源王は玉座を譲らない   作:青牛

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鬼道のサッカーは終わらない

「帝国学園が……1ー1で、世宇子中に敗れました」

 

 その知らせが届いた時、雷門の面々は誰一人それを信じられなかった。

 一番初めに、彼らが雷門イレブンとして走り出す契機となった練習試合。

 そこで出会い、圧倒的な力を見せつけ、出場した地区大会の決勝戦で全てをぶつけ合い、それでも敗れた相手。

 そしてこの全国大会で再戦を誓った王者達が、1回戦で敗れたという事実は到底受け入れられるものではなかった。

 

「あいつらが……帝国が負けるわけない!」

 

「ガセじゃないのか? 点数からしておかしいじゃねえか」

 

「そうだ! 音無、どういうことだ?」

 

 地区大会決勝にて、延長戦までもつれ込む死闘を演じながら、それでも敵わなかった帝国の実力を身を以て知っている円堂が(かぶり)を振って叫ぶ。

 染岡は幾分か冷静に、今聞いた話から明らかな異常を指摘した。

 彼らの言葉を受けながら、音無はイナビカリ修練場に駆け込んできた時からの暗い表情を解かず、静かに疑問に答えた。

 

「見たこともない技が次々に使われて、帝国の選手が試合をできる状態じゃなくなったんです。何人も負傷者が出て、皆病院に送られたそうで……」

 

「そんな……」

 

「あの帝国がそんなことになるなんて、あり得ないッス……」

 

 壁山が思わずそう言わざるを得ない程、帝国は強かった。

 円堂はそれでも声を上げる。

 

「そんなわけない! 帝国の強さは、戦った俺達が一番よく知ってる! あいつら本気で強いんだ。鬼道も、源田だっているんだぞ! あいつらが負けるわけないじゃないか!」

 

「そうだ、源田はそんじょそこらの奴に点を許すタマじゃねえ!」

 

「……ああ。あいつの守りは間違いなく全国トップクラスだ」

 

 円堂の叫びに同調して、源田から初得点を果たしたが故に、誰よりも実力を思い知っている点取り屋の染岡が叫び、豪炎寺も同意する。

 自分達が彼から点を奪えたのは、隙を突くことが出来たからだ。

 あの戦いで、源田の守りを真正面から破ることは叶わなかった。

 音無は、それこそ泣き出しそうな声になって彼らの言葉を否定する事実を述べていく。

 

「お兄ちゃん……試合に途中まで居なかったんです」

 

「え?」

 

「試合に向かおうとした所で、家に車が突っ込んでくる事故が起こって……怪我はしなかったけど、それで試合に遅刻して、参戦したのは前半終了間際だったんだそうです。

 

 帝国は試合開始直後にとてつもないシュートで点を奪われてから、世宇子のプレーはただただ圧倒的な蹂躙だったと。

 

 源田さんはそれからも必死に守ってたんですけど、反撃ができなくて……お兄ちゃんが来てからようやく1点取り返した所で、皆倒れてしまったんです」

 

「それで、同点での敗退だってのか……」

 

「源田……あいつが点を取られるなんて……鬼道達が負けるなんて……そんなの、絶対ありえねえ!」

 

 感情の収まりがつかなかった円堂は、壁山が宥めるのも聞かず、彼らに直接問い質すべく修練場を飛び出していってしまった。

 残された者達にも、円堂程ではないが、簡単には受け入れられない結果だった。

 

「信じられねえよ。あの源田から開始早々に1点を取るなんて……一体どんな奴だっていうんだ」

 

「音無さん、その世宇子中って人達は何かないッスか?」

 

「それが、全く情報がないんです。今回の試合が初めての情報です。……あまりに圧倒的で、情報になりませんが」

 

「そんな……」

 

「……今は練習に戻ろう。今は円堂にはやりたいようにさせてやればいい。俺達がやらなければならないのは、まず2回戦に備えて力をつけることだ」

 

 豪炎寺がそう纏めて、雷門イレブンは不安と戸惑いを残しながらも練習を再開した。

 帝国を下した謎の強者達、世宇子中とは何者なのか、想像を巡らせながら。

 

 

 

 円堂が駆け込んだのは、おそらく鬼道達が居るであろうと考えた帝国学園。

 とにかく、サッカー部の彼らが関わりを持ち、円堂自身が思いつく唯一の場所である、地区大会決勝も行ったスタジアムへ向かった。

 そこに行けば、以前駆け回り、戦った芝生の中央に立ち尽くす鬼道の姿があった。

 

「鬼道!」

 

 彼の名を呼べば、ゆっくりと振り向いて顔を向けてきた。

 そこに最後に会った開会式での覇気はなかった。

 見れば見る程、彼らが負けたという事実を思い知らせてくる。

 

「笑いに来たのか? 円堂。……当然だな。俺の無様は、笑われて然るべきものだ」

 

「笑うわけ、ないだろ……!」

 

 競い合った相手の、今まで見たことのないその弱々しい姿を認めたくなくて、円堂はただただその言葉を否定するしか出来なかった。

 見ていられなくて、思わず持ってきていたサッカーボールを鬼道へ蹴る。

 だが鬼道は、本来の彼ならば見なくても取れるであろうそれに反応できずに当たってよろけ、尻餅をついた。

 立ち上がってもボールを蹴り返すことはなく、持ち上げた。

 ボールを抱えた手に力が籠るが、無意味だと気づいて脱力し、出来たのは円堂へ転がるように投げることだけだった。

 

「40年間無敗、常勝の帝国……その伝説を、俺達は終わらせたんだ。これまで勝つことだけを考えて戦い続けてきた。それが……仲間達が死に物狂いで戦った試合に遅れ、あいつらが倒れるのを見届けることしか出来なかったんだ」

 

「そんなことない! お前が来たから、点を取れたんだろ!?」

 

「俺が来るまで源田が、仲間達が立ち続けていてくれたからだ。俺はその仲間達が倒れるまで戦ったのに、こうしてのうのうと、なんの怪我もなく立てている……!!」

 

 円堂があの試合での得点を話題に上げるが、鬼道には何もかもが、自分を更に惨めにするものにしか感じられなかった。

 拳を握りしめ、口元をギリギリと震わせる。

 

「鬼道……」

 

「もう、俺にはあいつらに会わせる顔がない。……俺のサッカーは終わったんだ。こんな形、想像したこともなかったがな」

 

「そんなことない! お前が見捨てない限り、サッカーはお前のものだ、鬼道!」

 

 そう言って円堂が投げてきたボールに、今度は不思議と蹴り返すことができた。

 返ってきたボールを受け止めて、円堂は無邪気に笑う。

 

「ほら。やっぱりお前、サッカーが好きじゃないか」

 

「……お前には、敵わんな」

 

 その後、鬼道は円堂を家に招いた。この男になら話してもいいと、そんな気がして。

 そうして自身のサッカーのルーツを語ったり、それで円堂のサッカー馬鹿は祖父譲りだとわかったり、知らなかった互いのことを知ることになった。

 

 

 

 そんな静かな交流の翌日。

 鬼道は2回戦の相手、鉄壁の防御を売りにする千羽山中との戦いに向けて特訓を開始した雷門中の様子を見にもいったが、明るくサッカーをする彼らを、すっかり折れてしまった自分と比べてしまってまた気落ちしてしまう。

 その時、彼の存在を気付いた音無がついてきて、夕陽が差す河川敷で話をすることになった。

 

「お兄ちゃん……世宇子中戦のこと、聞いたよ。残念だったね……」

 

 音無がそう慰めの言葉をかけるが、最愛の妹の言葉でも鬼道の心は晴れてはくれなかった。

 

「残念? 残念なんてものじゃない。俺は仲間があんなことになっている時、その場に居ることも出来なかった。守ることも、助けることも出来ちゃいない…! こんなに悔しいことが、自分を憎んでしまうことがあるか……? 俺は……俺は……!」

 

「自分を責めちゃダメよ! お兄ちゃんは何も悪くないじゃない!」

 

「だが……皆病院だ。俺以外は。俺にはもう、サッカーをやる資格は……」

 

 その時、炎を帯びたボールが鬼道目掛けて飛んできた。

 

「――ぐああ!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「くっ……こんなボールを蹴ることが出来る奴は……!」

 

 反応できず、ボールを腹にまともに食らって土手を転がっていく鬼道を見て音無が悲鳴を上げた。

 感じる熱さと痛みを堪えて、ボールが飛んできた方へ顔を向ければ、予想した通りの人物がこちらへ歩いてきていた。

 

「豪炎寺か……」

 

「豪炎寺先輩!」

 

 雷門のエースストライカー豪炎寺 修也である。

 音無は、突然の凶行を起こして、まだ鬼道へ歩み寄ってくる彼を止めようとする。

 

「豪炎寺先輩! 違うんです、お兄ちゃんは別にスパイをしに来た訳じゃないんです! 本当です!」

 

「……“お兄ちゃん”か」

 

 豪炎寺は兄が疑われていると考えて潔白を訴える彼女の言葉に自分の妹のことを想起しながら、立ち上がった鬼道の前までやって来た。

 

 彼は鬼道に一言、来いと言って下のグラウンドへ降りていく。

 鬼道も、心配する音無が安心するよう肩に手を置いてから豪炎寺に続いた。

 2人は河川敷のグラウンドでシュートをぶつけ合いながら叫ぶ。

 

「鬼道! お前は、帝国の奴らの怪我を自分のせいだと思うのか!」

 

「黙れ……! なんと言われようと、俺が試合に遅れて来た事実は覆らない!」

 

 思い出すのは、試合終了と共に運ばれていった帝国イレブンの様子。

 

『放せ! まだだ! まだやれる! 俺が、俺達が、点を決めなきゃならねえんだァ! 放せェェェ!!』

 

『やめなさい! キーパーの彼もだが、君もひどい怪我なんだぞ!?』

 

『もう試合は終わった! 落ち着くんだ!』

 

 担架に乗せられようとした時に目を覚まし、終わってしまった試合に戻ると叫んで暴れ、取り押さえられた寺門。

 完全に意識を失い、鬼道到着と同時に運ばれていた大野や、試合後に運ばれていった佐久間達。

 世宇子の恐るべきシュートを受け続け、何より、誰よりも傷ついた源田。

 彼らを、鬼道は見送ることしか出来なかったのだ。

 

『右腕は――骨折だそうだ。全治1ヶ月以上はかかるらしい。

 

 ……鬼道、なんて顔してる。先生が言うには、後遺症が残るようなものではない。治ればまたサッカーはできるんだから、そんな顔をするな』

 

 こちらを見て苦笑いしながら慰めようとする源田の、右腕をギプスで固定した姿は頭から離れなかった。

 包帯で覆われた左腕も傷だらけなのはまるわかりで、顔などにちらほら見えるガーゼからも、世宇子を相手にして彼がどれだけ無理をしたのかは察するに余りある。

 どこからともなく、お前のせいだと刻みつけるような声が聞こえた気さえしたのだ。

 

「お前の仲間達は、お前が来るのを信じて戦い続けたんだろう!? その結果に後悔するとしても、無念に思うとしても、それは彼らだけのものだ!」

 

「じゃあどうすればいいんだ! 俺は……仲間を守れなかった俺は、どうすればいい!?」

 

「サッカーをしろ!」

 

 こんな心を抱えてサッカーなどできない。

 それでも、この男はやれと言う。

 

「負けて、仲間を傷つけられ、悔しくはないのか!」

 

「悔しいさ! 世宇子中を倒したい! 仲間の仇を討ちたい!」

 

「だったらやればいいだろう!」

 

「無理だ! 帝国は敗退した……もう、戦えない」

 

「自分から負けを認めるのか、鬼道!」

 

 豪炎寺は、その弱音ごと焼き尽くすようにファイアトルネードを放つ。

 激しいシュートの応酬に耐えきれなかったボールが破裂してこのやり取りは終結を迎えた。

 

「鬼道、1つだけ方法がある」

 

「――――」

 

 豪炎寺の提案に、鬼道は答えなかった。

 だが、言うべきことは言った。

 後は彼次第だと、豪炎寺は鬼道の背を見送った。

 

 

 

 

 

 病院では、帝国の選手達がベッドに横たわっていた。

 誰もが痛々しい傷を負い、痛みに呻く。

 大野などはまだ起き上がることもできずにいる。

 

「……サッカー、したいな」

 

 源田もまた、安静にすることを言いつけられて何もすることもなく天井を見つめていると、ガラリと扉の動く音がした。

 

「源田」

 

「鬼道か。むん……」

 

「よせ源田。そのままでいろ」

 

 病室に入ってきたのは、彼ら帝国学園サッカー部を束ねるキャプテンの鬼道だった。

 源田は、体を起こそうとしたが鬼道に止められた。

 大人しく従ってベッドに横たわった姿勢に戻る。

 

「お父さんはどうだった? 大丈夫か?」

 

「ああ。父さん達も命に別状はないそうだ。お前こそ腕は……いきなりよくなるわけはないな。すまない、気の利いたことも言えないで」

 

「謝るな鬼道。この怪我は俺が、そうなるかもしれないと知っていて戦った結果だ。俺以外の誰にも責任などない」

 

「そうか……俺も、最後の決心がついた」

 

 源田は少し目を丸くする。

 責任感の強い鬼道は、もう自分達では何を言っても自分を責めてしまいそうな気がしていた。

 だが今の彼の言葉に、その暗さは既にない。

 見てみれば、鬼道はゴーグル越しでもわかる程に目が違う。

 もうその瞳に後悔と自責に押し潰されそうな危うさはなかった。

 

「源田。これは佐久間達にも後で話してくるが……俺は雷門に転入しようと思う」

 

「雷門に?」

 

「俺はこのままでは終われない。世宇子を倒し、お前達の仇を討ちたい。証明したいんだ、帝国はまだ負けていないと」

 

「お前が決めたのなら、俺がどうこう言うこともないだろう。サッカーをしたいなら迷う必要はない。行ってこい、鬼道」

 

「……ありがとう。お前の分も戦って、俺は必ず世宇子中を倒す」

 

 手は握れなかったが、サッカーへの情熱の籠る視線を通して、2人の心は繋がっていた。

 

 雷門中の千羽山戦当日、青いマントをはためかせて現れた男がスタジアムを揺るがせることになる。

 

 




源田幸次郎
腕が壊れた。色々ぼろぼろ。

帝国イレブン
さすがに源田程には酷くないが、十分酷い怪我。
大体原作レベルの負傷、だいでんはそれよりちょっと重め。

鬼道有人
原作より精神ダメージ受けてたのでファイアトルネード療法に反応できなかった。
この時空だと豪炎寺医師の最初の患者である。


次回、千羽山の一幕。パワハラもあるよ!


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