レユニオン幹部が1人、アルサシアン!   作:調味のみりん

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沢山の方が読んでくださって……感謝ぁ……!
少しでも楽しんで頂けたら、嬉しいです。

では、どうぞ。




あなたが来るまでのカウントダウン
進み続ける


 レユニオンは侵攻を続けていた。

 人々は、レユニオンという組織を認知し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 3:00 a.m. 晴天

 小規模移動都市 警務室

 

 

 

 

 

「ちょっと、ダンさん。職務中の煙草は禁止ですよ」

 

「あー、まぁまぁ。おまえが報告しなきゃ大丈夫だって」

 

 そう言って男は懐から煙草の箱を取り出し、火を付けて吸い始めた。

 

「それに俺は吸わねぇと集中が続かねぇんだよ」

 

「またそんなこと言って……」

 

 狭い機材だらけの警務室で2人の男が椅子に座ってモニターを眺めていた。そうして椅子に深くもたれかかり換気扇の下で煙草を吸い出した中年、オジサンと形容するのが早い男を、まだ年若い男が嗜めていた。

 

 そこは都市のやや奥まった場所にある監視の為に無数に存在している警務室。そのうちのひとつ。電気も渋られているのか薄暗い室内を、都市の一部区画を映したモニターの光が照らしていた。

 

「ほら、俺の事はいいからさ。ちゃんと見とけよー」

 

「ダンさんには言われたく無いですよ……それに見ててもそうそう何か起きることは無いですし」

 

「おぉー、だめだだめだ。そんな気持ちで監視やってっと市民のみんなに煙たがれるようになるぞー」

 

「それはダンさんが普段からそんな態度だからでしょう……まったくなんでこんな人が“狙撃優秀“の評価を貰ってるんだか……」

 

 そう言って若い男は後ろで煙草を吸っている男に背を向けモニターを見始めた。振り向く直前に目に入ったのはだらしない男の胸に輝く金のバッジ、多くの職員の憧れであった。

 男は代わり映えのしない景色を見つめながらため息をひとつ零した。彼には全くもってなぜ後ろで煙草をふかしている、万年無精髭の男がそんな評価を貰っているのか理解できなかった。

 

 

「……ところでダンさん」 

 

「なんだぁー?」

 

 若い男はモニターを見つめたまま声を掛けた。

 

「あんまり煙草ばっか吸ってると、娘さんに会いに行った時にまた『タバコくさーい』って言われちゃいますよ」

 

「ゴホッ、ゴホッ……! お、お前! 何処でそれ聞いたんだよ!?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

「お、お前なぁ〜!」

 

 いつも飄々としている男にひと泡吹かせる事が出来て、男は満足げにほくそ笑んだ。そうして背後で慌てて煙草を消す音を聞きながら、モニターを再び眺め始めた。

 

 

 

 

 

 瞬間、けたたましい警報音が警務室内を叩いた。

 

 

 

 

「ッ!? 一体何が!」

 

『警告、不明の敵対勢力による襲撃が北門で発生。全職員は直ちにPoint34に集合せよ。繰り返す、襲撃が発生……』

 

「ダンさんっ! はやく行きましょう! 急がないと敵が……!」

 

「おい、待てって」

 

「何やってるんですか!? 行くのは北門ですよ! 何処に行こうとしてるんですか!」

 

「南門」

 

「はぁ!? とうとう可笑しくなったんですか」

 

「お前はまだ若いからな。色々と経験を積め。襲撃があった時に1番最悪な状況は何だと思う?」

 

「こんな状況で何ですか……! ふざけてる時間は無いんですよ!?」

 

「いいから答えるんだ。さぁ」

 

 ダンの、その普段と違う迫力に押され若い男は思わず黙ってしまう。

 

「……襲撃の状況にもよりますが……防衛の内側に入られる事、対応が第二陣に間に合わない事。後は……挟撃です」

 

「そうだ、流石だな。習ったか? まぁいい。挟撃に対する対応が遅れる事は致命的だ。だから、南門に向かう。途中でいくつか部隊を拾って行ってそこそこの戦力で良いから兎に角向かうぞ」

 

「……ですが!」

 

「安心しな。“狙撃優秀“は伊達で取れるもんじゃねぇ。こんなナリだが一応緊急時の簡易的な指揮権は持ってんだよ。さ、行くぞ」

 

 

『警告、北門で襲撃発生……繰り返す……』

 

 無人になった警務室には尚も警報が鳴り響き続けていた。

 

 

『襲撃勢力が判明、相手は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──相手は“レユニオン“。レユニオンムーブメントである。直ちに対処せよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数多の結果の積み重ねは、大きなうねりとなって区別なく呑み込まんとしていた。

 

 戦火、消えず。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 人が居なくなった無人のビルの中腹を、装備を着けて走る人影があった。

 彼らは一心に南を目指して最短経路を進むように移動していた。途中で何人かと合流したが、すぐにダンが指示を出して別方向に向かってしまった。

 

 ビルの窓からは街の様子がよく見えた。北門近くは大分混乱しているようで、いくつもの火の手が上がっているのが、ビルの中から確認できた。

 

「ダンさん、本当にこっちで良いんですか? わざわざビルの中を通らなくたって地上から行けば……」

 

「地上は瓦礫があった時に迂回に時間が掛かるぞ?」

 

「そうですか……えっ、もしかしてビルで足止め食らったら飛び降りようとか考えてます?」

 

「おっ、勘が鋭いじゃねぇか」

 

「冗談ですよね?」

 

 男は特別に改造されたクロスボウを持って走るだけだった。若い男は一気に顔色を青色へと変えた。

 

「無茶ですって! 大体ここが何階だと……ッ!?」

 

 その時、北門の方角から激しい閃光と爆音が襲いかかってきた。幸い距離は離れていたので被害こそはなかったが、若い男はそれに遮られるように口をつぐんだ。

 

「な、何ですか!?」

 

 ダンは素早く窓枠のコンクリートに身を隠すとそこから双眼鏡で北を覗く。その動きは熟練の狩人を思わせるものだった。

 

「……不味いのが出てきてるかもなぁ」

 

 若い男もそれに倣って身を隠しながらダンへと問いかける。その間にも断続的に激しい光の点滅と、生木が折れるような特徴的な轟音は響き続けていた。

 

「不味いのって何ですか! 天災のバケモンでも出てきたって言うんですか!?」

 

「まぁ、バケモンに違いはねぇか。ありゃ多分レユニオンの幹部の一人だ。ソイツが出張って来てやがる、確か名前は……」

 

「おい! 居たぞ! こっちだ……あぐっ!?」

 

 何事かと若い男が振り返ると、ビルの階段からレユニオンの構成員が姿を表していた。ダンは既にクロスボウを撃ち終わった体勢で階段を凝視していた。

 

(なんて反応速度だ……しかも狙いが()()()()()

 

 これが“狙撃優秀“の称号持ち。若い男は思わず見開いた目で、いつもの姿からは考えられないほど鋭い目をしたダンを見つめる他なかった。

 

「ここに奴さんが来るってことは、ビンゴだな。……しかし早すぎる。幹部も出てきてるし、少し不味いかもな……。おい! いつまで惚けてんだ! 行くぞぉ」

 

 

 

 ◆

 

 

 二人の男が南門に近づくにつれ、交戦の頻度は高くなっていった。なんとか切り抜けていたものの、遂に術師の集団に出会し足を止めていた。

 

「……うぉ……!」

 

 レユニオンの術師が放ったアーツが、隠れている壁の近くを掠め瓦礫の破片を飛ばす。場所は5階建ての建物の一階部分であり、出方を抜ければ南門という所で、外からの襲撃を受けていた。

 

「こりゃ、少し誤算だったな。あまりに戦力が多過ぎる」

 

「ダンさん、俺のボウガンもボルトがあと少ししか無いです」

 

 ダンはちらりと壁から顔を出し、向こうの出方を伺った。決して姿を出さず遠くからの術攻撃に絞っているのはこちらの狙撃を警戒してのものだろう。狙撃手というのはその“狙撃されるかもしれない“というプレッシャーを与えるだけでも絶大な効果を発揮するものだ。しかしながら今、この状況に於いてはそれが却って膠着状態を作り出していた。

 

 チラリと己の改造されたクロスボウを見る。道中無茶な使い方を何度かしたせいで、僅かながら軋みを感じていた。ほんの少しの傷みだが、常日頃どんなに不真面目に業務をこなしていてもクロスボウの手入れだけは怠らなかったダンにはそれがあまり芳しくない状態だということがよく分かっていた。

 

「よし、決めた」

 

「えっ、何をです? 突破口でも見つけたんですか」

 

 若い男が怪訝そうな顔で問いかけると、ダンはいつもの少しだらしない笑みを浮かべて若い男へ向き直った。男はこれまでのダンとの付き合いで、ダンが何かろくでもないことを思いついたのだと悟った。とはいえ、今はなすすべも無い膠着状態。どんな無茶を言われようとやってやろうじゃねぇか、と戦場のストレスにより高揚した頭で結論を出した。

 再び、レユニオンの術師のアーツが別の壁を削り、ビル内の柱を一本持っていく。このままではビルが倒壊するのが先かも知れないな、と頭の片隅に思った。

 

「良いですよ、今更アンタの無茶に付き合うのも慣れっこです。ほら、言ってくださいよ。敵の術師にだって突っ走ってやりますよ」

 

 男はクロスボウを構えてダンを見つめ返した。

 

「ハハハッ! ようやく覚悟キマったて顔じゃねぇか。良い、良いぞ。今まで見た中で一番男前な顔してやがる」

 

「そういうのは、良いですから。ほら俺は何をすりゃ良いんですか? 相手に向かって突っ走れば良いんですか? それとも身を乗り出して捨て身の狙撃をすりゃ良いんですか。ここまで来りゃ何だってんだやってやりますよ」

 

 そう男が言えばダンはさらに笑みを深め、歯をむき出しにして笑った。その顔は普段の冴えないオジサンなどでは無く、正に戦場の戦士たる獰猛な顔を湛えていた。

 

「分かった、わかった。それじゃあ覚悟のキマったお前はなぁ──

 

 ダンが口を開く。その命令により自分の命がどうなるかが決まるのだ、初めて体験する高揚と緊張が極度に入り混じったその瞬間が男には一瞬にも、永遠にも感じられた。しかし例えどんな命令だったとしても遂行してみせるという覚悟が僅かに緊張を押し留め、結果として凄まじい集中状態を導いていた。

 

 

 ──撤退をしてもらおう。引いて、本隊に合流してここの状況を伝えろ。殿は……この俺が務めてやる。“狙撃優秀“持ちの男の殿だぜ? 贅沢な野郎だ」

 

 

「…………は?」

 

 

 男は混乱した。何故ならその命令は言わば“お前だけ逃げろ“と言っているようなものなのだ。意味が分からなかった。

 

 

「何言って……それじゃあダンさんが!」

 

「気にすんなよ。お前はただ戻ることだけを考えてりゃ良い」

 

「ッ……でも!」

 

「良いから行けって言ってんだ! このままじゃジリ貧だ。覚悟キマったんなら戦場でいつまでも甘ったれた事言ってんじゃねぇッ!」

 

「ッ!」

 

 初めて見る本気のダンを前に男は口を閉じざるを得なかった。その様子を見たダンは、少しバツが悪そうに頭を掻きながら続けた。

 

「あ、あー。怒鳴って悪かったな。だがお前はここで命張ることはねぇんだよ。これは俺みたいな嫁さんに逃げられたオジサンの役目だ。それにお前は逃げるんじゃねぇ。状況をその命を以って伝えに行くんだ。分かったな?」

 

 

 男は、ダンの諭すような真剣な声に唇を噛んだ。俯いたままクロスボウを抱え、そしてそのまま小さく、しかしちゃんと聞こえる声で呟いた。

 

 

「……俺、実はダンさんのこと尊敬してたんですよ。狙撃の実力とかじゃなくて、俺が駆け出しのペーペーの時、書類とか仕事とか全然出来なくて、毎日怒られてばっかで……。そん時になんだかんだ言っていつも残って教えてくたのはダンさんじゃないですか」

 

 男は顔を上げた。そこに迷いはもう無かった。

 

「ダンさん、分かりました。すぐ援軍連れてくるんで、死なないで下さいよ!」

 

 そう言って、振り向くことなく勢いよく走り出した。後方、撤退の道を。それをダンは満足そうな笑みで見ていた。

 

 後ろに引くという事は、弾道上へと姿を晒すことになる。当然、アーツは狙いを定め、打ち倒さんと飛んで来る。放たれたアーツはそのまま点と点を結ぶように男に迫り──

 

 

 

 

 

 

 ──撃ち落とされた。

 

 

 

 

 

 

「ハッ! 手前ら、誰が殿を務めてると思ってやがる」

 

 ダンの顔には先程の穏やかな笑みは無く。

 

「1人たりとも通すと思うなよ」

 

 再び獰猛な顔で笑った。

 

 

 

 ◆

 

 

「クソッ……! 引け、引けっ! ここは諦めろ!」

 

 その声と共にレユニオンの術師達が撤退してゆく。それをダンはビルの壁にもたれながら聞いていた。

 

「は、ハハハッ! 見たか、これが“狙撃優秀“の力だってんだ。……ゴホッ……ハハハ……」

 

 辺りの柱は崩れ、ビルが倒壊していないのが不思議なくらいだった。壁は無事なところは何処にも無く、地面は至る所が捲れ上がっていた。その惨状が如何に激戦が繰り広げられていたのかを物語っていた。

 

「スコアは……幾つだろうなぁ。もう、途中から数えちゃいねぇ……」

 

 その激戦は、結果だけを見るならば一人も通すことのなかったダンの勝ちだろう。()()()()()()()

 

「ッつぅー……しくじったなぁ。まさか、ボルトに貫かれても向かって来るとは思わなかったぜ……」

 

 レユニオンの構成員は鬼気迫る勢いだった。どんな負傷をしようとも前に進もうとするその精神力は見事なものだった。

 それ故に、勝ったダンとて無事では無かった。手で押さえられた腹からは止めどなく温かい血液が漏れ出していた。

 

 壁に背中を預け、両足を投げ出すような体勢になる。最早、立ち上がる力すら残っていなかった。

 

 その時、ビルの入り口からカツン、カツンと足音が聞こえてきた。

 

 

 

(アイツが間に合ったのか、それとも……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はははぁ……こりゃ最高だな。最後の迎えが雷獣だとはなぁ」

 

 そこから顔を出したのは、仮面と分厚い装備に身を包み、頭が小さい鎚を持った人物だった。

 

 レユニオン幹部、アルサシアン(軍犬)。その凄まじいの一言に尽きる戦いぶりからついた渾名は“雷獣“。

 

 ダンは力を振り絞りボウガンを構えて、止めた。弦はとっくに切れていた。

 

「ハッ、やるんならやれや。雷獣さんよ」

 

「別に、やって欲しいならやるけど。その前にひとつ聞かせてよ」

 

 その声を聞いて、ダンは目を見開いた。

 

「こりゃ、驚いた。雷獣サマはどんな野郎かと思ってたらまさか“嬢ちゃん“だったとは」

 

「ねぇ、“処分場“何処だか分かる?」

 

「……あぁ? 処分場だぁ? ……あぁ、感染者のか。胸糞悪りぃとこだぜ」

 

 ダンはそう言って震える手で懐を漁り、くしゃくしゃになった煙草の箱を取り出した。その中から一本取り出そうとして、力が入らず地面に転がってしまった。

 

「……はい」

 

「ゴホッ……おっ、悪ぃな」

 

 目の前の少女から受け取ったそれを改めて口に咥え、珍しいオイル式のライターで点火した。ダンが気に入っている、別れた嫁から貰った祝いの品だった。

 

「フゥー、やっぱり煙草は【H.Bela】に限るなぁ……。最近の甘いやつ、俺はどうもなぁ……」

 

「知らないよ、私タバコ吸わないし」

 

「ゴホッ、ゴホッ……まぁ、そうか」

 

 ダンが煙を吐き出すと、アルサシアンは煙たそうに仮面を外した。そうして煙を手で扇いで遠ざけようとした。それを見たダンはおもむろに煙草を地面に押し付けると、火を消してしまった。

 

「あれ、吸わないの?」

 

「あぁ、止めだ、止め。娘に煙草くさいって言われたく無いもんでな」

 

 そう言って、だらしない笑みを浮かべると煙から逃げる為か少し離れた位置にいる少女へと視線をやった。

 

「なぁ、嬢ちゃん。嬢ちゃんはあの胸糞悪い“処分場“に行こうとしてるんだよな」

 

「そうだけど」

 

「……ゲホッ……その方向は地獄だぜ」

 

「何を今更」

 

 ひとつ問いかけるダンに対して表情をひとつも変えず、寧ろさらに冷たい顔で即答をする少女に思わずダンは天を仰いだ。その痛々しいまでの迷いの無さを直接見ていられなかった。

 

 

「そうかい、嬢ちゃんみたいな可愛い子はちゃんと陽の当たる所で育って、そんでいい年になったらお酌でもして貰いたかったんだがなぁ」

 

 まるでおどけるように、ダンは肩をすくめる。それだけで体に激痛が走ったが、決してそれを見せる事はなかった。それはプライドであり、目の前少女に対する格好つけでもあった。

 

「私はもう、戻れないし戻る気もないよ」

 

「いいや、戻れる。嬢ちゃんなら戻れるさ」

 

 自嘲するように、答える少女に今度はダンが迷いなく答えた。目線はすでに天井から目の前の少女へと戻っていた。

 

「何を……根拠に」

 

「“目“さ、その目つきだ」

 

「目つき……?」

 

「そうだ、人間ってのはなぁ、色々と目に表れるもんだ。嬢ちゃんの目はなぁ、真っ直ぐだぜ。その瞳がある限り、血と埃くさいココから抜け出す可能性がある……っゲホッ……なぁ?」

 

 “だから、いつだって陽の当たる所に戻ったっていいんだ“

 

 そう、声は張らずに、しかし力強い肯定をダンは返した。それに対して少女は少し戸惑ったように眉を下げると、直ぐにダンを正面から見つめ返した。

 

「そんな風に見える?」

 

「見える、見える。……ゴホッ……ここまでだな。可愛い子に看取られるんなら悪かねぇな」

 

「敵なのに?」

 

「そりゃ、立場の違いさ。本質的なvillain()は居ねぇよ。……お互い人間なんだからな」

 

「私たちは、人間に見える?」

 

「あぁ? 何言ってんだ。んなもん当たり前だろ。そうじゃ無かったら俺は人間以外の何と戦ったってんだ」

 

 

 そう怪訝そうにダンが言えば、少女は徐にしゃがみ込み地面に落ちた煙草の箱を拾った。そうしてその中から一本取り出すと、ダンの口に咥えさせた。

 

「なんだぁ?」

 

「咥えるだけなら、匂いもつかないよ。味気ないかもだけど……どう? 少しは痛み和らぎそう?」

 

 少女の表情は仮面が外れていても、俯いていたので蒼色の髪で隠れ伺う事は出来なかった。

 

「あ、あぁ……だが、どうしたんだ? 急に」

 

「私たちは“人間“で本質的なヴィランじゃないんでしょ? 人間は人間らしく、敬意を表すんだよ。ね?」

 

 少女が顔を上げた。そこには初めて見る少女の少し嬉しそうな顔があった。それを見て、ダンは堪らなくなった。

 

「は、ははは! そうか、そうか。こりゃ傑作だなぁ。……あぁ、ずっと後悔してたんだよ。あの処分場を見た時から。……五番道路の奥、廃病院の地下駐車場だ」

 

 

 ◆

 

 

 笑っていた男は、既に沈黙し頭を下げていた。しかしながらその口元だけは僅かに満足げに弧を描いている。アルサシアンは──エレノアはその懐からくしゃくしゃになった煙草の箱を取り、丁寧に仕舞った。そうして通信機を起動すると、静かに仮面を付け直した。

 

「もしもし? 私、私だよ。うん、うん。場所が分かった。場所は────」

 

 

「うん、うん、了解。それとなんだけど──」

 

 

 ◆

 

 

 結果として、移動都市は陥落した。

 

 

 ◆

 

 

 都市の一番大きな広場には、都市の防備に当たっていた者たちが集められていた。彼らは縄で縛られて隅の方へ纏めて転がされていた。

 捕まった都市の市民もまた、縛られこそされていないが数ヵ所に分けて集められ、怯えと、怒りの混ざった目で辺りを監視しているレユニオンの構成員を睨みつけていた。抵抗する者も中には居たが、直ぐに取り押さえられ縛られていた。

 

 広場の一角では助けられた感染者たちが涙を流し、抱き合って喜んでいた。

 

 

 

 その中でも街灯の下に座り込む形で縛り付けられている、若い男が居る。抵抗したのか、頬には殴られた痕と服の端が破れていた。今は項垂れ、地面を眺めるばかりだった。

 その時、目の前に人の気配がし顔を上げた。

 

 そこに立っていたのは仮面と分厚い装備に身を包んだレユニオン。アルサシアンであった。

 

「お前は……」

 

 アルサシアンは一言も喋らない。ただじっと若い男を見つめる。そうしてしばらく奇妙な睨み合いの時間が続いた後、懐から何かを取り出すと、丁寧に男の目の前に置いた。

 

 男は最初、その意図の読めない行動に面食らった。しかし地面に置かれたソレを見てすぐにそんな困惑は消し飛んだ。

 

 それはくしゃくしゃの煙草の箱。男のよく知る人物が好んでいたものでその箱には、べったりと赤い跡が残っていた。

 

「あ、あぁ……」

 

 箱に手を伸ばそうとするが、後ろで結ばれた縄が邪魔をして届く事はなかった。しかし、男はそれすら気にかけないほどに必死に身を捩って箱へと縋り付こうとした。ギリギリと、男を縛る縄が軋みを上げる。

 

「あぁ、ぁぁぁぁ……」

 

 顔を上がれば、目の前の仮面はしゃがんだ状態から立ち上がり男を見下ろすように立っていた。一言も喋らず、表情の読めない目の前の人物に男の裡の何かが弾けた。

 

 

「手前ぇ! 畜生! 畜生! ぶっ殺してやる! クソ野郎が!」

 

 男はひたすらに叫んだ。口の端が切れて血を流しながらも、叫び続けた。

 

「お前らみんな殺してやる! 探して、引きずり出してやる!」

 

 男が目線をアルサシアンから外し、血走った目で広場の隅に座っている感染者の子供たちを睨め付けた。それに気がついたアルサシアンは男の顔を両手で挟み込み、強引に正面を向かせると、静かな声で告げる。今、男の視界にはアルサシアンの仮面しか写っていなかった。

 

「やったのは、私だ。探し出して、殺す? やってみるがいいさ。お前にそれが出来るのならな」

 

 その言葉で男は視線で射殺さんばかりに、アルサシアンを睨みつけた。

 

「私は、強いぞ」

 

 ◆

 

 

 移動都市外に張られたテントは、レユニオンの簡易的な拠点になっていた。都市での攻略を終えたエレノアはその内の一つで、食料の缶詰を積みながら休んでいた。

 

「アルサシアンか、怪我はどうだ?」

 

 そう言ってテントに入ってきたのはクラウンスレイヤー、赤い髪が特徴的なレユニオンの幹部の一人である。

 

「おっ、リュドミラちゃん。来てたんだ、怪我は今回は大丈夫だったよー」

 

「あの男は、生かしておいても面倒だぞ。あれは復讐に走る」

 

「あの男? あぁ、さっきの」

 

「なぜ殺さない」

 

「あー、それはねー。あの煙草の持ち主はあまりそれを望んで居ないんじゃないかって」

 

「……そうか」

 

「あれっ、もう行っちゃうの? 一緒にご飯食べて行こうよ」

 

「仕事がある」

 

 クラウンスレイヤーは、エレノアの誘いにきっぱりと断りを入れ、すぐにテントを出ていこうと入り口に手をかけた。

 

「え、えぇー……。まぁ、仕事なら仕方ない、か。うん、仕事頑張ってね」

 

「……」

 

 その後ろから聞こえる、あからさまに落ち込んだ声がクラウンスレイヤーの後ろ髪を引いた。既に半分ほど体が出ているのでいまいち中の様子は分からないが、どんよりとした空気は否応なく中で缶詰を開け始めたエレノアの調子をクラウンスレイヤーへと伝えていた。

 

「わー、今日はトマトスープ……。うれしいなぁー……」

 

 

 思わずため息が溢れそうになるのを抑え、クラウンスレイヤーは振り返らずに中の項垂れるペッローに向かって声をかけた。

 

 

「…………帰ってきたらな」

 

 

「! うん、うん! そうしたら良いやつ取っておくからなるべく怪我しないで帰って来るんだよ!」

 

 

 

 テントから聞こえる『頑張ってねー!』の声に、背中を押されながらクラウンスレイヤーは次の仕事に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 8:00 p.m. 雨

 ロドス艦内

 

 

「えぇ、ではその場所というのは……?」

 

「チェルノボーグだ」

 

「そこに、そこに居るんですね、ドクターが」

 

「あぁ、そうだ」

 

 

 

 




今回は相手側から見たエレノアちゃんでした。(敵を自ら増やしていくスタイル)
容赦なくハンマー振るって、雷飛ばしてくるやつなんかに会いたく無いですよね。
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