1983年2月28日 午前7時
バルト海
遂に人類の反攻作戦が開始された。その名も海王星作戦。まだ余力のある西側諸国は持てる予備も含めて全兵力を動員してポーランドから全てのBETAを殲滅し、ミンスクハイヴ前まで防衛ラインを押し戻す反攻作戦であり国連軍と欧州連合の主導で立案された作戦でもある。
戦術機揚陸艦ペーネミュンデ甲板上で僕はバルト海を眺めていた。
「……」
銀髪の癖毛がある女性が僕に近づいてきた
「隣、良いかしら?」
シルヴィアだ
シルヴィアは僕の隣にくっ付き話しかける
「良い景色ね」
「え?ああ、そうだな……」
あれ以降僕は、何故かシルヴィアが僕に積極的に接するようになった
人が変わっていくというのはそういう事か
「遠くからは見えないけど、私の祖国よ」
「確かポーランドだったな…」
シルヴィアは頷く
「祖国が恋しいか?」
僕はシルヴィアに問いかける
「ええ、恋しいわ」
良いムードだ
このまま僕はシルヴィアを抱き締めたいと思った。
「……」
だが、そんな勇気があるわけがない
ここで下手にやったら最初からやり直しだ
それに……。
「ハサウェイ、ここにいたんだ」
「ハサウェイ君、シルヴィアと2人きりで何話してたの?」
アネット、ファム………空気読んでくれ
シルヴィアは僕から2m離れ、しどろもどろになる。
「別に」
「本当かな~?」
頼むから怒らさないでくれ
「でもシルヴィアはクリューガー中尉と」
やはりか
「何よ?」
「彼氏、いたんだね」
「……」
図星か、最初見た時2人一緒にずっといてたから少し違和感感じたよ
それにどういう経緯で2人は付き合うようになったか僕は知る由もない。
「皮肉だな、僕は」
そう、僕は皮肉なのさ
「良い人見つかるわ、確証ないけど」
シルヴィア……。
「あと4年早かったら、私とアンタは付き合ってたかも?」
本気で言ってるのか?
いや、シルヴィアなりの慰めか?
「冗談よ」
「ふ…冗談ならもっとマシな嘘吐くと思うが」
僕は苦笑いした
海王星作戦の内容を僕なりにお浚いする。
作戦は大きく三段階に分けられていた。
第一段階は、グダンスク沿岸を強襲上陸及び、旧軍施設の奪還確保。
第二段階は、内陸侵攻によるBETAの大規模な殲滅。
第三段階は、主力の撤収。
作戦第一段階は、「北」「中央」「南」の三方向に分かれ海岸から目標40kmの範囲の確保にあたる。
「北」は米軍、イギリス軍、西ドイツ軍。
「中央」は欧州連合軍、国連軍、北大西洋条約機構軍。
「南」は国家人民軍、チェコスロバキア軍、オーストリア軍、ソ連軍、ポーランド残党軍、ユーゴスラビア軍、ルーマニア軍、ハンガリー軍、ブルガリア軍、ワルシャワ条約機構軍。
どの軍も海岸から水上打撃部隊の支援を受ける予定である。
この作戦での僕の役目は……。
「僕の役目はアンタ達を無事生きて帰れるように必死に戦う事だ!BETAと言う化け物に屈する訳にはいかない」
「そう……」
不愛想な態度を取ってるが、これもシルヴィアなりの接し方だろう。
数時間後、第666戦術機中隊は戦術機揚陸艦ペーネミュンデから出撃し上空に獣の数字を冠した10機が陸地へ向けて飛んで行った。
一方、出撃したテオドールの目の前に、東ではおおよそ信じられないような戦場が広がっていた。
即ち、物量対物量。
水上打撃部隊による艦砲射撃が光線級級の迎撃できない程撃ち込まれて、グダンスク沿岸のBETAを激減させる。
無線の交信と爆撃が繰り返されていた。
凄い弾幕だ、父さんがこれを見たら驚くだろうな……。
沿岸部のBETA群が爆散したことによる道が開けた。
戦術機部隊の役目は橋頭保の拡張だ。
先行する米軍のA-6 イントルーダーと共に海岸から40キロまでの距離を確保する。
《総員! 私についてこい!》
中隊機10機はBETAの群れへと飛び込んだ。
それから1時間後、「南」を担当するワルシャワ条約機構軍司令部に信じられない情報が飛び込んだ。
「北」を担当する米軍が揚陸開始を始めた30分後には40キロ地点までたどり着いていたということだ。
《信じられん! アメリカは核でも使ったのか?》
こんなところに核撃つなんて自分達が死にに行くようなものだ
「中央」を担当する欧州連合軍は揚陸作戦の進捗具合は6割。ワルシャワ条約機構軍はわずか4割だ。
アメリカとの連携は政治的理由で不可能である。
ワルシャワ条約機構軍にとって40キロの縦深という条件を満たすことは厳しい状況だった。
厳しいな……これが人類最大の反攻作戦
シルヴィアもこの環境でBETAと戦ってたんだな。
さらに、「南」を担当するワルシャワ条約機構軍と「中央」を担当する欧州連合軍の担当戦区の境界線上にBETAが梯団を形成し、グダンスク沿岸に向けて進行していた。
データリンクを共有していない2軍が入り乱れて交戦すれば、同士討ちを招く恐れがある。
アイリスディーナはその梯団の前面部に展開する突撃級の漸減を提案し、中隊機全10機は「南」と「中央」の境界に向けて進行した。
第666戦術機中隊のメンバーにも、アメリカが目標を達成したことは情報として届いていた。
《一体? アメリカはどんな魔法を使った!?》
イェッケルン中尉……口惜しそうに喚いてるな。
「(ここに来る間に、見かけた米軍機で構成される戦術機部隊がそれほどまでに強力ということなのか)」
テオドールは髑髏のマークを付けた戦術機を思い浮かべた。
中隊は、BETA梯団の突撃級と接近した。
《総員! 奴らの足に鉛玉をぶち込めえええええええ!》
その時、カティアが叫んだ。
《全機戦況ウインドを見てください!》
欧州連合軍の戦術機がこちらに向けて進軍していた。
何だ?何処へ進むんだ!?
中隊に応援が来ることに安堵していたが、カティアの次の言葉に驚いた。
《西ではBETAとの近接戦は戦術機単独では行いません、支援砲撃をした後に戦うことになっています》
僕は驚愕し少し恐怖を感じた。
「な!」
BETA群に砲撃をした後に、戦術機を突入させるのが西側の戦術のセオリーだ。
これは後にベアトリクスから聞いて知った
それが適用されるのとなると、BETAの群れにいる中隊までも砲撃に巻き込まれることになるのは必至だった。
《全機後退するぞ》
アイリスディーナが指示をしたが、中隊機に緊張が走る。
ここはBETAの群れのど真ん中だ、光線級集団もいるだろう。
その上空を飛んで撤退するわけにはいかない。
《私が残ってレーザー級をやります。低高度飛行で後退してください》
リィズが進言した。
何を馬鹿な事を……!
たった1機で光線級を?無理だ!
《中隊長! 俺も残ります》
テオドールがアイリスディーナに向けて提言する。
《私も…》
《お前は駄目だ》
カティアがそう言おうとしたところを、秘匿回線でテオドールが遮った。
2機では厳しいが、カティアをこんな博打に付き合わせるわけにはいかない。
《私も行くわ》
「僕も行きます!」
アネットと僕がアイリスディーナに申し立てた。
《承知した。08お前が小隊長だ、必ず生きて帰れ》
4機と6機に分かれて、前進と後退を始めた。
それから5分後、後退を決めた6機は何とかその戦域を脱出した。
一方、4機のバラライカは、光線級の集団と接触し、突撃砲をその群れに叩き込んでいた。
《よし、全機!後退するぞ!》
テオドールの指示に応えて、4機が戦域を離れようとする。
暫く進んだ後に、4機のバラライカを爆発の連鎖が包み込んだ。
《ぐ…………全機無事か?》
《私は大丈夫よ》
長刀を杖替わりにして、アネット機が立ち上がった。
「僕も大丈夫です!」
損傷はない、まだ戦える!
《リィズ!?リィズはどこにいった!?》
《お……お兄ちゃん》
リィズ機はテオドール達から少し離れた位置で倒れ跳躍ユニットが酷く損傷していた。
航空が不可能なのは簡単に見て取れた。
《………リィズ?》
《お兄ちゃん……私をおいて逃げて。きっとまた爆撃が飛んでくる》
《でも、お前を置いていくなんて》
やっと出会えた義妹とこんなに早く別れるなんて……運命とは皮肉なものだな
《テオドール!逃げないとマズイよ!》
アネットが急かした。
早く逃げなければ……。
《早く行って!》
《くそおおおおおおおおおおおおおおおお》
テオドール含め僕とアネット3機はリィズを置いて、宙域を去った。
何がシュタージのスパイなんだ、彼奴がスパイであるはずがない犬でもない!
その時だ、リィズ機が西側の戦術機の砲撃で当たり爆発が起きた
これは生きて帰れないだろう
そう思っていたが
《リィズ!おい、返事しろ!リィズ!》
テオドール、悪いが彼女は死んだよ
《お…にい…ちゃん…》
《リィズ!リィズか!》
生きてる……だと。
《うん、機体は動けないみたい》
《リィズ…》
良かったな。
数時間後、一旦ぺーネミュンデに帰投し次の作戦に備える準備に入った。
あとでベアトリクスに報告しなければ…
無線でやり取り?何を言ってる手紙だよ。
うん、そうだ。
新しい人生を謳歌しこの中隊の皆と楽しく話したい
僕は本当にそう思った。
次回、キルケ登場!
ハサウェイは西ドイツの衛士達と仲良くすることが出来るか?