源王は玉座を譲らない   作:青牛

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リメイク版です。

前作と同じ所、加筆したり修正した所、いろいろありますがまた楽しんで読んで頂ければ幸いです。


フットボールフロンティア編
源王は玉座を譲らない


 物心が付いた頃には、世界への既視感があった。

 

 

——ボールを止める。

 

 

 浮かぶのは全国最強のGKと称された(じぶん)の姿。

 

 

――ゴールを守る。

 

 

 そして、それを追い越していくイナズマのような男達。

 

 

――負けたくない。

 

 

 そう思った時には、既に走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……あんな化け物みたいな奴らと試合だなんて、もう堪えられない! 勝てるわけがない!」

 

 そう誰に言うでもなく叫び、ユニフォームを脱ぎ捨てて去っていく少年がいた。

 彼の名は目金(めがね) 欠流(かける)

 FF(フットボールフロンティア)40連覇を成し遂げている王者帝国学園との部の存亡の懸かった練習試合に臨む雷門中サッカー部に、急遽加わったメンバーの一人で()()()

 

 ()()()というのは、彼が今まさにその試合から逃亡したからだ。

 しかしそれを腰抜けと呼ぶのは些か酷だろう。

 雷門中のサッカー部は元々部員が11人にも満たず、その部員達もキャプテンである円堂(えんどう) (まもる)を除けば、皆つい最近まですっかりやる気をなくしてだらけきっていたのだ。

 彼らは負ければ部が廃部になるという窮地で、燃える円堂にようやく感化されて練習に参加し始め、必死の勧誘による、円堂の昔馴染みの風丸(かぜまる)や少々尊大な態度であった目金等の助っ人達の加入によりなんとか試合に漕ぎ着けた。

 

 

 ──しかし、ようやく燃え上がってたった一週間、否、それにも満たない期間を熱心に練習したところでなんとかなるほど、帝国は甘い相手ではなかったのである。

 

 

 彼らのサッカーは、洗練されていて、それでいて非道で凄惨だった。

 試合開始時、帝国はコイントスなしで雷門にボールを譲り、シュートを撃たせた。

 帝国の選手達の程々に手加減した守りを順調に突破して、雷門の選手は“もしかしたらいけるかも”という希望を抱いていたが、それはすぐに砕け散ることになったのだ。

 FWの染岡が放った会心のシュートは容易く止められ、雷門は動揺する暇もなく地獄を見ることになる。

 

 まるで足が複数に増えたかのような勢いでボールを持つ選手に襲い掛かる“キラースライド”。

 

 審判にわからないよう、わざと相手にトラップさせたボール越しに蹴り飛ばす“ジャッジスルー”。

 

 そして、相手のゴールエリアを文字通りの死地と化す恐るべき必殺シュート“デスゾーン”。

 

 最初に希望を与え、それを圧倒的な力で圧し折り相手を念入りに磨り潰す。

 雷門の選手達が帝国のサッカーになす術なく次々と倒れていく。そんな様をフィールドの中という至近距離で見せつけられて、元々甘い見積りで参加していた目金が逃げ出すのは無理からぬことだっただろう。

 

 現在はそれでも諦めず、ゴールの前に立ち続ける円堂に対して集中攻撃が行われていた。

 もはやそれは点を取るためのシュートではない。

 既に必殺技ですらないシュートにも反応できない円堂に、彼らは容赦なくシュートを叩きつける。

 とうとう帝国の点が20に達した時、その男は現れた。

 

 目金が脱ぎ捨てたユニフォームを纏い、フィールドに現れた男の名は豪炎寺(ごうえんじ) 修也(しゅうや)

 先年度のFFにて、帝国と決勝を争った木戸川清修中のエースストライカー。

 彼こそが、帝国がわざわざ弱小であった雷門中に練習試合を申し込んだ目的である。

 

 本来部員ですらない彼の乱入に揉めかけたが、帝国の承認により試合再開。

 帝国がゴールへ襲い掛かろうとする中、豪炎寺は帝国のゴールへ真っ直ぐ向かって行った。

 まだ短い時間しか見られていないが、それでもわかる円堂の熱い魂。

 どんな時でも諦めなかったあの男ならば、必ず帝国のシュートを止め、自分にボールを託すと信じての行動。

 

「馬鹿な、必殺技だと!?」

 

 斯くして、円堂はその信頼に応え、デスゾーンを、神々しい巨大な光の手で止めて見せた。

 それは紛れもなく必殺技。

 つい先程まで、熱意はあれど間違いなく弱小校に相応の実力のキーパーだった男が、突如必殺技を使用し、帝国の必殺シュートを止めたのだ。

 その驚愕を隠しきれない帝国の選手を置き去りに、円堂は走る豪炎寺へボールをパスする。

 

 帝国は皆動揺から立ち直れていない。このままシュートを──否。

 

ファイア──」

 

 豪炎寺は、自分の代名詞たる必殺シュートの体勢に入りながら気づいた。

 ただ一人、デスゾーンが止められたことに何ら動じていない男に。

 他の選手達の深緑のユニフォームとは違う、黄色のキーパーユニフォームを纏うその男は──

 

(源田……! だが、撃つしかない!)

 

 どんなに傷だらけになっても諦めず、デスゾーンからゴールを守りきった円堂(アイツ)のためにも。

 ただゴール前に立ち自分を見据えるその男へ、全霊のシュートを放つ。

 

「──トルネード!

 

 全力の回転から撃たれたそのボールは、軌道上に渦巻く炎を撒き散らしながらゴールへ向かう。

 迎え撃つは、帝国が誇る正キーパー。

 

 

 またの名を、キング・オブ・ゴールキーパー。

 

 

 日本に数多いる守護神達の中の王者と称される男、源田(げんだ) 幸次郎(こうじろう)は迫る炎のシュートを前にして、落ち着き払っていた。

 しかし技を出す素振りは見せず、ただ、その場から何歩か前に出る。

 

「何ッ」

 

 豪炎寺も予想外だった。あまりにも無防備だった。

 だが、ファイアトルネードがゴールエリアに侵入した瞬間、彼は動いた。

 

 ゴールへ飛び込もうとするボールに飛びかかり、素早く両手で挟み込む。試合開始直後に放たれた染岡のシュートも、その瞬発力から逃れられなかった。

 しかし必殺技でもないキャッチでそれが止められるはずがない。豪炎寺はおろか帝国の者でもそんな思いが過ったが、守護神達の王の守りはまだ終わってはいない。

 

 なんと彼は、ボールを手にしたまま、その場で足を軸に回転し始めたのである。

 さながら、豪炎寺が“ファイアトルネード”を放つ回転のような勢いで。

 遠心力でボールの炎が周囲に撒き散らされ、その場で炎の竜巻が巻き起こる。

 皆、それを見つめるしかできず、その竜巻がゴール前から動く気配は一向になかった。

 だが、やがて炎が収まり、回転も止まったその時。

 完全に威力の殺されたボールは源田の両手に抱えられていた。

 

『信じられないことが起こりました! 止めました! 源田、豪炎寺の“ファイアトルネード”を、技も使わず止めましたーー! これがキング・オブ・ゴールキーパー! 日本最強の守護神!』

 

「止めた……!」

 

「そんな、豪炎寺が……」

 

「──流石だな、“源王”」

 

 帝国、雷門、観戦者達。誰もがその凄まじい攻防にざわつく中、帝国のキャプテン鬼道(きどう)は相も変わらぬその鉄壁の守りに称賛の言葉を呟く。

 源田は、ざわめきが聞こえないかのように口を開いた。

 

「この程度か。炎のストライカー」

 

「くっ……」

 

「だがその目は悪くない」

 

 挑発のような言葉に、豪炎寺が源田を見て歯噛みするが彼はそれすら眼中にないように、ボールを放り投げた。

 放られたボールは軽やかに飛んでいく。

 

 

 

 

 

 ──帝国のゴールの中へ。

 

 

 

 

 

 

 今度は、ごく一部を除き、全ての者が声を失った。

 圧倒的な守りを見せつけておいて、そのキーパーがまさかのオウンゴール。

 

『なっ、なんとーーっ!? 止めたボールを、源田まさかの自ゴールへスローイン! 王、乱心か──と、ここで帝国より試合放棄の申し出! ゲームはここで終了となります!』

 

 唯一実況がその驚愕を言語化する。流れるように鬼道が審判に棄権を宣言し、会場が落ち着くのを待たずに帝国はフィールドを去っていく。

 

「あれはどういうつもりだ、源田」

 

 雷門が、帝国の試合放棄から廃部を免れたことを理解し、喜ぼうとしているなか、豪炎寺は仲間とともにバスへ戻ろうとする源田の背に声をかけた。

 シュートが止められ、そのボールをわざわざ敵キーパーがゴールに放り込むことで得点となる。

 ストライカーとしてこのうえない屈辱だった。

 彼の守りを破れなかったのは自分の弱さ故。しかし、ここまでストライカーを馬鹿にするような行為は豪炎寺には看過できなかった。

 だが、振り返った源田は豪炎寺の険しい声に眉一つ動かさずに答えた。

 

「餞別だ」

 

「なんだと?」

 

 あのあまりにも度が過ぎた挑発にしか見えない行為が、餞別だという。

 とても信じられないが、源田は豪炎寺がその言葉を呑み込むのを待たずに話し続ける。

 

「今まで出会ったストライカーは皆、俺がシュートを止めるとその膝を折ったが、お前には悔しがるだけの気概はあったようだからな。俺から点を取ったとなれば、周りの目はいやでも雷門に向く。FFまでに練習試合も増えるだろう。だから─

 

 

 

 ──強くなれ。そしてまた俺に挑んでこい」

 

「……」

 

 源田の望みは、強くなった豪炎寺との再戦。

 とある理由からサッカーをやめた豪炎寺は、何も返せなかったが、源田はそれだけ言うと今度こそバスへ戻っていった。

 

「よっしゃあああ!! 豪炎寺、シュートは惜しかったけど、とにかくサッカー部は廃部にならない! お前のお蔭だ!」

 

 取り残されていた豪炎寺を、感極まった様子の円堂を筆頭に雷門サッカー部が寄り集まってもみくちゃにした。

 バスに乗り込む源田は、最後に視線をはしゃぐ円堂にやってから、その中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 源田幸次郎。

 小学生時代から少年サッカーでGKとしての圧倒的な実力を示す。

 その力は彼がキーパーを務めた時、公式・非公式問わずそのチームは試合中無失点であったほど。

 この実力が評価され、王者帝国に勧誘を受け受諾。一年でありながら正ゴールキーパーとなる。

 出場した前年度のFFでも、全試合無失点という前代未聞の記録を叩き出した。

 

 その規格外の防御力はストライカーの心を折り、キーパー達からも畏怖と羨望の眼差しを向けられている。

 彼こそがゴールキーパー達の王。キング・オブ・ゴールキーパー。

 

 だが、そんな彼は、決して自惚れてなどいない。

 なぜなら、彼はその玉座がいずれ()()()()()()()()()()()()から。

 

 円堂守。彼を筆頭として、綺羅星のように優れたキーパー達が現れ、自分を押し退けて世界へ羽ばたいていくことを、彼は知っていた。

 

(負けられるものか)

 

 源田幸次郎。否、源田幸次郎に生まれ変わった一人のサッカープレイヤーは、頂点に立っている今も、その足を止めることはない。

 (きた)る強敵達に、その玉座を易々と譲る気など、微塵もありはしないのだ。




人物紹介

源田幸次郎
今作の主人公。前世でイナイレを見てて、キーパーをしていた誰か。
自分がサッカーをしていたことと、この身体の本来の持ち主の物語しか覚えていない。
現在は、初期豪炎寺のファイアトルネードくらいは素で止める程度に強い。
餞別の意図は本編で説明した通り。彼はKOGというただの肩書きを守りたいのではなく、誰より強いGKでありたいので、底なしに成長する雷門は、最大の壁であると同時に、自身の成長のため必要不可欠な存在だと思ってる。

鬼道有人
帝国の天才ゲームメイカー。自分と双璧を成して帝国の代名詞とされる源田を信頼している。
でもオウンゴールは流石にちょっとビックリした。
円堂守
源田にとって憧れであり最大の敵。この世界線ではキーパー同士の絡みが増えたり……するといいなぁ。

豪炎寺修也
シュート止められたと思ったらそのボールでオウンゴールされた人。


今話からしばらくは、修正を終えている話でさっさと進みます。
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