レユニオン幹部が1人、アルサシアン!   作:調味のみりん

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いちばん寒いのは、夜明け前。

鉱石病が痛くて泣いている子供に言いました。

なんども、なんども。繰りかえすように言いました。

 

『良くなるよ。いつかきっと、よくなる』

 

それを聞いてその子は笑いました。

そして、その数日後に空の階段を登ってゆきました。

 

わたしは泣きました。理不尽な世界に怒りました。

そして何より──何もしなかった自分を恨んだのでした。

 

 

──或る記憶 

 

 


 

 

 

 

 ある日のこと。

 外はもう夜の帳が下りて、窓には部屋の中の景色が反射している。

 部屋の中でオレンジ色の光が揺れていた。

 

 

『ねぇ、アリーナさん。子供たちを教えてる理由って、なに?』

 

 

 私がそう尋ねると、暖炉の側に座っているエラフィアの女性は編み物の手を止めこちらを振り返った。

 ちなみに暖炉に火はくべられてない。それほど薪に余裕がなかったから蝋燭を使っていた。その後ろには私が怪我で上手く歩けなかった時の杖が椅子に立てかけてある。

 

 

 ──この時は私がまだちゃんと歩けるまで回復しきってなかった時だ。服の繕いのやり方もこの時に教わった。

 

 

 

『このまえ“計算よりも早く戦う方法を教えてくれ“って言われて』

 

 手に持った針を机に置いて、考え込むように天井を向けば同じように針を置く気配がする。アリーナさんも一度作業に区切りをつけたようだ。窓枠が風でがたがたと音を立てている。

 

『それじゃあ、エレノア。例えばある人と喧嘩をしたとして。その喧嘩はどちらかが倒れるまで続ける?』

 

『え? えー、やだな。私人を殴るの好きじゃないし……。出来れば話し合いとか、うまく落とし所を見つけるとか……』

 

『そうね。それが一番。でも、それが難しい場合だってあるわ。相手の事情にこちらの事情。複雑に絡み合って、解けないこともある。その時に必要になるのが、知識だと思うの。それは高尚なものじゃなくて、春になれば獲れる木の実の名前だとしても』

 

 彼女の声はとても落ち着いている。

 エレノアは母親を知らないが、もし居るとしたらこんな優しい声なのだろうなと思いながら耳を傾けていた。

 

 

『ここではこんなものが獲れる。あそこではこんな事が起きる。その積み重ねが自分の身を助けることもあるわ。その幅が少し広がれば、喧嘩した相手の住んでいるところの事かもしれない』

 

 アリーナは一度視線を手元に戻すと、針を裁縫箱の中にある針刺しに突き立てた。

 

『それって、相手のことを少し知ってるってことにならない? 何も知らない人を叩くよりも、きっと違った結果になるわ』

 

 

 この時、きっと私は複雑な顔をしていたのだろう。

 言っていることは分かるが、言いたいことがよく分からないといった風に。そんな表情にアリーナはくすくすと笑っていた。

 

『ふふ、そうしたら、エレノアは何が好きかしら?』

 

『歌。聞くのも、歌うのもどっちも好きだよ』

 

『──もしも敵だと思った人がお互いに、同じ歌を知っていたら……どうかしら』

 

 

 

 ここから先はなんと答えたんだろうか。

 何かを答えた。それは覚えている。その証拠に、私が何かを言ったあと、アリーナは柔らかく微笑んだ。

 その、声だけがひたすらに思い出せなかった。

 

 

 

 

 ◆

 

 また、別の日のこと。

 

 

『今日は特別講師をお招きしましたー! パンパカパーン、フロストノヴァちゃんです!』

 

 大仰な手振りで横に立つコータスを紹介するエレノアに、フロストノヴァは睨むような視線を向けていた。

 しかし睨みつけられている当の本人は一切それを意に介さず、目の前の子供たちと笑っている。

 

 子供たちはというと、普段見ない人物の登場に沸き立っている。興奮したように『すっげー! ほんものだ!』だとか、『こ、こんにちは!』と緊張したように挨拶をしたり、わー! 、と意味のない声をあげている者もいる。

 

『おい、何だこれは。私はお前の武器の手入れと試用の為と聞いて来たんだぞ』

『あ、うん。それ方便だから』

 

 あっけらかんと言い放つエレノアにフロストノヴァは静かに拳を握った。今度の訓練の時に泣かせよう、と。

 もっともエレノアは訓練となると、必要以上に喋ることは無くなる上に顔に仮面をつけているのだが。

 

『私、今日やることがあってさ。どうしても外せないんだよ。だから、お願い! 少しだけみんなのこと見てあげて!』

 

『お前は何を……。そもそも私の体は──』

『それは伝えてあるから大丈夫! 触ったとしても冷たければ分かるだろうし。ね、お願い。歌をうたってあげるとかでいいから、夕方まで!』

 

『断る。お前がやることがあるように私にも──』

 そう、フロストノヴァが拒絶しようとしたその時。服の端を引かれる感触がした。視線を下にやり、確認してみるとそこには。

 

『ウサギのおねえちゃん、ぼくたちイヤなの……?』

 

 

 服の端を掴み、目を潤ませる子供の姿があった。

 

「……ッ」

 

 レユニオンにいる子供達はもれなく何かあった者達だ。

 口減らしに、■■、鉱石病に感染、■■■■。例を挙げればキリがない。何事もなかったように笑っているが、その傷は決して忘れたわけではなく心の奥底に刻み込まれているのだ。そしてそれは往々にして、ふとした拍子に顔を覗かせる。

 

『…………』

 

 見上げる子供と、固まるフロストノヴァ。二人の間に奇妙な沈黙が落ちていた。

 その状況に先に根を上げたのは、フロストノヴァの方だった。

 

『エレノア……お前は……あとで覚えておけ』

 

 

 

 

 ◆

 

 

『ほうほう、何だかんだ言いながらやってくれますなぁ』

『姐さんはやると決めたら最後までやる人だからなあ』

 

 

 フロストノヴァと子供たちから離れた位置。

 木の影に隠れるようにしてひそひそと話す二人の姿があった。二人の視線の先には、困惑の色を出しつつもしっかり教えているフロストノヴァが居る。本人は切り株に腰掛けて、その周りでら子供たちが楽しそうにしている。

 

 ひとつここで述べるとするならば、エレノアの用事は“スノーデビルと話すこと“であり、まったくもって外せない用事などではなかった。そもそも、その“用事“という建前も本人が3秒で考えたものだ。

 

『気ぃ、遣わせて悪いな。リーダーさん。これで姐さんも少しは楽になると良いんだが……』

『別にー? 私がやりたかったからやっただけだしー』

『そうか』

 

 エレノアが強引に話を切れば、彼はフードの奥で笑い声を押し殺した。

 

『そもそも疲労が溜まればその分判断の精度も落ちてくるから。それは誰にとっても良いことにはならないでしょ』

 

 エレノアはフロストノヴァから視線を切り、空を見上げる。

 裸の木の枝が映る青空には雲ひとつなく、雪は暫く降ることはないだろうと目を閉じた。

 

『あーあ、後で武器ありの訓練だなぁ。嫌じゃないんだけど、ノヴァちゃん熱くなるとなんか怖いし』

 

『はは、姐さんも楽しみにしてるさ』

『ほんとにぃ?』

 

 

 訝しむような表情を彼に向けると、ひらひらと手を振って返された。

 それにエレノアは鼻をひとつ鳴らしてまた空中に視線を彷徨わせた。

 

 

 

『ん? あれってタルラじゃないのか? なんかすごい形相でこっちに向かって来るが……』

 

 その発言にエレノアはぎょっ、と目を見開くと慌てて広げていた袋や、荷物を片付け始める。

 

『──やっ、ば! あれ絶対怒ってるって!』

 

 その、あまりの慌てようと、一目で彼女が怒ってると判断した怪しさから彼は若干呆れたような声で尋ねる。

 

『……何したんだ?』

『この前服の破れたところを縫ってあげたの!』

 

 エレノアは雪の上に散らばった、赤く色付いた木の実を必死に集めている。掴んだ側から鞄に入れ、相当焦っているのか雪まで一緒に入ってしまっている。

 

『それで?』

 

『せっかくだし可愛いイヌの模様も縫い付けといた!』

 

『……はぁ』

 

 

 そのあんまりな理由にため息をつくと、ちょうど荷物をまとめ終わったのかエレノアは『じゃあね!』と言って走っていく。

 騒がしいのが消えて静かになった現場で、彼はふうと白い息を吐くと、上に昇ってゆくソレが消えるまで見つめていた。

『明日は、晴れかな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウワーッ!? また私の尻尾が! あ、アリーナさぁーん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くから聞こえてくるその声は、聞こえなかったことにした。

 

 

 

 ◆

 

 

 ──龍門市内。

 

 

 そこはビルとビルの間にある小道のような場所で、最も酷い戦場の跡のひとつだった。建物は崩れ、道に瓦礫が散乱している。──同様に人も。

 

「……だれ……か、居るのか……?」 

 

 埃で覆われた空気は電灯の光を遮って、薄ぼんやりとした静けさを漂わせていた。衝突の激しさが跡から分かるだけに、時が緩やかに流れているような錯覚さえ起こる。

 

「すまないが、……楽に……してくれないか。つらいんだ……たのむよ……なぁ」

 

 エレノアが瓦礫を避けながら歩いている振動を感じ取ったのか、途切れ途切れに声が聞こえてきている。

 左眼を押さえながら視線を巡らせると、鉄筋入りのブロックに押さえつけられるように男が呻いていた。

 

 まだ、生きているのかと男の上半身から下半身へ視線をやるが。そこでエレノアは見るのをやめた。

 男の下半身は──正確には腰から下は源石が覆って出血を止めていた。急激な成長でもあったのかもしれない。

 

「なぁ……だれか……。きてくれ……だれか……」

 

 エレノアは膝をついてしゃがみ込むと、優しく男の頭を抱えた。男は最早感覚がないのか、うめき声しか上げない。

 

「あとのことは、任せて」

 

 スッと男の首元に手を回した。肩にまで出来ていた源石に触れないよう、丁寧に、軽く。何かに気がついたのか、男は口を閉じて幾分か穏やかな顔になった。

 

 そしてひと言。

「お疲れさま」

 そう言って首を折った。

 

 苦しんでいた男は静かに動きを止めた。

 埃を払って立ち上がり、少し目を向けると、近衛局の制服を着た人が盾を構えたまま動かなくなっている。

 構えた盾には源石が突き刺さり、ぼろぼろだ。それでも後ろへの被害はなかった。きっと、意地でも守って見せたのだろう。何かを。

 

「ふぅ……はぁ……」

 

 エレノアはその中をゆっくり歩いていく。

 メフィストやファウストが居なくなった手前、失った体力を隠す必要はもうなかった。回復のために若干荒い呼吸を繰り返す。

 

 

 ここは地獄だ。

 敵も味方もない。ただ戦いの中で生まれた地獄の跡だ。

 争って、ぶつかって。そして悲劇だけが産まれた。

 だが争わなければ、いつまでも家畜のように扱われた。

 

 

 足場が悪い中で、ひときわ状態がひどく倒れている人がいる。

 その人は肩から大きな源石を生やして、腕にまで侵食されていた。

 ──その飛び出た一つをむしり取ると、エレノアは腰にしまった。

 

 

「使わせてもらうよ」

 

 

 ここは地獄だ。

 凍原で見てきた、移動都市で見てきた。そしてチェルノボーグでも。何度も何度も見てきた景色だ。追いやられて、集まった私たちには力が必要だと思っていた。権力が、純粋な腕力が。必要だった。

 私たちを人と認めない連中と話をするためにも。こんな光景を二度と見ないためにも。

 

 

(でも──)

 

 

 力を示すために戦って、戦って。何か変わっただろうか。

 この光景に、場所以外の変化はあっただろうか。

 いつだって心には、理不尽なことに対する怒りが収められている。

 でも、今回の戦いに意味はあったのだろうか。これが斃れていった者たちに報いた結果なのだろうか。こんな景色を何度も作り出すことが未来に繋がるのだろうか。

 

 あまりに何度も見た光景に、エレノアは段々分からなくなってきていた。

 

 戦いは必要だ。抗わなくてはいけない。

 でも、それ以上に──

 

 

 

 

 

 本当に必要だったのは、“教えること“だったのではないか、と。

 “教育“こそが重要だったのではないか、と。

 

 争いを回避する理性を。

 迫害をよしとしない道徳を。

 偏見に対する正しい知識を。

 “こうなる“ことを伝える歴史を。

 

 育むことこそが、必要だったのではないか、と、

 

(アリーナさん……。やっぱり貴女は……)

 

 エレノアは頭を振って、脳裏に浮かぶエラフィアの女性の姿を消した。

 

 

「戻ったら、まず文字から教えようかな」

 

 

 痛む目を押さえながら狭い路地を進む。

 失った左目だけでなく、右目も痛み始めていた。両の目は多少なりとも連動しているのかと、苦笑いをした。

 

 

「そしたら、数字と算数を教えよう」

 小麦袋の数に、配られた缶詰の数。

 きっと、すぐに数えられるようになる筈だ。

 

 

「各国の政治体制と、お金の取引についても教えよう」

 ウルサス帝国から、評議会まで。

 まったく違う国のあり方にみんなびっくりするかもしれない。

 

 

「自然現象と化学についてを教えよう」

 凍った湖の下で、元気に泳いでいる魚。朝日と共に立ち込める霧。

 私の利用している雷の原理についても教えてあげるのもいいかもしれない。

 

 

「空に輝く星について教えよう」

 ミンタカ、アルニタク。北の空に光るカシオペア。

 私の知ってる空とは違うけど、きっと同じところもある筈だ。

 

 

「私の知ってる歌を教えよう」

 みんなを見守る星の歌。風に揺れる花の歌。

 砂の世界を奏でた、異国の歌。

 

 

 

 それらの想像は何一つとして叶わないと誰よりも分かっている。そんな道を選んだのは自分自身だから。

 より多くを後に残すために決めたことだから。

 ただ、自分を奮い立たせるため。声に出して少しでも力を出すため。ひたすらにぶつぶつと呟いていた。

 

 遠くではレユニオンを包囲する指揮官の声が響いてきている。

 龍門の物語も、終わりが近づいてきていた。

 

 

 ◆

 

 

 

 路地を行く彼女を、ビルの上から見つめる存在がいる。

 ソレは赤いフードを被り、端からは金色の髪がわずかに覗いている。ソレは何も言うことなくエレノアの行動を見ていると、ひとつ頷き姿を眩ませた。

 

 

 

 

 ◆

 

「ここは、寒いね」

 

 ふう、とアルサシアンが吐いた息が白く染まる。

 ビルの地下には霜すら降りていた。

 

「何の真似だ、エレノア」

「…………」

 

 その中央、龍門中心部へとつながる階段を塞ぐようにフロストノヴァは立っていた。この空間の冷気は、彼女から発せられている。

 

「すこし目を瞑ってて欲しいんだけど」

 

 あくまでも軽い調子で告げるアルサシアン。一部が壊れた仮面を捨てて、新たに傷のないものを付けていた。鎚を背中から抜き、だらりと構えるとそのまま歩き出す。

 フロストノヴァは視線で鋭く睨みつけ、気温が更に下がった。ぱきぱきと水分が凍る音が響く。

 

「ダメだよね」

 

 ぱきん、と照明がひとつ割れ、その瞬間アルサシアンは駆け出した。

 その動きが普段より何倍も緩やかなことに、フロストノヴァは気づいていた。

 

 

 

 ◆

 

 

「ゴホッ、ゴホッ……。ッハァ……!」

 

「もう止めろ、エレノア。呼吸をするだけでも辛い筈だ」

 

 

 抉れたコンクリートの上で、アルサシアンは四つん這いになって息を荒らげていた。地面は凍り、地下を支える柱のいくつかは焦げて砕けている。気温は既に氷点下を下回っていた。

 

 

 

 膝を突いて倒れるアルサシアンを、フロストノヴァは見下ろしている。記憶よりもずっと精細を欠いていたアルサシアンは、ひとつ決定打を貰うと、腹を庇って倒れた。今は酸素を取り込もうと浅い呼吸を繰り返している。

 

 

「はあっ……ハアッ……なさけ、ないな……」

 

「それ以上喋るな。少し寝ておけ」

 

「……、も、もし、……私が勝ったら……さ。わたしの、言うこと……聞いて……ゴホッ……」

 

 

 うまく呼吸も出来ていないのに喋ろうとする。

 鎚を握る手は震えているのに、立ちあがろうとする。

 その姿にフロストノヴァは、これ以上何かをすることは危険だと判断した。

 

「ああ、聞いてやる。だから──」

 

 その、言葉を発した瞬間。空気が変わった。

 改めてアルサシアンを凝視すると、苦しんでいたはずの彼女と目が合った。仮面越しだが、確実にこちらを見ていた。

 

()()()()?」

 

 アルサシアンは腹を押さえていた手を引き抜くと、何かのピンを抜く。

 それはスタングレネード。起動した瞬間に100を超えるデシベルの爆音と、数百カンデラの閃光を発生させる非致死性兵器。

 それをただひたすらに、腹に入れ体温で温め続けたのだ。

 凍らぬよう、この絶好の瞬間が来るまで。

 

「なっ!?」

 

 アルサシアンは目と耳をアーツで軽く保護した。

 そもそもが、爆音も閃光も慣れている。

 フロストノヴァは、エレノアが今までの訓練では一度も使ったことが無いような道具を使った不意打ちに対応が僅かばかり遅れることとなった。

 

「──シィ!」

 

 アルサシアンがこれまで意地でも離さなかった鎚を打ち上げるように振る。

 だが、フロストノヴァとて並の戦闘経験を積んでは居ない。ましてや何度も訓練を共にしたエレノアなのだ。下から迫る風圧で被害を最小限にする為に顎を狙うと踏み、素早く防御をした。

 

 だからアルサシアンは鎚をぱっ、と手放し、拳で彼女の水月を撃ち抜いた。

 

「がッ……」

 

 フロストノヴァはその衝撃に一度体を大きく揺らすと、くたりと動かなくなった。

 動けなくなったフリをして、不意打ちをするという作戦は見事成功したのだった。

 

「ふう……こんな勝ちかた、次ノヴァちゃんに会ったら絶対に怒られるな……」

 

 アルサシアンは倒れたフロストノヴァを、肌に触れぬよう壁側に移動させる。そして軽く装備に付いた氷の破片を払った。

 

(あとは隠して寝かしておけば彼らが来るでしょ)

 

 アルサシアンは投げた鎚を拾い上げると、フロストノヴァが立ち塞がっていた階段へと歩いていった。

 こつ、こつ、と硬質な足音が床を覆う氷のせいかやけに響いた。

 

「…………」

 

 一歩、二歩。階段に足をかけるとそこで止まり、引き返してフロストノヴァの所まで小走りで戻る。

 壁にもたれかかるように気絶する彼女の前まで来ると、頭の装備と仮面を外し、霜焼けになることを厭わず、軽く抱きしめた。

 

 数秒にも満たない抱擁は終わり、すぐに装備を付け直し階段に向かって歩いていく。

 

 

 

 ──この階段を上がればきっと。

 アルサシアン()の最後の舞台だ。

 

 

 

 

 

 

 階段はただ静かに佇んでおり、点滅する電灯が照らしている。

 やがてその点滅も感覚が長くなり──音も立たずに消えた。

 彼女は歩みを止めずに、ここまで歩いてきた。

 

 

 それはきっと、これからも。変わらずに。

 




ここまでこれました。
ちゃんとエピローグまでいけそうです。
これはひとえに見てくれているあなたのお陰です。
ありがとうございます。
よろしければ是非、最後までお付き合い下さい。
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