源王は玉座を譲らない   作:青牛

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光は影を消しきれない

 世宇子中の圧倒的な実力を垣間見てなお奮い立っていた円堂には、響木の言葉はあまりにも無情なものに思えた。

 素直な彼にしては珍しく少々むきになったようで、豪炎寺達にシュートを頼む。

 

ワイバーン――」

 

 放たれるシュートは雷門イレブンの主力2人の合体技である。

 これによって、多くの試合で得点をもぎ取ってきたのだ。

 

「――ストーム!」

 

 爆炎を纏って赤く染まった翼竜が円堂に襲いかかった。

 その円堂は右腕を突き上げて気を立ち上らせた。

 現れるのは、帝国との戦いで見せた黄金の魔神。

 

マジン・ザ・ハンド!」

 

 その剛腕が、シュートを受け止める。

 しばらくの拮抗の末にボールは彼の手に収まった。

 だが、それを見ても響木の顔は優れない。

 

「……円堂。お前も気づいているだろう? 今の“マジン・ザ・ハンド”は未完成だとな。完成したそれでなければ世宇子のシュートは止められん」

 

「……でも」

 

 響木の見立ての通り、円堂が帝国学園との戦いで使用した“マジン・ザ・ハンド”は強力だったが、未だに祖父の領域には届かずにいた。

 ノートを見るに、まだ足りない何かがあるのだがその何かがわからない。

 そのため、円堂はここまで未完成のまま使い続けてきたのだ。

 

「なら、完成させるために特訓しなきゃ――」

 

「“マジン・ザ・ハンド”はただ闇雲に鍛えるだけで完成する技ではない。今までお前ができていた形だけのそれが、がむしゃらの限界だ」

 

 尚も言い縋ろうとした円堂を響木が封じる。

 それでようやく、先ほどの邂逅から頭が冷えた円堂は響木の言葉を受け入れた。

 だがそれは状況の改善に繋がることではない。

 

「じゃあ、一体どうすれば……」

 

「――合宿だ」

 

「へ?」

 

 何か更なる特訓があるのかと思っていた円堂は、その言葉に目を丸くした。

 

 

 

 

 

 決勝戦2日前にして合宿を決めた雷門中。

 皆が必要な物を取りに各々家に戻る間に、処置を終えて学校を出ようとした源田を響木が呼び止めた。

 

「坊主、ありがとうな。マネージャー達を守ってくれて。チームを預かっている監督として、礼を言わせてくれ」

 

「……いえ、俺がしたのは当然のことです。お礼を言われるようなものではありません」

 

「それでもだ。若いのにそう固くなるなよ? 今度雷雷軒(うち)に来たらサービスしてやる」

 

「確か……ラーメン屋でしたか」

 

「おっ、知っているのか? 自分で言うのもなんだが、寂れたうちのことをよく知ってるもんだ」

 

「この前見舞いに来てくれた円堂が話していましたよ。“監督のラーメンは最高にうまい”と何度も何度も聞かされました」

 

「フッフッ、あいつはまったく……」

 

 2人は随分歳の離れた組み合わせだったが不思議な空気で通じ合い、そんな他愛のない話で笑いあっている。

 半身で構えていた源田は響木を正面にして向き直った。

 

「俺からもあなたにお礼が言いたい。響木監督、鬼道のことを受け入れてくれて、ありがとうございました」

 

「それこそ礼を言われるようなことじゃねえよ。サッカーをやりたいって奴を、サッカーがやれるようにしてやっただけなんだからな」

 

「……あなたが雷門中の監督でよかった。円堂はもっと強くなります。あいつが居るから、俺も負けないように強くなれる」

 

「強くなるには、まずさっさとその怪我を治すこったな」

 

「仰る通りです。では、失礼します」

 

 源田が校門から出ていこうとしたその時、鬼道に、叫びに近い声で呼び止められた。

 

「源田! よかった、まだ居たか。合宿前に皆の見舞いに行こうと思ってな。お前も乗っていけ」

 

「いいのか? すまないな」

 

「気にするな。怪我をしているのに歩いて帰らせる訳にはいかない」

 

 話しながら並んで歩いていく2人を、響木はサングラスの下から優しい眼差しで見送っていた。

 源田は病院に戻った時、看護師に左手の怪我が見つかりこっぴどく叱られてしまう。

 解放された頃には太陽が地平線の向こうへ沈み切る寸前。

 源田が佐久間達の病室に行けば、既に入っていた鬼道が佐久間のベッドの傍に座って話し込んでいた。

 

「……さて。そういう訳で、急遽雷門中で合宿をすることになった」

 

「合宿かぁ……鬼道さん、FFが終わったら俺達も合宿やりませんか?」

 

「フッ。遊びに行くみたいに言うな、雷門の特訓はなかなかハードなんだぞ」

 

「おい佐久間。合宿なんてすれば間違っても問題を起こさんように規律正しく行わなければならん。成神や咲山辺りに手を焼きそうだぞ、勘弁してくれ」

 

 隣のベッドに寝ていた寺門が佐久間の言葉に反応する。

 帝国イレブンにはサッカーの高い実力を備えた濃い面子が揃っている。

 時間やルールに厳格な寺門が、我が強い彼ら、とりわけルーズな面のある成神等との共同生活を想像して渋面を作った。

 

「まあそう言うな寺門。いいんじゃないか? 楽しそうだ」

 

「源田。お前本当に“楽しそう”しか考えてないだろ……いろいろ大変なんだからな」

 

 そこへ源田が話に加わった。

 合宿に肯定的だが、何かと後輩達に甘い彼の発言であるため寺門が突っ込む。

 

「おっ、源田。やっとお許しが出たか。ようやく落ち着いてきたのに、擦り傷とはいえまた怪我して帰ってきたら看護師さんも怒ってただろうなぁ」

 

「放っといてくれ……」

 

 源田の存在に寺門に続いて気付いた佐久間がニヤニヤとして茶化すのに源田が苦い顔で返す。

 2人のやり取りを他所に、寺門が顔を鬼道に向け直して言う。

 

「しかしまあ実際、想像できんな。ほんの数日とはいえ、雷門(あいつら)と共同生活するお前ってのは」

 

「確かに、少し前は考えもしなかったかもな。雷門はむちゃくちゃだと思えることも多いが、そのがむしゃらさが俺を熱くさせてくれている」

 

「がむしゃらさ、か……帝国にはなかったものかもしれないな」

 

「寺門……」

 

 鬼道の語る雷門に、寺門はそう呟いて遠い目をする。

 実力主義の帝国学園サッカー部では、実力が足りないか、下からさらに実力ある者が現れるかで容赦なくレギュラーから落とされることが日常茶飯事だった。

 チームメイトでさえも上を奪い合い、時に蹴落とすべき敵であることもある。

 今でこそこのメンバーが他の部員とは一線を画した実力でスターティングメンバーを務めているが、多くの者はそういった蹴落とされる恐怖と言うべきものは胸のどこかに持っていたかもしれない。

 

「ああ、言いたいことがズレてるな。要するに、お前のことを心配してるのは源田のやつだけじゃないってことだ。雷門のチームに馴染めてるようでよかったぜ」

 

「当然だろ。鬼道さんを受け入れられないチームとかあるか?」

 

「おい佐久間……今寺門が話してるだろ」

 

 寺門の言葉へ目を剥いて口を挟んだ佐久間を源田が諌める。

 

「……まあとにかくだ。決勝戦、俺達の分まで頼んだぜ、鬼道」

 

「一緒に戦えないのが悔しいですけど……世宇子中、きっと倒してきてください」

 

「俺は試合を見に行くぞ。鬼道達が勝つところ、この目で見届けるからな」

 

「お前達……ああ。俺は必ず世宇子中を倒してくる」

 

 その言葉を最後に、鬼道は3人と頷き合って病室を後にした。

 源田も、自分の病室へ戻ろうとする。

 

「なあ、源田」

 

「寺門?」

 

 彼の背に寺門が声をかけた。

 その声からは帝国のエースストライカーの名を恣にする寺門らしからぬ弱々しさが感じられて、源田は彼を見つめる。

 

「……いや、なんでもねえ。引き止めて悪かったな」

 

「本当にいいのか?」

 

「いいんだ。何言おうとしたか忘れちまった」

 

「……そうか。また今度、思い出したら聞かせてくれ」

 

 そう言って扉を開けて病室を出ていった源田を寺門は見送ることしかできなかった。

 

「寺門……」

 

「駄目だ、ベッドの上だと余計なことばっかり考えちまうな。少し寝るぜ」

 

 佐久間の言葉から逃げるように、寺門は布団を被って横になった。

 彼が言いかけて、結局言い出せなかったこと。

 自分達がもっと強ければ、源田があのような酷い怪我をすることはなかったのではないか。

 

 無論、言ったとして源田は絶対にその言葉を肯定すまい。

 彼自身への侮辱にもなる。

 わかっている。死ぬ気でゴールを守ると決めたのは源田自身。

 自分が責任を感じるのはお門違いだということは。

 

 それでも、そんな思いが頭の隅にこびりついて離れなかった。

 雷門との決勝戦も経て、自分達は練習をして強くなった。

 強くなった筈だった。

 それが世宇子中の前には通じず、自分は1点も彼らから奪うことが叶わなかった。

 

 ついに一矢報いることができたのも、鬼道が来てくれたからだった。

 彼にも遅れざるを得ない事情があり、それでも来てくれたのは嬉しい。

 それは絶対に嘘ではない。

 だが同時に、自分にあの試合で何ができたのかと問う声が頭の中で響く。

 

(……何を考えてるんだ俺は)

 

 心に渦巻く思いを押し込めて、寺門は眠りにつく。

 だが佐久間には、寺門のそんな心中が察せてしまって、未だ鬼道と共にプレーすることもできない自分を呪いながら拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 後日。

 源田は決勝戦を観戦しにスタジアムに来ていた。

 スタジアムには彼の他にも多くの観客が来ていたが皆一様に、門にかけられた『閉鎖』のプレートに困惑していた。

 そこへやって来たスタッフが呼び掛ける。

 

「皆さん、決勝戦の試合会場は急遽変更となりました。これよりご案内致します」

 

 その声に従って動こうとした時、影が彼らにかかる。

 近くに高いビル等もないというのに起こった奇妙な現象に誰もが上を見上げて、声を失った。

 巨大なスタジアムが、飛んでいた。

 神々の像と思わしき装飾を備えたスタジアムがフロンティアスタジアム上空へ向かってきていたのだ。

 

「ここが決勝戦の舞台、ゼウススタジアムです。皆さん、チケットを確認次第ご入場頂きます」

 

(ここまでやるか……)

 

 常識はずれな出来事と荘厳なスタジアムに圧倒されて、急な会場変更などへの不満も上がらず、不思議な程スムーズに入場は行われていった。

 源田もスタジアムに入っていく。

 

(勝てよ、雷門中)

 

 ここまで来れば、できるのは祈ることだけだった。

 




源田幸次郎
決勝を観戦に行く。

佐久間次郎
鬼道さんならどんなチームでも馴染む。
むしろチームが鬼道さんに馴染むべき。

寺門大貴
エースストライカー。
責任感が強い。

円堂守
マジン・ザ・ハンドは未完成。
魔神が出ているのは、素のスペックが高くなってるので中途半端に無理矢理できてしまっている感じ。

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