

 

「メリッサ」

「どーも」

 

 現れた樫の女王は相変わらず軽い調子で手を挙げて挨拶した。

 

「ルピナス、アンタのマネジだいぶ優秀じゃん。びっしりデータ取ってるみたいだし」

「わ、見ないで!」

 

 慌てて手元の資料を胸に抱え込むクラウンセボンに、トーヨーメリッサはケラケラと愉快そうな声を上げた。

 

「同期の子? ……へえ。ウチにも欲しーな。アンタみたいな賢くて真面目なヤツ」

「お断りします!」

 

 冗談だよ、と言ってトーヨーメリッサはあたしの隣の席にどっかりと腰を下ろした。

 

「そんで、お嬢様は勝てそうなの?」

「さあ。どうかな」

「ま、そう大きくは出られねーってか」

 

 そんな話をしながら、あたしはいつ「この間のテレビ、見た?」と聞かれるか、そのことで気が気じゃなかった。何せ、いたたまれなくなって途中で見るのをやめてしまったんだから。けれど予想に反して、彼女は目の前のレースのことを口にするばかりで、何も聞いてこない。あたしはそれが嬉しかった。口調は荒っぽいけど、彼女を慕う友達がたくさんいるというその理由が、わかるような気がした。

 だから、あたしの方から切り出すことにした。

 

「見たよ。こないだの『ウマ談。』」

「あ、ホント? 悪いね。ムリヤリ見せた感じで。アタシ、かなりイタかったでしょ」

「ううん、そんなことない。むしろ、あたしの方がしっかりしなきゃって思った」

 

 するとトーヨーメリッサは鼻をひくつかせて、照れくさそうに頭をかいた。

 

「まあ、頼むよ」

 

 それは多分、あたしだけに向けられたものじゃない。

 

 出走の時刻が迫っている。戦いの始まりを告げるファンファーレが、やけに明るく聞こえてきた。

 ふと気になって、ちらりと横へ目をやった。ここへ来て一言も声を発さないでいる無口なルームメイトが、どんな顔でこのレースを見ているのか、気になった。

 

「あ」

 

 思わず声が漏れた。なぜって、そいつと()()()()()から。お互い急いで目を逸らし、枠入りが進むゲートの方へ視線を戻す。なんなんだ、まったく。

 

『――最後に大外18番、レイアフォーミュラがゲートに入ります。さあ、無敗の王者か、それとも反骨のプライドか! 東京優駿日本ダービー!』

 

 2番ゲートの中で、レイアクレセントはとても落ち着いているように見えた。

 

(ここなら、私も貴女のような挑戦者になれる。強大な相手に挑む夢として、人々の声援を受けることができる)

 

 これが最後だと彼女は言った。……そうなのかもしれない。あたしが自分の夢を追う限り、彼女はきっといつだって高い壁になる。最初で最後の、純粋な挑戦者としてのレース。でも、だとしたら、あたしが願うことは何だろう。勝利? 栄光? 

 

『各ウマ娘態勢が整って……』

 

 最後の最後、その瞬間に浮かんだのは、ひどくシンプルで、けれど芯から生まれた願いだった。

 

 

 

 

 ――どうか、悔いなく無事に走り切れますように。

 

『スタートしました!』

 

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