源王は玉座を譲らない   作:青牛

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源王はボールに触れない

 安静にすることを担当医に言いつけられ、サッカーもできず不自由な生活を強いられていた源田は、早くも不満が溜まっていた。

 無論医師達の言っていることは正論であり、早くサッカーをしたいなら大人しく従うのが一番であることはわかっているが、いつもやっていることができない、してはいけないというのはどうしてもストレスを与えてくる。

 その如何ともしがたい感情が胸の内に渦巻きかけたが、廊下の方から聞こえる小走りのような足音と、その後の病室の扉が開く音に掻き消された。

 

「源田ーー! 元気かー?」

 

「円堂? どうしてこんなところに……」

 

「俺が教えたんだ。……おい円堂、見舞いに行きたいと言うから連れてきたのに置いていくんじゃない」

 

 病室へ入ってきたのはこちらを見て年齢以上に子供っぽく笑い小さく手を振る、オレンジのバンダナをした少年。

 雷門イレブンのキャプテンにしてGK、円堂守であった。

 流石に彼が病院までやって来るなど予想だにしていなかったため、源田は疑問を隠せないが、それには遅れて入ってきた鬼道が答えた。

 

「ごめんごめん。いても立ってもいられなくて……」

 

「それで、どうだった。相手は千羽山だったそうだが」

 

 同時に、落ち着きのない円堂を咎める鬼道の言葉を受けて、円堂はバツが悪そうに頬を掻く。

 そんなやり取りを見ながら、源田は彼らの試合のことを訊ねた。

 彼の言葉に、円堂は勢いよく振り向き、興奮冷めやらぬ様子で答えた。

 

「ああ、勝ったぜ! 鬼道は凄かったんだ! まさに天才ゲームメーカー、大天才、大大大――」

 

「よせ円堂……」

 

「ん? ああ、そっか、帝国(お前ら)はずっと鬼道とサッカーしてたもんな。当たり前だったか」

 

 拙いながら惜しげもなく鬼道のことを誉めようとする円堂を、仲間の前で気恥ずかしくなった鬼道が止めた。

 源田はその様子に、思わず笑い出しそうになった。

 体を震わせ、動かせる左手で口許を隠す彼に、2人とも顔を向ける。

 

「どうした源田、何か面白いことでもあったのか?」

 

「いや、お前が雷門でも馴染めていそうだと思ってな。少し不安だったが、安心したよ」

 

 円堂からしてわかるように、雷門中サッカー部は熱血と根性を全面に押し出すスタイルだ。

 対して、負けず劣らずサッカーへの情熱を持っている鬼道だが、彼はあまり多くを語るタイプではないし、一応帝国という敵チームの者だったということも心の距離を作るだろう。

 そういった理由で、鬼道が雷門のチームに受け入れられているか若干心配していた源田だったが、目の前のやり取りから杞憂であったと察した。

 そんな彼の心中を知らない円堂は首を傾げながら、手に提げていた(かご)の存在を思い出す。

 

「そうだ! お見舞いにこれ、持ってきたんだ。よかったら食べてくれ」

 

「……あ、ああ……」

 

 そう言って、ベッドの側の机に籠を置く。

 中身はバナナ等のありふれた果物や駄菓子が入っていた。

 源田がそれらを見て固まった。彼は右腕をギプスで固定されている。

 鬼道がため息を吐いて、円堂に言う。

 

「片手でどう食うんだ?」

 

「ん? ああっ!」

 

 悉く気遣いが裏目に出た円堂。

 このままこれらを置いていくということはできず、皮を剥いたり、袋を開けたりして源田に食べさせることにした。

 

「……うまいな。駄菓子(こういうの)は久しぶりだ」

 

「食べたことがあるのか、源田?」

 

「お前らの近所には駄菓子屋とかないのか?」

 

 今の暮らしでは縁がない素朴な甘味に懐かしさを覚えて感想を言う源田に、同じく縁がなかった鬼道は意外そうにした。

 そんな2人の様子に、円堂は首を傾げる。

 

「俺は昔食べていたことがあるだけだな」

 

「孤児院ではそういうものは春奈にやっていたし、父さんに引き取られてからはそもそも見る機会もなかったな」

 

「そうなのか、じゃあ今度駄菓子屋行こうぜ! 学校の近くにあるからさ」

 

「駄菓子か……」

 

「ははっ、いいんじゃないか鬼道。出来ればまた持ってきてくれ」

 

「いいぞ! お前も早く元気になれよな、源田。豪炎寺達も早く治せって言ってたぞ!」

 

「言われる間でもない、さっさと退院して鍛え直すさ。……ところで円堂。話は変わるが、鬼道は雷門中に行って上手くやれているか?」

 

「なんでそんなことを聞く源田。俺が帝国で成績トップだったのを忘れたか?」

 

「いやそういう心配はしていないが、チームはともかくクラスで孤立していたりしないかとな……学校はサッカーだけやっていればいいものではないしな」

 

 既に人間関係なども構築されているであろう教室、そのうえ既に入学からしばらく時間が経っている中途半端な時期にドレッドヘアにゴーグルという癖の強すぎる見た目をした帝国出身の生徒が転入してくるというのは、至って普通のマンモス校だという雷門中の生徒には刺激が強いかもしれない。

 鬼道自身が積極的に誰かに絡んでいって騒ぐというタイプでもないため、慣れ親しんだ仲間達も居ない中で1人寂しい思いをしていないかと、源田は友人の学校生活を心配せずにはいられなかった。

 

「うーん……俺、鬼道とクラス違うからな。そうだ! 夏未が同じクラスだったはずだし、今度聞いてくるよ」

 

「やめろ円堂」

 

 真面目に彼の質問に答えようとして、円堂がそう言い出したのを鬼道が食い気味に止める。

 そんな2人を見て、源田がまた笑う。

 しばらくして、他の皆の所へ行ってくると言って鬼道が病室を出たため、円堂と源田の2人きりになった。

 

「――でさ、千羽山の“無限の壁”は硬かったけど、俺達の新必殺技“イナズマブレイク”でズバーンとゴールを決めて勝てたんだ!」

 

「俺達が去年奴らと戦った時は“無限の壁”を出せないよう誘導して点を奪っていたが――ふむ、甘い――さらに強化していたらしいのに、それを正面から破るとはな。流石だ」

 

 思い出しながら興奮して試合のことを話す円堂に、源田は皮の剥かれたバナナを頬張りながら言葉を返す。

 去年、帝国でも前半終了間際に隙を突くことでようやく点を奪えた相手の守りを力で突破した雷門の実力は既に全国でも5本の指に入るだろう。

 伊達に帝国と互角に、延長戦まで戦っていない。

 

「おう、今度やる時はお前からも点を取ってみせるからな! 早く治してまたサッカーやろうぜ!」

 

「そうだな……もうじき外出の許可が出る。まだサッカーはできないが、折角だ。決勝戦の少し前くらいになるが、お前達の練習でも見に行こうか」

 

「ほんとか! ……というか、もう動いていいのか? 帝国の奴ら、皆安静にしてなきゃダメなんだろ?」

 

「右腕の怪我は重いが、俺の場合それ以外は帝国の中で一番軽傷だ。皆ももうベッドから起きるくらいはできてるしな。それにいつまでも寝ていたら体が鈍る」

 

「そっか。なら安心だな! 歓迎するぞ!」

 

「――円堂。そろそろ帰るぞ」

 

 2人が話に花を咲かせて居た所に、他の帝国メンバーを回ってきたらしい鬼道が戻ってきて、円堂に帰宅を促した。

 窓を見れば、すでに夕陽で空が赤く染まっていた。

 すっかり話し込んでいたことに気付き、帰り支度を始める。

 

「またな、源田」

 

 先に病室を出た鬼道に続こうとした円堂の背に源田が声をかけた。

 

「……円堂。世宇子中と戦った農山光中だが、40ー0で負けたそうだ」

 

「40……!?」

 

 そのスコアに、振り返った円堂が戦慄する。

 かつて帝国との練習試合で奪われた点の倍。戦った相手が弱かっただけ、などということはあり得ない。

 雷門中が既に戦った戦国伊賀島中や千羽山中は決して油断できない相手だった。

 他のどの学校も彼らと同じく、各地区の激戦を勝ち抜いてきた全国の舞台に相応しい猛者達だ。

 それがそんなにも一方的にやられるなどにわかには信じがたかった。

 

「おそらく、準決勝で当たる狩火庵(かりびあん)中も奴らには太刀打ちできんだろう。お前達が勝ち進めば、間違いなく世宇子中とぶつかることになる」

 

「世宇子中と……」

 

 円堂は、帝国を下したまだ見ぬ世宇子イレブンに思いを馳せる。

 

 源田は反応をみせる彼にまっすぐな眼差しを向けて言葉を続けた。

 

「奴らとの戦いは、きっとお前達の中でもこれまでにない激しいものになるだろう。だから円堂、鬼道のことを頼む」

 

 見つめてくる源田の思いを汲み取り、円堂は笑って答えた。

 

「任せろ! 俺はキャプテンで、今は鬼道も雷門の一員だ。ゴールだけじゃない。皆俺が守ってみせる!」

 

「……ありがとう、円堂」

 

 そのやり取りを最後に、円堂は病院を後にした。

 

 

 

 

 

 後日、雷門中は準決勝でかつて豪炎寺が所属した木戸川清修中を倒してついに40年ぶりに決勝戦へと駒を進める。

 対するは、数々の学校を一方的に蹂躙してきた世宇子中。

 

 運命の日が、近づいてきていた。

 




源田幸次郎
入院中。
安静にしているのが苦痛。

鬼道有人
お見舞いに来た。
何故か友人に学校生活を心配される。

円堂守
お見舞いに来た。
鬼道のことを託される。
帝国ではキャプテンの鬼道も、雷門では一メンバーである。

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