源王は玉座を譲らない   作:青牛

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鬼道は仲間を見捨てない

 鬼道はフットボールフロンティアスタジアムへ向かって、全力で走り続けていた。

 一度も休まず走っていて、息も絶え絶えといった様子だがその足は止まらない。

 

「ハァッ……ハァ……間に合ってくれ……!」

 

 彼は祈るようにそう呟いた。

 事の始まりは、世宇子との試合を控えた今朝であった。

 彼は他の仲間達と合流するため、いつものように鬼道家の車でバスの待つ帝国学園に向かおうとしていたのだ。

 しかし、そこで予想だにしない事態に巻き込まれる。

 

 突如、いざ出発しようと車が鬼道邸を出ようとしたその時に、巨大なトラックが鬼道邸へ突っ込んできたのだ。

 

 トラックはそのスピードと質量で門を吹き飛ばし、傍にいた鬼道達の乗る車へ真っ直ぐ突進した。

 鬼道は咄嗟に車を出たが、他の者は彼のような素早い反応をすることも、彼が引っ張り出す暇もなかった。

 鳴り響く轟音、鉄屑と化す車。

 鬼道は急いで携帯を取り出して救急を呼ぶ。

 

「父さん!」

 

 鬼道を送り、鬼道が帝国に合流した後、そのままスタジアムへ行って息子の試合を見ようと鬼道の父も車に乗っていた。

 以前、鬼道にFFの3連覇を妹である音無(おとなし) 春奈(はるな)を引き取る条件として約束していた彼であったが、今年の地区大会決勝にまつわる鬼道の変化を感じとったことで、親として失格であったと自省し、しっかりと父親らしいことをしようと考えた矢先の事故であった。

 彼は逃げるのが間に合わなかったものの、急いでシートベルトを外していたので衝突の際の衝撃で車から放り出されていた。

 もう一人、逃げ遅れた運転手も重傷だが息はあった。

 鬼道が父に駆け寄り、腕を支えにして上体を起こす。

 

「父さん、今救急車を呼びました。辛抱してください」

 

「有人……試合は、どうする……」

 

 鬼道は父の言葉で、外面を繕っていただけで混乱仕切っていた頭の中に試合のことを思い出した。

 恐らく、今回の試合の相手は影山の息がかかっているチームだ。

 もしかしたら、これも影山の仕業かもしれない。

 この状況で、チームメイトが自分抜きで戦い始めれば――

 

 だが既に救急車を呼んだとはいえ、大怪我をしている父達を置いてはいけない。

 そう葛藤する鬼道だったが、鬼道の父は彼を見て痛みを堪えながら言葉を絞り出した。

 

「有人……行きなさい」 

 

「父さん!? しかし……」

 

「私達は大丈夫だ……」

 

「父さん達を置いては――」

 

「友達が、待っているんだろう? 遅刻になりそうだが……それは仕方ない。それでも、行ってきなさい……」

 

「…………ッ父さん、いってきます」

 

「……ああ、いってらっしゃい」

 

「――俺のサッカーを、父さんに見てもらいたかったです」

 

 そう言い残して、鬼道はひしゃげた門を越えて走り出した。

 トラックの運転席をチラリと見たが、そちらには人影がなかった。

 無人だったのだ。

 嫌な予感が確信に変わりつつあるのを感じながら走る鬼道の前に、その確信が形を伴って現れる。

 

「どこへ行こうというのかね、鬼道?」

 

「影山……!」

 

「もう総帥とは呼んでくれないのか?」

 

 ゆらりと建物の陰から姿を現したのは、かつての自分達の指導者影山零治だった。

 最後に見たときと変わらぬその姿に歯を剥き出して、低い唸るような声が鬼道の口から出た。

 その激情を目の当たりにしながら、何ら関心を示さずその言葉のみに反応する影山。

 残念だ、とでも言いたげな様子に鬼道の神経が逆撫でされる。

 

「あのトラックはあんたの仕込みか……!」

 

「なんのことを話しているのかわからないな。ただ私は忠告をしに来たのだよ、同じサッカーをする(よし)みでな」

 

「帝国のサッカーは、あんたのサッカーじゃない! 俺達のサッカーだ!」

 

「そう噛みつくな……私が言いたいのは、神の力の前には人間があまりにも無力だということだ」

 

「……どういう意味だ」

 

「見た方が手っ取り早いだろう」

 

 そう言って、影山は手に取った端末の画面を鬼道によく見えるように突き出した。

 映っていたのは、既に始まっている帝国と世宇子の試合だ。

 前半終了も間近でスコアは0ー1。帝国は点を奪われ、そして奪い返すことができずにいた。

 ちょうど今、倒れた選手が運ばれていく。

 

「………ッ!」

 

「これでわかっただろう? 帝国(やつら)は弱い。お前抜きでは強さの前に跪くほかにない愚か者共だ」

 

「違う! あいつらは弱くなんかない!」

 

「だが、お前は違う。鬼道」

 

 (かぶり)を振る鬼道が見えないかのように、影山は言葉を続ける。

 

「お前は私の最高傑作だ。戻ってこい、鬼道。下らない反抗は諦め、私の下でただ勝利のみを求めるのだ」

 

 影山はそう言って、俯いた鬼道に手を伸ばした。

 それを、顔を上げた鬼道が払い飛ばす。

 

「鬼道――」

 

「もう、あんたの言いなりにはならない!」

 

 そう言い捨てて、鬼道は影山をかわしてスタジアムへ走り出した。

 何故か、追いかけては来なかった。

 代わりに、影山は鬼道の背に言葉を投げ掛ける。

 

「……お前のそれは“逃げ”だ、鬼道。

 サッカーがある限り、お前は私を切り離せなどしないのだからな――」

 

 呪いのようなその言葉に、鬼道は聞かなかったふりをした。

 

 

 

 

 

 鬼道が必死に走ってスタジアムへ近づいている頃、帝国は変わらぬ世宇子の激しいプレーに立ち向かっていた。

 余裕のドリブルでゴールへ向かうアフロディに、大野達が何度目になるかわからないディフェンスを仕掛ける。

 

「源田1人に守らせて、DF名乗れるかよぉ!」

 

(痛みも疲れも、今は忘れろ。狂え、純粋に……!)

 

「何度やっても無駄だというのにね」

 

アースクェイク改!」

 

 大野の仕掛けた必殺技を、アフロディは今までと同じように容易く回避した。

 だが、それは大野も計算ずくだった。人間は宙へ浮き上がった状態ではろくに動けない。

 その隙を五条は見逃さない。

 

スピニングカット!」

 

 五条が振り抜いた足から放たれた衝撃波がアフロディへ迫る。

 本来は相手の進路上に当てて、地面から衝撃波を噴出させることでボールを奪う技だが、今回は空中にいるアフロディを狙うため直接彼へ衝撃波を飛ばした。

 どんな強者も、空中ならば身動きが取れないという前提は変わらない。

 

「そんな小細工、神には通じないのさ」

 

 相手が、常識の範疇に居たのならば。

 アフロディは空中に居たままボールを操っていた反対の足で衝撃波を払い、掻き消してしまった。

 

「なっ……んのぉ!」

 

「ヘェアッ!」

 

ヘブンズタイム

 

 策が通じずとも、諦めずアフロディへ詰め寄る2人だったが、彼の力の前には無力だった。

 いつの間にか後ろにいる彼。巻き起こる突風。

 神の歩みは、誰にも止められない。

 

「そろそろ、諦めたらどうかな――真ゴッドノウズ!」

 

「……! オオァ! キングシールド!」

 

 再び盾が神の一撃の前に立ち塞がり、防ぎ切る。既にこの試合で幾度も繰り返されている攻防だ。

 しかし源田には着実に消耗が積み重なり始めていた。

 

「くっ……」

 

「よく耐えるね……その献身にはなんの意味もないというのに」

 

 キングシールドは禁断の技ビーストファングのプロセスを応用している技で、限界出力で衝撃波を放つフルパワーシールドもそうだが彼の腕には相応の負荷がかかる。

 だが、他の世宇子選手ならばまだしも、アフロディのシュートには源田もこの必殺技を使うしかない。

 そこでアフロディは、自分が集中的にシュートを撃つことで源田を限界まで追い詰める方針に変更したのである。

 故に試合が再開してから、シュートを撃っているのは彼一人。守備陣はそれを止められず、彼が最初に止めた一撃を含め、放たれたシュートは既に10本を超えようとしていた。

 

「好きに言っていろ……! ここから先は一点も渡さん!」

 

「さて、いつまで持つかな」

 

 アフロディが、吠える源田に冷たい笑みを浮かべて試すように言う。

 止めたボールはすぐに世宇子の手に渡った。

 

「オラァ! サイクロン!」

 

ダッシュストームV2!」

 

 駆けるデメテルを万丈が止めようとするが、2人がかりのサイクロンも効かなかったのだ。

 1人で止められる筈もなく、彼は吹き飛ばされて瞬く間にボールはアフロディへ。

 

真ゴッドノウズ!」

 

キングシールド!」

 

『また止めたーー! 源田、アフロディのシュートを通しません! 激しい攻防です!』

 

「ハッ……ゥ……まだまだ…!」

 

「何度でも撃とう。キミがその膝を折るまで」

 

 痺れて震える腕を殴りつける源田に、アフロディがそう宣告する。

 あと何発、ゴッドノウズを彼が防げるのか。

 それは定かではないが、確実に限界は存在していた。

 

「これ以上、源田に無理はさせられねえ…!」

 

 弾かれたボールをなんとか確保した渋木だったが、前を向き直した彼を既にヘパイスが待ち構えていた。

 かわそうとしたが、ヘパイスは逃がさず必殺技を発動する。

 

裁きの鉄槌!」

 

「くそ――」

 

 渋木が、咄嗟にボールを椋本に渡した代わりになす術なく神の裁きに踏み潰される。

 ヘパイスがボールを奪ったあとには、うつぶせで倒れ伏す渋木の姿があった。

 

「渋木先輩!」

 

「いや、逃げろ成神ぃ!」

 

「へっ?」

 

 倒れる先輩を見て声を上げた成神に、寺門の怒鳴るような勢いの呼び掛けが届く。

 一拍おいて、自身の足下にボールが転がってきていたのに気づく。

 

「神の裁きから逃れられはしない……」

 

 帝国の前衛がこちらを避けていると感づいた世宇子が、わざとそちらへ渡るように転がしたのだ

 反応は間に合わない。この場の神々に一切の容赦はなく、ディオが成神へ狙いをつけた。

 

メガクェイクV2!」

 

「うわあぁぁ!!」

 

「成神!」

 

 ボールがフィールド外へ弾き飛ばされた。

 同じく隆起した岩盤に打ち上げられ、地面に叩きつけられる成神。

 

『帝国また負傷か!? 圧倒的な力を見せます世宇子イレブン! その力はもはや人を超えています!』

 

 倒れて動かない渋木がフィールドから運び出されていく。

 しかし成神は、よろめきながら立ち上がった。

 

「成神、お前もだ。無茶するんじゃない」

 

「……いやっすよ。これ以上抜けたら、鬼道さんが来ても“大帝ペンギン”が覚束なくなるでしょ?」

 

 成神はそう言って佐久間の交代の勧めをはね除けた。

 結果として退場していったのは渋木1人。

 彼の代わりに、同じ3年生の恵那(えな) 和樹(かずき)がその穴を埋める。

 

「恵那さん、本当によく注意してくれ」

 

「わかってる。お前らに心配かけないようにしなくちゃな」

 

 恵那は帝国でもレギュラーに相応しい実力を持っているが、故障しがちなためにその座を得られない人間だった。

 この危険な戦場に出したくはなかったが、人手を減らすわけにはいかない。

 スローインで再開した試合。

 やはり激しい攻防が展開された。

 ボールを確保した五条がそれを前線へ運ぼうとするが、世宇子の守備陣が立ちはだかる。

 

「ククク…! おいたが過ぎましたねえ……!! 分身フェイント!」

 

 仲間達を痛め付けられたことの憤りを不敵な笑みで隠しながら、増えた五条は相手を翻弄して突破しようとする。

 しかし、世宇子に端から本物を捉える気はない。

 

「「裁きの鉄槌!!」」

 

「ク――」

 

 2人がかりの、広範囲を覆う巨大な2本の足に五条は分身ごと踏み潰されて呆気なくボールを奪われてしまう。

 そして、またボールはアフロディへ。

 

「……これで10本目だ。源田くん、そろそろ現実が見えてきたかい?」

 

「ああ、見えているとも。お前が俺を破れんという現実がな!」

 

「確かにキミは強い。業腹だが神に最も近い人と呼んでいいだろう。だから、チャンスをあげよう」

 

 彼はこれまでの発言から一転して、向かい合う源田を称えるように告げた。

 だがその目は一切笑っていない。

 怒りに触れた者を完膚なきまでに潰そうというような、まさしく神の如き冷たいものだった。

 

「今からでも遅くはない。意味のない足掻きは諦めて、そのゴールを捨てたまえ」

 

「なんだと……!」

 

「強がりは止したまえ。わかっているよ、キミももう限界だろう?」

 

 憤る源田を、有無を言わさぬアフロディの視線が射貫く。

 

「神は、認めた者には慈悲をもたらすこともある。弱い仲間達を捨ててキミが従うのならば、栄光ある一席を用意しよう」

 

 彼の言葉は、これほどに自分達に失態を演じさせた男の矜持を折るためのもの。

 ただひたすらに源田の誇りを踏みにじるだけの言葉だ。

 

「………な」

 

「なんだい?」

 

「ふざけるなッ!!」

 

 王の答えは決まっている。

 

「俺は、帝国のGKだ。皆がそう呼ぶ限り、俺がキング・オブ・ゴールキーパーだ! あらゆる守護者達を差し置いてそう名乗る俺が、ゴールを捨てられるわけがないだろうが!!

 シュートが怖くてゴールを明け渡す輩に、ゴールを守る資格はないッ!!」

 

 血走った目を見開きながら吠える。

 その形相に、アフロディのみならず眺めていた世宇子イレブンまでもが怯んだ。

 

「ゴールを狙うストライカーに余計な御託はいらん。さあ撃ってこい! 必ず止めてやる!

 

 

 

 

 ――たとえこの腕が壊れようとも…………!!

 

「……いいだろう。差し伸べられた神の慈悲を払い除けるというのなら、相応の末路を覚悟することだ……!」

 

 気迫に当てられていた状態から立ち直ったアフロディがシュート体勢に入るのを見ながら、源田が構えを取る。

 

真ゴッドノウズ!」

 

キング――」

 

「うおおおあぁぁぁ!!」

 

 その間に、大野が雄叫びを上げて割り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

(何がDFだ)

 

 アフロディがシュート体勢に入るのを眺めながら、心中でそう吐き捨てる。

 

 もう何度、あの神を名乗るプレイヤーにシュートを許した。

 

 もう何度、共に守ると言いながら守護神に負担を押し付けた。

 

(源田、お前はいつも自分を勘定にいれやがらねえんだ)

 

 並のキーパーならば一度も防げず、守りを放棄して逃げ出して当然のシュートを幾度も防ぎ、そしてもう一度立ち向かおうとしているGK。 

 自分の見立てでは、彼も限界が近い。

 鬼道が来て点を取れるようになったとしても、その頃に源田が壊れていては意味がないのだ。

 

(佐久間達が無事なのはいい。でも、代わりにお前が倒れてたら意味がねえんだよ!)

 

 源田もまた、絶対に帝国のために必要な男だ。

 守らなければならない。

 ならばどうすればいいか、それはもうわかっている。

 

「ぐうぅおおおおッ!」

 

「だいでん!?」

 

「愚かな……」

 

 腹に全力で力を込めて、道を塞ぐ不届き者を灼く白い稲妻を纏ったボールを受け止める。

 吹き飛ばされないように思い切り大地を踏みしめるが、地からは離れずともシュートの勢いにはとても抗いきれず地面に2本の痕を残しながらゴールへと引きずられていく。

 このままでは、GKの邪魔をしただけ。だから、足の向きを変えた。

 

 体とボールの進路が、ゴールのど真ん中から逸れていって、大野の背中はゴールポストに激突する。

 そこでようやくボールは跳ね、高く飛び上がってゴールを越えていった。

 ゴールポストに叩きつけられた大野が、仲間達に駆け寄られながらその場にどさりと倒れ込んだ。

 

「だいでん! お前なんてことを……!」

 

「大野先輩!」

 

「へ、へへっ……止めて、やったぜ。うっ、ゲホ! なにが神だ、ざまあみやがれ……」

 

「……!」

 

 咳き込みながら彼はニヤリと笑って、シュートを止められたストライカーへ視線をやった。

 そのアフロディは、それだけで人を殺せそうな程の激情を込めて大野を睨み付けていた。

 

「どうだよ、源田。俺もゴール……守れたぜ?」

 

「だいでん……ああ、ああ! お前は守ってくれた! ありがとう……! 絶対に俺も守ってみせる……守るからな……!」

 

「担架早く!」

 

 フィールドに駆け込んで来たスタッフに担架へ乗せられ、連れ出されていく。

 その時、異様な程静かだったスタジアムに、激しい足音が響いてきた。

 

「皆……! 遅れてすまない!」

 

「鬼道さん!」

 

「鬼道……」

 

「ぶちかましてやれ、皆……」

 

 大野はそれを最後に、笑って目を閉じた。

 

 

 

 




源田幸次郎
点は渡していない。ただし限界もある。
普通1試合であんなシュート何本も飛んでこない。

アフロディ
神になった筈なのにシュート何本も止められて内心ピキピキしてる。

鬼道父
犠牲になった(死んでない)

影山零治
事故を起こした人。
どっちかというと、ゼウスと戦って最高傑作に万が一にも怪我をさせたくなかったという感じ。
トラックは普通危ないけど鬼道なら避けられるだろうという判断。

大野伝助
だいでん。体を張ってゴッドノウズを止める。
DF陣は多分原作ゼウス戦でも相当体張ってたと思う。



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