ストレイガールズ   作:嘉月なを

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#55-いつから、どこまで

 三ヶ月ぶりの京都の町は、数日前に積もった雪の残る寒々とした景色であたしたちを出迎えた。

 

 吹き抜ける風が、痛いくらいに冷たくつき刺さる。あたしは首に巻いたマフラーを鼻先まで持ち上げて、身を縮こまらせながら関係者通用門のある専用スタンドを見上げた。

 

 今日の天気は、曇り。気持ちのいい晴れとはいかなかったけれど、ところどころに雲の切れ間があって、雨や雪が降ってきそうな気配はなかった。

 

「天気、何とか持ちそうだね」

「う、うん。よかった……」

 

 今日の主役は、そう言ってぎこちなく笑った。

 

「テンダー、パドック行くときは、直前にストレッチしてから行こうね。これじゃだいぶ寒い中で出てくことになるから、少しでも血の巡りを良くしておかないと」

 

 トレーナーが、その主役に向かって指示を出す。

 

 GⅡ、日経新春杯。あたしたちチーム〈プルート〉にとって新年一発目のこのレースに、逃げウマ娘らしくテンダーライトがハナを切って出走する。

 

 いつもどおり不安そうな表情で、実家から送ってもらったという新しいベージュのダッフルコートに身を包みながら、あたしたちの先鋒はトレーナーの言葉にコクンと頷いた。

 

 今回の遠征に、ボンは同行しなかった。クレセントのリハビリと、休養明けのショコラの体調管理で、トレーナーの代理として学園に残ることになったからだ。

 

「チーム〈プルート〉です。第11レース、10番テンダーライト。……はい、私だけです。後は全員、帯同ウマ娘です」

 

 出走者陣営の専用ゲートでトレーナーが受付を済ませているあいだ、テンダーはソワソワした様子で壁に掛けられた今日の開催予定ポスターを見つめていた。

 

 場内へ足を踏み入れると、しっかり暖房のきいた空気があたしたちを文字通り温かく出迎えてくれる。車から降りてほんの数分歩いただけで凍えそうなほどだった外を思うと、ここは天国かと思えるくらいだった。

 

「うわあ、冷えたなー」

 

 ぴとりと触ってみると、かじかんでいるはずの手のひらが温かく感じられるくらい、耳が冷たくなっていた。

 

「ルピナスさんは、メンコとか、付けないの?」

「うーん、なんかちょっと気持ち悪くて苦手なんだよね。テンダーのそれ、あったかそうでいいなーって思うんだけどさ」

 

 テンダーは街歩き用のもこもこした防寒メンコで両耳を覆っていた。あたしも一度、小さい頃に欲しいとねだって買ってもらったことがあったけど、その時は五分と経たず圧迫感に耐えられなくなって放り捨て、以来メンコの類を身に付けたことは一度もなかった。

 

「でもさ、あたしはまだいいよ。ウマ娘だもん。トレーナーなんかかわいそうだよね。あんなむき出しの耳、見てるだけで超寒そうじゃない?」

 

 すると、前を歩いていたトレーナーは眉をピクリと上げてこちらに振り返った。

 

「触ってみる? キンキンに冷えてるよ。あなたのとは比べ物にならないくらいね」

「そこだけ聞いてるとビールかなんかじゃん」

 

 笑いながら実際触ってみると、軽くしもやけになったみたいに赤くなったトレーナーの耳は、もはや氷の塊だった。

 

「やばぁ、トレーナーこれ死んじゃうって」

「どっこい、人間って意外と忍耐強いんだよ。見直した?」

「いや耐えてないで毛生やすように進化した方がよかったでしょ」

「弱くても、不便でも、つらいことに耐えて生き抜いていくのが、人間なんです」

「あはは、なんだそりゃ」

 

 一見含蓄がありそうな話だけど、ヒト用耳当ての存在がすべての前提を覆してしまう。

 

 とはいえそんな冗談を言い合いながら、あたしはひっそりとトレーナーの最後の言葉を噛みしめていた。

 

——つらいことに耐えて生き抜くのが、人間か。

 

 あたしがメンコ嫌いなのとは関係ないだろうけど、他のウマ娘たちよりも人間の血を濃く受け継いでいる身としては、なんとなく、他人事には思えないような気がした。もしかしたら、トレーナーはわざとあたしたちにこんな言葉を聞かせたのかもしれない。……なんて、これも、あたしの考えすぎなのかな。

 

 トレーナーの隣をぴったりとくっついて歩く芦毛のウマ娘の小さな背中は、何も答えてはくれなかった。

 

 あたしがそんな感傷に浸っていると、トレーナーがひょいとこちらに振り返って来た。

 

「そうだ、テンダー。ちゃんとメトロノーム、持って来たよね?」

「は、はい」

「よし。楽屋入りしたら、いつものあれ、時間いっぱいまでやろうね」

 

 ニッとテンダーに笑いかけたあと、あたしに向かってパチリと片目をつぶったトレーナーの顔を見て、あたしはやっぱり、さっきの話はわざとだったんじゃないかなという思いを強くした。

 

  ○

 

 楽屋の中で、テンダーは何度も繰り返し「いつものあれ」をやっていた。

 

「いちと、にぃと、さんと、しぃと、ごぉと、ろくと、ななと、はちと……」

 

 小声でリズムを口ずさみながら、腕を前後に振りつつ、膝をそれよりも速いテンポで交互にカクカク動かす。口のリズムは一秒刻み。足の方は一完歩のピッチだ。全然違う二つのリズムを、テンダーは淡々と刻んでいく。そしてトレーナーが無音の電子メトロノームを見ながら、テンポがズレていないかをチェックする。一セット、六十秒。

 

 逃げウマ娘のテンダーにとって、ペースの感覚は生命線だ。自分の足音や周りの音につられずに、頭の中で一秒ごとのタイムを刻めるようになれれば、目で見た距離感だけでペースを測るよりも一段階上のレベルに到達することができる。おまけに、状況に合わせて速くするのも遅くするのも自由自在になる。去年の秋から、テンダーはもうずっと、オフの日も毎日欠かさずこのトレーニングを続けていた。

 

「落ち着いて、テンダー。足より時計が走ってる。もっとスロー、スロー」

 

 トレーナーの言葉にハッとしたように、テンダーは口のカウントをやり直した。ここ最近はほぼ正確にリズムが刻めるようになってきていたのに、今日はどうもうまくいかない。秒数を刻むはずの口の方が、速いテンポになってしまう。

 

 その理由は多分、楽屋に備え付けられたモニターの映像だった。

 

「テンダー、集中して」

 

 さっきから、チラチラとモニターの方を見ている。トレーナーにこう言われるとしばらくは集中を取り戻すのだけど、少し経つとどうしても再び視線がモニターの方へ流れてしまうようだった。

 

 そうはいっても、気になるのも無理はない。モニターには、現在行われているレースの映像の他に、メインレースである日経新春杯の出走表が表示されていた。勝ちウマ娘の投票人気も、リアルタイムの支持率表示と共に目まぐるしく順位が入れ替わっている。テンダーの人気順位は、数字が更新されるたびに、どんどん上位へと上がっていっていた。

 

「本番はもっと気が散るものだけど……行く前に一回くらい、パーフェクトなカウント、取っておきたいな」

 

 トレーナーは少し悩んだようだったけど、腕時計をちらと見て、椅子から立ち上がった。

 

「ちょっと待っててね。消してもらえないか、話してくる」

 

 忠告が功を奏さないようだと諦めたトレーナーはそう言って、楽屋を急ぎ足で出て行った。一瞬、ホープのことが気になったけれど、トレーナーは出ていく時に、きちんと警備員の人にドアの前に居てもらうようお願いしていた。向こうも事情がわかっているようで、すぐに「承知しました」の声が聞こえてきた。

 

「……なんで、だろ」

 

 あたしたちウマ娘だけになった楽屋の中で、テンダーはぽつりとそう漏らした。

 

「え?」

「なんで私、こ、こんなに、投票してもらえてるんだろ」

 

 テンダーは、十六人立ての今日のレースで、十パーセント近い支持率を集めて、四番人気まで押し上げられていた。しかも、レース本番が近づくにつれて、その支持率はどんどん上がっているようだった。

 

「私、まだ重賞ひとつも勝ってないのに。ううん、それどころか……き、去年のセントライト記念なんか、二桁着順だったのに。こ、こんなに期待されても、私……」

 

 経験も無ければ納得もいかない大きな支持率に、戸惑っているようだった。

 

「……わかんないけど、さ」

 

 無責任かもしれないけど、あたしはそんなテンダーに何か言いたくなった。

 

「期待、とはまた違うのかもよ」

「え?」

「ほら、レースの投票って、グランプリの人気投票とは違うでしょ? みんなライブの優先入場権が欲しくて、投票ウマ娘を選ぶんじゃん。だからさ、これは“勝ってほしい”よりも“勝てる”って思ってくれた人の数ってことなんじゃないかな」

 

 どう違うのかと言われると困るけど、なんとなく、期待よりも確信といった方が近いかもしれない。

 

「だから、逆に気にしなくてもいいんじゃない? 結果負けたら、アンタに投票したヤツの目が節穴だったってだけのことなんだから」

 

 誰かに聞かれたら炎上しそうな言葉だけど、それくらいの気持ちでいなきゃ、こんな仕事やってられるもんじゃない。

 

 ここに来てる子たちはみんな勝ちたくて、みんなライブのセンターに立ちたくて、ここにいる。負けようと思って出走してる子なんて、一人もいない。それなのに、応援と称して投票しておいて、結果その通りにならなかったら期待外れ扱いだなんて、あまりにも勝手な言い分過ぎるもの。

 

 オフレコじゃなきゃ言えないようなあたしの発言に、テンダーはほんの少しだけ、表情を柔らかくした。

 

「……ルピナスさん、変わったね」

「あれ、そう?」

「う、うん。ルピナスさんがそんな風に言うなんて、ちょっと……びっくり。みんなの期待とか、応援されてるとか……その、す、すごく気にするタイプだと思ってたから」

 

 思わず苦笑いした。だって実際、こんな偉そうなことを言っているあたしが、まさにテンダーの言う通りのウマ娘だったから。人気順位やら、場内の反応やら、レースには関係ない事ばっかり気にしてすぐにダメになるタイプ。それがあたしだ。

 

 でも、だからこそテンダーの今の気持ちが、わかるような気がする。そして、どう考えればいいのかも、知っている。知っているのと実践できるのとは、全然違うってことだけが問題だけど。

 

「あたし、今年はこういうあたしで行こうと思うんだよね。どう?」

 

 半分やけになってそう答えると、テンダーはようやくクスクスと声を出して笑った。

 

「良いと思うよ。カッコよくって」

「へへ」

「で、でも! 外では言わないでね。ふ、フシアナとか……」

「わかってるって」

 

 ちょうどその時、モニターの映像が消えた。トレーナーの要望が通ったらしい。

 

「やっぱり、すごいな……」

「ね。トレーナー、ホントに消させちゃ——」

「そ、そっちじゃなくて」

 

 テンダーは首を横に振りつつ、ふっと小さく息をこぼした。

 

「私も、ルピナスさんみたいに、GⅠに出られたら、違うのかなって」

「どういうこと?」

「……出てみたいな。GⅠ」

「?」

 

 よくわからないけど、テンダーの顔色は、さっきよりもずっと良くなっているようだった。

 

「お待たせ。さあ、もっかいやろうか。一発でパーフェクトとって、ストレッチして、気持ちよくパドック行こう!」

 

 戻って来たトレーナーの言葉に、テンダーはホッと安心したような表情を浮かべると、深呼吸をひとつしてから、目で合図をして、カウントを取り始めた。

 

  ○

 

『今年最初のGⅡは、近年一の寒さとなりました京都にて行われます。新春の名を頂く二四〇〇メートルの争い。日経新春杯、まもなく出走です』

 

 場内アナウンスが響き渡る中、あたしはトレーナーの横でそっと尋ねた。

 

「トレーナー。あたし、変わったかな」

「どうしたの、急に」

「いやね、さっきテンダーに、そう言われたんだよね」

「そっかぁ……」

 

 トレーナーはスタート地点のゲートの方を向いたまま、少し考えるようにしてから、軽い調子で言った。

 

「そういうの、なんて言うか知ってる?」

「は?」

 

 質問に質問で返してきた。こういうの、ダルいなあ。

 

「あのさ——」

 

 あたしが何か言い返そうとしているうちに、ファンファーレの音が鳴り響いた。ゲートインの時間だ。

 

『なお、本レースの勝者には、オーストラリアはメルボルンで開催されますGⅠ、コーフィールドカップへの優先出走権が、授与されます』

 

 GⅠへの優先出走権。その単語はあたしにとって、特別な思い出のある言葉だ。まして、年が明けたばかりのこの時期に聞くと、よりいっそう感慨深いものがある。過酷で、重くて、積み重ねた努力と巡り合わせの幸運の先に眠っている宝物。そして、それを手にしただけで満足することが許されない、あたしの欲をさらに深めさせてくる、呪いのアイテム。

 

 今、ゲートに収まっているテンダーには、この言葉がどんな風に聞こえているんだろう。

 

『さあ、全ウマ娘枠入り完了』

 

 楽屋でテンダーが呟いていた言葉が、ふと思い起こされた。

 

『スタートしました!』

 

 ゲートが開いた瞬間、トレーナーは隣で聞いているあたしがビックリするほどの大声で「よし!」と叫んだ。

 

 正面スタンド側の一番端、そのポケットゾーンから、青い体操着のゼッケン十番がポンと一人だけ勢いよく飛び出していく。

 

 観衆が見守る中、テンダーはいつものように、いや、いつも以上に軽快なリズムで先頭を奪った。平坦な京都レース場の直線、先輩たちも混じる十五人を引き連れて、テンダーライトが先頭で第一コーナーを回っていった。

 

「良い感じ、良い感じ」

 

 何かを確かめるように、何度も何度も頷きながら、トレーナーはそう繰り返した。

 

 テンダーにとって初めての二四。しかも、時期や天候の関係上、時計のかかるバ場になりやすい一月の京都レース場。逃げて勝つには、クリアしなきゃいけない要素は盛りだくさんのはずだった。

 

 向こう正面に入ったところで、後ろとは、三バ身程度の差がついている。いつもなら、このあたりで後ろを気にし始めて、落ち着きを失っていくところ。

 

 だけど、今日は様子が違った。

 

『前半の一〇〇〇メートルは61秒8! ゆったりとしたペースでテンダーライトが行きます!』

 

「そう、そう、完璧。オッケー!」

 

 トレーナーの声がどんどん上ずってくる。

 

 あたしも驚いた。事前のミーティングでは、最初の一〇〇〇メートルは62秒で行く計画だった。緊張もあるのか少し速くなったけど、それでもほとんど完璧なタイム。

 

 これなら、行けるかもしれない。

 

 そしてここから、淀の急坂へと入っていく。

 

「見ないで……見ちゃダメ……!」

 

 トレーナーは祈るような声でテンダーに呼びかけていた。まずは上り坂で、後続との差が少し縮まる。ここで振り返ってしまったら、バ群嫌いのテンダーは思い通りの走りができなくなる。カウントを刻む練習をしていたのも、相手との間合いを気にするよりも自分のペースを守らせることで、走りに集中させるためという狙いもあった。

 

 みるみるうちに二番手のウマ娘との差が縮まっていく。間違いなく、テンダーは背後に気配を感じている。ウマ娘の凄い力で地面を蹴る足音が、先頭の景色を奪おうと迫ってくる追手の息遣いが、その耳にはっきり聞こえているはずだ。

 

「大丈夫だから。絶対、捕まらないから。だから前だけ、前だけ見て走って……!」

 

 この祈りは、どうやら通じたみたいだった。

 

『さあ先頭テンダーライトがもう一度差を広げるような格好で、最終コーナーを回って来た! 後続はどうか! 内から3番カバルセラが追いすがるが、先頭はテンダーライト! これは、これはすごい! 後続をさらに突き放していきます! あとは12番エルムライトといったところですが、これは文句なし! 10番テンダーライト、五バ身、六バ身のリードを保って、いま一着でゴールイン!』

 

 客席からは、どよめきにも似た歓声が起こっていた。

 

 人気の支持率から言って、決して軽視されていたわけではないはずだけど、ここまでの差がつくとは、だれも想像していなかったに違いない。

 

 ゴール板を通過したテンダーライトは、そのまま惰性で向こう正面の方まで走っていったあと、ゆっくり減速して、止まった。そしてそのまま、しばらく呆然としたように立ち尽くしていた。

 

『テンダーライト見事な逃げ切り勝ち! シニア一年目、前走十四着から、逆襲の重賞初制覇です!』

 

 トレーナーは、コースの上の教え子に向かって一度大きく手を振ると、すぐさま踵を返してスタンドを後にした。

 

「ルピナス、来て」

「あ、うん」

 

 急いで後を追った。

 

 早足でトレーナーが向かった先は、あたしたちの楽屋だった。

 

「ルピナス、ホープと一緒にここに居て。撮影会が終わったら、戻ってくるから」

 

 そう言って、ずっと握りしめていた芦毛の少女の手を、あたしの手に持たせてきた。

 

 大丈夫かなと思ったけど、握り手が交代しても、ホープは何の反応もせず、あたしにされるがまま振りほどこうともしなかった。

 

「トレーナー、手汗ベッタベタじゃん」

 

 あたしが苦笑いしている前で、トレーナーはしれっとハンカチで手を拭きながら、まるでついでみたいに言った。

 

「さっきの質問に答えておこうか」

「さっきの?」

「テンダーに『変わったね』って言われたこと。そういうのをなんて言うかっていう話」

 

 ああ、そういえばそんな話をしていたっけ。あたしの方が忘れてた。

 

「なんて言うの?」

 

 トレーナーは、今度はもったいつけず、すぐに答えてくれた。

 

「“成長”って言うの。……してるよ、成長。ルピナスも、テンダーも、ホープもね」

 

 あたしの手の中で、小さな冷たい手のひらが、ピクリと動いた。

 

「トレーナーは? してるんでしょ、成長」

 

 するとトレーナーは、おどけたように肩をすくめて眉を下げ、クスリと小さく笑った。

 

「私は……老けた、かな」

「何それ。どう違うの」

 

 トレーナーだってまだ若い。カペラやデネブのチーフたちと比べたら、むしろ新人と言ったっていいくらいの若手だ。それくらいの歳で老けたなんて言われちゃったら、あたし、怖くなっちゃうじゃないか。一体いつまでが成長で、どこからが老けなのか。なんだか都合よく言葉遊びをされているみたいで、あたしはぷっと口を尖らせた。

 

「あはは、それは、難しい質問だね」

 

 そう言って、トレーナーは警備員に監視をお願いした後、そそくさと楽屋を後にしていった。

 

「……ホープ?」

 

 あたしの大事なルームメイトは、こちらをちらとも見なかった。それでも耳だけがあたしの方を向いていて、それであたしは嬉しかった。

 

「あたしたち、成長してるんだってさ」

 

 握りしめた手が、ほんのり温かくなった気がした。

 

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