──おや、こんにちはドクター。どうしたんですか、こんな埃くさい場所に来て
え? 資料? まぁ、確かにここは資料室ですが……なんの資料です?
チェルノボーグの。なるほど、それならここら辺に……あった。これですね。はい
持ち出しは出来ますが、複製する場合は一声かけて下さい。ここで見る? ああ、それならほら。椅子出しますよ。座って下さい。コーヒーはありませんがね
龍門に於ける騒動の概要【要改訂】
[概要]レユニオンムーブメント(以下、レユニオン)による龍門市内において侵入及び近衛局ビルの一時的な占拠。及び破壊工作、【削除済み】。
[一次対応]レユニオンの殲滅が言い渡されました。
[二次対応]一部のレユニオン構成員による救助活動を主張する市民らにより、[一次対応]は取り下げされました。
・内容については別途資料C2を参照
[備考]少なくない数のレユニオン構成員は国際法に則っており、その主張は一考に値するものと見做されました。また、レユニオンの要求を全面的に棄却した場合、無視できない程の被害が予測されました。
追記:評議会によりレユニオンを殲滅後、第二、第三の“レユニオン“に類する団体が出てくるだろうと書面により懸念が示されました。
書面について→議事録No.【削除済み】を参照
[対応]現在のレユニオンは解体、吸収を行い今後現れるであろう感染者による反乱の未然に防ぐ機構とする案が可決されました。
以降のレユニオン人員に関しては被害を受けた龍門が一部を運用し、それ以外に関しては均等に分配されます。
これ以降の対応についてはその都度各判断を仰いで下さい。
Alsatianについて。
今回最も甚大な被害を齎した個人であるアルサシアンについて。近衛局ビル、展望デッキでの戦闘後、逃亡。
外周部近辺の雑居ビルにて源石術を使用し、作戦行動に著しい遅延を招きました。その後龍門市街で拘束、輸送されました。
対象に関しては今回引き起こした被害、脅威度を考慮し極刑が下されました。
▼助命嘆願が複数寄せられています。
驚いた事に近衛局からも数件ではあるが助命嘆願がなされた。曰く『敵ではあるが殺すには惜しい』と。その求心力が本物なら誠に目を見張るばかりで【個人的なメモは控えて下さい】
【書式を統一して下さい】
【表示出来ません】▼アルサシアンの処刑はロドスアイランド、龍門近衛局炎国、それぞれの代表者の立ち会いの元行われました。
《error【 ファイルが破損しています】遺体については同日、感染者の死体処理施設のあるロドスアイランド本艦にて処理が行われました。《not -》
この資料は概要部分のみですので、使用する際は別途──
「その資料で良かったんですか? データが壊れていて所々欠けているのに。それこそ復元しないとまともに読めませんよ。……あれ、もう行かれるんですか」
ドクターはファイルを棚に戻すとひとつ頷いた。
「歓迎会に呼ばれているもので」
それだけ言って、資料室のドアを閉めた。
◆
ファイルの復元に成功しました。
閲覧しますか?
▷[Y/N]
◆
そこはロドス艦内のちいさな部屋。
主に持ち主の居ない遺品を管理するその部屋で、白いコータスが目を閉じていた。
彼女の前にある物は白銀の、手のひらほどの小さなプレート。
龍門の街を暴れ回り、龍門市民の処罰感情や、政治的な取引によって斃れた叛逆者の墓標だった。
ただ、極刑に処したという証拠の為だけに残されたそれの中央にはAlsatianと刻印されている。
「バカな奴だった」
無機質な板を撫でながらそう呟けば、狭い部屋の中にはよく声が響いた。このプレートに名の記されている彼女らしくない静かな終わりだったと思う。
──ぇ
思えば今、自分がこうして生きているのはひとえに“彼女“が奮戦したからだ。文字通り、皆を生かすために。
それで自分が“こんな“ふうになってしまうとは、一体人の心配をなんだと思っているのか。
「ねぇってば」
物思いに耽っていると入り口付近からこちらを呼ぶ声がする。
さっきから何度も聞こえていたが、いい加減無視できなくなっていた。
「……静かにしてくれないか、ここに眠っているのは戦士で、私の友人だ」
「え、あ……そうなの」
少し鋭く言葉を返せば、こちらを呼んでいた者は少し意表を突かれたように口ごもる。
何をそんなに動揺しているのか。
「彼女は勇敢であり、高潔であり、そして何より──卑怯な手を使ってきた」
「いやー、それ程でも……って、ちょっと!」
こちらの発言に照れたような声を出したかと思えば今度は抗議するように声を荒らげる。その声が部屋に響いて眉を顰めた。
「なんだ、うるさいぞ。彼女が静かに眠れない」
「いや、だからそこ
「何を言っている。ここはアルサシアンの墓であって、エレノア、お前の墓ではない」
フロストノヴァが振り返ると、扉の横に立っている人影が見えた。電灯の光を背に受けながらこちらを見ているのは蒼い髪を垂らす少女。
その左目には白い布を付け、右袖はゆらゆらと寂しげに揺れている。
「いや、そうだけども! 書類の上では死んじゃってるけども!」
目を見開きながら主張する彼女は、途中でハッと何かに気がついたかの様に顎に左手を当てた。
「……もしかしなくてもノヴァちゃん、私が結構無茶したこと、怒ってるよね?」
フロストノヴァはふん、と鼻で笑ってみせた。
「何を言っている? お前に対しては怒ってなどいないさ。ただこのアルサシアンとかいう少々勘違いの激しい者に対して腹が立っているだけだ」
「ほら、やっぱり!」
反応がいちいち騒がしい少女は頭を抱えると、その場でしゃがみ込んでしまう。そうしてフロストノヴァの方へと若干恨めしげな目線を送った。
「……なんかノヴァちゃんの怒り方ってちょっとネチっこいよね……ごめんごめん! 冷たいから! うわっ! すごく冷たい!」
「……何をやっているんだお前達は」
「あ、タルラちゃん!」
その騒ぎに気が付いたのか、廊下から呆れた表情でやってきた灰色の髪をした人物がため息を吐く。
「その制服、似合ってるねぇ!」
「エレノアも、良い眼帯じゃないか」
そう言い、ひとしきり笑い合う。
それがひと段落すると彼女は『さあ、行こうか』と手を差し出した。
エレノアはその手を取り、ロドスの廊下を歩いていく。後ろからはフロストノヴァが口をわずかに苦笑いの形に歪めて立ち上がった。
「やっとベッドから起き上れたな。食堂で皆んな待っているぞ」
「ッ! それって、歓迎会!? 料理もあるかな?」
「ああ、有るさ」
等間隔に設置された窓からは太陽の光が差して、道を明るく照らしている。やがて両開きの扉の前にやって来るとエレノアは思わず足を止めた。
「エレノア」
その時、後ろから声が掛かる。
振り返って見てみればフロストノヴァは、ふわりとエレノアに笑いかけた。
「おかえり、エレノア」
「──! うん! ただいま!」
アルサシアンは死んだ。
少なくとも、もう表舞台に上がる事は二度とない。
だが、代わりにエレノアという少女が記録された。
人に願いを託し、最後には願いを託された蒼髪のペッローだ。
そんな様子を見てタルラは優しく笑い、いつまでも扉の前で躊躇っているエレノアの背を軽く押した。
「さぁ、早く。メフィストやファウストがお腹を空かせて待っている」
そうしてゆっくり、扉は開いた。
エレノアは笑って、扉をくぐり抜けた。
『レユニオン幹部が1人、アルサシアン!』 完結
皆様のおかげで、この作品は無事完結を迎えることが出来ました。
本当にありがとうございます。
今思えば軽い気持ちでで書き始め、ふと思い立って投稿してみたのが始まりです。
それが初めて感想をもらった時は飛び上がって喜びました。
まさか人様に見てもらえるとは、と。
それから評価やお気に入りまでしてもらい、なんどもそれに元気を貰いました。
ここまで来れたのは紛れもなくいま見てくださっているあなたと、素晴らしいゲームであるアークナイツを作ってくださったスタッフの皆様、またそれに携わった方々のお陰です。
ありがとうございます。
非常に楽しく、刺激的な日々でした。
またいつか皆さまとお会いする機会がありますよう、願っています。
ーー調味のみりん