源王は玉座を譲らない   作:青牛

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神は屈辱を忘れない

ワイバーンクラッシュ!」

 

無限の壁改!!!」

 

 現れたどこまでも連なる石壁が、雷門のシュートを受け止めた。

 激しく衝突するが、やがて翼竜の勢いが失われ、ボールがゴール前で落ちる。

 

「くそっ……」

 

「――ふっ、ふん。豚の鼻くそズラ……」

 

 技の発動が間に合ったのがギリギリだったことに加え、止めたとはいえ染岡のシュートは彼らの予想以上に強かった。

 千羽山GKの綾野(あやの) 勇一(ゆういち)が冷や汗を拭い、その動揺を隠す。

 日々の修練で個々の能力が高まりすぎた結果、連携が覚束なくなった隙を突かれて先制点を取られてしまった雷門。

 新たに加わった天才ゲームメーカー鬼道の手でそのズレは収まったものの、未だ千羽山の防御を突破できずにいた。

 一歩も退かない雷門だったが、堅い千羽山の守備に攻め切れず前半終了を迎えた。

 

「千羽山の守備は去年よりレベルが上がっているな。前も相当だったが、さらに磨きがかかっている」

 

 前回の大会で彼らと戦った経験のある鬼道がそう語る。

 既にそれは雷門の皆も身を以て知った。誰も否定などしない。

 

「ところで、“無限の壁”って前に源田の奴が使ってなかったか?」

 

 染岡が、見覚えのある技の記憶を辿り地区大会の決勝戦のことを思い出して言った。

 決勝で源田から点を取るべくシュートを連発した雷門だったが、悉く防がれた。

 その時彼が見せた必殺技の中に、ついさっき千羽山が見せたものと同じものがあったのだ。

 鬼道は特に隠す必要もないので答える。

 

「“無限の壁”は元々千羽山の技だ。あいつは去年戦った後、研究のため習得したに過ぎん。俺も習得していたのはあの時まで知らなかったし、合わなかったらしくあまり使ってないがな」

 

「つまり向こうが本家か」

 

「だが模倣の源田が1人でやって、本家が3人がかりじゃ立場がないな……」

 

 風丸が源田のGKとしての実力を実感しながら、技を模倣された千羽山に敵ながら同情する。

 千羽山はDFの2人とGKの連携によって“無限の壁”を形成しているというのに、源田は人数を分身で補って実質1人でそれを行ってしまっている。

 

「実際奴らもそう思ったんだろう。お前達との戦いで見せたから連中、尻に火がついた気分だったのかもしれん。故にこそのあの鉄壁なんだろうさ」

 

「……なんで自分がいない所でまで俺達のシュートを止めに来るんだあいつは」

 

 染岡は源田が間接的な原因となっている今の窮状に、額をピシャリと叩いた。

 そして、その手を下ろした後には勝ち気な笑みを見せる。

 

「だがまあつまり、源田をぶち抜くにはまずあいつらをぶち抜かなきゃならねえってわけだ!」

 

「そうだな。奴らの“無限の壁”を破らねば、源田の守りには通用しないだろう」

 

 点取り屋の意気込みに炎のエースストライカーが同意した。

 彼らが燃え上がるのに影響されて、リードされている状況に落ち込みかけたチームの雰囲気が持ち直した。

 鬼道による後半からのフォーメーション変更には、半田が難色を示したりすることがあったがワントップを務める染岡が受け入れていることで通った。

 

「よーし、皆! まだまだ勝負はこれからだ、後半も攻めていくぞ!」

 

『おー!』

 

 円堂の呼び掛けに応え、気合いに満ちる雷門中。

 鬼道はその中で、必ず勝ち上がり仲間達の仇を討つという決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 雷門が千羽山の鉄壁を破って逆転し、準決勝進出へ駒を進めることが決まった頃。

 薄暗いスタジアムで、少年達が1人の男の前に跪いていた。

 皆一様に緊張と恐怖の入り交じった表情をして、下を向いている。

 彼らを見下ろす男、影山が静かに口を開いた。

 

「私はお前達に“真・神のアクア”を与えた。神の力を与えた。そうだな?」

 

「……はい。仰せの通りです、影山総帥」

 

 世宇子イレブンのキャプテンとして、アフロディが表情を消した顔で影山の言葉を肯定した。

 

「お前達の使命は、私に完全なる勝利を捧げること。そうだな?」

 

「……はい。仰せの通りです、影山総帥」

 

 影山は、サングラスで瞳に映る感情を覆いながら発言を続ける。

 

「お前達は、私に圧倒的な勝利を捧げると誓った。そうだな?」

 

「……はい。仰せの通りです、影山総帥」

 

「では先の戦いの醜態はなんだ?」

 

 それまで、全くの無だった空間を威圧感が満たし始めた。

 影山は彼らへの失望と怒りを声に滲ませる。

 世宇子の面々の殆どは萎縮して、頭を更に深く下げることしか出来なかった。

 

「お前達はただただ圧倒的に、その力で蹂躙して叩き潰す筈だった帝国学園を相手に、たった1点しか奪えず、あまつさえ失点さえした。

 お前達が勝ったのは……いや、あんなもの勝利とは呼べない。負けなかったのは奴らが弱かったからであり、お前達が私の想定よりも弱かったからだ」

 

「………ッ」

 

「何か弁明があるなら聞こう。私が与えた“真・神のアクア”は不完全だったか?」

 

「い、いえ、確かに“真・神のアクア”は我々に力を与えました!」

 

「ではなぜ帝国を早々に潰せなかった? いつまでも追加点を奪えず、点を奪われた?」

 

 世宇子の1人が影山に言葉を返すが、すぐさま更なる追及に押し黙る。

 実際の所、点を取られたこと自体は影山もそこまで責めていない。

 途中で加わった鬼道は彼の最高傑作。1点くらいは奪ってもおかしくはなく、腹立たしいが同時にむしろ誇らしくもある。

 問題は、その鬼道が来るまで帝国を潰せずにだらだらと試合を続けてゴールを決められずにいたことだ。

 

「デメテル。ヘラ。貴様らのシュートに奴の守りは小揺るぎもしなかった」

 

 影山の指摘に、名を呼ばれた2人は唇を噛み締めて俯くしかなかった。

 

「ポセイドン。貴様は“大帝ペンギン”の力を侮った。“ギガントウォール”ならば防げる可能性はあったかもしれん」

 

 ゴールを許した海神は、屈辱に体を震わせた。

 

「ディフェンスはもっと奴らを潰す気でやるべきだった。あの実力で慢心し、奴らが気合いとやらを発揮するだけで耐えられる程度の攻撃しかできていなかったのだ」

 

 ディオをはじめとしたDF達が、ある種理不尽さを感じさせる責め方をされるが、とても言い返せない。

 影山が世宇子の主だった面々にダメ出しをして、最後にキャプテンであるアフロディへサングラス越しに視線を向けた。

 

「……そしてアフロディ。貴様は、戦略を誤った。源田を潰すことに固執し、まんまと攻撃陣を温存させたのだ」

 

 確かに佐久間や寺門達、帝国のオフェンス陣が守備に関わらないようになったのにはアフロディも気づいていたが、彼らを侮り、源田を破ることを優先してあまり攻撃しなかったのだ。

 それでも、ボールを持てば必殺技が放たれていたが、その数は守備陣に比べれば、帝国の思惑通り随分少なかった。

 影山はそうして世宇子の失策と弱さを咎め立て、粗方言うことを言ったので一度息を吐いた。

 

「無論、仮に先に帝国を潰していても私は点を取れなかったことを責めただろうな。詰まるところ、お前達はどう足掻いても失態を曝す程に弱かったのだ」

 

 力を与えた本人からの強さの否定に、世宇子イレブンはひたすらに惨めな気持ちで深く跪くしかなかった。

 

「お前達に“真・神のアクア”を与えたのは失敗だったかもしれんな。計画を考え直す必要があるやも……」

 

「おっ、お待ちください影山総帥! それだけは……!」

 

「それだけは、なにかね?」

 

 影山の言葉に、アフロディは思わず声を上げてしまった。

 世宇子イレブンは影山が与える“真・神のアクア”の力で完全に身も心も染め上げられている。

 絶大な力を自在に振るう悦楽を知ってしまった。

 もうあれなしではサッカーが出来ないようにされてしまった。

 その状況で梯子を外されてしまうことは死に等しい。

 影山から鋭く冷たい視線を向けられるが、アフロディは震えながらなんとか言葉を絞り出す。

 

「もう二度と、あのような失敗は犯しません。どのようなことでもします。どうか、“真・神のアクア”を取り上げることだけは……」

 

「どのようなことも何も、私が望むのは完璧な勝利だけだ。……既にお前達には失望している。

 

 

 

 

 

 ――私を絶望させるなよ?」

 

 次はないと暗に告げて影山は重圧を解き、スタジアムを後にした。

 薄暗い廊下を歩きながら、彼は内心でこの予想外の事態に頭を回す。

 

(忌々しい男だ。大人しく従っていれば栄光を掴めたというのに)

 

 世宇子中にはああ言ったが“神のアクア”は並の人間が飲めば力を得ることもできず壊れてしまう劇薬だ。濃縮した“真・神のアクア”ならばなおのこと。

 彼らはその劇薬に耐えて力を得ることができると影山が見出だした選手達。

 そうそう代わりなど用意できはしない。

 

「……だが、これも驕りがちだった奴らにはいい薬になったかもしれんな」

 

 事実、世宇子中は今回の試合を受けてから、激しく特訓に打ち込んでいた。

 源田のような男がこの大会でまた出てくるようなこともあり得ないし、ここはプラスに考えるべきだと影山は思考を切り替える。 

 

「……フン。円堂大介の孫、奴が源田を超えることもあるまい」

 

 そう結論を出して、影山は執務室の中に消えていった。

 

 

 

 そして影山の叱責から解放された世宇子の面々は練習を始めていた。

 2度目の可能性を徹底的に潰すために。

 

真ゴッドノウズ!」

 

真ギガントウォール!」

 

 神の一撃を巨人の拳が潰そうとするが、僅かな拮抗しかできずに吹き飛ばされボールがゴールネットを揺らした。

 その後、シュートブロック等も加えてみたが一度もアフロディのシュートを止めることはできず、あっという間に練習時間は終わりを告げた。

 やはり圧倒的な力だが、あの男には通じなかった。

 

「源田幸次郎、キミのどこにあんな力があったというんだ……!」

 

 そんなものではアフロディの気は収まらず、多くの者がスタジアムを去っても、シュートを撃ち続けていた。

 

 シュートを放つ。

 

 ゴールが揺れる。

 

 もう一度放つ。

 

 ゴールが揺れる。

 

 もう一度放つ。

 

 ゴールが揺れる。

 

「キャプテン荒れてるな……」

 

 残っていた選手の1人が、神々を束ねる少年の鬼気迫る様子にそんな感想を洩らした。

 当然のことではある。

 絶対の自信を持っていた筈の力があれ程防がれ、通用しなかったなどとは、とても受け入れられない。

 しかし世宇子イレブンは、圧倒的な力を持つ面々の中でも別格のキャプテンがあのような余裕のない様子でボールを蹴る所など見たことがなかった。

 

真ゴッドノウズ!」

 

 怒りが収まらない。屈辱感が拭えない。

 

 そしてついに、かつてと同じ甲高い音がスタジアムに鳴り響いた。

 

「ッ!? ゴールが……」

 

 以前散々破壊して、帝国との試合前に最新鋭のものに取り替えられたのに、それが再び粉砕されたのだ。

 ゴールエリアが抉れ、ひしゃげたゴールがそこに崩れ落ちていた。

 その光景に誰もが息を飲むが、アフロディには気晴らしにもなりはしない。

 

 あのGKを叩き潰さなければ、この激情が収まる筈がない。

 

「アアアアアァ!!」

 

 もう狙えるゴールも消え、優雅さをかなぐり捨てて吠える。

 彼が吹き飛ばしたいのはゴールではなく、あの獅子の如き男ただ1人。

 見下していた相手に事実上の勝ち逃げをされ、もはや再戦も叶わない。

 

「クソ……ッ……!?」

 

「き、キャプテン? 大丈夫ですか?」

 

 脳内を怒りが埋め尽くしそうになったその時、痺れるような痛みが足に走った。

 反射的に、足へ手をやろうとする。

 それを見た選手が恐る恐る、アフロディに心配の言葉を投げかけた。

 

「……問題ない。少し、疲れただけだ。またゴールを壊してしまったし、総帥にお伝えしてくる」

 

 その言葉に答えながら、アフロディは背を向けてスタジアムを後にした。

 ほんの一瞬の痛みに大したことはなかった。

 ただ先日の試合から疲労が溜まっていただけだと判断し、彼はすぐにそれを記憶から消し去る。

 

「――もう一片の油断もしない。誰が来ようと、神の力で捩じ伏せてやる……!」

 

 一瞬忘れた怒りが再燃したアフロディは、そう呟きながら廊下を歩く。

 その後の試合で、世宇子中は40ー0という恐るべき結果を叩き出すことになる。

 

 

 

 

 

 

 




千羽山中
地区大会決勝の試合でパクられてる!?と大混乱。
無限の壁を進化させた。

影山零治
不甲斐ない試合をした神(笑)にお説教。
まああんな化物あれっきりだろうしへーきへーき!

世宇子中
冷えきってる。
アフロディは実質的な敗北だと感じていて猛特訓。
ポセイドンくんでは相手にならない。
この後あたる学校は御愁傷様である。
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