ほんとにありがとうございます……
あ、時期はまだ本編開始前です。
ただ、生きて欲しかった。
みんなみたいな人には、生きていて欲しかった。
悲しすぎるよ、そんなの。
◆
おっほほーい。私です。
今いるところは少し崖になって、下に荒野を望む場所です。
絶景ですね。落ちたら死にますが。
「リーダー、捕捉した。南西方向から走ってくる」
「おっけー」
見ればはるか彼方から軍用車に似た形状のものが走ってきてますねー。
情報によるとあの中に感染者の子供を詰め込んでるそうです。なんの目的かって言われたら
は?? かわいいかわいい子供達をそういう目で見るとか腐っとんのか?
そして今襲撃をかけようとしている所です。
「なぁ、リーダー。もうこんな無茶は止めよう。食料だって心許ないし、少しでも大きい組織に見つかったら俺たちは直ぐに叩き潰される。……それにアンタ、この前の傷、まだ治って無いんじゃ無いか?」
「いや、ね。うん。子供達解放したら近くの都市まで送るだけだから。食料は大丈夫な筈だよ。傷は心配無用! もう塞がってるよ!」
いや、ほんと。とりあえず塞がりましたとも。
や、シラクーザであれよあれよと思いがけない戦闘になって。あの黒髪のループスの子が強いのなんの。剣を降らせるとか。人外じゃん。
「……だけど、リーダー……。……いや、分かった。俺も配置に着く」
「死なないでね」
「アンタが一番心配だよ」
「────」
さっき報告してくれたテディはとっとと崖を降りて走っていった。
身軽だなぁ。
空を見上げれば暗く重たい雲がかかっている。
「そろそろ雨かな」
◆
「クソッタレが!」
男は叫んでいた。大雨の中横転した車両の影で頭を抱えていた。
手に持ったクロスボウはかちゃかちゃと手の震えを伝えている。
「フーッ、フーッ!」
呼吸が苦しいのはこの雨のせいだけではないだろう。
いつもの仕事のはずだった。感染したガキ共を何人か車に押し込んで届けるだけ。それだけだった。
ガキ共を黙らせて車に放りこみ、都市の外に出て少したら雨が降ってきた。すぐに止むかと思ったがどんどんと強くなる。しまいには少し先を見ることも苦労する程大雨になった。
そこでいきなり襲撃を受けた。襲いかかってきたのは、分厚い装備に仮面と不気味な奴らだった。
外に討って出た仲間は電撃に貫かれて倒れた。逃げ出したやつは後ろに居た盾を持った奴に吹き飛ばされた。そうして隠れている俺は。俺は? どうなるか分からない。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
簡単な仕事の筈だった。社会的に消えても問題のない人間──感染者のガキを何人か攫えばよかったのだ。自分が感染する危険も有ったが何せ報酬が良かった。今頃はその金で色街に繰り出すか、酒でも飲んでゆっくりしている、その筈だったのだ。
「──あがっ!」
また、1人やられた。ばちばち、と弾ける音が聞こえた。
襲いかかってきた仮面共は確かに手練れだった。だがこちらも裏の世界の人間。修羅場を何回も潜ってきた奴がいる。
証拠に何人かがすぐに反撃に転じ、攻撃を押し戻していた。時間が進めばこちらの優位になったかもしれない。
そう、なった
──1人、やべぇ奴がいやがる。
雨の戦場の中であって1人だけ異彩を放っていた奴がいた。他の仮面共とは違って黒い仮面をつけ、分厚い装備を纏いながら、ヘッドがやけに小さい柄部が異様に長いハンマーを振り回していた。
アイツがハンマーを一振りするたびに、弾けるような音と閃光が舞った。
悪夢のようだった。裏ではそれなりに名の知れていたアングフの野郎も数度切り結んだ後、やつのハンマーに沈んだ。
それを見て、俺は早々に車両の影に隠れた。
いつのまにか黒い仮面は何処かに消えていた。それを探してクロスボウを油断なく構える。
──かちゃり
「ッそこかァ!?」
振り向きざまに放ったボルトは空を貫いた。飛んでいった先には雨しかなかった。
「……気のせい?」
舌打ちを一つしたのちに、クロスボウを下げる。今の音で位置が気づかれたかも知れない。移動をする為に少し後ろに下がり──何かにぶつかった。
「──おッ!」
後ろには何も無かった。
◆
目の前で倒れた男を見やる。
「……ふぅー。終わった、かな」
ただのチンピラかと思ったら、結構腕のたつやつが居て驚いた。おかげであまり使わないと決めていたアーツまで使わされる羽目となった。特に途中の禿頭の男。相当に強かった。有名な人だったのかも知れない。
「リーダー……アーツの使いすぎだ」
アーツをかなり展開していた事に対して、散開していた陣形から戻ってきたみんなに小言を言われてしまった。
「まー、まー、まー。ほら、それより車の中の子達を助けに行かないと。もしかしたら車が横転した時に怪我してるかもしれないからさ」
「それは、そうだが。────っておいリーダー! 仮面外して行けよ! 子供が絶対にビビるって……行っちまった」
◆
雨も上がり、子供達もメンバーの何人かが近くの移動都市まで届けたところで、適当な場所でテントを張って野営をしていた。
ちなみに荷台で怯えていた子供達には泣かれました。
ホント、ごめんよ……
時刻は既に日付が変わる頃。焚き火の番の1番最初を立候補して、火を眺めながら座っていた。
他のみんなはもう寝付いたようで、とても静かだった。
「あちゃー……」
装備を緩め、腹を覗いてみるとそこからは暖かくぬめった液体が滲み出していた。さっき戦った時に少し腰を捻りすぎたかもしれない。それか相手の攻撃を受け止めた時に変に負荷がかかり過ぎたのかも。
とにかく、腹の傷が開いてしまったようだ。
後ろを振り返る。そこには深い夜の闇だけがあった。森の岩陰に設営したテントも灯が消えていた。
「よし」
口にぼろ布を含む。そうして焚き火にずっと突っ込んでいたものを取り出す。それは鉄の棒で、廃材として捨てられていたところをいつだか何かに使えるかもと拾ってきたのだ。
「うん」
熱せられたそれは赤々と光を放ち、十分に役目を果たしてくれそうだった。
分厚い布を重ねたような装備を脱ぎ、シャツ一枚だけとなる。シャツにも血は染み出していて、念入りに洗わないと落ちそうになかった。
左手でシャツを捲り上げる。外気に触れた傷口は嫌な熱とぐちぐちとした鈍痛を伝えてきた。そうしたら右手に熱した棒を持つ。
「フーッ、フーッ…………よし」
そして、それを──腹の傷口に押し当てた。
────ッ!
──ーッ!
頭が割れるかと思った。熱は痛みに変換されて、よく分からなかった。
声は布のお陰でほとんど漏らさなかった。
辺りに肉の焼ける匂いが漂った。
「ハアッ、ハアッ…………」
あとは服を着て、交代の時間まで待てば、大丈夫、だろう。
◆
朝、腹が熱かった。体は冷えていた。
動くのが億劫だったが、布団がわりの布をどかして腹を確認してみる。
腹は赤く染まっていた。
(開いちゃったかー)
塞いだ筈なのだが、ダメだったらしい。最近あまり栄養のあるものを食べてなかったツケが回って回復が遅れているのかもしれない。
テントの外からさす光で朝だとわかっていて、そろそろ起きなくてはいけないがどうにも体が動かない。さっきは寒かったのに、今度は段々と暑くなってきた。
「おーい、リーダー。朝だぞ──っておい! 大丈夫かよ!」
なかなか起きてこないので、誰か起こしに来てくれたようだ。
「や、大丈夫。……あー、やっぱちょっとキツイかも」
「じっとしとけ! すぐみんなを呼んでくる!」
◆
結局、みんな集まってきてちょっと騒ぎになった。
で、何処か治療の設備か道具がある所に身を寄せるしかない。との決断になった。
今は横になっている私を中心に半円になって、『どこにそんな場所があるのか』との議論になっていた。
や、まぁ。そうですよね。治してくれる所なんてそうそう無いし、あったとしても
議論は段々ヒートアップしていくが答えは出ない。誰か良いところを知っているかなと思ったがそんな筈はなかった。そもそもみんな殆ど一緒に行動しているのだ。他のメンバーが知らない事はみんな知らないだろう。
「みんな、じゃあさ。一つ案があるんだけど」
横になったまま私が言えばみんなこちらを向いた。
「少し耳に挟んだんだ。感染者が集まってるところがあるって」
みんな怪訝な顔をしていた。そりゃ、そうだ。そんな話みんな聞いたことがなかっただろうから。でもちょっとだけ機会があって私だけ聞いたことがあったのだ。
これといった場所は見つからない。ならばその噂の場所を目指すのも良いかもしれない。みんなと一緒に都市の間を移動しながら生活をしていたが、ついに限界が来たのだろう。
仮にそんな場所が無かったとしても、どこか村で補給をすれば良いのだ。応じてくれる所が有れば、だけど。
そんな風に言えば、みんな再び話し合いだした。少しすると結論が出たのか静かになった。
代表して、このメンバーだと1番の年長者のアヴェニーが口を開いた。
「リーダーが行くと言うなら、俺達はどこまでもついて行く。さぁ、行き先を言ってくれ」
そんな、嬉しいことを言ってくれた。
そうだね、行き先は──
「北だ。北に行こう。監視が厳しくなるかもしれないけど、隠密はそこそこ得意だしね」
◆
エレノアの傷が開いて数日、俺達はひたすらに北を目指していた。道中いくつか村に立ち寄ったがあまり良い反応は得られなかった。
エレノアは数日前より明らかに消耗している。
今までも何度かこんなことが有ったが、今回は特にひどかった。
「リーダー、平気か? おぶっていくから登ってくれ」
「やー、そんなみんなも装備背負ってるし……ごめん、やっぱりお願い」
アセットの奴がそう言えば、少し躊躇ったのち素直に背負われていた。
普段だったら絶対断るようなことも、素直に従っているという事実がエレノアの消耗を表していた。
◆
何度かマスクをつけた明らか友好的では無い連中と遭遇しそうになるも、その度に隠れやり過ごしてきた。
1日の半分を自分の足で歩き、半分背負われていたエレノアはついに一日中背負われて移動することになった。防寒の為に着けている装備からはみ出した薄い蒼色の髪は、いつもより色褪せて見えた。
「……アセット、ねぇ。すこし暑くない?」
「そうだな、リーダー」
雪は段々と深くなり、風が凍るような冷たさになっていた。
◆
何日か過ぎた。
背負われて居ながらも、すこし喧しいくらいだったエレノアの口数も段々と少なくなって行った。
「……やー、ほんと計画性がないリーダーでごめんね」
「そんなことは無いさ。好きで俺達は着いてきてるんだ」
「……ありがとね」
辺りは白く染まっていった。
まだ、その感染者の集団というものには出会さない。
◆
エレノアはついに殆ど喋らなくなった。
今は俺が背負っている。呼吸は深かった。
「……軽いなぁ」
早く、どこかに連れていかなくては。
◆
休憩の時、自力で立てなくなったエレノアは近くの木に布を張り雪が掛からないようその下に横たえていた。
他の奴らは近くの警戒と、少し先までエレノアが言っていた集団が居ないか探しにいっていた。
「なぁ、……リーダー。 リーダー?」
違和感がして確認してみるとエレノアの胸が動いていなかった。
「ッしっかりしろ! おいっ、エレノア!」
「エレノアっ、なぁ! いくな、逝くなよリーダー!」
「……ラスティ? どう、したの……?」
口元に手をかざすと、僅かに呼吸はしていた。
エレノアは殆どうわ言のような小さい言葉を返した。
「あぁ、ぁぁ……しっかり、しっかりしろ……」
「……ラスティのくせに、生意気な。……あー、でも。ちょっと、疲れたから……ねる。……また、起こしてね」
「寝坊したら叩いてでも起こしてやる……」
エレノアは目を閉じた。
今まで手持ちの包帯で辛うじて止血をしていたが、それでも傷は塞がらず、血がずっと滲んでいた。
そんな腹の出血が明らかに少なくなっていた。
◆
エレノアの意識はもうずっと沈んだままだ。
「きっと、もうすぐだからな」
雪は深くなっていった。
呼びかけに反応は無かった。
◆
──ここで終わりかもしれない。
ちょっと今回の傷を舐めていた。
たぶん、一度塞がったのが動いて開いちゃったことと、治すための栄養があんまり摂れてなかったこと。
他にももろもろ。色々重なってこんな致命的になっちゃったのだと思う。
ラスティと都市を飛び出して数年。危ないこともいっぱいあったし、死にかけたことだってあった。私のわがままに付き合わせてラスティや付いてきてくれた他のみんなまで危ない目に合わせたりもした。
ただ、こうしたいと思ったことをいつもやっていった。
それでも皆は時々文句を言いながら付いてきてくれて。いつのまにか私のことをリーダー、リーダーって呼んで慕ってくれる様になった……や、何人か絶対からかい混ざりに私のことをリーダーって呼んでた。
ともかく。それもこれも全部、ここで終わりになっちゃうかもしれない。
今まで出会った感染者のみんなはまだ、生きてるだろうか。
私がやってた事は無駄にはならなかったか。
──だんだん痛くも無くなってきた。
ごめん、ごめんね。最後がこんなかっこ悪い不注意で終わるなんて。
ほとんど景色を映さなくなった瞳も開けているのが辛くなってきた。
荒い息を吐きながら私を背負ってくれている。今はリッドかな? 最後にその姿を焼き付けて、──目を閉じた。
…………
「お前達、そこで何をしている」
──炎が、見えた気がした。
お気に入りと評価ありがとうございます。
えれぇビックリしました。
皆さんからのレユニオンに幸せになって欲しいという波動をひしひしと感じました。
私もそう思う。
頑張って! エレノア! 2話目にして死にかけだけども!