レユニオン幹部が1人、アルサシアン!   作:調味のみりん

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14000字を超えたので分割しました。(白目)

最後まで、よろしくお願いします。

では。





bye-bye Alsatian 1

◇◇◇◇◇

 ──夢を、見ていた。

 とても綺麗で、懐かしく、嫌な夢を。

 

 

 もし(うな)されるモノを悪夢と呼ぶのなら、あれは間違いなく悪夢なのだろう。

 

 そんな夢を見ていた。

 


 

 

『なぁ、リーダー。次は何処に行くんだ?』

 

 荒野の中、軽い調子で男が声を上げた。

 見つけた大岩を影にして、寝泊まりの準備をしている最中の事だ。真ん中で燃える炎はパチパチと音を立てて、冷える夜を温めている。

 

『うーん、どうだろう。サルゴンの方かな? でもあっち側は食料が持つか分からないしなぁ』

 

 

 思考を纏めようと上を見上げれば、満点の星空が飛び込んでくる。

 辺り一帯に光源がない分、随分と細かいものまで視認できるのだ、初めて見たときは圧倒された。

 

 

『クルビアかボリバルか……』

 

 

 ぶつぶつ呟きながら目線を下に戻せば、火の回りで思い思いに作業をしているみんなが目に入る。

 

 一番年下のラスティは武器を研いで、欠けた刃に顔を顰めている。朴訥という言葉がとても似合うアセットは火にかけた鍋の中身をかき混ぜて今夜の準備をしてくれていた。

 テディは星を見ながら欠伸をして、リッドはナイフで湿った木を削り薪を作っている。

 

『距離的に考えればイェラグに近い移動都市なんだけど。近すぎると雪に埋もれるしな……アヴェニーは何してるの?』

 

 口元に手を当てて思考をしていると、蹲って何かをしている大男が気になったので思わず問いかけた。

 

『ん? あぁ、写真を見てたんだよ。ほら綺麗だろ?』

 

 それに気がついた男は顔を上げると、嬉しそうにロケットに入った写真を差し出してくる。いやに緩みきった目元で。

 

 

 ──しまった。

 

 

 エレノアは即座に後悔した。

 

『やっぱり可愛いよなぁ。ああ、ソーニャ。お前はいつ見ても素敵だ。な、リーダーもそう思うよな。この笑った顔、天使だよなぁ!』

 

 満面の笑みでそう同意を求めてくるむさい男にエレノアは顔を覆う。

 横目で助けを求めてみたが、誰一人として目を合わせようとしない。

 

(こんの、薄情者どもめ!)

 

『今度子供が産まれる筈なんだがな、ソーニャの子供ならもちろん天使だよな。そしたら俺は二人の天使に囲まれた男になるわけだ。見てくれよこの目元。ソーニャの優しさがここに現れてると思わねぇか』

『アー、ウン。ソウダネ』

 

 一体私たちは何回この奥さん自慢を聞かされればいいんだろうか。

 

 彼は自身がリーベリのくせに、サルカズの奥さんを娶った変わり者として周りからは色々と、それはもう色々と言われたらしい。

 本人は『あんなもん頭の固い連中の僻みだ!』と笑っていたが。

 その分奥さんを溺愛しているようで、事あるごとに話してくるのだ。

 

 

 

 それにしたって惚気話が長い! 

 

 

 エレノアは心の中で叫んだ。というか過去に一度実際に叫んでみた。結果はご覧のとおり。まったく効果が無かったのでそれ以来諦めて聞いている。それが一番体力の消費がないと学んだ。なんとも悲しい学びだった。

 

『もう名前だって決めてんだよ。男の子ならアレキサンダー。女の子なら、アレクシスだ。可愛いだろ?』

 

 エレノアが火の管理をしている横で大男が嬉しそうな声を上げている。

 暇だったら火にくべるものでも持ってきてほしい。

 

『かぁー! 可愛いなぁ! もしまた会えたらリーダーにも抱っこさせてやるからよ』

『はいはい』

 

『ほら、この笑った口元』

『ああもう! 分かったからそんなにロケットを押し付けないでよ! 金具が私のほっぺにめり込んでるから! 見えないから!!』

 

『こんな可愛い笑顔で……なぁ』

『話を聞け!』

 

 このままでは薪が燃え尽きるまでコイツは話し続ける。

 それではたまらないと思ったエレノアは、アヴェニーを押し退けるように手を伸ばした。

 

「あ」

 

 だが、そこに押し返す感触はなかった。

 すっ、と砂の中に手を突っ込んだかのような感触。

 

 

 

 灰だった。

 

 

 

 さっきまで鬱陶しいくらいに笑っていたアヴェニーは灰の山になっていた。辺りを見渡せばエレノア以外に誰一人として居らず、みんな同じように灰になって崩れていた。

 

「あ……え?」

 

 アヴェニーだったものがサラサラと手を伝って下に落ちてゆく。積み重なった灰の山からは所々壊れた金属片が顔を覗かせていた。

 それはかつての彼らの装備の破片で、唯一エレノアが所持していた遺品だった。

 

 さぁ、と風が吹く。灰が飛ばされてゆく。

 さっきまでの喧騒が嘘だったかのように静寂が訪れる。

 後に残ったのは消えかけた火と、しんと静まりかえった荒野の闇だけ。空では星が白々しく輝き続けていた。

 

 

 ここまできてやっと気づく。“ああ、これは夢なのだ“と。

 何度も何度も、同じようにループしてきた悪夢なのだと。

 誰もいない一人のキャンプ地で、灰を飛ばした風がざわざわと音を立てる。そのノイズに混じり不明瞭な声が響いてくる。

 

 

『よかったじゃねぇか。お前がびびって村に引きこもったせいで生き残れてよ』

『みんなを見殺しにしておいて、よくもまぁ、ぬけぬけと生きてられるよな。その図太さには感心するぜ』

『なぁ、そうだろ? なんとか言えよエレノア

 

 

「うるさいな」

 

 

 その幻聴とも、風のざわめきとも分からない“声“にエレノアは吐き捨てるように言った。

 

 これは夢なんだから必要以上に悲しんでやる必要はない。

 彼らが化けて出てきて、私を責めている? そんな妄想バカバカしい。

 夢とは記憶と記憶が結合して出来たものであり、そこに誰かの意図なんてあるはずが無い。誰かがエレノアを責めるためにこんな夢を見せているなどという考えは被害妄想にも近い。

 

 それは、分かっている。

 分かっているが──

 

 

 

 

 

 

 ──痛いものは痛いのだ。

 

 


 

「他の小隊は、エリートオペレーターたちが指揮を執っています。戦況は随時こちらに報告が来ますので、安心してください」

 

 コータスの少女がよく通る声で告げた。

 

「ここからは合同作戦の鍵となる行動フェーズです。龍門の明日を決める戦いになると思います」

 

 その説明にフードを被った、ドクターは『チェン隊長は?』と問いかければ、“指揮任務にあたっています“との返答が返ってくる。

 

 

「私たちとの協定通り、特別督察隊の隊長として精鋭部隊を動かし、できる限りレユニオンの進行を食い止めてくれていると思います」

 

「彼女の役割はレユニオンの主要部隊を誘導して、彼らを目標地点に押しとどめつつ、ほかのレユニオンの分隊がスラムに入るのを阻止することです」

 

「私たちロドスは各巡回地点を目指しつつ、その過程で近衛局の他の部隊と協力して敵の残存戦力を削り、レユニオンの投降を促すことが目標です」

 

「そして最終的には目標地点を目指し、スラムで近衛局と共にレユニオンの主力部隊を撃破します」

 

「これだけの規模の作戦だと、ロドスに出来ることは少ないですが、協定の内容を果たせるように頑張りましょう」

 

「一つ不安な要素があるとすれば──」

 

「あのイヌのことだね」

 

「ロドスから緊急通信は来ていません。確認して貰いましたが異常は特にないそうです」

「本当に、ロドスに何の手出しもしないでするりと抜け出してきたんだね。……自分の命が危なくなるって分かってるのに」

 

 エリートオペレーターは吐き捨てるように言った。

 

 ◆

 

 

 黒色の装束の意味するところは、陳腐ながら死神だろうか。

 

「第十二区クリア。感染者は全て抹消した」

「第三隊、第四隊は引き続き行動中」

「次のエリアへ向かう」

 

 人の身でありながら、まるで機械のように淡々と処理をしていく。

 

「──想定外の目標を確認。逃走中の感染者群、第十三区と第六区との境目エリアで発見。数は計四十四人」

「完了所要時間、五分以内。行動開始」

 

「あ……あ……た、助けてくれ!」

「待ってくれ! 投降する! 俺たちは投降──

 

 悲鳴はすぐに消えていった。

 

 ◆

 

 

 人はどこまで意識があるのか。

 

 

 死に近づくにつれ段々と薄れていくのか。

 それとも電源が落とされるように急に切れるのか。

 とりとめもない事を考えながら、エレノアは錆びた外付け階段を登っていた。

 

 このアパートとも雑居ビルとも分からない建物は、十数階建てであり、そこそこ背の高い建物だと思うのだが、周りの高層ビルやもっと背の高いマンションに比べれば一段も二段も小さく思えた。

 

「ふぅ……」

 

 腰に付けた、“避雷針“を確認するように撫でる。

 これは起爆矢を紐で束ねて即席でエレノアが作った。

 

 

 

 案外、人生というのは思ってたよりも特別ではなくて、簡単に終わってしまうものなのかもしれない。

 大層な価値なんて無いのかもしれない。

 

 話す人が居ないせいか、益のない思考は頭をぐるぐると回っていた。

 

 カンカン、と規則的な足音がやけに広く感じる空に響く。

 八階分は上がっただろうか。あと数分もしないうちにこの建物の屋上に出る。

 空には重たい雲が迫るように埋め尽くしていた。

 

 

 ◆

 

 p.m. –– 天候 曇り

 

 

 雨風に晒されて手入れのされていない柵を壊すと、そこは屋上だった。ウレタンで防水加工された地面は鼠色をしていて、雨の前なのか少し湿っていた。

 物干し竿も、天窓も、何もないからかそこそこ広く感じられて、冷たい風が装備の端を揺らした。

 

 

 ここはスラムと街の境界地点。

 後ろを振り返れば、バラックの小屋や、雑多な建物が目に入る。

 左右を見ればこの建物より高い、高さの違うビル。

 正面に視線を戻せば景色を遮るものがなく、龍門の街並みをある程度見渡せた。

 

「うん、よしよし」

 

 手を何回か開いて閉じれば問題なく動く。

 戦闘の後遺症もそれほど残っていない。

 

「やりますか」

 

 そう言ってエレノアは腰から“避雷針“を取り出すと、槍投げのようにスラムの上空に向かって構えた。

 

 この戦闘の意義は、“足止め“。

 レユニオンを狩る勢力をここで押しとどめるのだ。

 スラムに入れば、どれだけ追われていても脱出の芽はある。

 だからここをエレノアは最後の砦と選んだ。

 

 

 

「せぇ、のッ!」

 

 腰の捻りを存分に使い、半回転するように投擲する。勢いをつけられた避雷針は風を切って飛翔していった。その先端には既にエレノアのアーツを纏わせている。

 

 

 源石は、天災の仲介者だ。

 アーツは源石を伝って発生する。

 

 

 高速で空へ上昇する“避雷針“は、やがて風圧と発生する電位の偏りに耐えきれずに──炸裂した。

 エレノアのアーツにより発生した雷のせいで不完全な起動をした起爆矢は中空にて先端の源石を振り撒く。

 

(よし、上手くいった)

 

 

 私のアーツは、厳密に言ったら他のアーツとは少し違うかもしれない。

 空気を固める。その為に源石を介して空気中を伝達する。

 

 エレノアは右手をまるで空を引っ掴むように掲げた。

 

 

 さあ、これで最後なんだ。

 だからせめて、陰気に終わるんじゃなく、盛り上がって盛大にやってやろう! 

 派手に、目立って! 華々しく! 

 私の最後を飾ってやろう! 

 

 大気を介して、アーツが伝わってゆく。

 やがてそれは空中で飛散した源石にたどり着き、更に飛距離と威力、高度を上昇させる。

 

(見せてやるよ、本気を! 私のアーツの真価を!)

 

 私のアーツは空気を伝う。

 私のアーツは源石で拡散する。

 故に。私のアーツは──空まで届く。

 

 ぐんぐんと高さを増してゆく彼女のアーツ。やがてそれは雲の高さまで達し──

 

 

「……落ち、ろォ!!」

 

 

 ──一筋の雷光となった。

 

 

 ◆

 

「何だ!? 雷か!?」

 

「分かりません、雨もまだ降っていないというのに」

 

「掃討作戦に支障が──」

 

 ざわめきを増す部隊の中で、部隊長は顎に手を添え空を睨んだ。

 彼は少し前のスカルシュレッダーの討伐に参加し、とある人物に地割れから投げ出された経歴を持つ。

 

「まさか──」

 

 脳裏には一人の姿が思い浮かんでいた。

 

 ◆

 

「ハアッ、ハァ……ッ!」

 

 エレノアは鼻から血を流しながら、右手を上げ続けていた。

 普段はアーツを自分の周り1メートルが精々の範囲で使っているのだ。それを無理やり飛ばすとなると消耗が激しい。

 

 だが、まだ出力が足りない。

 故に外部から追加する。

 

 エレノアはすっ、と腰から光を反射する鉱石のようなものを取り出した。

 それはメフィストの護衛の亡骸から剥ぎ取った、高濃度の源石。彼らの一部は源石を用いて高威力の攻撃を可能とする。それに応じて命がどんどんと削れていくが、彼らは意識がほぼ無いので気に留めていない。

 それはメフィストのアーツで引き起こされたものだが、同じような効果を誘発させるものがこのテラには存在する。だから、言うなればこれは人工の──

 

「……活性、源石ィ!」

 

 勢いをつけて右腕に突き刺した。

 彼らの身体が作り出した人工の活性源石だ。

 

「ぅ……ぐぅ!」

 

 右腕に新しく心臓が出来たように、強く脈打つ。

 差し込まれた異物感に吐き気が込み上げてくるが、気合いでもって押しとどめた。刺した所からどんどん熱が消えていって、体が冷えていく。まるで体が源石に作り替えられているようだ。

 

 

 ああ、いい天気だ。

 荒れていて、小雨が降りそうで、()()()()()()

 

「は、ははは」

 

 エレノアが源石の突き刺さった不恰好な腕を更に高く上げた。

 すると手首から肘にかけて源石が急激に成長し顔を覗かせる。新たに増えた源石に意識を込めれば、雷はその数を増し始める。一つ二つと密度増してゆく稲妻。たった十数秒でエレノアは局所的な嵐を作り出して見せた。雷鳴轟く雷の嵐を。

 それはちょうどスラムの手前、まるで他の誰かの行手を阻むように。

 

 人の手により再現された嵐は、元を辿ればエレノアが引き起こしたものだ。つまりある程度は操作がきく。横に広がるように範囲を拡大していく雷雨はやがて壁のようになり──

 

 

 彼女は、たった一人で都市を分断してみせた。

 

 無論、スラム街へは下水道などを用いれば行くことが出来るだろう。その分時間はかかるが。しかし、ここで龍門を守る者ならば無視できない一つの問題に直面する。

 それこそがエレノアがわざわざ消耗激しいアーツの使い方をした理由。

 ここまで目立ち、力を示したのであれば──

 

 

 

 

(私を無視できない)

 

 

 

 

 こんな事態を引き起こしてみせた、龍門にとっての脅威を排除しない訳には行かないだろう。

 

 

 それを裏付けるように、一人二人、黒い装束を纏った者たちが屋上に現れ始めた。エレノアは知らなかったが、彼らは存在を公にされていない部隊。ひょっとするならば、今回の事件において最もレユニオンを屠ったのは彼らかもしれない。

 

 それが既に二ケタ人数。二十人は超えただろうか。そこからは数えるのもやめた。佇まいから分かる。全員が全員幹部クラスの実力を持ってる。

 これは今までやってきた“勝つか負けるか“の戦いじゃない。私がどれだけ“耐えられるか“の耐久レースだ。決して少なくない自身の戦闘経験が言っている。『勝てる見込みは万に一つも無い』と。

 

 一体何分稼げるだろうか。

 3分? 10分? それとも1時間? 

 それは分からない。ただ一つ、確かなことは。

 この稼いだ時間が私の人生の残り時間だということ。

 私はあと何分生きられるだろうか。

 

 

「なぁ、分かるか?」

 

 

 くそ、泣きそうだ。

 正直に言えば死ぬのは怖くてたまらない。

 いつだって命の奪い合いは嫌なんだ。

 

 

「私がこうやって立っている理由が」

 

 

 それに今回は自分が死ぬと分かってる戦いだ。

 嫌じゃない訳がない。

 

 でも、ここで立たないときっと後悔するから。

 私が私として、最期までみんなの『リーダー』である為に。

 

 

 

「ここで斃れたっていい」

 

 

 倒れてもいいんだ。

 稲妻っていうのは、豊穣の象徴。

 私がここで斃れても、新しい命が、意志が繋がれていくんだよ。分かるか。

 

 

「ここを通りたくば、私を倒してみろ」

 

 

 相手は無言で武器を構える。私もまた、鎚を掲げた。

 この薄汚れた屋上が、きっと私のフィナーレだ。

 

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