僕がこの世界にやってきてひと月が経った。
相変わらず何故この世界にやってきたのか。BETAとは何なのか。といった疑問が解決されることはなかった……が変化が何もないわけではなかった。
営倉から解放した僕はテオドールやカティアが話をしに訪ねてくることが増えた。
勿論謝ったさ、あの時はやり過ぎてしまったと反省しているよ
当然ながらイェッケルン中尉からの説教も聞かされた。
政治的指導だ
そしてその日、中隊の格納庫にもう1機バラライカが搬入されたのだった。
整備班の作業を手伝うカティアが中隊のメンバーが一人増えたことを僕に伝えた
「今、何て言った?」
「はい、テオドールさんの妹がここに来るんです」
「(拙いな……)」
僕は潜入任務遂行直前にニコラが言った言葉を思い出す
(ホーエンシュタイン……)
(そうだ、前にも言ったがリィズ・ホーエンシュタイン中尉は当初は義兄と両親と共に西側へ亡命を図り拘束しそして我が大隊にいるんだ)
ヴェアヴォルフにいるってことは分かったが、何の目的で?
(義兄との再会を望んで、自分だけ義兄と一緒に幸せになって暮らそうと目論んでる周りの事は気にせず自分の事ばかり考える馬鹿で卑劣で醜い女だ)
醜い……ニコラ言い過ぎだぞ
(ニコラ、アンタがそのリィズって少女の事が大分嫌ってるようだがそんな言い方することはないんじゃないか?)
事情がある筈だ
(ホーエンシュタインの事は絶対に信用するな!いいか?マフティー、私は貴様の同志だ)
僕の肩をポンと触り誇らしげな笑みを浮かぶニコラはリィズに関しては念入りに念を押した
リィズがここに来るのか?
テオドールは死んだと思っていたが、実際は生きていたらしい。
それがこのタイミングで中隊に編入された。
「どう思う?」
僕はシルヴィアと話しかけ、リィズがここに入ってきた事やシュタージのスパイではないのか?と問い詰めた
普段、馴れ合いが嫌いなシルヴィアだったが僕と出会ってからちょっとずつだが親睦を深めていた。
「このタイミングで編入するなんておかしいわね、確かに戦力不足の為補うのも必要だけど」
僕もシュタージ側の人間だが、それ以前にテロリストのリーダーだ。
「正直、僕はクロだと思ってる。シルヴィアは?」
「そうね……十中八九シュタージの犬よ」
シルヴィアは即答した。
「そもそも、シュタージの連中がテオドールを生かしていることが腑に落ちなかったでしょうね」
テオドールは亡命計画者の首謀者の親類だったのだ。
本来なら生かす価値が無い。
シュタージの恐怖に怯え、服従したとはいえ家族を奪われたテオドールがシュタージに復讐することも考えられる。
では何故、テオドールを生かしたのか。
それは……。
「シュタージの犬……か」
「ええ、だが名目上は派遣部隊からの転用という形になっているから、彼女がシュタージの犬だと言う証拠はないわ」
「手出し出来ないと言う訳か」
白黒かはっきりするまでにもしリィズに手を出せば、テオドールは今度こそ心を完全に閉ざし、誰も信頼しなくなる
それはテオドールにとって家族を奪ったシュタージと全く同じだ。
それにリィズがいても中隊は11人で、正規人数に足りないのだ。
僕は話し続ける
「シルヴィア、もしはっきりとわかったら」
「私が殺す」
やはりそうなるよな……。
「シュタージの連中は汚らわしい人間ばかりよ。それに……」
シルヴィアの手が震えている
気になりつつ僕は咄嗟にシルヴィアの手を握り摩った
「ちょ、アンタ何してるの?」
「手が冷たいじゃないか」
僕はその温かい手で冷たい手になってるシルヴィアの手を摩る
「不器用だけどこれくらいの事なら出来る」
拒否反応されると思ったが、案外受け入れるんだな。
「……」
ん?
僕の顔に何かが当たって…いや埋められてる。
温かい……これは一体……。
「ヴァルター以外の男とこういう事するの初めてしたわ」
シルヴィアの胸が僕の顔に埋め尽くされてる
何を考えて……?
「……寂しい?」
「寂しくなんかないさ」
凄く温かい……ずっとこのままでいたいくらいだ
僕はシルヴィアを抱き着き涙を流した
「僕は父さんみたいに強くはなれなかった。父さんの期待を応えたつもりだったのに僕は……」
僕がいてた世界……宇宙世紀と言う時代の世界でマフティーを名乗ってテロ組織を率いり地球連邦政府の愚劣な法案を可決させない為、議会を占拠したが結局失敗し最後は銃殺刑で死んだ。
「僕はこの世界にいても、どうせ生き残れないと思ったんだ」
シルヴィアは僕の顔を胸で埋めてる状態でゆっくりと話し出す
「そうかもしれないわね。アンタみたいな優男がこの戦争で生き残れる筈がないと思ったわ」
やはりそう思うのか
「でもシュタージに殺されるよりBETAと戦って死んだ方が一番マシよ!」
「シルヴィア…」
シルヴィアがそろそろ離しがたく思っていると、僕が小さな声でポツリと呟いた。
「…もう少し…このままでいてもいいかな」
シルヴィアは恥ずかしそうに眼をそらしつつポツリと呟く
「馬鹿……いいに決まってるでしょ?」
背中に回された僕の手が、シルヴィアのBDU(戦闘服)をきゅっと握る。シルヴィアは僕の背中を優しく摩った。
「気が済むまで付き合ってあげるわ」
シルヴィアの表情は少し穏やかな表情になりつつほくそ笑んでいた。
リィズがシュタージの犬だというのはあくまでも仮定の話だ。
まだ何の確証もない……今のところは
シルヴィアなら必ずリィズを殺すに行くだろう
僕が出る幕ではないな
そう思いつつ僕とシルヴィアは互いにそのままの状態でいた。
リィズのコールサインはハサウェイがシュヴァルツ9なのでシュヴァルツ10です。
ハサウェイはシルヴィアと親睦深めたのは奇跡としか言えませんがさてどうなるか?