レユニオン幹部が1人、アルサシアン!   作:調味のみりん

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今回も読んで下さってありがとうございます。

皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
季節の変わり目でもありますので体調にだけはお気をつけて下さいね。

では、どうぞ。




狙いを定める

 

 

 

 

 たくさんの歴史を紐解いてみれば、すぐに分かる。

 

 力が弱いものと、力が強いものの違いが。辿る道筋が。

 

 力がないものは虐められ、力があるものが豊かになる。

 正義も悪もない状態から、力が強く勝ったものが“正義“になり、弱かったものが“悪“になる。

 

 見ないふりをしているだけで、隠れているだけで。

 

 力がないから、文句も言えない、誰も助けてくれない。現状を変えられない。弱いからただなされるまま、翻弄されるまま。時には味方同士で争い、憎しみ合う。

 

 

 

 これがこの世の不条理、間違った世界の真実。

 

 

 

 

 

 ではなく。

 

 

 

 

 ただ今が()()であるという一つの純然たる事実。

 

 

 ◆

 

 

「やめ、やめてくれっ……ぎっ!?」

 

「このクソッタレがぁ! がっ!」

 

 

 赤く染まった道が出来ていた。そこを踏み越え、新しく道を作って行った。

 

 

 

『なんて頼もしいんだ。これで非感染者どもに復讐が出来る』

『なんて恐ろしいんだ。血も涙もない、同じ人間だとは信じ難い』

 

 

『さぁ、もっとやってくれ。お前が居れば俺達は負ける事はない』

『もう、やめてくれ。お前は余りにも容赦が無さすぎる』

 

 

『次も頼むよ。俺達を迫害したあいつらに分からせてやろう。なぁ──』

『次は休んでいてくれ。お前が出ると被害が出過ぎる、私達は獣では無いんだ。なぁ──』

 

 

 

 怯えた顔が映る。熱に浮かされた顔が覗き込む。

 手には先ほどまで、熱を持っていた赤が錆色に変わっていた。

 

 

 後ろを振り返ると、赤い道が出来ていた。

 

 

『──アルサシアン』

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「これで検査は終わりだ」

 

「お疲れさまー!」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

 

 とある移動都市の近く。比較的開けた荒野にて。

 レユニオンはそこでテントを張り、簡易的な拠点としていた。そのテントの中でも特別な役割があるもの──治療用のテントで二人の人物が向かい合っていた。

 

 

「無茶をしすぎだ。何度言ったら分かるんだ」

 

「え、えぇ……検査が終わってすぐ怒らないでよ。っていうか、先生の方こそなんだか今にも倒れそうなんだけど?」

 

「私の話はしていない」

 

 診断結果が書かれた紙を挟んだクリップボードを指で叩きながら、白衣の男はじろりと蒼髪の少女を睨んだ。

 男は歳の頃は若いとは言えず、かと言って老境でもない中間の見た目をしていたが、疲れ切った目と白髪が混じって放置された頭から年齢以上に歳を感じさせていた。

 

「このままでは暫くベッドに縛りつけるぞ」

 

「そんなぁ! それはすっごい困るんだけど。すぐに出発したいから」

 

 そうエレノアが驚いたように言えば、男は眉間に皺を寄せると大きくため息を吐いた。

 

「君は、私が何故怒っているのか理解しているのか?」

 

「え、怪我したことじゃないの?」

 

「違う」

 

「じゃあ帰還が遅れて夜になっちゃったことだ」

 

「それも違う」

 

「いや、わっかんないよ……。あ、勝手に包帯いくつか持っていったからだ」

 

「……色々と言いたいが、それも違う」

 

「えー!? うーん……あ、分かった。先生の予備のメガネ割っちゃったこと」

 

「いや、君は一体なにをしているんだ!? あれほど勝手に持ち出すなと言っただろう! あれは私用に調整してあるんだ! そしてそれも違う!」

 

 

 白衣の男は椅子から立ち上がり、猫背のまま目の前の首を傾げている少女を指さした。

 

 

「いいか? 確かに無茶をせざるを得ない状況もあるだろう、報告外のことがあって帰還の時間がずれることもあるだろう。包帯と眼鏡は文句も言いたいが、それもまぁ良いだろう。私がっ! 言いたいのは! 無茶を平気で()()()()()()()()()()という事だ。せっかく助けた命を粗末に扱うことなど許せるものか!」

 

「あ……えぇと、ごめんなさい?」

 

 捲し立てるように声を荒らげた男は、困惑するようなエレノアの様子を見て再びため息を吐いた。そうして力が抜けるように椅子に座ると片手で頭を押さえるようにして呟いた。

 

「お前は、おかしい」

 

「そう言われると、なんだか反応に困るんだけど」

 

「人は普通、何か支えがないと立ってられない。仮にそれがあったとしても休みなく動き続けるなど出来るはずが無い。何処かで、壊れない為に“甘え“が出てくるはずなんだ。それが正常なんだよ」

 

 男は気持ちを落ち着かせるように、こめかみを指先でトントンと叩きながら続けた。効果は余り出ていないようだった。

 

「私、ちゃんと休んでるんだけど?」

 

「動けなくなったから一度止まることを休むとは言わない。人はそこまで“効率“だけで自分の体を見たりはしない」

 

 男は指でこめかみを叩くのを止め、視線を床に向けたまま問いかけた。

 

「……お前は、自分の身体を機械か何かとしか見ていないんじゃ無いのか? ……待て、何故笑っている。なぜその()()で笑っていられるんだ……。理解出来ない」

 

 男は目の前の少女が理解できなかった。レユニオン内部でも恐れられているのは知っていた。だが、それ以上に人間として解せなかった。彼女の真に恐ろしいのは、そのアーツでも無く、敵対したものを全て砕きゆく覚悟でもなく。自らの身を活動できなくなるギリギリで使い潰していく、効率でしか自分の身を顧みないその精神性だった。

 

「先生とはあんまり話したことが無かったかな? 最近来てくれたばっかりだしね」

 

 エレノアは指を一つ立てると、まるで教師のように男に問いかけた。

 

「先生、私たちはなに? 悪の組織? 犯罪者? それともたちの悪い頭のおかしい集団?」

 

「……」

 

 男が何も言えず黙っていると、エレノアは優しく笑って告げた。

 

「たしかにそうかも知れない。平和に暮らしていた人からしたらそうなるだろうね。でも、()()じゃなかった人からしたら違うんだ。違うはずなんだよ。私たちは本当に、本質的に逆賊になっちゃいけない。ただ異を唱えるための集団じゃないといけない。私たちが暗い顔していたら、それこそ後ろめたいってことになっちゃう」

 

 テントの中の薄い明かりがエレノアを照らす。

 

「それに幹部の私が暗かったら、せっかく助けを求めに来た人だって参っちゃうよ。……ま、結局は笑っていないとつまらなくなっちゃうよってこと! だから、そんな顔しないで。ほらっ胸を張って。 ……ダメ?」

 

 真面目な話は少し照れ臭かったのか最後はどこか茶化すように終わらせたエレノアに対し、男の表情は優れなかった。それを見たエレノアは眉尻を少し下げると、苦笑いをした。

 

「先生は優しすぎるからね。ここ(レユニオン)は少し辛いのかもね。いつでも言ってくれれば近くの都市に送るよ。そのあとは保証する事が出来ないけど。……私個人としては、私がどんな人であれ心配してくれるような先生には残って欲しいけどね」

 

 

 

「……君に、心配されるほど私はヤワでは無い」

 

 

「おっ、先生顔がしゃっきりしたねー! その方がカッコいいよ!」

 

「ほざけ、私はいつでも格好いい」

 

「……え? それほんとに言ってる? あいたっ!」

 

 男がペンを器用にエレノアに弾くと、綺麗に命中したエレノアは涙目でおでこを両手で抑えた。顔では不満そうな表情を浮かべていたが、全身から少し嬉しそうな雰囲気を出している少女に、ため息を堪えるしかなかった。

 

「ともかく、これで今日は終わりだ。早く戻って寝ろ、いいな? 寝るんだぞ。ハンマーでも振るっているのをみた暁には注射で強制的に眠らしてやる」

 

「わかった、わかったから! その緑色の注射しまってよー! ……なんか光ってない? ソレ」

 

「安心しろ、君なら死なない」

 

「ソレって安心材料じゃなーい!」

 

 

 

 ◆

 

 

 一悶着があった後、エレノアの出て行ったテントはやけに静かに感ぜられた。診断結果の書かれた紙を見ながら、目頭を揉むように押さえる。最後のやりとりが、男の頭によぎっていた。

 

 

 

『おい、君の腰のソレ。……そうそれだ。いつも大事そうに持ち歩いている小瓶。ヒビが入っていないか?』

 

『えっ? 嘘……ほんとだ。最近なかなか激しい動きしたからかな……。割れてなくて良かった……。全然気が付かなかったよ、ありがとね、先生!』

 

『あぁ……気にするな』

 

 

 

 

 瓶のヒビは一目みれば分かる程のものだった。彼女はそれに気がついて居なかった。

 

 両手で頭を抱えるように、体を縮める。

 

「あの子は、どこか狂っている……」

 

 いや、狂っているのは彼女の方では無いのかも知れない。初めに狂い始めたのは何なのか。

 なんにせよ、彼女は進み続けるのだろう。血と臓物、悲哀と怨嗟。どろどろとしたものに塗れながら、それでも笑って。その笑顔は義務感からの作られた笑顔なのか、そうで無いのか。

 

 

 

 あぁ、この世に救いがあるとするならば。現状を見ているものが居るのならば、どうか。

 

 

 

 

(どうか彼女に、黄金の麦畑を。その真ん中で笑える未来を)

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「やっ、タルラちゃん。入るよー」

 

 そう言ってエレノアが入ると、小さな小屋の中には数人と話しているタルラの姿があった。タルラはエレノアに気がつくと、話していた者たちといくつか言葉を交わし、退出を促した。

 

「あぁ、エレノアか。すまない、帰ってすぐ呼び出しをして」

 

「構わん、一向に構わんぞー!」

 

「そうか、では報告を頼む」

 

 

 2人だけになった小屋でタルラはエレノアに木の椅子を進め、自身も対面に座った。

 

「あ、……うん。じゃあ被害の方から──」

 

 ◆

 

「成程、非常に助かった。これでまた我々は一歩前進出来る」

 

 報告を聞き終えたタルラは深く、見方によってはまるで劇の役者のように大仰に頷いた。そうして言葉を続けようと、エレノアに向き直った。

 

「タルラちゃん、大丈夫? 顔がとっても怖いよ? 疲れてるんじゃない?」

 

「問題ない」

 

 そのエレノアの問いかけに表情を変えることなくタルラは首を振った。

 

「え……でも。うん、分かった。なら一つ言わせて。エレノアとしてじゃなく、アルサシアンとして」

 

「どうした?」

 

 タルラが続きを促すと、エレノアは先程までのどこか弛緩した雰囲気を消し、真っ直ぐにタルラを見つめた。

 

 

「被害を許容しすぎだよ。感染者の人たちもそうだけど、そうじゃない人たちを無理に殺す意味は無い。むしろ逆効果だ。私たちは人間なんだよ、獣じゃ無い。分かってる?」

 

「あぁ、分かっているさ。全ては感染者の為なのだから」

 

「分かってない。その発言は分かってない発言だよ。目的を見失ってない? アリーナさんはそんな事を……」

 

「黙れ。その名前を、出さないでくれ」

 

 

 

 じわり、と部屋の気温が上がるのを感じた。

 

 

 

「……分かった」

 

「すまない、取り乱した」

 

「いいよ、気にしない。私も配慮が足りなかった」

 

「……そうだ、エレノア。最近ずっと戦闘ばかりじゃないか? 休みも兼ねて一つ頼みがあるんだが……」

 

 部屋の気温と反比例するように、雰囲気は冷え切っていた。それをリセットするようにタルラが声の調子をわずかに高くして言った。

 

 実際にエレノアは、しばらくの戦闘禁止を言い渡されていた為休む他無かった。

 

 

「そうだけど……珍しいね、タルラちゃんが直接お願いなんて。何か欲しいものでもあったの? ふりっふりの可愛い服とか?」

 

「いや、そうではない。ひとつ情報を受け取ってきてくれないか?」

 

 タルラがこのような提案をするにはいくつか理由があったが、その一つはエレノアが基本的に単騎で行動する為だろう。部隊と協力することもあるが、彼女の雷は味方を区別しない。その為、もし彼女と共に戦うのならば電気を通さない素材でできた装備を身につけるしか無かった。

 

 しかしながら今回求められているのは情報。基本的には情報は、人が多い所に集まる。そうであるならば、今回は別の理由によりエレノアが選ばれたのだろう。それをなんとなくエレノア自身も分かっていた。だから、特に反論はしなかった。

 

 

「……あ、そういうこと。いいよー、場所はどこ?」

 

 

 

 ◆

 

 

「行ったか」

 

「……良いのか? タルラ」

 

 タルラだけとなった部屋に声が響く。振り向きもせず、タルラが軽く目を瞑ればすぐに男が姿を表した。男はずっと部屋の奥に隠れて居たのだが、エレノアがそれに気がつくことは(つい)ぞ無かった。タルラはエレノアが知覚能力がそれほど高くはないことを知っていた。

 

 

 

「あぁ、構わない。彼女はこのやり方を認めないだろうからな」

 

「それで、次は何処なんだ」

 

 

 

 

「チェルノボーグ、だ。彼女が帰ってくる前に始めろ」

 

 

 

 

 

 

 始めと変わらないものは珍しく、ほとんど無いといっていい程だ。

 数多の現実にエレノアが膝を折ったように、容赦のない現実は──の膝も折ってしまったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チェルノボーグの地で暗黒時代は、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

検査結果 Alsatian

 

⚫︎体重  微減

⚫︎身長  変化なし

⚫︎鉱石病 進行 体表への新たな結晶の形成

⚫︎外傷  アーツによる皮膚の熱傷 

 [範囲]肩から左腕、腹部から鼠蹊部 

 [状態]大部分II度、一部Ⅲ度(処置済み)

 [感染症]細菌の繁殖はなし

 

 

⚫︎追記  アーツの副次的要因による聴覚の低下。加えて左目の視力ほぼ消失。鉱石病の進行によるものと思われる。

 

これ以上の無理は彼女の◼︎◼︎に関わる。それに鉱石病も確実に悪化している。このままゆけばそう遠くないうちに──。とにかく彼女にはもう無茶はさせない事。

 

 

 

 

 

 




次回への接続の回ということで少し短めかも知れません。

見てくださってありがとうごさいます。







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