源王は玉座を譲らない   作:青牛

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源王は誇りを裏切らない

 ついに姿を現した、帝国学園サッカー部のキャプテン鬼道有人。

 しかし、自分がいない間に戦い傷ついていた仲間達を前に、ゴーグルの上からでもわかる沈痛な面持ちをしていた。

 

「皆、遅れてすまな――」

 

「来てくれてよかった、鬼道」

 

 謝ろうとした鬼道の肩に、源田が微笑みを浮かべながら優しく手を置いた。

 誰も、この試合に遅れてやって来た鬼道を責める者などいない。

 ただ彼が来てくれて嬉しい。無事でよかった。

 

「何があったかは今は聞かない。

 

 

 

 ――サッカー、やれるな?」

 

「……ああ。もちろんだ」

 

『帝国学園、天才ゲームメーカー鬼道をフィールドに加えました。ここから反撃なるか!?』

 

 鬼道がフィールドへ入る。

 世宇子のサイドキックで試合が再開されたが、前半の時間はもう残り僅か。

 ボールを奪うべく帝国は死に物狂いで世宇子にぶつかっていった。

 

「うおぉぉぉーーー!」

 

 鬼道は鋭いスライディングでボールを奪い取り、世宇子選手が追おうとする前に突き放す。

 真・神のアクアによって絶大な身体能力を得た世宇子の選手を凌駕する力を発揮したのは、彼にとっては当然のこと。

 仲間達がボロボロになりながらも、自分を信じ、勝つために戦い続けている。

 遅れて来た自分が誰よりも動かなければ、キャプテンなど名乗っていいわけがない。

 

「通すな!」

 

 アフロディの鋭い指示が飛ぶ。

 気合いでボールを奪ったものの、かといって自ゴール付近から世宇子ゴールまでは距離がありすぎた。

 センターラインに近づいた所で、世宇子の守備陣が動き出すのが彼のゴーグルに映った。

 

「くっ……」

 

 佐久間達が大帝ペンギンに備えて世宇子の陣地に入り込んでいく。

 彼らにパスを回せば、その途端に守備陣はそちらへ必殺技を差し向けるだろう。

 しかし自分1人ではこの守備の突破は至難の業だ。

 攻めあぐねて、止まりかけた所に後ろから仲間の声が届いた。

 

「鬼道! こっちだ!」

 

「万丈!?」

 

 彼はこちらへ向かいながら、ボールを渡すように促した。

 DFである万丈にこの守備を破れるドリブル技はなかった筈。

 しかし、覚悟の決まった彼の眼を見て、鬼道はすぐに決断した。

 

「頼むぞ万丈!」

 

「ああ。行け、鬼道!」

 

 必ず万丈がボールを届けてくれると信じて、鬼道も前へ走った。

 ボールを持った万丈へ手近な選手が迫る。

 鬼道が危惧した通り、万丈はこの守りを突破できるような強力なドリブル技を持ち合わせていない。

 だが、ボールを鬼道へ渡せさえすればいいのだ。

 世宇子の守備を越えるのは自分ではなくボール。

 

「届けよ……!」

 

「無駄だ」

 

「神の力には無力!」

 

「「裁きの――」」

 

 詰め寄って来て、頭上にエネルギーで足を形成した世宇子の選手を尻目に、万丈はいつもその必殺技を放つように足を振りかぶった。

 周囲から風を集め、ギリギリまで意識を張り巡らせて指向性を与える。

 

「「――鉄槌!!」」

 

サイクロン!」

 

「何っ!?」

 

 本来ならボールを持つ相手選手へ放つ風をボールへ向けて放ち、その暴風を受けたボールは世宇子の選手達を飛び越えていった。

 万丈はいやにスローな動きで眼前に迫る、巨大な足を視界に捉えながら、飛んでいったボールを受け取った自分のキャプテンの姿を見て笑った。

 

「行け――お前ら」

 

 万丈が神の足に踏み潰される震動を背中で感じながら、鬼道は口に手をやり、高らかに指笛を吹き鳴らした。

 姿を現すペンギン。走り出した佐久間と寺門。

 

「必ず決めてやる!」

 

「させるものか……! 蹴り返して――」

 

 その決意を叫び、鬼道はボールを蹴り上げた。

 だがそれを黙って見ている筈もない。

 アフロディがその神速を存分に発揮して自ゴールまで戻って帝国のシュートを迎え撃とうとする。

 だが走る彼の視界を突然、帝国のジャージの緑色が埋め尽くした。

 

「なっ!?」

 

「ククク…」

 

(この男、ボクを一瞬止めるためだけに全力を!?)

 

 アフロディの進路に体を割り込ませてその走りを五条が、ほんの一瞬止めてみせる。

 本来の彼ならば満身創痍の五条の妨害程度、涼しい顔でかわしてみせただろうが、今の彼はとても冷静ではなかった。

 五条はすぐに力負けして撥ね飛ばされたが、アフロディはもう間に合わない。

 

大帝ペンギン!!!」

 

 デスゾーンの死のエネルギーを纏ったペンギンがボールと共に世宇子のゴール目掛けて飛んでいく。

 

 所詮、先ほど簡単に止められた必殺技が合わさっただけだ。

 

 世宇子の海神GKポセイドンは、そう自分に言い聞かせながら、全身に力を漲らせていく。

 それを掲げた両手に集めて、思い切り地面へ叩きつけた。

 

ツナミウォールV2!!」

 

 現れる津波の壁を、今度こそ破らんとしてペンギンが嘴を突き立てていく。

 荒々しく揺れる水越しにそれを見て、ポセイドンはそのシュートの力強さを感じ取った。

 ポセイドンの感覚は正しく、程なくしてペンギン達はボールと共に、ついに津波を突き抜けた。

 

「なんだ、この力は……!? ――うおわぁ!」

 

 眼前に来たそれを咄嗟にポセイドンが両手で抑え込むが、とても止められるものではなかった。

 すぐに彼を弾き飛ばし、この試合で初めて、ボールが世宇子のゴールネットを揺らした。

 

『ごっ……ゴール! ついに帝国得点! 世宇子に同点ーーー! 王者の意地を見せつけました!』

 

「やった……!」

 

「鬼道さん!」

 

「馬鹿な……こんなことが、あってなるものか……!」

 

 ついに失点を許してしまった世宇子イレブン、アフロディがその目を動揺に揺らす。

 完璧な勝利をする筈だった。それに塗りつけられた泥。

 世宇子のキックオフで試合が再開した瞬間、ボールを持ったアフロディは、その美しい顔を激情に歪めてゴール目掛けて突撃していた。

 

「ボク達は、神の力を手に入れた……! その筈なんだ……!」

 

「行かせん、アフロディ!」

 

「邪魔だぁ!」

 

 鬼道が立ちはだかるが、必殺技を使う時間も惜しかった。

 

 一刻も早く、あのGKもろともボールをゴールへ叩き込みたい。

 

 そんな激情に駆られていながらもアフロディのプレーは、帝国で随一のテクニシャンである鬼道に比肩するもので、身体能力の圧倒的な差からアフロディは鬼道のディフェンスを時間をかけずに突破した。

 そして、鬼道以外の気力だけで立っている帝国の守備など障害にもならなかった。

 

「神に、勝利以外は許されていないんだよ!」

 

 もはや一片の泥臭さもない、圧倒的で完璧な勝利などありはしない。

 本当なら、とっくに潰している筈だった帝国を、心身から支えていたのはあの男だ。

 

「源田幸次郎……! これで終わりだ――」

 

 ペナルティエリアに踏み込み、翼を広げて飛び上がった。

 これまでで最も、強大な力をボールに込める。

 

――ゴッドノウズゥゥ!!!

 

 なんとしてもこの失態を拭うために、ゴールどころか、下手をすればその向こうの観客席も吹き飛ばしかねない渾身の一撃を、ただ1人のGKを粉砕するためだけに見舞った。

 

 

 

 

 

 源田はそれを静かに見据え、腕を広げた。

 これで、10回目のキングシールドだ。

 

(だいでん、お前のお陰だ)

 

 源田は、とっくに限界に達していた。

 本来ならばキングシールドは万全でも1試合に6回程度が限度だった。

 それをさらに負荷がかかるやり方にして、安全圏を大きく踏み越えたのだ。

 もはや痛みは感じない。

 彼から腕の感覚は消えており、ただ気力だけで動かしていたのだ。

 それでも、鬼道が来る直前のアフロディのシュートを止めるために10回目のキングシールドを使っていれば完全に動かなくなっていただろう。

 

 だが、大野がそれを代わりに止めた。

 

(お前のお陰で、ゴールを守れる――!)

 

 彼らこそ、自分の誇りだ。

 そして王者がその仲間(誇り)を裏切ることなどあってはいけない。

 

 腕に力を込める。

 打ち合わせ、盾を作る。

 獣の力を注いで完成させる。

 

キング――」

 

「――シールド!!!

 

 吠える百獣の王の盾の大口に、ボールが突き刺さる。

 ギャリギャリと、普通ボールから鳴る筈のない耳障りな音を奏でながらシュートと盾は拮抗していた。

 源田は、躊躇わずその盾に手を入れて、必殺技と共に直接ボールを抑え込む。

 

「倒れろ! 屈しろ! 神の力の前に……!」

 

 アフロディが、凄まじいシュートを受け止めている源田よりも切羽詰まった表情で叫ぶ。

 そこに、試合前のような余裕はかけらもなかった。

 なりふり構わず振るった神の力は、これまで最大のシュートを作り出していた。

 

 長い拮抗の末に、盾が甲高い音を立てて砕け散ったのである。

 

「ハッ……アハハハ! ハ……」

 

 神はその光景を見て狂ったように笑い声を上げた。

 だが程なくして止む。

 盾を破ったのに、いつまで経ってもゴールネットは揺れず、審判も笛を吹かなかったからだ。

 

「馬鹿な……! どこに、そんな力を……!?」

 

 源田は未だ力を残すボールを、盾が砕かれながらも両手で抑え込もうとしていた。

 

「ハァァァッ!」

 

 盾が消えて、さらにシュートの圧力は増した。

 感覚のない手どころではなく、全身が神の力によって灼かれるような痛みを発し続けている。

 だが一歩も退かない。絶対に止めてみせる。

 源田は、あの世宇子の猛攻を鬼道が来るまで堪え忍び、大帝ペンギンでゴールを決めてみせた仲間達の想いを、裏切りはしない。

 何より、自分達は約束した。

 再び挑んでくる挑戦者達を、王者は(いただき)で迎えてやらねばならないのだ。

 

(雷門中、必ず決勝(そこ)へ行く! 待っていろ!)

 

「円堂ォォォォォォ!!」

 

 腕を突き出し、足を踏み込む。ボールをこれ以上ゴールへ進ませないように。

 圧の逃げ場をなくしていく(たび)、痛みは増していった。

 

「あ゛あ゛あ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」

 

 崩れ落ちそうな情けない体を、叫ぶことで押し留めた。

 決死の想いでゴールを守る源田には、体に罅が入るような音など気にもならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その攻防の決着を、スタジアムの誰もが固唾を飲んで待つ。

 盾とボールの激突がフィールドの芝生を捲り、その下の土まで巻き上げたことで発生した土埃で帝国のゴール付近の視界はゼロとなっていた。

 

『凄まじい技と技の攻防です! 一体、ボールの行方は――』

 

 その時、音が止んだ。

 全ての目が土埃の晴れ始めたゴールへ向く。

 やがて見えたのは、人影。

 源田は体の殆どをゴールの内側に押し込まれながらも、突き出した手の内にあるボールにゴールラインを越えさせることを許さなかったのだ。

 

『とっ……止めました! 源田止めました! 今大会でも類を見ない強力なシュートを止めてみせましたーー!』

 

「源田……! よし、もう一点――」

 

 鬼道が守護神の働きを見届け、反撃に回ろうとして気づいた。

 帝国のオフェンス、ディフェンス問わず全ての選手がその場に倒れ伏していたことに。

 

「お前達……」

 

 彼らもまた、世宇子の激しい必殺技を受けて体を傷だらけにされながら気力で立ち続けていたのだ。

 限界を超えながらも走り続けた夢のような時間も終わりを告げ、彼らの体は現実を思い出しただけに過ぎない。

 同時に、ポスリとボールが跳ねる軽い音が鳴った。

 小さな音だったが、鬼道は聞き逃さずゴールを振り返った。

 

「源田……?」

 

 源田の手から、ボールが落ちてペナルティエリアから出るように転がっていた。

 彼の姿勢は先ほどから変わっていないのに。

 嫌な予感を感じて駆け寄ろうとしたが遅かった。

 

 ゆっくりと、おかしなほどにその動きは鬼道の目にはスローに映った。

 

 ぐらりと、その男の体は揺れ、後ろへ傾いていく。

 

 背中から地面に叩きつけられながら、広げられた彼の腕が動くことはなかった。

 

 

 

「源田ァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 担架を持った救急隊員達が急いでフィールドへ駆け込んで来る。

 スコアは1ー1。同点だが帝国選手がサッカーをできる状態ではなくなったため、世宇子の勝利としてこの試合は決着した。

 

「アフロディ……貴様らァ!」

 

「鬼道くん。キミは運がよかった」

 

「なん……」

 

 ここまで仲間達を痛めつけた張本人である世宇子イレブンへ食ってかかろうとした鬼道だったが、遮るように放たれた、アフロディの冷えきった声に気圧された。

 彼の視線は鬼道には向いておらず、同点を示す電光掲示板だけに、穴を開けそうな程注がれていた。

 

 勝者であるというのに、全くそうは見えない張り詰めた様子で世宇子イレブンはスタジアムを去っていった。

 

「すまない皆………すまない………ッ!!」

 

 誰にも届かない鬼道の慟哭だけが、フィールドに響いては消えていった。

 

 




源田幸次郎
ゴールを守り切って倒れる。

帝国イレブン
限界突破してる。
1点取った所で僅かに緊張が解け、そこから一気に意識を持ってかれてた。

世宇子中
やべえよ……真・神のアクア飲んだのに点取られて同点だよやべえよ……

ポセイドンくん。
めでたくラスボスキーパーに。
源王を超えるゴッド・オブ・ゴールキーパーとなれるか()


世宇子戦も決着したので、次の更新まで少し間が開きます。

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