源王は玉座を譲らない   作:青牛

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源王はシュート練を拒まない

 中学サッカー最強を決める大会フットボールフロンティア。

 その地区予選が、ついに始まった。

 雷門中は帝国との練習試合を乗り越え、その後噂を聞きつけやって来た尾刈斗(おかると)中との練習試合を制しFFへの出場を認められたのである。

 最初の辛うじて廃部を免れた事実上の大敗を経た彼らは尾刈斗戦で実力をつけ、豪炎寺も正式に加入したことで本格的に始動。雷門中サッカー部は意気軒昂であった。

 そんな彼らは今は一回戦の相手、去年は予選決勝まで進み帝国と争った実力者野生(のせ)中戦に向けて特訓を重ねていた。

 空中戦を得意とするという野生中に対抗するため、壁山(かべやま) 塀吾郎(へいごろう)と豪炎寺は円堂の祖父が遺した秘伝書から見つかった必殺技“イナズマ落とし”を習得しようとしていたのである。

 

「う、あーーっ! やっぱり怖いッス!」

 

 ……壁山の高所恐怖症が発覚し、習得は難航していたが。

 豪炎寺達が新技習得に努めている頃、円堂はもう一人のFWである染岡(そめおか) 竜吾(りゅうご)にシュートを撃ってもらっていた。

 

「いくぞ円堂!」

 

「ああ! 来い!」

 

「いくぜ――ドラゴンクラッシュ!」

 

ゴッドハンド!」

 

 染岡が竜の追随する強烈なシュートを放ち、円堂がそれを迎え撃つ。

 それだけならGKとFWの練習としては普通に思えるが、なんと円堂、背中にタイヤを背負っていたのである。

 背負っているだけで体力が削られていくなか、さらに強力な必殺シュートを、必殺技で受け止める。

 凄まじい負荷がかかっているはずだ。染岡はタイヤこそしていないが、無限にも思える回数円堂から「もう一回!」を食らっていてそろそろ苦しくなってきた。

 だからこそ、その自分より圧倒的にキツイはずの円堂を心配して染岡は声をかける。

 

「円堂……今日はこの辺にしないか。試合前に身体壊しちゃ元も子もねぇって言ったのはお前だろ?」

 

「いや、染岡、頼む。もう一回!」

 

「何だってそんなに焦ってんだ。“お前にはお前のサッカーがある”そう言ってくれたのもお前だ。それを忘れちゃいねえだろうな?」

 

「そんなことないさ。ただ……帝国のキーパー、凄くってな。あの日のことが頭から離れないんだよ。もっともっと頑張らなきゃ、あいつには追い付けないって思っちゃってさ」

 

「……」

 

 円堂が気恥ずかしそうに鼻の頭を指で擦るのに対し、染岡も()()()のことを思い出した。

 帝国との部の存続をかけた練習試合。自分達は彼らのサッカーに圧倒され、何も出来なかった。

 豪炎寺が現れたことで奴らは退いていったが、その豪炎寺のシュートも帝国のGKの前には通用していなかった。

 あの獅子のような男を前にすることを想像すると、豪炎寺でさえ破れなかった守りをお前が──?

 と、そんなネガティブな考えが頭を過るのは否定できない。

 尤も、同じポジションで実力差をより明確に感じているはずの円堂は、挫けるどころか、追い付いてやると燃えているのだが。

 

「お前な……仕方ねえ、あと一回だけだぞ!?」

 

「ありがとう染岡!」

 

「本当にこれで終わりだからな! ドラゴン――」

 

 そんな円堂の姿に、なんだか心が軽くなった気がして、染岡はついついもう一本を承諾してしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 その頃帝国も練習に没頭していた。

 帝国学園はシード枠なので、他校が一回戦をやっている間も試合はない。

 

 その上、2回戦で帝国と当たり得る2校は、既に情報収集も完了し、相手にならないと太鼓判を押されていた。

 故に彼らが今特訓をする際の仮想敵は、専ら雷門中である。

 何せ、これまで帝国を勝利に導いてきた必殺シュート“デスゾーン”が止められたのだ。

 相手の反撃のシュートこそ守護神源田が難なく止めてみせたが、そもそも帝国が決めるつもりでシュートを撃って防がれることなどあってはならない。

 

 そんな思いもあり、鬼道は佐久間・寺門とともに円堂の“ゴッドハンド”突破のための新技の開発。

 他の選手達も各々、戦術やシュートに限らない必殺技に更なる磨きをかけることに取り組んでいた。

 

「うぉーー! 百烈ショット!」

 

「そらっ!」

 

ツインブースト!」

 

 そしてシュート練習。帝国の面々が一斉にシュートを、それも一つのゴールに向かって放つのは、試合ではあり得ない光景ながら壮観である。

 一つ一つはまだ並みのキーパーでも死力を尽くせば防ぐ可能性があるものの、そんなものが同時に襲ってくればキーパーは成す術なくボールとともにゴールに突き刺さることになるだろう。

 

 

 ――彼でなければ。

 

 

 

パワーシールド!」

 

 源田が拳を大地へ振り下ろせば、橙色の衝撃波の壁がゴールを囲うように吹き上がる。

 その壁は、向かってきたシュートの群れを呆気なく弾き飛ばした。

 

「あー……やっぱ源田さんにシュート練の相手されると自信砕け散っちゃうなぁ」

 

 あらぬ方向へ跳ね返っていくボール達を見送りながら、シュートを撃った者の一人──成神(なるかみ) 健也(けんや)はため息混じりにそう呟いた。

 実際、試合というこれらのシュートが一つずつしか襲ってこないシチュエーションの場合、源田が“パワーシールド”を発動するに値するのは今撃ったシュートの中では“ツインブースト”ぐらいのものだ。

 “百烈ショット”程度では先の“ファイアトルネード”よりも容易く受け止められるだろう。

 

 彼の“最強の技”は、強すぎて現状“デスゾーン”でも小揺るぎもしない代物で、シュート練で使っていてはストライカーの成長がわからず練習にならない、ということで封印され、試合でも出す程の相手がいないので長らく使われていない。

 彼の最下級の必殺技である“パワーシールド”でも“デスゾーン”でようやく拮抗し、10回撃って2本も入れば幸運という堅牢さだ。

 

 そもそもこの一斉シュートは、シュート練というより源田の“パワーシールド”の強度チェックに近い。

 彼が帝国に来たばかりの頃は、“デスゾーン”か“百烈ショット”を5本同時に撃ち込むかで“パワーシールド”の次を引き出せていたのだが、今ではデスゾーンでもそうそう破ることができなくなっている。

 

 なぜここまで源田の守りが硬いのかと言えば、才能はもちろんだが、彼のたゆまぬ努力にある。

 サッカーのスキルを磨いていくのは当然、そして彼は体づくりを重視していた。

 必殺技は強力だ。だが、技は何度も放てば負担になるのを一例に、威力や使用可能回数は使い手の実力に左右される。

 強靭な肉体を持つ者と、貧弱な肉体を持つ者。両者が同じ技を使えば差は歴然だ。

 その考えの下、彼は朝のランニングは欠かさないし、筋トレも行って体を鍛え上げている。

 

 その上、源田は小学生時代、地元のサッカークラブに入っていたのだが、裕福な生まれだったのを最大限利用し、無理を言って遠征を盛んにさせてもらっていたのだ。

 全国トップを誇る超名門校帝国学園に通える程の学力を身に付けられる環境と、それを作り出せる財力があった家族への唯一の我が儘である。

 あまりそういったことをしない息子の見せた凄まじいサッカーへの情熱に折れた両親は、サッカークラブ関係者等へのコネその他をふんだんに使い、全国各地への遠征を可能としてくれた。

 

 それもこれも、強力なチームとぶつかって実力を磨くため。

 東西南北、各地の強豪チームやストライカーの情報を調べ、その地方へ遠征し練習試合をしたり大会へ突撃したりと、源田は全国の幼い猛者達とぶつかる中で必殺技を習得、小学生ながらに無敵のGKへ登り詰めたのだ。

 

 彼の全国巡りは帝国でも有名で、そのストイックさも相まって、元々和気藹々とするタイプではない帝国学園のサッカー部も二の足を踏む近寄りがたさを醸し出していた。

 

「気を落とすな成神。俺が強くなっていれば、お前も当然強くなっている。成長は確かだ」

 

「そんなこと言われても、その成長が目に見えないとキツいッスよ源田さん。曇りない目で言わないで下さい」

 

 落ち込んだような言葉でおどけてみせた成神にまっすぐな言葉を送る源田。

 先輩であろうと生意気な態度を崩さず、よく辺見を煽ったりしている成神だが、源田にはあまりそういった面を見せない。

 それは彼の物腰が別段丁寧になっている、というわけでもないが。

 鬼道と並ぶ圧倒的な実力者、それへの敬意はあるがそれはへりくだるということではない。

 あくまでも自然体で接する成神の姿勢は、それに対応する源田の姿から彼への固い印象を解いていって、源田の今の立ち位置に繋がっている。

 

「ま、だから源田は源田なんだろ。お前はまだまだだな成神」

 

 しおらしげにする成神を辺見(へんみ) (わたる)が半笑いで茶化す。

 

「うっさいですよデコ見先輩。自分もシュート弾かれたくせに」

 

「デコ見ーー!」

 

「おいこら成神ィ! 洞面! 少しは先輩敬え! 鬼道や源田だけでなく!」

 

 辺見のからかいを敏感に察知し、からかい返す成神。それに便乗する洞面(どうめん) 秀一郎(しゅういちろう)。キレる辺見。

 そんな光景を周りの者はニヤニヤしながら見守る。そんな仲間達が源田の誇りだった。

 

 本当の源田幸次郎はいない。自分は本当ならいない方がいいのかもしれない。そう考えたこともあった。

 しかしそんな考えは、自分はサッカーが好きで、彼らとともにサッカーをしたいという思いの前には容易く吹き飛んでしまったものだ。

 

「源田、少しいいか」

 

 物思いに耽っていると、鬼道に声をかけられた。

 彼が今、源田に話しかけてくるということは、用件におおよその予想はつく。

 

「必殺技、もうできたのか?」

 

「ああ。元があった以上、習得自体はそう難しくない。だがまだ出来ただけでな。お前の胸を借りたい。頼めるか」

 

「ああ」

 

 源田が拒む訳はなく、2人は残りの2人の待つ体育館に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さて、行くぞ源田」

 

 集まった鬼道・佐久間・寺門の3人が源田の待ち構えるゴールを見据える。

 

「お前が相手なら加減はいらねえ。全力でぶち込むぜ!」

 

「ああ。たまには破らないとFW(俺達)の立つ瀬がないからな」

 

「もちろんだ。3人とも遠慮はいらないぞ」

 

 源田を前にして息巻く、寺門と佐久間。彼らは鳴り響いた指笛を合図に走り出した。

 指笛を吹いた鬼道の足下に現れる5匹のペンギン。

 

皇帝ペンギン――」

 

 蹴り上げたボールと共に飛び上がったペンギン達は、不規則な軌道を描きながら飛行する。

 ゴールへ向かうそのボールに、両脇から走り込んだ寺門と佐久間がさらにキックを加えた。

 

「――2号!!」

 

 ペンギンを伴ってゴールへ迫るボールを、源田が迎え撃つ。

 

パワーシールド!」

 

 右拳を打ち付けた地面から吹き出す衝撃波の壁。

 それにペンギンの嘴が突き刺さった。

 

「むう……!」

 

 暫しの拮抗の末、嘴の突き刺さっていた5箇所から(ひび)が広がっていき“パワーシールド”は砕け散る。

 源田の横をすり抜けて、ボールはネットに飛び込んでいった。

 

「よっしゃあ!」

 

「やったな寺門!」

 

「凄いな皆、もう新必殺技をモノにしたのか。“パワーシールド”が正面から破られたのは久しぶりだ」

 

「源田の“パワーシールド”が破れるなら、地区予選(この段階)でこれを止められるキーパーは他校には居まい」

 

 会心のシュートを放った喜びを噛み締める佐久間達に、源田が称賛の言葉を掛ける。

 歩み寄りながら口を開いた鬼道が彼らに続きを話す。

 

「源田、次の技を頼む。今日はこのまま今の限界を確認する」

 

「もちろんだ、何本でも付き合うぞ!」

 

「3本くらいだ。お前の言う“何本でも”は本当に何本でも撃たされるからな……」

 

「2号が負担を抑えた改良型と言っても、撃ちまくったら俺達3人とも持たないぞ」

 

「そうか?」

 

『体力バカのお前と一緒にするな!』

 

「そうか……」

 

 口々に言いながら、また位置に着いていく3人。

 新必殺技によるシュート練習は彼らの宣言通り3本で終わることになった。

 

 

 

 




源田幸次郎
小学生時代は全国に出没してた。
特定のチーム及び選手が強いという話題が広まるとやって来た。
家が裕福。充実した環境のお陰でいっぱいサッカーできた。
体力バカである。

成神健也
1年生。生意気な性格。
初対面の際、源田に「ヘッドホンを取りなさい!」と怒られ取り上げられた。
リズムに乗ってサッカーをする彼には死活問題だったため鬼道にも頼み込んだ説得の末に返却。
その後見せられた実力もあり頭が上がらない。

辺見渡
源田を誇りに思っている。相対的に他校のキーパーを見くびるためちょいちょいシュートを止められたりしてる。

洞面秀一郎
1年生。小柄。源田に懐いている。
源田からは親戚の子感覚で接されている。

円堂守
主人公。源田を見て燃え上がっている。
今日も今日もとてタイヤ特訓。

染岡竜吾
円堂に付き合ってドラゴンクラッシュ撃ちまくってる。
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