源王は玉座を譲らない   作:青牛

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神は魔神を恐れない

 雷門サッカー部が控え室で準備を終えてフィールドへ出ると、スタジアムの観客席を数え切れない人々が埋め尽くす光景が広がっていた。

 

『40年ぶりの出場でついにこの決勝まで辿り着いた雷門中。今日この日、彼らは新たなる伝説となるのでしょうか! 運命の決戦が、間もなく始まります!』

 

 雷門イレブンのメンバーは、この試合に全てを懸ける決意を漲らせて引き締まった表情でベンチに集まる。

 円堂は結局、合宿中に祖父(ほんとう)の“マジン・ザ・ハンド”を完成させることは出来なかった。

 だが、それでも彼らの戦意は欠片も衰えてはいない。

 

(源田。お前は戦い抜いたんだもんな。俺だって、“マジン・ザ・ハンド”が完成しないからってビビってなんかいられない!)

 

 円堂が思うのは、圧倒的な力を持ちながら自分を対等な敵として相対してきた王者。

 彼もこの試合も見届けに来ていると鬼道から聞いている。

 源田はもちろん、誰に見られても恥ずかしくないよう全てを出し切るつもりで円堂はこの戦いに臨む。

 アップを終えて雷門イレブンはベンチ前で円陣を組んだ。

 

「いいか皆。全力でぶつかれば、なんとかなるっ! 勝とうぜ!」

 

『おおっ!』

 

「……」

 

 円堂達が心を1つにする中、源田は観客席から世宇子中がベンチでドリンクを飲んでいる様子を眺めていた。

 そしてフィールド中央に両チームか整列。

 キャプテンである円堂とアフロディが握手を交わす。

 

「ここに来たということは、この試合を最後のサッカーにする覚悟はできているということだね?」

 

 つい先日、雷門中に現れて宣戦布告をしたアフロディが確認を取るように尋ねる。

 彼の瞳は人の機微に鈍い円堂でも分かる程明白な意思を映していた。

 それは他の世宇子中メンバーと同一のものだ。

 

――雷門(おまえたち)を潰す

 

 だが、理解と同時にやって来た重苦しい威圧感をものともせず、円堂は言い返した。

 

「違う。俺達はサッカーを辞めに来たんじゃない。これからもサッカーを続けるために来たんだ。そのために、お前達に勝つ!」

 

「……今一度、覚悟しておくことだ。戦いが始まれば、たとえ平伏(ひれふ)そうとも荒ぶる神々が止まることはないと」

 

 キャプテン同士のやり取りを最後に、双方が配置についていく。

 雷門ボールで試合は始まることとなった。

 

『FF決勝、世宇子中対雷門中の試合が始まります!』

 

 間もなくして主審がホイッスルを吹き鳴らし、ついに決勝戦の火蓋が切られた。

 

『さあ今キックオフ! 豪炎寺と染岡が上がっていきます!』

 

 ボールと共に、雷門の誇るダブルエースが世宇子のゴールを目指す。

 しかしすぐさま世宇子のディフェンスが彼らに迫る。

 

メガクェイクV2!」

 

「ぐあぁ!」

 

「うおわぁぁぁ!!」

 

 ディオが凶悪な必殺技で2人に襲い掛かり瞬く間にボールを奪う。

 彼らがゴールにも辿り着けずあっさりと止められたことで壁山や栗松が動揺を見せる。

 カウンターで雷門ゴールへ向かうのはアフロディ。

 帝国の仲間達の雪辱を果たすべく鬼道が彼に立ち塞がった。

 

「行かせんぞ!」

 

「通さないよ!」

 

ヘブンズタイム

 

 鬼道に続き一之瀬もアフロディを止めるべくディフェンスに入るが、彼の歩みは止まらない。

 目にも留まらない動きで2人を弾き飛ばし、さらに奥へと切り込んでいく。

 

「――さあ。裁きの時だ」

 

「止めてみせる……!」

 

 雷門のディフェンスをなかったかのように易々と突破してゴール前へ到着し、シュート体勢に入るアフロディ。

 円堂も、それを迎え撃つべく気を高めていく。

 

――」

 

 天使の羽ばたきが響き、スタジアムの者達はその神々しさに思わず見入った。

 ボールは白い稲妻を帯びて、蹴り出される時を待つ。

 

「ハァァァ……! マジン・ザ――」

 

 同時に光輝く、逞しい肉体の魔神が円堂から姿を現した。

 天に舞い上がったアフロディを見据え、構えを取る。

 そして両者が激突する。

 

「――ゴッドノウズ!」

 

「――ハンド!」

 

 魔神が思い切り右手を突き出し、神のシュートを受け止める。

 だが、とてつもない威力に円堂は険しい表情だ。

 その場に踏ん張ろうとするが、どんどん押されていく。

 

「くっ……」

 

「魔神ね……名前負けもいいところじゃないか」

 

「うわぁっ!」

 

 アフロディが嘲るのと同時に完全に魔神が吹き飛び、円堂は腹に突き刺さったボール諸ともにゴールへ押し込まれた。

 電光掲示板の数字が、0から1へと無慈悲に切り替わる。

 まさか自分達のキャプテンが開始早々に失点を許すなど、豪炎寺達があっさりボールを奪われたことに続いての事態に雷門イレブンは動揺を抑えられない。

 

「うっ……」

 

「円堂!」

 

「キャプテン!」

 

 あの凄まじいシュートをその身で受けた円堂に仲間達が駆け寄った。

 円堂はよろよろとしながら立ち上がるが、右腕の痺れが止まらない。

 

「円堂、お前右手が……」

 

「ああ、凄いシュートだった。でも今度は止めてやる!」

 

「そうだな。それに今度はこっちの番だ」

 

「点を取るぞ!」

 

『おー!』

 

 失点を取り返そうと息巻く雷門イレブン。

 彼らのキックオフで試合が再開するが、再び世宇子の守備陣が妨害に入る。

 

裁きの鉄槌!」

 

「うわぁーー!」

 

「少林!」

 

 神の足に踏み潰され、少林寺が呆気なくボールを奪われた。

 駆けるデメテルを止めるべく栗松と松野が向かう。

 

「行かせないでやんす!」

 

「全員サッカー、それが雷門(おれたち)のサッカーだ!」

 

「見せてやる…! ダッシュストームV2!」

 

クイック――うわぁ!」

 

「ぎゃあぁーー!」

 

 だが彼の起こした突風に2人ともなす術なく吹き飛ばされ、デメテルは悠々とペナルティエリアに侵入した。

 彼は冠する神の名の通り、大地の力を利用したシュートを放つ。

 

リフレクトバスターV2!」

 

「これ以上はやらせない! マジン・ザ・ハンド!」

 

 浮き上がった岩石に幾度も反射して加速したボールがゴールを狙う。

 円堂が再び魔神を顕現させて止めようと試みるが、これも止めきれずゴールネットに突き刺さった。

 

『世宇子追加点ーー! 圧倒的な力を見せつけます!』

 

「くっ……」

 

「力の差は理解できたかい? もう、手遅れだけどね」

 

 這いつくばる円堂に、アフロディは酷薄に笑って告げた。

 彼の視線の先には先ほど世宇子の必殺技を受けてから、立ち上がれずにいる少林寺と栗松の姿があった。

 

「少林! 栗松!」

 

 プレー続行は不可能と判断され、半田と影野が2人の代わりに入る。

 なんとしても点を取り返すべく、雷門の攻撃陣が駆ける。

 

メガクェイクV2!」

 

「鬼道!」

 

「くっ……染岡!」

 

 立ちはだかるディオが引き起こした地割れ。

 隆起した地面に打ち上げられながら、鬼道は空中でボールを蹴りストライカーに託した。

 ボールを受け取った染岡は新手が来る前に“ワイバーンクラッシュ”を放つ。

 

「オラァ!」

 

 だがそのシュートの軌道はゴールから逸れる。

 染岡は、彼ならば分かると信じて直接ゴールを狙わなかったのだ。

 ボールを受け取るべく世宇子の守備陣をすり抜けて来たのは、豪炎寺。

 

ワイバーン――」

 

「――ストーム!」 

 

「決めろ! 染岡、豪炎寺ーー!」

 

 翼竜を爆炎が赤く染め上げる。

 雷門の双璧を成すストライカー達の連携技に半田が叫ぶ。

 世宇子中のゴールを守るのは海神。

 ポセイドンが不敵な笑みを浮かべて、両手を地面に叩きつける。

 

ツナミウォールV()3()!」

 

 帝国戦で見せたものよりさらに勢いを増した大波がゴール前に現れ、炎の渦と翼竜を呑み込んだ。

 波が引いた後には、ボールを手に持つポセイドンの姿があった。

 ここまで全国大会で得点を決めてきた主力技が止められたことに、雷門イレブンに衝撃が走る。

 

「神の名に於いて、点はやらねえ……!」

 

 ポセイドンがチームメイトにボールを投げ渡す。

 世宇子中の反撃である。

 

「止めろ! 絶対ゴールまで行かせるな!」

 

「はいっ!」

 

 風丸が叫ぶと共にいの一番に走る。

 彼に続き他のメンバーも、世宇子イレブンを止めるべく立ち向かうが、手も足も出せない。

 

ヘブンズタイム

 

「うわぁーーっ!」

 

「おあぁー!」

 

「さあ、止められるものなら止めてみるといい。真ゴッドノウズ!」

 

「うおおお! マジン・ザ・ハンド!」

 

 二度目の、神と魔神の激突。円堂の奮闘も空しく、ゴールネットが揺れる。

 前半開始から10分も経たない内に、世宇子中と雷門中の間に3点差が出来上がってしまった。

 さらに雷門の反撃をあっさり止めて、世宇子中がまたゴール前に到達する。

 

「フッ。キミではやはり及ばない。何故立つのかな? 勝ち目がないことはわかったと思うけどね」

 

 一方的な戦いにある程度精神的余裕を取り戻したアフロディが、右腕を抑える円堂に問いかける。

 だが円堂からすれば、その問いへの答えなど決まりきっていた。

 

「そんなの関係ない! 今まで戦ってきた奴らのために。お前らに負けた奴らのために。仲間達のために。大好きなサッカーのために! 俺は諦める訳にはいかないんだ!」

 

「……どこまでも、キミはボクをイライラさせる」

 

 力を見せつけて尚もゴール前に立ち続けた男を、アフロディはもう1人知っている。

 屈辱を呼び起こす光景に体が強張ったが、ベンチで世宇子のスタッフがハンドサインを送ってきていることに気づく。

 アフロディはボールを外に蹴り出した。

 “真・神のアクア”補給のために、世宇子イレブンがベンチへ戻っていく。

 

「……ねえ、変じゃない?」

 

 世宇子の選手達がドリンクを飲む光景にを見て、夏未が呟く。

 如何に明らかな実力差があるとはいえ、わざわざ試合を意図的に止めてまで全員がベンチへ戻り水分補給をするという不自然さは、円堂達を見守る彼女らを動かすには十分だった。

 

 

 

 

 

 試合が再開し、フィールドで世宇子中と雷門中が激突している頃。

 雷門中のマネージャー達はベンチから出てスタジアム内を探索していた。

 世宇子イレブンが飲んでいたドリンクの秘密を探るために。

 

「おい」

 

『きゃあぁぁぁーーーー!?』

 

 恐らくここにいるスタッフは皆影山の手先。

 そう注意して慎重に歩いていた所に背後から声がかかって、3人とも思わず悲鳴を上げてしまった。

 見つかってしまったと背後を見たが、そこに立っていたのはスタッフや警備員ではなかった。

 

「ベンチを抜け出していたから何をしていたかと思えば……」

 

「まったく、雷門サッカー部はマネージャーまで無茶苦茶だな……アイツの影響なのかねぇ……」

 

「鬼瓦刑事!? それに源田くんまで……」

 

「ふん。大事なダチの妹達も見つかったんだ。さっさと戻れ小僧」

 

「いえ、このまま帰ることはできません」

 

 意外な人物達に目を白黒させる彼女達を他所に、大人と少年が言い合っていた。




源田幸次郎
マネージャーズがベンチから姿を消したのと、観戦していたからこその世宇子のドリンク補給の不自然さに気付き潜入。

円堂守
マジン・ザ・ハンド(不完全)ではシュートを止められず。

鬼瓦源五郎
独自に潜入していた所に源田と遭遇。
影山の根城で動き回っているマネージャー達のことを伝えられ、連れ戻すだけなのを条件に一緒に行動。
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