少し前回と間が空いてしまった気がします。
次回はすぐに投稿できる……筈です。
早いとこアークナイツ本編までいきたいですね。
「えっ、君たちだけで? 私も行くよ」
「あん? いいって、リーダーは」
「なんでさ」
村の入り口でエレノアと、最年長のアヴェニーが押し問答をしていた。アヴェニーの後ろにはエレノアを除くいつものメンバーが準備を終えて彼と彼女のやりとりを眺めていた。
どうしてこうなったというと、これから偵察兼、村との取引の安全路確保のために出ようとしていた彼らをエレノアが見つけ食ってかかったのだ。
「私だってもう怪我は治ったんだ。ついていかない理由はないだろ? それに私がいた方が戦力が1人増える、どうだ完璧じゃないか」
そう、エレノアが得意げに言い放った。すると、装備を固めたアヴェニーはその恰幅の良い体を揺らして大きくため息を吐いた。
「いいか? ガキが無理するんじゃねーよ。リーダーはよぉ……。ま、ともかくラスティはそこんとこ分かってるから連れていくんだ」
「なにそれー。だからって……わぶ!?」
アヴェニーは乱暴に頭を撫でエレノアの反論を無理やり中断させた。ぐしぐしと、加減がない“撫で“によって言葉を封じられたエレノアは唇を尖らせて、態度で以て反論を試みた。それを見たアヴェニーは苦笑いで幾分か声を和らげて諭すように告げた。
「いいか? 俺らは偵察っていう仕事に行く。リーダーは子供たちを教えるっていう仕事がある。そこに優劣なんてねぇ。子供たちを教えることは俺らにゃ出来ねぇ仕事なんだ。リーダー“が“できる仕事なんだ。それぞれの場所で頑張る。それで良いじゃねぇか」
「それは……そうだけど……」
「ま、戻ってき頃にはまた酒が欲しいな。手に入ったら取っといてくれよ? リーダー」
「お酒って……この前みんなが他のレユニオンの人たち巻き込んでバカ騒ぎしてタルラちゃんに怒られたじゃんか。しかも私が特に。テディに関してはノヴァちゃんに酔っ払って絡んだ末に外の雪に投げ込まれてたし。それも後で私がノヴァちゃんに怒られたんだからね!? 分かってる?」
すっごい怖かったんだから! と理不尽に自分が怒られたことに対する怒りを露わにするエレノアに、アヴェニーは心底不思議そうな顔を作り尋ねた。
「でもリーダーだってほんの少し飲んだだけでべろべろになってラスティの頭でくるみ割りしてたじゃねぇか。ラスティ目ぇ回してたぞ」
「……え? 私そんなことしてたの?」
◆
そうして暫く。エレノアはなんとか納得し、彼らを村の入り口から見送っていた。
「じゃ、行ってくるわリーダー。なんか良いもんあったら俺らの分残しといてくれよー」
「寂しくて泣くんじゃねぇーぞー」
「泣かないよ! 私だってもう大人だ!」
雪道を踏みしめながら行く彼らは装備の裾を翻しながら首だけをこちらに向け、口々に軽い調子で挨拶をしていった。
「リーダー、寝ぼけて外で寝ないでくれよ」
「あれは! だって、なんか家の中でタルラちゃんとノヴァちゃんが喧嘩してたから!」
「じゃ、行ってくるわ」
「別にラスティがカッコつけても決まらないからね」
「おい!?」
そうして一番無口なリッドと一番物腰穏やかなアセットは手を振るだけの控えめな挨拶で去っていった。
彼らとて、絶対に無事で帰ってこれる保証がどこにもないことはよく知っている。それどころか感染者を取り巻く状況は更に辛いものだ。
それでも、それだからこそ。笑って軽く出ていった。
毎回毎回、湿っぽいの好きじゃないから。
だから、エレノアも結局は笑顔で手を振って見送った。
何度もそうやってきたように。そうして、すぐに踵を返し自分を待つ子供達の方へと歩いていった。エレノアは、エレノアの
きっとみんなも頑張る筈。ならば自分だけがくよくよしていては帰ってきた彼らに笑われてしまうだろうと。
「帰ってきたら、子供たちと一緒にいたずらでもしてやる」
そんな事を考えるエレノアの口元には笑みが浮かんでいた。
数日後、彼らはいくつかの装備の破片となって帰ってきた。
◆
それは、彼らに似つかわしくもない静かな終わりだった。
偵察の途中に予期せぬ治安維持隊との交戦が発生した。そうしてこれを打ち倒すも負傷。怪我の治療の為に村に立ち寄ったそうだ。
そこまでは、良かった。傷を負ってしまったことではなく、治安維持隊をあの人数で打破する戦闘力の高さこそを評価すべきだろう。加えて立ち寄った村も感染者を匿う代わりにレユニオンから食料を受け取っていた村なので協力関係もあった。
だが、
彼らと同行し、途中から別行動をしていたレユニオンのメンバーがそれを伝えてくれたのだった。
それを聞いたタルラは酷くショックを受けていたようだった。タルラ自身、何度も彼らの強さを見てきたのだ。そんな彼らの最期が戦って散るのではなく、守っていた存在から裏切りだとは。
「その村を……」
震える声が口から漏れたタルラは肩に置かれた手で正気に戻った。
手を置いたのはエレノアだった。今、一度にずっと連れ立ってきた仲間が逝ったと聞かされたエレノアの表情は穏やかだった。
「ダメだよ、タルラちゃん」
エレノアは先程報告をした男へと向き直った。
「みんなは、反撃してたの?」
「……いや、していなかった」
「そっか」
「何を……エレノア?」
1人納得するエレノアに思わずタルラが問いかける。それを受けてエレノアはタルラの方へと向き直ると、表情を殆ど変えないまま喋り出した。
「庇ったんだよ、その村を。抵抗なんかしたら、村ごと治安維持隊に潰されちゃうから。だからみんなは、売られたと分かってても抵抗しなかったんだよ。きっとね。だから、ダメだよタルラちゃん。そんなに自分を責めないで。みんなは、裏切られたとしても沢山の命を守って逝ったんだから。ね?」
◆
それは、少し前の話。
いつかの、たまたま酒が手に入った日。
初めはこっそり隠れるように飲んでいたレユニオンのメンバーだったが、(彼らにとって)不運なことにエレノアと一緒にレユニオンにやってきた愉快な彼らに見つかってしまった。そうしてそのままずるずると宴会のような形にもつれこんでいった。
「ははは! おめー、その顔やめ……ぶぁははは!」
「あーん? 何だってんだ……おぇぇ」
「うはははは!」
高らかに声を上げているのは一番体格の良いアヴェニー。久しぶりに酒に潰れているレユニオンの男をみては何が面白いのか大笑いしていた。典型的な酔っ払いだった。
辺りを見渡してみれば同じような酔っ払いが何人も出来上がっている。
何をこんな時にどんちゃん騒ぎをと思うが。
閉塞的な状況下であっても、それを吹き飛ばすような騒がしさは、閉じ込められたものたちにとっては良い息抜きの存在となって居た。
張り詰め過ぎれば、いずれ破裂する。
……まぁ、それにしたって羽目は外しすぎかも知れないが。
「みんな何やって……うわっ! ラスティ飲んでる! まだそんな歳じゃ無いでしょ!」
あまりの騒がしさに外からエレノアが飛び込んでくる。そうするや否や自身よりも歳下のラスティが飲んでいるのを発見し、目を丸くしていた。
「なんでみんな止めないのさ! アヴェニー! 最年長でしょ!」
「いやー、俺だって止めたんだけどなぁ? リーダー。あいつが勝手に……うははは! おま、おまぇその顔やめろって……! なんで苦しそうな顔しながら飲んでんだ……うくく!」
エレノアが掴みかかったアヴェニーは最初はエレノアの方を見て喋っていたものの、近くにいた先ほどのレユニオンの男を見て大笑いを始めた。
「ねぇ、ちょっと、話聞いてる? きーいーてーるー?」
「て、てめぇ……この前のことはわしゅれてないからなぁ……うぷっ、たるらに言いつけて…………げ、限界……お、ぉぇぇ」
「ぅあははは!」
「話聞いてって酔っ払い! ねぇ、ねぇってば! なんでラスティ飲んでるのさ! ……このクソオヤジ!」
「わはは! 知ってっかリーダー。俺の年はなぁ、もう
「うわっ、こいつ開き直ってらぁ」
近くで静かに酒を傾けていた別の男は、呆れるほど堂々と開き直っている大男に軽く引いた。
部屋の中央には、グロッキーになっているレユニオンの男を見て体を揺らして笑う大男。そうしてそれに半ギレしながら突っかかっている蒼髪の少女。
男は思った。この
そうして、何となしに扉へと意識を向けると。
「皆が居ないと思って見れば……何だこの騒ぎは」
「あ」
かの白いコータスの少女が扉をくぐって入ってきていた。なんで、ここに。ここは村の中でも隅にある家。間違っても彼女が来るような場所では無い筈なのだ。
そこで男はハッと気が付いてもう一度部屋を見渡す。視界に入るのは何人もの騒ぎ立てる酔っ払い。その中でも目を引く格好の人物が何人かいる。そこで合点がいった。
スノーデビルもいるじゃん、と。
そりゃ、彼女だって来るわな。
◆
「フロストノヴァさーん! 俺と一杯どうです……ぐほぉ!?」
そうして部屋に入ってきたフロストノヴァに突撃する酔っ払いが一人居た。彼もまた、エレノアと共にやってきた内の一人である。
普段は大人しいのだが、酒のせいでタガが外れていた。
勢いのまま突っ込んできた彼をフロストノヴァは流れるような手つきであしらい、窓の外に投げ込んだ。
「うわっ、アイツ飛んでったぞ。あ、外の雪ん中に刺さってら」
「本当じゃねぇか、物理的に頭冷やしてやがる」
スノーデビルの面々は、既に結末が分かりきっていたのか笑いながら顛末を囃し立てていた。
部屋は更に混沌を極めることとなった。
◆
「騒がしいな……これは、また。なんという」
後から騒ぎに気がついてやってきたタルラは部屋の惨状を見て、頬が引き攣るのを感じた。そもそもが、タルラよりも聴力の良いエレノアが先に騒ぎに気がつき『私ちょっと見てくるねタルラちゃん!』と言ったきり戻って来ないので様子を見にくれば、目に入ってきたのは明らか
隅に目を向ければ何故かフロストノヴァまでもがちびちびと杯を傾けていた。
「なぁ、エレノアはどこだ? おや、確か君は」
「おぉ、アヴェニーだ。すまんな、タルラさんよ。いつのまにか増えててな。まぁ、安心してくれよ。ちゃんと全員の分の酒は取ってあるからよ」
「そこは別に心配していないのだが……」
入り口近くに居た男は、部屋の奥の方を指さした。
『よーしみんなみろー! 私の弟分のラスティが頭でくるみを割るぞー! わははー! うーん、とりゃー!』
そこにいたのは机の上で高らかに声を上げるペッローの少女、耳を立て、尻尾を揺らしながらとても楽しそうに笑っていた。
目の前に座らされているのは一人のまだ、少年の域を出ていない男。頭の上には胡桃が殻付きで乗っかっていた。
それらが徐に浮かび上がったと思いきや、勢いよく少年の頭に衝突した。
『これがぁ、ラスティのくるみ割りぃ!』
『おい、倒れたぞ』
『え、え? ラスティ? ラスティ! ……わーん! ラスティが目ぇ回したー!』
『おーい誰か水持ってこい、水ー!』
『ラスティ、ラスティー! 目をさましてくれラスティー!』
『おい、エレノア。あんま揺すんな』
『ラスティー!』
『おい、聞けって』
『しぬなぁあ! らすてぃぃぃ!』
『あ、ダメだこの子』
「彼女が飲んでいるのはジュースの筈では?」
タルラは思わず問いかけた。
「ああ」
「ではなぜ?」
「場酔いだな」
「場酔い」
再び目を向ければ、エレノアは目を回した少年のを抱き抱えてまるで悲劇のラストシーンのようにおいおいと泣いていた。
「いや、あー。多分ありゃどっかに残ってた酒少し飲んだな。リーダー恐ろしく酒に対して耐性無いからなぁー」
「あんなことで彼女のアーツを初めて見ることになるとは……」
「ずいぶん下らねぇ使い方してるよなぁ」
別にタルラとて、たまの羽目を外すことは良いかと思っていたし、アリーナにもキツく締め付けすぎないように言われていた。
だが、限度というものがあるだろう、と。こんなに騒いでいては遊撃隊の面々はよく思わないだろう。そんな懸念があって部屋を見ると、何故か遊撃隊の服を纏った人物が見えた。
「おい! お前らいい加減にしろ!」
あぁ、やっぱり。彼はこの惨状を見て怒鳴り込んで来たのだと。この後発生するであろう他のレユニオンのメンバーとの摩擦を最小限にしなくては。そうタルラが考えたその時。
「ばかすかばかすか、考えなしに飲みやがって……いいか? お前ら! 大尉の分も取っとけ!」
「あぁ……」
彼もか。
思わず頭を押さえた。それも、そうか。遊撃隊とて全員が全員同じ性格な訳でも無い。中には酒好きな者もいるのだろう、そうして、彼もまた
「はぁ……」
「ほい。タルラさんも一杯どうだ? あんま張り詰めすぎても良いことねぇぜ?」
そう言って隣の男は杯を差し出した。
「それも、そうだが」
そうして辺りを見渡す。
「ラスティ、ラスティぃー!」
「おい、揺すんなって」
「ほら姐さんもどうぞ」
「おまえ、自分の酒じゃ無いとここぞとばかりだよな」
「えっ、ちょ、は? お前何のこと……」
「ほう、“自分の“とは」
「あ、姐さん違うんですよ、自分のってのはあれで、うわっ冷たっ!?」
「あっ、こいつ吐きやがった」
「ぎぼぢわるぃ……」
「………………もらおう」
タルラは諦めることにした。
◆
「彼女と、君たちはずいぶん仲が良いんだな」
タルラは杯を傾けながら、手持ち無沙汰だったのでなんとなしに隣の男へと問いかけた。
「あぁ? ま、そうかもな。あんま言わねぇが、俺は家族みたいなもんだと思ってるよ。アイツのな」
タルラはただ静かに杯を傾けていた。男が目の前で騒いでいる少女を見つめる目つきが、今まで見た中でとびきり優しい色をしていたから。
相槌はここでは無粋だと感じた。
「一度だけ、アイツが自分の話をしたんだ。別に自分は家を出たんじゃなくて、鉱石病と分かったら親父に殴り出されたんだと」
そうして、男は一息吐くと少し苦々しい顔で続けた。
「鉱石病だけじゃねぇ。娘がそうなっただけで庇いもせず、叩き出すような親はその前だって推して知るべしだろ? アイツだってまだガキなんだ。親の愛を受けて育つ存在で、持つのは武器なんかじゃなくて、ペンとノートなんだよ。それを引っ提げて学校に行ってなきゃおかしいんだ」
それはタルラとて、エレノアと話す機会は多くあったが初めて聞いた話だった。
「……だからといっちゃなんだがな。少しでも、俺らが保護者らしくなろうってな。別にアイツに恩があるからそうしてる訳じゃねぇ。恩があるのは確かだが、俺らがそうしたいんだ。ま、唯一アイツより年下のラスティはどうだか知らんがね」
そんな、懐かしい日々があった。
◆
『みんなは、たとえ裏切られた形になったとしても村を守って逝ったんだ。私の……私の自慢の仲間らしい立派な最期だよ』
エレノアは何度もそう繰り返した。他のレユニオンのメンバーを宥めるように。自分に言い聞かせるように。
◆
「なんだよ……なんだよ、これ……」
彼らの守った村は無かった。
全て燃やされていた。
Nostalgic alcohol memories
(懐かしい酒の思い出)