大神マシロ様の道中記 ~二人の白皇 after~   作:しとしと

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 斬2クリア(クリア後追加シナリオも)して、久しぶりに後日談ロスに陥りました。
 やっぱりハクトルandマシロ様はカッコいいなあ……。

 既に先駆者の方々の後日談もありますが、私なりの都合のいい別解釈の後日談を書こうと思いました。他作品と似たような部分があれば申し訳ない。
 使命は勿論あるけれど、ハクが色々なものから解放されて気楽に旅している感じが出したいなあと。あと、マシロ様がヒロイン達とイチャイチャするシーンも書きたいなあと。

 改めて、独自解釈等注意です。



第一話 クオン編

 あの懐かしきクジュウリ旅籠屋で、クオンから鉄扇を頂戴して暫くのことである。

 

「クオンに……寂しい思いをさせちまったか……」

 

 思うのは、クオンの言葉。

 そりゃまだ力の片鱗しか扱えないクオンにとっては、急に消えたようにも思うよな。

 クオンから鉄扇を再び預かり、ウルゥルサラァナと気楽な旅を続けていたのだが、クオンに諦めた様子はない。

 

 大神となった自分は、根源の世界を通じていつでもどこでも、誰かを感じ、見ることができる。

 だからだろうか、クオンが寂しがっていると聞いて少し動揺した。

 

 皆がこの世界で幸せに生きてくれていればそれで十分なんだが、自分に会いたいという強い気持ちを持ち続けてくれているようだ。

 

 それを嬉しく思うも、今会っちまうと色々未来の世界に支障をきたすのだ。

 諸々終われば、こっちから会いに行くつもりではあったが、さてどうするか。

 

「誤解」

「クオンさんは、主様の主命を理解できていません」

「ん……まあ、そう言うな。何も伝えられてないんだから、仕方がない」

 

 あれからどこへ行けといっても付いてくるウルゥルサラァナをそう諫める。

 

 ウルゥルとサラァナ、彼女達の行動原理は変わらない。

 故に、この世界の表舞台から消えても、大して影響はない。

 

 だからこそ、これまで通り自分に付従うことについて否やは無いのだ。

 

 しかし、クオンや仲間たちは違う。

 

 彼女達は、皇、もしくはそれに準ずる権力者達、英傑。

 望まなくとも彼女達の行動一つ一つが、この世界に影響を齎し、大きなうねりとなるのだ。

 

 つまり──大いなる意志に導かれし者達。

 

 皇ではない仲間達もそうだ。

 この世界における、これより先未来に起こる数多の運命、その数々に影響を齎す重要人物である。

 

「今はまだ、気軽に話すことはできんのだがな……」

 

 この世界の進化を影より見届ける大神として、彼らに干渉しすぎればどんな悪影響があったもんかわからんからな。

 ハクオロがマスターキー云々で自分達に干渉しきれなかったように、関わるべき事項というものが存在するのだ。

 

 かのウィツァルネミテアのように、大きすぎる力を持つ者が過干渉によって齎すものは、遠き未来に訪れる破滅である。

 

 同じ轍は踏まん。

 それが、元人間故の学習能力ってやつだ。

 

 建前としてはそんなところだが、しかしとてクオンに諦める様子は無い。

 とすれば──

 

「……クオンともう一度話すか」

「混乱する」

「旅の道連れが一人増えるだけかと」

 

 クオンをよく知る二人だからこそ、根源を探らずとも理解できる未来ってやつか。

 想像してみれば、そんなの知るかと付いて来そうな気も確かにする。

 

「ま、自分も一刻も早くこんな力とはオサラバしたいと思っているからな……仕方ない」

 

 ウルゥルサラァナを暖めるために作った焚火に目をやりながら、どうするか思考する。

 やがて、揺らめく炎の中に、ある人物の姿が思い浮かんだ。

 

「そうだ、ハクオロからクオンに言ってもらうとしよう。自分を追わずにトゥスクルへ帰れって」

「では」

「狭間へ?」

「ああ、座から叩き出してやる。ちょっと待っていてくれ」

 

 左手で覆うように仮面に手を当て、かつてハクオロと出会った狭間の世界へと一人旅立つ。

 

 突然座に突っ込んできた自分に驚愕していたハクオロであったが、諸々難癖付けて契約を破棄し、新たな契約を結んで座から叩き出した。

 

「終わった?」

「主様、お疲れ様です」

「ああ……ふむ」

 

 これでハクオロはトゥスクルへと帰還できるだろう。

 ハクオロに皆に会わせる代償として頂戴した新たな力をどう扱うか思案しながらも、今の自分ではあまり考えすぎると呑まれると思考を霧散させた。

 

「じゃ、行くか」

「「御心のままに」」

 

 クオンの道導となる焚火を鉄扇が生み出す風で消し止め、次なるタタリの元へと向かったのだった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 ハクオロをウィツァルネミテアの契約から解放し、トゥスクルへと帰還させて暫くしてのことだった。

 感動の親子再会である。これでクオンはトゥスクルへと帰還する口実となり、そのまま皇女として活躍してくれるかと思ったのだが──

 

「……まだ付いてくるな」

 

 相も変わらずクオンは自分の足跡を辿り、未だトゥスクルへ戻る気配は無かった。

 

「執念」

「クオンさんに諦めるつもりは無いようですね」

「そうか、親父さんから言ってもらう策は使えなかったのか……」

 

 まだまだこの大神の力を御すには修行と経験がいる。

 今の実力じゃこの力を使うと疲れるんだが、仕方ない。

 

「……原因を探るか」

 

 目を瞑り、深く思念する。

 世界と一体化するように地に手を這わせ、遠きトゥスクルの地へと視界を繋げた。

 

「ん……ん?」

 

 既に人となったハクオロの姿は見えた。

 しかし、どうにも拘束されているようだ。ベナウィといったか──に書簡の山を押し付けられている。

 

「なるほど、労働の有難味を享受しているみたいだな……」

 

 クオン、オボロ両名が政務から逃れようと失踪したことで上皇、天子ハクオロとして復権。

 とばっちりを受けるかの如く、政務の全てを担っているようだ。

 

「しかし、これでクオンがトゥスクルに帰還する理由が無くなっちまったな……」

 

 ハクオロが帰ってきたと聞けばクオンも一度帰るかと思っていたが、そのような様子もない。

 クオンの追跡を諦めさせるためだったが、ハクオロを座から降ろしたことは、自分の予想していたものと違う未来になっちまったようだ。

 

「自らが干渉したことによる未来は見えんってのが、この力の悩みどころだな」

「見えないからこそ」

「主様を縛るものはもはや何もありません。存分にお使い下さい」

「そうは言うがね……」

 

 良い影響悪い影響、そのどちらにも傾き得る。

 やはり、仲間と会うのはもう少しこの力を上手に扱えるようになってからだな。

 

「……」

「主様?」

「笑っておられるのですか?」

「ん? 笑っていたか?」

「ムラムラする」

「体の奥に響くような、ときめく笑顔でした」

「そ、そうか」

 

 どんな笑顔だ。

 

 まあ、笑っちまったのは、この力の底知れなさである。

 元ハッカーとしても、これほどまでに解析し甲斐のある力はない。正しく、その深淵は底知れない。

 こりゃ、ウィツァルネミテアも持て余す訳だ。

 

 まあ、急いだところで良いことはない。

 ゆっくりのんべんだらりとタタリの解放と、身内の不始末を片付けながら力を扱えるようになっていけばいい話だ。

 

 そうすれば、皆ともまた会える。

 今度は──人としてな。

 

 と思った瞬間だった。

 根源を通して、ある者の危機を察知した。

 

「っ! おいおい……」

「主様?」

「どうかなさいましたか?」

「……まずいな、そこはまだ危険な場所だぞ」

 

 そう遠くはない。

 自分達を追跡していたクオンは、近くに宿が無かったためか、野宿しようとある遺跡に潜りこんだ。

 

 そこは、まだ自分も足を踏み入れていない場所。

 つまり、多数のタタリウンカミがいる。しかも──

 

「肉の気配を感じて、出入り口にいたものが噴き出したか」

「……助ける?」

「お会いになるのですか?」

「ああ、お前達は後から来い」

 

 この距離──ウルゥルサラァナの速度に合わせていれば、間に合わなくなる。

 

 その瞬時の判断を采配するは神の力ではない。

 神となる前の自分。かつてオシュトルを偽っていた時の自分が繰り返しこのような思考の切り替えを求められていたからに起因する。

 

 改めて思考を将としてのものに切り替え、どうすればクオンの未来を元の道筋へと戻せるか策を巡らせる。

 

 これもまた、クオンが皇女の職務を全うする本来の未来を選ばず、自分を追うという選択故のことなのか。

 クオンはこんなところで歿していい存在ではない。

 

 助けに行かねば──とそこまで考え、自分の思考の揺らぎに気付いていた。

 

「っ……はあ、仕方ない。惚れた弱みだ」

 

 やはり、自分は神に成りきれない。

 愛しき者に危険が迫れば、そりゃ焦って助けに行くさ。

 

 根源を通して、クオンの居る場所へと道を繋ぐ。

 ウルゥルサラァナがこれまで幾度となく行っていた行為。それを、今の自分の力量であればこの程度の距離なら瞬時に繋いで移動できるだろう。

 

 刻一刻と追いつめられるクオンの姿に焦りを覚えるが、己の冷静な思考によって道を繋ぎきる。そして──

 

「くぅ……数が多いかな。このままじゃ……って──えっ……?」

 

 慣れた遺跡探索であった筈が、出入り口を塞がれ、数の暴力で迫るタタリウンカミに小部屋まで追い込まれたクオン。

 鼠一匹入る隙間すら無い、正しく死地──絶体絶命であるが、自分ならば、そこに行ける。

 

「ったく……迂闊が過ぎるぞ、クオン」

「ハ……ハク……?」

 

 まるで、ずっとそこにいたかのように、地も、壁も、あらゆる物質を無視し、根源の世界を通ってクオンの隣へと瞬時に現れた。

 肩にかけた鉄扇を指先でつまみ、もう一方の手で刀に手を添える。

 

「ゥォォぉぉぉん……」

「おう、同胞達よ。遅くなってすまんな」

 

 クオンに迫る無数のタタリを阻むため、鉄扇で風を巻き起こし、タタリの肉を削いでいく。

 

 そして、タタリの荒ぶる心を脇差の一閃で断ち切る。

 その剣は何とか彼らの心に届き得たようで、赤い肉の蠢く勢いは減じ、目の前の存在に救いを求めるかの如く揺らめいていた。

 

「さ、同胞よ……もうお休み……」

 

 タタリは、自分の言葉に応えるように美しい光となって周囲を照らし、蠢く肉は緑の藻や蔓となって遺跡の壁を覆っていく。

 

 今回も上手く力を使えたようだ。

 同胞が輪廻の輪へと戻る姿を感慨深げに眺め、ほっと息をつく。

 

「……」

 

 そして、後ろからじっと見つめる視線に気付かないフリをする。

 

 しかし、この世にいるタタリを浄化するために実体化──この世に顕現した手前、気のせいでしたは難しい。

 

「ハク……?」

「……はあ」

 

 そりゃ、見つかっちまうよな。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

「──ハクっ!!」

「おっと……」

 

 クオンは感極まったようにこちらに飛びつく。

 首と背に手を回し、もう離さないとばかりに強く強く抱きしめられた。

 

「もう、逃がさないからッ!」

「おいおい……」

 

 クオンがつけていた懐かしい香水の香りがふわりと鼻腔を擽り、柔らかな肢体がぐぐいと押し付けられる。

 

 神であっても、実体化すりゃ酒も飯もこうした温もりも感じられるのは有難いことではあるが、離れ難くなっちまって仕方が無いので困ることでもある。

 話もできんので、クオンの名を呼んで離すように言うが、クオンの首は嫌々と左右に振られるのみ。

 

「クオン……?」

「やだやだッ! 今度は絶対に、絶対に逃がさないかなっ!」

 

 自分の胸の中で嫌々と言うクオン。完全に駄々っ子である。

 

 まあ、しかし、いい機会ではあった。

 このまま自分を追われて、今回みたいな危険な目にあってもらっても困っちまうからな。

 

 この状況でぱっと消えちまえば恨まれて尚追われる可能性もある。

 ウルゥルサラァナに思念を送り、久々にクオンと直接話すことにした。

 

「ハク、ハクぅ……っ!」

 

 しかし、クオンは離せば逃げられると思っているのか、自分の名を涙ながらに呼び、頬を自分の胸に擦り続けている。

 埒があかんと、ある提案をすることにした。

 

「な、なあ……とりあえず、外に出ないか」

「……逃げない?」

「逃げない逃げない」

「……ほんと?」

「ほんとほんと」

「……」

「……」

 

 力は弱まらない。

 

 半眼になってじっと疑いの視線を向け続けている。

 何故だろうか、クオンの中で自分は極限まで信用ならぬ男となっているようである。

 

 改めて安心するように言葉を紡いだ。

 

「直接話したいこともあった。逃げんよ」

「……じゃあ」

 

 ぎゅっと、腕を力いっぱい拘束されながらも、緑に包まれた遺跡を後にする。

 物凄い圧力と間近に感じる視線にとてもとても歩きにくいが、まあ仕方が無い。

 

 遺跡を走り回ったからだろうか、クオンの発する濃い匂いに酔いながらも、一歩一歩と階段を登り、ようやく夕闇が包む遺跡の最上階へと出た。

 

「ふぅ……」

 

 空気が澄んでいる。

 タタリの気配を探るも、遺跡内にいた別のタタリも浄化できたようだ。

 ここはもう来る必要も無いな。

 

 さて──と疑惑の目を向け続けるクオンへと視線を移す。

 

「さて……ウルゥルとサラァナがここに来るまで、話すか」

「え、二人は?」

「クオンの危機に間に合いそうもなくてな。置いてきた」

「あっ、そうだ、た、助けてくれて……その、ありがとう……ハク」

 

 自分の言葉を聞いて、クオンは今思いだしたかのように礼を言う。

 自分が助けられたことよりも、自分に会った衝撃の方が大きかったようだ。

 

「いいってことさ……二度はごめんだがな」

「ご、ごめんなさい」

 

 クオンとしても、安直に自分を追った結果であることは自覚しているのだろう。

 しゅんと項垂れていた。

 

「まあ、座ろう」

「う、うん」

 

 クオンももう自分が逃げないと理解したのだろう。おずおずと腕を離し、目の前にちょこんと腰を降ろした。

 

 ウルゥルサラァナに思念を送った場所はここ。

 二人が来るには暫く時間がかかるだろう。

 

 二人して向き合うも、改めて話すとなると何から話せばいいか。

 さて、どうするかと悩んでいると、先に口を開いたのはクオンであった。

 

「ハクは、どうして私が危険な目に合ってるってわかったのかな?」

「? 前にも言っただろう。いつも隣にいるって」

「隣に?」

「ああ、自分は根源を繋げばどこへでも行けるしどこでも見ることができるからな。クオンのことはいつも見ていた」

「いつも……って」

 

 クオンはそこで訝し気な視線をこちらに向けた後、ぼんと頬を赤くして己の体を守るように抱いた。

 

「も、もしかして、お風呂とかも……」

「……」

 

 見ようと思えばな。

 そう答えるか迷ったが、そんな返答をすれば久々に尻尾の拘束攻撃に晒されそうである。

 迷った末に出した答えは──

 

「見てない」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

「……」

「……」

 

 疑惑の目は尽きない。

 

 しかし、クオンもそれ以上追及するつもりは無かったのだろう。

 訝し気な目は鳴りを潜め、別の問いをしてきた。

 

「……ハクは、どうして私を助けてくれたの?」

「ん? それは……」

「それは?」

「……」

 

 何だろうな。

 こういうのは口にすると照れるんだが。

 

 クオンもクオンで質問してしまったことを後悔するように頬を赤く染めている。

 

 まあ、いいか。

 

「……惚れた弱みだ」

「ほ、ほれ……」

 

 そう、惚れた弱みだ。

 あの自分が入っていたカプセルの場所で、クオンとは想いを通じ合った。

 誰よりも幸せになって欲しいと願う存在。

 

 改めて伝えるのは性分ではない。

 だが、次に伝えるべき自分の言葉をクオンに響かせるためだと信じ、そう言った。

 

「あ、ありがとう……?」

「何で礼なんだ」

「だ、だって、何て返したらいいかわからないかな……」

 

 ぼそぼそと語尾が小さくなるクオン。

 クオンは照れに照れた自分を誤魔化すように、己の怒りを言葉にするように口を開いた。

 

「と、というか、それならやっぱりお風呂覗いてるんじゃ……!」

 

 そこに戻るのかよ。

 

「……一度、見ているんだから、いいだろ」

「んなっ!?」

「おっと! それは勘弁!」

 

 尻尾が鋭く己を穿とうとするが、こちらも成長しているのだ。

 ひらりと交わすと、クオンは頬を染めたまま恨めし気な目で唇を噛み、憤慨していた。

 

 じりじりと互いの体が距離を取り、変な睨み合いが始まる。

 ただ、クオンもこんなことで自分を逃がすつもりもないのだろう。怒り交じりに新たな質問をぶつけてきた。

 

「と、ともかく! ハクはどうして皆に会ってくれないのかな!? 皆、皆ハクに会いたかったのに……」

「そりゃ、同胞を救う旅をしているからだ。後、兄貴とウォシス──身内の不始末回収だな」

 

 タタリだけではない、アマテラス照射だの、ノロイだの、デコイの世界に散々爪痕を残しちまったからな。

 兄貴の遺志を継ぐためにも、身内の不始末は回収せねばならんだろう。

 

「幸か不幸か、同胞を解放する力を手に入れちまったんだ。有効利用するのも当然だろう」

「そっか……」

 

 クオンは自分の言に幾許か納得したのだろう。

 だが、だからこそというように、クオンは一つの疑問を呈した。

 

「なら、何で私も一緒に連れていってくれないの? 私も、ハクと一緒に行きたい!」

「行きたい、って……クオンはトゥスクルの皇女だろ。そっちはいいのか?」

「うぐっ……!?」

 

 そんな正論を返されるとは思っていなかったのだろう。

 クオンは見るからにたじろいだ。

 

「自分の言葉がどう諸々影響するかわからんからあんまり言えんが……クオンは皇としての務めを果たさにゃならんだろ」

「うぐうぐッ……!?」

「ま、今は自分の仕事をしろってことだ」

 

 ぐさぐさと胸に棘が刺さったように蹲るクオン。

 昔は逆に仕事しろってせっつかれていた手前、クオンの衝撃も一入であろう。

 

「自分はオシュトルとして誰よりも働いたんだ。それに、今でもこの力を使って働いてんだぞ」

「ま、まさかハクにそんな風に諭されるなんて……!」

「ふっ、立場が逆転したな」

「うぅ……」

 

 しかし、クオンもここまで追ってきた手前、すごすご引き下がるつもりもないのだろう。

 

「で、でも! ネコネとかには会ってあげても……!」

「……」

 

 そうきたか。

 ネコネとも勿論実体化して話したいと思う。会わない理由はいくつかあるが、さてどうするか。

 

 これを言っちまうと、この世界にどう影響するかよくわからん。

 だが、確実に何かが変わる。それが良いものか悪いものかもわからん。

 

 しかし、言わねばクオンは納得しない。

 

 このまま不完全燃焼であれば──それこそ毒か。

 

「クオンは、自分の力をどの程度扱える?」

「え……?」

「根源を支配できると、御しきれると、そう思うか?」

「……」

 

 答えは沈黙。

 そう、クオンですら持て余した力。内なる声に背き続け、力に呑まれぬために制御し続けねばならない危険な力。

 

「実体化して直接話をするには、ちと面倒な手順が必要になる。今回は、クオンを助けるという介入のために実体化できたが」

「そうなんだ……」

 

 手順とは、契約と代償である。

 まあ、ちと屁理屈並べてそこまで深く考えなくてもいいようにはなったが、気を抜いてほいほい実体化してしまえばとんでもない代償を払うこともある。まだまだ理解しきれていない面倒な制約なのだ。

 

「見たいものを見る。見たくないものは見ない。見なくてもいいもんは奥に隠す。根源ってのは、常にそうやって情報を整理しないと、人の脳みそ程度じゃ直ぐにでも暴発するくらいの情報量だ」

「そう……だね」

 

 クオンも、自分を復活させようとウィツァルネミテアの声に応えた手前、心当たりはあるのだろう。

 根源に触れた者ならば誰もが思う。その圧倒的な根源の正体──星の力。

 

「たとえこれから先、気軽に実体化できて皆と会えたとしても、そんな力を持ったまま干渉すりゃ、どう未来に影響が出るかわかったもんじゃない」

「……」

 

 会えない理由は他にもあるが、とりあえずそれだけ伝えるとクオンは押し黙ってしまう。

 納得してくれたかと思ったが、クオンは核心をつくように言葉を発した。

 

「でも──ハクは助けてくれたよ?」

「む……」

「だから、期待してもいいんだよね……? いつかまた、私達のところに戻ってくるって……!」

「……」

 

 クオンの疑問に答えていいのかどうか、迷いどころである。

 腕を組んで、何を伝えて伝えぬべきか根源を探るも、自分が一度関わってしまえば、未来は靄がかかったように不確かである。

 

 しかし、真っ直ぐに射抜くクオンの視線に耐えかねて、喋ることにした。

 

「自分は──人に戻るための旅を続けている」

「えっ……?」

「同胞を救うにゃ、この力がいる。身内の不始末を払拭するにもこの力がいる。そして──この神の力を封印し、皆と共に生きるためにも……この力がいるってことだ」

「……じゃ、じゃあ」

「美味い酒を飲むにも、飯を喰うにも一々面倒な手順を踏んで実体化しなけりゃならんのは苦労この上ないからな……しかし、どうすりゃ人に戻れるかもわからん。タタリを解放しながら、己の力を上手く扱える修行中ってことだ」

 

 そう、自分は諦めてなどいない。

 

 タタリの解放、身内の不始末の払拭。困っている人の手助け。

 それはそれで勿論果たさねばならぬ大事であるが、それは単なる道行でしかない。

 

 ウィツァルネミテアですら扱い切れなかった根源の力を解析、制御し、再び皆の元に大手を振って帰る。

 

 そのための──旅なのだ。

 

「だから、クオンはクオンのやるべきことをやってくれ。自分なんかに構っていると、生き遅れちまうぞ」

「ハク……」

 

 自分が人に戻るまで待っていてくれなんて言える筈も無い。

 クオンが婆ちゃんになっちまうかもしれんぐらい時が経つ可能性だってある。

 

 愛する人の幸せを願えば──余計な希望は与えないに越したことは無い。

 

 クオンは自分の言葉を反芻するように胸に手を当て、何を言うか考えているようだった。

 

 諦めてくれたかと思ったが、クオンはふっと愛しきものを見つめるように笑った。

 

「ハクは、勘違いしてるかな……」

「ん?」

「私は、もうハクのモノだよ……あの時からずっと……」

 

 夕灯りに照らされたクオンの瞳は熱っぽく潤み、自分の胸に手を置いて囁く。

 

「っ……クオン」

「私は、誰にモノにもならない……だって、私が一緒に歩きたいのは……ハクだもん」

 

 やはり、自分の言葉ではクオンを諦めさせるどころか焚き付けてしまったらしい。

 

「いつまでも……待ってあげるかな。ううん、私も一緒にハクを手伝う」

「いや、それは……」

「じゃあ、皇女としての職務を全うしてから手伝う、それならいいでしょ?」

「む、う……」

 

 そういうことじゃないんだがな。

 まずい、これではクオンに関わるあれやそれやの出来事や傑物が生まれたり生まれなかったりするぞ。

 

 未来を大きく変えてしまうような歴史の転換点となってしまったことを悔やみ、ここからどうすれば元の軌道へと戻せるか思案していると、クオンの唇が迫ってくる。

 

「もう一回、思い出させてあげるかな……ハクには、私がいないと駄目だって……」

 

 唇に触れるかの如く距離で、クオンの熱い吐息がかかり、思わず自分も誘惑に負けそうになる。

 惚れた女にここまで言われると、自分としても弱いのだ。

 

 だが、自分はもう神の身である。

 ここで諸々致してしまうのは非常にまずい。

 

「ク、クオン……ちょ、ちょっと待──」

「これは、待ってあげないかな……ん」

「「そこまでです」」

 

 とっても良い雰囲気をぶち壊すようなウルゥルサラァナの声が二人の間に割って入った。

 残念なようなそうでないような。

 

「な──あ、貴女達!?」

「発情した牝の匂いが遠くまで」

「ぷんぷん漂っていましたので、直ぐに居場所がわかりました」

 

 おいおい嘘つくな。

 思念で呼んだんだから場所は知っていただろう。

 

「ちょ、ど、どこから見て……!」

「最初から」

「女豹が獲物を捕食するように主様を抱いた時からです」

 

 だから嘘つくなって。

 クオンには判らないと思って色々言い過ぎだ。

 

「そ、そんなことしてないかな!」

「していた」

「久々だからって、発情し過ぎでは?」

「んなっ、そ、そんなことないよね!? ハク!」

「いや……」

「証人喚問」

「事実をお伝えください、主様」

「いやいや……」

 

 ウルゥルサラァナも久々のクオンで気分が上がっているのはわかるが、このままでは自分に飛び火しそうなので、仲裁に入る。

 

「ま、まあ、どっちでもいいことだ。そんなことは」

「なっ……そんなことって何かな!!」

「重要事項」

「主様は私達とクオンさんのどちらを選ぶのですか?」

 

 何故だろうか。自分の仲裁の言葉が皆の火に油を注ぐ結果となる。

 

 わちゃわちゃ懐かしい光景ではあるが、このままでは一向に話が進まない。

 鶴の一声をと言わんばかりに、大声を出した。

 

「とりあえずだ! クオン」

「? な、なにかな」

「今の自分は、すまんが……クオンの想いに応えられん」

「えっ……?」

 

 クオンの瞳は一転、悲し気に潤む。

 

 やめてくれよ、そういう反応。

 まあ、自分が逆に言われたら確かに傷つく言葉でもあるか。

 

 慰めるように、その言葉の真意をクオンに伝えることにした。

 

「別に、クオンが嫌いになったわけじゃない」

「な、なら……!」

「自分達の、子どものことだ」

「こ、こど……!?」

 

 クオンはぼんと頬を赤くして戸惑う。

 致そうとしていた癖に、そういうところでは照れるのか。

 

「照れるなよ……」

「だ、だって、ハクもそういうことを考えてくれていたんだって……う、嬉しくて」

「っ、クオン……」

「ハク……」

「「そこまでです」」

 

 再びふわふわふーした空気を払拭するかの如くウルゥルサラァナの鋭い声が刺さる。

 クオンから齎される熱い視線を逸らしながら、言葉の真意を話した。

 

「言いたかったのは別のことだ。クオンは……どうやって生まれた?」

「え……それは、あっ……!」

 

 クオンは、自分の出自に考えを巡らせ、自らが神とデコイの子であることを理解した。

 そして、自らの苦労とその強大さも思いだしたのだろう。

 

「自分の感じてきた不幸を、子どもに与えるつもりか? 神の身である、今のままの自分じゃ、クオンと番にはなれない」

「……」

 

 先ほどまでの熱っぽい瞳は鳴りを潜め、クオンは心底悲し気なものへと変わる。

 唇を噛んで、クオンは想いを通じ合えない現実と向き合う。

 

 しかし──

 

「でも……でも、私は、幸せだったよ」

「……?」

「沢山のお母様がいて、お父様がいて、友達ができて……好きな人ができて……でも、色んな人に、世界に迷惑をかけて……死にたくなる時もあった、けれど、生まれてこなければ良かったなんて、私はもう思わない」

「……」

 

 それは、クオンの人生を振り返ったからこその台詞なのだろう。

 

「私とハクの子どもだもん……きっと、同じ答えに辿り着くと思うかな」

「クオン……」

 

 その決意の大きさに己の心が揺さぶられる。

 きっと、何を言ってもクオンは折れない。自分の定めた者と共に過ごせるまで、諦めない。

 

 だが、そんな己を決して曲げないクオンだからこそ、惚れたというのもあるのだ。

 

「……」

 

 互いに無言。

 どう言うべきなのか、諦めさせることが果たして本当に未来にとって良きことなのか。

 己の力を理由に逃げているだけなのか、様々な思考が浮かんでは消えていく。

 

 そんな時であった。

 ウルゥルサラァナが、静かな声で自分達の注意を引いた。

 

「提案がある」

「皆にとって良い解釈があります」

「? 何かな」

 

 クオンはこの状況を打破できると感じたのだろう。

 ウルゥルとサラァナの提案とは何か相槌をうつ。

 

「私達も同じ」

「クオンさんと同じ理由で、手を出してもらえないのです」

「そ、そう」

 

 クオンは、そこで勝ったと言わんばかりにぐっと拳を握る。

 女の戦いとして先んじるのは勝者の証であるのか、一瞬むっとした双子であったが、言葉を続ける。

 

「手を出して貰える策」

「神の身である主様でも、気軽にできる魔法の言葉があります」

「……? それは?」

「市井の本を参考」

「中はだめぇ! ……と叫べば、大抵は大丈夫なようです」

「それ大丈夫じゃないやつ!!」

 

 一体、何の本を参考にしてるんだよ! 

 空想の世界と現実を混同するな! 

 というか、根本的な解決になってないんだが! 

 

 数多のツッコミが頭に浮かぶも、言えたのは一つだけである。

 

「手練手管は豊富」

「私達も、主様の御子を幸せに育てる準備はできていますが……」

「負けない」

「御子を齎す行為だけではありません。クオンさんにはできないあんなことやそんなことも私達にはできます」

「ちょ、ちょっと、ずるいかな!!」

 

 想いに応えられないといった回答であった筈が、いつの間にか子は産めなくてもいいからどんな行為ができるかに話が進みつつある。

 

 おかしな方向性へと舵を切った三人の女性を眺めながら、旅は道連れという言葉を思い出していたのだった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

「結局、ついてくるんだな?」

「うん」

 

 諸々話した結果、クオンは諦めないという結果に終わってしまった。

 既に周囲は闇夜に包まれ、幾度話したとてクオンの決意は変わらなかったのだ。

 

 改めて根源を通して未来を見れば、以前示していた未来は掻き消えたように失せ、数多の生まれるべき進化が方向性を変えたことを理解した。

 

「この際だから言うが」

「うん」

「自分は、大神として未来を見ていた。この星の進化の行く末だ」

「……」

「クオン、お前が自分に着いてくるってことは、その未来が失われるってことだぞ」

 

 もはや、己の力を以ってしても、どんな未来が訪れるかも判らない。

 進化ではなく、全ての破滅すら訪れるかもしれないのだ。

 

「ハク」

「ん?」

「私は、ハクと一緒に生きる未来を選ぶ」

「……」

「それが、一番いい未来だって思う……ううん、してみせる」

 

 揺らがない、芯を持った強き女性。

 そして、だからこそ不安定で壊れやすい愛しき少女の声──それは、深く己の心に届く。

 

 ──何を言っても駄目か。

 

「……もう暗いからな。今日はここで寝るぞ」

「うん」

 

 今日も野宿だと、大樹の淵に寝転ぶ。

 まだまだ夜は冷える。焚火だけでは寒いだろうと、神としての力で一部に春を齎し、皆の寝心地を良くする。

 

 自分の右隣にクオンが肩を枕にするかの如く体重を預け、左隣にウルゥルサラァナがいつものようにひっついてくる。

 

「ハク……ずっと、一緒だよ」

「……ああ」

「「そこまでです」」

 

 三人の女性の間で行われる牽制を見ながらも、懐かしい光景だなあと思う。

 自分がオシュトルではなく、まだハクだった頃を思い出しながら、微笑む。

 

「明日も早い。早く寝るぞ」

「うん」

「「お休みなさいませ、主様」」

 

 今日は自分も色々力を使った手前、非常に疲れた。

 まだまだ神としては誕生したばかり、赤子のままってことだなと、その目を閉じたのだった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

「ん、おはようハク……あれ?」

 

 目覚めると、そこにはハクは既にいなかった。ウルゥルとサラァナもだ。

 

 あるのは、既に消えた焚火の後。

 やはり、いつも見たような夢だったのかと落胆すると、懐に違和感。

 

 ごそごそと何かを取りだせば、それは──

 

「手紙……?」

 

 相変わらずハクらしい汚い字である。

 オシュトルの真似をしなくて済んだからなのか、遠慮のない汚さである。

 

 何とか一文字ずつ解読すると──

 

「えと……あれだけ自分には仕事しろって煩かったんだ。自分と一緒に行きたいなら、たまには皇女としてきっちり仕事してからにしろ……? なっ!?」

 

 衝撃に身を震わせるのも束の間。

 手紙の端に小さく何事か書かれていた。目を凝らして読み上げる。

 

「? 追伸……主様は私達がいただいていく……次に会う時は主様の御子を抱いている時……って、これ絶対あの二人が書いたかな!!」

 

 ぐしゃりと手紙を握り締め、再びどこかへと消えたハクとウルゥルサラァナを想う。

 

「絶対、逃がさないんだから……っ!」

 

 鉄扇を持って勝手に消えた時よりも、遥かに大きな憤怒となる。

 

 しかし──と冷静な頭が自分の思考を支配する。

 

 ハクの言葉にも一理ある、いやそれどころか最も正しい結論であるのだ。

 逃亡を手助けしてくれたカミュ姉さま達など理解ある面子もいるが、私の決意をトゥスクルの皆には伝えないままである。

 皇女としての全てをほっぽりだしてここに来ているのだから。

 

「皇女として仕事しろ、か……そうだよね」

 

 改めて皇女として復権し、トゥスクルでやるべきことをやらねば、ハクにはまたこうして撒かれるだけであろう。

 ハクの想う未来、危惧する未来の変化とは何かはわからないが、ハクと一緒になるために、私がこの世界でやるべき何かがあるのだろう。

 

 そうであれば、ハクを追うのは私のやるべきことをしっかりとやってからにしよう。

 

「待っててね、ハク。私も……いつまでもハクを待ってるから」

 

 朝日が燦然と煌く中、木々の間を吹き抜ける風にそう想いを伝える。

 

 ハクは、危機が迫っていた私を助けてくれた。

 いつも、私を愛して、直ぐ傍で見てくれている。

 

 そんなハクであれば、いつも私の隣で声を聞いているのだと、きっとこの声が届くと。

 寂しさでもなく、悲しみでもなく、新たな希望を持って、そう言葉を紡いだのだった。

 

 

 




 二人の白皇サウンドトラックのパケ絵はクオンがハクに追いついたシーンかも……と初めて聞いた時に衝撃が走りました。
 斬2の追加シナリオではそのへん触れるかと思いましたが、またもや焦らされましたね……。
 ロスフラでもネタバレはもっと先のようなので、もう書くしかないと書いてみました。
 声優の件もあるので仕方が無かったとは思いますが、声無しとか小説媒体でもいいのでアクアプラス様はハクと皆が幸せ再会できる展開早く作って(はあと)


 次話以降は、ネコネ等ヒロイン(ムネチカ、フミルィルについては悩み中)それぞれとのマシロ様再会を一話ずつ書いて、最後にハクが皆のところに戻ってくるハッピーエンドでラストにしようと思います。

 なので、完結まで話数はそれほどありません。
 もう一つ書いている作品が未完(本編は完結しているけれども)な手前、そっちも書きながらこっちも書いたりと浮気してしまったので、今後も不定期更新です。
 申し訳ありませんが、気長にお待ちください。
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