ストレイガールズ   作:嘉月なを

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#66-選んだものは

 気が付くと、ベッドの上だった。

 

 カーテンの隙間から差し込む光のすじに、小さなホコリが漂っているのが見える。

 

 今、何時だろう。枕元の時計に手を伸ばそうとして、腕を布団から出した。

 

「ッた……!」

 

 肩から指先にかけて、鈍い痛みが走った。それだけじゃない。暖かい布団の中にいるはずなのに、寒い。お腹の底の方からゾクゾクと、内臓全部を震わせるような寒気が襲ってきていた。

 

 風邪だ。それも、結構ひどいやつ。寒くてたまらないのに首や脇の下が火照って、節々が痛い。これじゃ動こうにも、動けない。

 

「だ、誰か」

 

 身をよじって確かめたけれど、部屋にはあたしの他に誰もいない。もう一方のベッドの上にはルームメイトの姿どころか、掛布団や枕も無かった。

 

「ん? ……あっ」

 

 その平らなマットレスを見た瞬間、ぼうっとしていた意識が一気に呼び戻された。

 

「ホープッ……つ、ぐぇっ」

 

 意識は戻っても、身体は言うことを聞いてくれない。急いで起き上がろうとしたけれど、現実はほとんどその場で手足をジタバタさせただけだった。しまいにはベッドから転げ落ちて、床に膝を打ちつける始末。

 

 膝を抱えて床で呻き声を上げているあたしの元に救助がやってきたのは、それから程なくしてのことだった。

 

「イヤァァ! ルピナスちゃん!!」

 

 あたしのひどい有り様を見るなり、ボンは金切り声をあげた。

 

「ぼ、ボン、うるさ」

「寝てなきゃダメだからッ!」

 

 文句を言う暇も与えられず、あたしは手荒にベッドの上へと戻された。

 

「もうじっとしてて! ホントに、ホンッッットにみんな心配したんだから!」

「あの、その、ホープは」

「とりあえず、寮長さんにお願いして、ルピナスちゃんの風邪が治るまでは、私がここに住み込むことにしたからね! いい? ルピナスちゃんは病人なの。病人は病人らしく、言うことを聞いて——」

 

 ダメだ。コミュニケーションが取れない。あたしの声が小さすぎるせいか、ボンは全然こっちの話を聞いてくれなかった。あたしのこととなるとテンションが高くなりがちなボンだけど、ここまでのことは今まで無かった。

 

「そのくらいになさいませ。ルピナスさんのお身体に障りますよ」

 

 完全に掛かりきったボンをたしなめながら入って来たのは、クレセントだった。手に、何やら器の乗ったトレーを持っている。

 

「それにしても、まあ何と言いますか……」

 

 ベッドの脇に座り込むボンを腰で押しのけ、クレセントは運んできたモノをサイドテーブルの上に置いた。

 

「ルピナスさんが、お風邪を召されるなんてこと、あるんですね」

「……どういう意味だコラ」

「いえ、日ごろから丈夫なのが取り柄だとおっしゃっていましたから」

 

 嘘つけバカにしただろ、と思ったけど、あいにく喧嘩するほどの元気は無い。それに、そんなのよりももっと大事なことがある。

 

「ねえ、ホープは?」

「あのね、ルピナスちゃん——」

 

 すぐさま割って入ろうとするボンを手で押しとどめ、クレセントはテーブルに置いた器から何かをスプーンですくいあげた。

 

「クラウンさん、ルピナスさんを起こしてあげてください」

 

 納得しきらない顔をしつつも、ボンはおとなしくクレセントの指示に従った。寝かされた時よりはずっと優しく扱ってくれたけど、それでも関節がミシミシと軋むように痛む。

 

「あっつつ……」

「ホープさんは、すでにトレーニングに向かわれました。あなたと違って、身体の方は至って健康そのものでいらっしゃいましたから」

 

 片手に吸い飲み、もう片方の手にスプーンを持って、クレセントはにっこりと微笑んだ。

 

「そ、そりゃ良かった」

 

 正直言って引いた。タフすぎる。あんなことがあった昨日の今日だというのに。身体はもちろんのこと、メンタルがどうかしているとしか思えない。

 

「さ、お口を開けてください」

 

 そう言いながらクレセントが差し出してきたスプーンに乗っていたのは、卵の混じったお粥だった。

 

 食事か。結局、あれから何も食べないまま倒れちゃったんだっけ。

 

 何だか、遠い昔のことのように感じる。熱のせいか、今はもう空腹感はない。普段から食が細いあたしだけど、風邪となるとなおさらだ。きっとまた体重が落ちてるんだろうな。

 

 でも、少しでも食べなきゃ。ちゃんとエネルギーを補給しなくちゃ、治るものも治らないから。

 

 そうして何気なくテーブルの上の器を見たあたしは、ぎょっとした。

 

 元気な時のあたしでも食べきれない量の卵粥が、どんぶり一杯にこんもり盛られている。まさか、これ全部食べさせる気? 無理だよ、吐いちゃう。

 

「ほら早く。冷めてしまいますよ」

 

 どうせ顔に出やすいあたしのことだ。何を考えてるかなんて筒抜けだろうに、クレセントはすっとぼけた様子であたしを急かしてきた。つやつや輝くお粥の塊が、容赦なく口元に迫ってくる。いいから食べろ、の圧が凄い。

 

 ちらちらとボンに視線を送ったけれど、助けてくれる気配は無かった。じっと座ったまま、クレセントの横顔を睨みつけている。……これ、分かるぞ。「あーん」ができて羨ましいと思ってる顔だな。なるほど「分かりやすい顔」がどういうものなのか、よく学べる。

 

「ちょ、ちょっと待っ……むぐ」

 

 問答無用。抵抗する体力の無いあたしは、クレセントのねじ込んでくる食事を受け入れるしかなかった。

 

 温かくて、柔らかくて、そして、味が薄い。病人食としては十分、お腹には優しそうな感じだ。優しくないのは量だけ。とりあえず今は、どんぶりの中身を見ないようにした。

 

 ぬるい水と味の薄い卵粥が交互に口の中へ入ってくる。食欲の落ちた身体では、飲み込むのに時間がかかった。それでも、一口二口とゆっくり食べ進めるうちに、お腹の方は次第に落ち着いてきたようだった。寒気のする身体には、温かいお粥がちょうどよかったのかもしれない。

 

「どうやら、大丈夫そうですね。丸一日何も口にしていなかったというのに、やはりルピナスさんは丈夫でいらっしゃいます」

 

 皮肉っぽい言い方にも、あたしは「うるへー」と力なく言い返すのが精一杯だった。たしかにあたしは、量が食べられないだけで別にお腹を壊しやすいわけじゃなかった。丈夫……と言っていいんだろうか。風邪っぴきのくせに。

 

 それからしばらく、あたしは餌をもらう雛鳥みたいに口だけをパクパクさせてひたすら食事を続けた。クレセントも淡々と手を動かして、給餌を続けてくれた。

 

 やがて、そろそろもう十分だなと思い始めたころ、クレセントの手が止まった。どうやら、さすがに全部食べきるなんて無茶は強いられずに済みそうで、あたしは内心、ホッとしていた。

 

「じゃあ、私が代わるね」

「やめてよ」

 

 喜び勇んでクレセントからスプーンを奪い取るボンに、あたしは短くノーを突き付けた。無理に食べさせる気なら、どうなっても知らないぞ。

 

「それにしても」

 

 いつの間にか枕もとに置かれていた袋から薬を取り出しながら、クレセントは言った。

 

「本当に、風邪で済んで幸いでした。海の方へ向かっていると聞いたときは、とてつもなく恐ろしい想像をしてしまいましたから」

「ごめん」

 

 実際、他の仲間たちには申し訳ないことをした。あたしたち二人は、出会った最初の年からずっと、色んな問題を起こしまくっている。特にあたしは、そろそろみんなから袋叩きにされても文句を言えないレベルだ。

 

 あとで、ショコラやテンダーにも謝らなきゃ。

 

 頭の中で反省の弁を並べたてながら、渡された解熱剤を一息で飲み込んだ。

 

「……ん?」

 

 そこで、おかしなことに気が付いた。

 

 さっき口ぶりから察するに、クレセントはあたしたちを発見する前から、海の方へ行ったことを知っていたらしい。どうしてだろう。

 

「もしかして、サカイさん?」

「サカイ?」

「いや、なんでもない」

 

 その名前にきょとんとするクレセントの顔を見て、慌てて口を閉じた。お腹が満たされて少し元気が出てきたせいで、余計なことをバラしてしまうところだった。

 

 あたしの様子を見たクレセントは、呆れたと言わんばかりにため息をついた。

 

「たくさん、秘密がおありなのですね」

 

 呆れられるのも当然だ。あれだけの大騒ぎをしておきながら、ホープもあたしも、学園を飛び出した事情一つ満足に説明できないんだから。

 

 去年の桜花賞直前の顛末が思い起こされる。あの時あたしがクレセントに対して言ったことが、全部ブーメランになって返ってくる。

 

『悩み事なんて、隠してたってロクなことにならないよ』

『あたしたちはチームの仲間だって言ったよね? あれは嘘だったの?』

 

 今考えると、どの口が言ってるんだって話だ。でも、仕方ない。これはあたし一人の問題じゃないんだから。

 

「ごめん、寝る」

 

 誰に何と言われたって、言えないものは言えない。それに、身体もだるい。こういう時は、寝てしまうに限る。いつだったかのホープも、同じやり方であたしとの話を打ち切っていたっけ。

 

 ところが、そうは問屋がおろさなかった。

 

「ルピナスちゃん、あのね」

 

 布団をかぶったあたしの上から、ボンがそっと話しかけてきた。

 

「私たち、もう、知ってるよ」

 

 あまりにもさらりと言うものだから、はじめはその言葉の意味が分からなかった。ちょっと考えれば簡単な話なのに。よく言う「頭が理解を拒否した」ってやつかもしれない。

 

「聞いたの。トレーナーさんから」

 

 聞いた? 聞いたって、何を? こないだ返されたペーパーテストの英語がめちゃくちゃ悪かったこと? それとも、食事メニューのごはんの量を時々こっそり一杯減らしてること? ショコラに頼んでトレーニング用の蹄鉄を一組譲ってもらったこと?

 

 そうして的外れな秘密に逃げ道を探していたあたしの尻尾を捕まえたのは、クレセントだった。

 

「だいたいのお話は伺いました。ホープさんがこれまでどう過ごされてきたのか、ここ数か月の間、お二人とトレーナーさんの間で何が起きていたのか」

 

 その瞬間、カーッと身体が熱くなって、寒気や痛みはどこかへ飛んでいった。

 

 勢いよく布団を跳ねのけ、あたしはその場から飛び起きようとした。

 

 けれども元気なウマ娘二人に囲まれていては、適うはずもない。たった二突きで、あたしは再びお行儀よくベッドに寝かされることとなった。

 

「ホープは? ホープはちゃんと、分かってるの!?」

「落ち着いてルピナスちゃん。ホープちゃんもその場にいたよ。きちんとお話しした。安心して。大丈夫だったから」

 

 ボンはあたしの顔に浮かんだ汗を拭いながら、何度も頷いていた。

 

 それから二人は、あの日何が起きたのか、あたしの知らなかったところまで教えてくれた。

 

 

 あたしが制止を振り切って駆け出した後、ボンはすぐにトレーナーに連絡を取り、事の次第を知らせた。緊急事態を悟ったトレーナーは当初、学園に戻らず一人であたしたちを探しに行こうとしたらしい。それを許さなかったのが、クレセントだった。

 

「クラウンさんの横から、叫んでやりましたよ。『うぬぼれるのもいい加減になさい』って」

 

 どういう意味かは分からないけれど、とにかくその一言で、トレーナーはチームのみんなを捜索に同行させることにしたようだった。

 

「幸いにして、場所の特定は容易でした。お二方のスマートフォンが、トレーナーさんと位置情報を共有していましたから」

「最初は電話をかけてたんだけど全然出てくれないし、バッテリーが切れたら困るからって、やめにしたの」

「あの時の緊迫した雰囲気は、まるでスパイ映画さながらでしたね」

 

 なるほど。それで、あたしたちの居場所を見つけてくれたってわけだ。

 

 無事あたしたちを回収し終えたみんなは、何とか日が暮れる前に学園に戻ることができたらしい。部室に辿り着いたとたん、あたしは高熱を出して倒れ、そのまま診療所に担ぎ込まれたのだとか。全然覚えてないけど。

 

 トレーナーがホープの事情をみんなに打ち明けたのは、その夜のことだったという。その事実だけでも驚きだけど、もっと驚いたのは、その告白を願い出た人物の名だった。

 

「実は、ホープちゃんが言ったの。『全部、話してほしい』って」

「まさか」

 

 にわかには信じられなかった。あれほど自分自身のことを話したがらなかったホープが、自分からトレーナーにそんな要求をするなんて。

 

「トレーナーさんもびっくりしてた。今日はやめよう、また冷静になってから考えましょうって言ったんだけど……」

「ホープさんの様子ときたら、まるで駄々っ子でしたね」

 

 クレセントは苦笑いしていたけれど、ボンは真剣な顔のまま、首を横に振った。

 

「多分ね、あれはホープちゃんなりに、けじめを付けたかったんだと思う。ああするしか他に方法が見つからなかったんだよ。きっと」

「けじめって、みんなに心配かけた、とか?」

 

 あたしが尋ねると、ボンはもう一度首を横に振った。

 

「みんなにというより、ルピナスちゃんに、だよ。だってホープちゃん、ルピナスちゃんが倒れちゃった後、ずっと言ってたもん。ボクのせいだ、ボクのせいだって」

 

 ボンはにこりともせずにそう言った。当たり前だけど、相当に重くシリアスな雰囲気だったらしいということはその表情からも窺える。

 

「……どう、感じた?」

 

 ホープの過去は、一年と十か月の間、あたしたちだけの秘密だった。同じ学園、同じ部室、同じ合宿所で過ごしてきた仲間の隠された事実を知って、みんなはどう感じただろう。

 

 二人のうち、先に答えてくれたのはボンの方だった。

 

「ホントのこと言うとね、やっぱり、そうだったんだって思った」

「気付いてたの?」

「何となくだけど」

 

 ボンはうつむき加減に頬を掻いた。相変わらず、こういう勘は鋭い。

 

「いつから?」

「最初に会った頃から」

「ええ?」

 

 さすがに驚いた。いくらなんでも、早すぎる。これがボンじゃなかったら、たちの悪い冗談だと思うところだった。

 

「ほら、ルピナスちゃん、初めてホープちゃんと会った時、私に言ってたでしょ? ホープちゃんには、すごく虐められたような経験があるんじゃないかって。だからあんな怖い顔してるんじゃないかって。それで思ったの。もしそうだとしたら、ホープちゃんを、その、()()()()風に扱ったのは、ご両親なのかもしれないって」

 

 ここまでくると、もはや驚きもしない。凄すぎるものを見せられると、へえという感想しか出てこないものだ。レースでも、競り合いもなく圧倒的な独走状態で決まると観客席が妙に醒めてしまうことがある。ちょうどそれに似ているかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ、クレセントは」

 

 親との関係性の話、という意味では、クレセントの反応は気になる。

 

「残念ながら——」

 

 クレセントは伸びた前髪の毛先をいじりながら、困ったように笑っていた。

 

「率直に申し上げて、あまり、興味がないんです。あの方がどんな経験をなさったのかについては」

 

 意外と薄い反応に、あたしは拍子抜けしてしまった。

 

「……そっか」

「そうです。大事なのは、今何をするか、どんな選択をするか、ですから」

「……なるほど?」

 

 エリートチームから移籍したり、三冠路線に挑戦したり、色んな選択を重ねてきているクレセントの言葉だと考えると、なかなか深い言葉に聞こえる。

 

 少なくともクレセントは、ホープが選んだ「話す」という選択肢については、特に何とも感じていないようだった。

 

 それにしても、片や薄々感付いていた、片や過去には興味ない、と来られるとは予想外だった。となると、テンダーやショコラはどうだったんだろう。

 

 すると、あたしの考えを見透かしたかのようにボンが軽く手を叩いて言った。

 

「はい、そこまで。とりあえずは私たちもホープちゃんも大丈夫だから。今ルピナスちゃんがやるべきなのは、食べて寝ることだけ。余計な心配はしないで、ゆっくり寝てね。また、お夕飯の時間になったら持ってくるから」

「お、おう……」

 

 そうしてボンはあたしの顔の汗ををもう一度拭き取ると、テーブルの上のトレーを抱え、クレセントともに部屋を出ていった。

 

 去り際に一言「次は、私がやるからね」とやけにドスの利いた声で宣言していたのは、聞かなかったことにしよう。

 

 バタン、と扉が閉められて、部屋にいるのはまたあたしだけになった。

 

 温かい食事に加えて、さっき飲んだ薬のおかげか、節々の痛みは少し楽になってきている。とはいえ、ここは早く治すためにもボンの言うとおり、ちゃんと寝よう。そう思って、目を閉じた。

 

 ところが、それから何分たっても、一向に眠れない。昨日からずっと眠りっぱなしだったのに加えて、頭の中で考えがぐるぐる回って仕方がなかった。

 

 本当に、ホープが話せと言ったんだ。あのホープが。

 

『大事なのは、今何をするか、どんな選択をするか、です』

 

 クレセントが言っていた言葉を噛みしめる。

 

 昨日のホープは、決して選択を間違えていなかった、と思う。

 

 雨の中、アイツはトレーナーたちよりも早く、あたしの元へ来てくれた。多分あの時、ホープもトレーナーたちと同じようにして、あたしの居場所を探し当ててくれていたんだ。そうでなきゃ、こんな広い街の中で何の当てもなく彷徨ったあたしと、運よく会えるわけないもの。

 

 そして、二人で半分こじゃなく、二人でそれぞれ一人分ずつ背負ってしまった秘密の重荷を、ホープは自ら降ろしてくれた。

 

 解決しない問題はまだあるけれど、分厚く伸びた雲の隙間から、ほんの少しだけ、晴れ間が見えた気がする。

 

 そこでふと、思い出した。

 

 ホープにはもう一つ、選択しなきゃならないことが迫っている。

 

 一週間後にやってくる、春の大舞台。

 

 今日もトレーニングに行っているとはいえ、何のダメージも無いわけじゃないだろう。GⅠに出てくる猛者たちとの真剣勝負は、こんな問題を抱えながら片手間にこなせるほど甘いもんじゃない。辞退したって、あたしは責めない。事情を知らない外野がいくら騒いだって、あたしだけは味方でいるつもりだ。

 

 それでも出るというのなら、できる限りの走りをしてほしい。もう二度と、ホープが自分を傷つける姿は見たくないから。その選択だけは、間違えないでほしい。

 

 大丈夫、心配ないよ。

 

 今のホープなら、きっと間違えないから。

 

 あたしは自分にそう語り掛けて、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

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