シルヴィアが立ち去り、僕は一人で考え事をしていた。
僕の元に誰かが走ってきた。
「ハサウェイ!」
テオドールだ。
テオドールは僕の肩に手をかけ話しかけた。
興奮を隠しきれない様子だった。
相当嬉しいだろうな、義妹に再会できて
「聞いてくれ 俺の義妹が……リィズが生きていた!」
それからテオドールは僕に対してリィズの様子が本当にシュタージを憎んでいて情報提供者ではないことを力説した。
何を根拠にそう言えるんだ?
「どいつもこいつもあいつを……俺の義妹をスパイ扱いしやがるんだ!」
そりゃそう思われるだろうさ
テオドールはリィズがシュタージの息がかかっていないと信じたいようだった。
希望が1%でもあればそれを信じてしまう。
そうであってほしい、きっとそうだ等と自分の希望的観測を根拠づけるための証拠集めしかしない。
テオドールにとっては死んだ存在が甦ったことに等しいのだ。
失わないためなら何でもやるだろう。
「頼みがある」
「?」
僕は真剣な顔で頼み込むテオドールの顔を見据えた。
「俺にもしものことがあったら、カティアとリィズを頼む」
僕はカティアが何者でどんな理由で東ドイツに来たのかは知らないが、中隊がアイリスディーナが東ドイツを守ろうとしているのはわかっていた。
中隊がその目的のために闘い続ける限り、そしてテオドールがその目的のために中隊と共に闘い続ける限り協力しようと決めていた。
「……わかった」
テオドールは少し安心した様子をみせると基地へ戻っていった。
もしかしたら破棄することになる約束を何故したのか、僕には分からなかった。
基地に戻ろうとする僕に微かな足音が近づいた。
僕はテオドールが何か言い忘れたことがあるのかとでも思っていたが、ただならぬ気配を感じとりすぐに振り向いた。
「最近、お兄ちゃんがよく相談事をする衛士って貴方ですか?」
リィズだ。
金髪に水色と白のストライプのリボンを二つ結びにしている普通の少女。
リィズは僕に近づき、僕に問いかけた。
「お兄ちゃんが誰を狙っているか教えてください!」
一瞬、僕の目が点になる。
「お兄ちゃんが狙っている女の子を教えてください!やはり金髪ナイスバディのベルンハルト大尉?それともエキゾチックで母性溢れるファム中尉?黒髪眼鏡でガード堅そうで実は緩そうなイェッケルン中尉? 元気いっぱいのアネットさん?小動物系妹タイプのカティアちゃん?私が本当の妹なのに義理だけど!」
とんでもない早口で中隊メンバーの女性陣の特徴と名前を言い連ねるリィズに僕は少し圧倒されていた。
苦手だな……。
「まさか暴力系姉タイプのクシャシンスカ少尉じゃないよね!?」
僕は動揺する
「お、落ち着け」
リィズはテオドールがよく僕に会いに行くという話を聞いて、恋愛相談をしてもらっているものだと勘違いしたらしい。
殆どカティアの愚痴で、浮ついた話ではないことを言うと、リィズは落ち着いた。
シルヴィアは確かに下手に話しかけるとすぐ殴るタイプの女性だが……。
「でも、珍しいですね。お兄ちゃんが人に懐くなんて」
「3年も経てば変わるさ」
リィズは兄共々宜しくと言い、去っていった。
僕はリィズとのやり取りに不信感を感じなかった。
「(ニコラの言う通り彼女は義兄だけを見てる可愛い少女だな)」
会話のやり取りだけなら僕もスパイじゃないと思っていたかもしれない。
だが、最初に感じた違和感は間違いなく「殺気」だった。
あの少女は殺気を隠して、僕と会話をしていた。
僕は一刻も早く白黒をはっきりさせる必要があると感じたのだった。
僕は知っていた筈だ。
家族を失った兄弟姉妹がどれだけの心の傷を負ったか。
そしてテオドールにとって自分の存在を過少評価し過ぎていた。
彼がトラウマを打ち明ける人物など数限られているというのに。
「今度こそ……人の過ちを犯すものはマフティーが粛清して見せる!」
その誓いが僕の目を曇らせ、 ベアトリクスの野望を叶えるかシルヴィアと結び幸せになるか葛藤を生みどちらを選ぶか迷っていた。
海王星作戦突入です!
ハサウェイは生き延びることが出来るか?