源王は玉座を譲らない   作:青牛

21 / 65
円堂はイナズマ魂を失わない

 神殿のような荘厳さに満ちたゼウススタジアムの廊下で、源田と刑事の鬼瓦、そして雷門マネージャー達が向かい合っていた。

 鬼瓦がため息を吐いて、口を開く。

 

「大人として言いたいことはいろいろあるがな。お嬢ちゃん達、すぐにグラウンドへ戻れ。ここにマネージャーの仕事はないぞ」

 

「イヤよ!」

 

「夏未さん……!」

 

 鬼瓦のその忠告を、夏未は頭から撥ね付けた。

 彼の言う通りだということは彼女にもわかる。

 影山の本拠地の中を彷徨けば危険が潜んでいるかもしれないし、刑事の鬼瓦に事を任せた方がいいのは明白だった。

 だが、円堂達は今もグラウンドで戦っている。

 同じフィールドには立っておらずとも、一緒に戦っている彼らを差し置いて、危険の前に二の足を踏んではいられなかった。

 

「私達だって、雷門中サッカー部よ。今さら怖気(おじけ)付いてなんていられるものですか!」

 

「そうですよ! お兄ちゃん達が戦ってるのに、ただ待ってるだけなんてできないです!」

 

「……まったく強情だな」

 

 彼女らの固い意思は梃子でも動かないと察せてしまった鬼瓦は、やれやれと首を振る。

 続いて、彼女らを呼び戻す目的で同行してきた隣の少年に目をやった。

 彼は苦笑いだったが、どこか知っていたような感のあるようにも見える表情だった。

 

「あんまり驚いてないな、坊主」

 

「それは、まあ。彼女達も雷門中サッカー部の一員ですから」

 

「サッカー馬鹿ってのは皆アイツに似るのかねえ」

 

 諦めの境地に至った鬼瓦は、今は亡き親友を思い天を仰ぐ。

 意地でもついてくるというマネージャー達、1人で戻るつもりのない源田。

 鬼瓦が意固地な少年少女らと共にスタジアムを探っていると、話し声が聞こえてきた。

 

「気をつけて運べ。……控え室に準備をしてくる。お前達、誰も中に入れるなよ」

 

「はい」

 

 声の主はスタジアムのスタッフと、彼らが出てきた扉の両脇に控える警備員達。

 スタッフ達が台車に乗せて運んでいる容器の中の液体に、マネージャー達は見覚えがあった。

 試合直前に世宇子中の選手達が飲んでいたドリンクだ。

 

「“真・神のアクア”。羨ましいね、私も飲んでみたいものだ」

 

「総帥が仰っていた事を忘れたか? 常人が飲んだらただじゃ済まないぞ」

 

「……冗談だ」

 

 警備員の会話は、彼女達の疑念をさらに強める。

 鬼瓦も、探していた影山逮捕の糸口が見つかり、飛び出しそうになる自分を抑える。

 

「“真・神のアクア”……それが奴らの作った薬の名か」

 

「えっ……薬って、まさか……」

 

「ドーピングってこと?」

 

「恐らくな。俺は影山が軍事用の薬を研究しているとの情報を手に入れ、証拠を掴むためにここへ来た」

 

「“真・神のアクア”だと……? そんな薬を使った相手に、帝国(おれたち)は……!」

 

 語られた内容に、マネージャー達、そして誰よりも源田が憤りを示した。

 あの圧倒的な強さを見せつけた世宇子イレブン。

 彼らの力の源が、薬であったとは。

 そのような卑劣なやり方に敗れた。敗北で意気消沈していた仲間達を思い、感情を押し殺そうとして唇を噛む。

 

「あの扉の向こうへ行ければ、何か証拠を掴めるかもしれん。だが……」

 

 鬼瓦はスタッフが“真・神のアクア”を運んできた奥の部屋へ行きたいが、警備員が邪魔だ。

 彼が警備を掻い潜る方法を模索し、頭を悩ませる中、源田が動いた。

 

「お前達、“真・神のアクア”と言ったな!」

 

「な、なんだこのガキ!」

 

「いやまて、何故“真・神のアクア”のことを……」

 

 飛び出して警備員達に叫ぶ源田。

 彼らはこんなところに子供が居ることに厳しい目を向けたが、源田の発した言葉に狼狽えた。

 

「そうだ、あいつは帝国学園の……!」

 

「よくも“真・神のアクア”なんてものを使って、俺達を病院送りにしてくれたな! お前達は必ず警察に突き出してやるぞ!」

 

「なに……ま、まずいぞ、捕まえろ!」

 

 源田の言葉に整合性はなくてもいい。

 彼が知る筈のない“真・神のアクア”のことを口にした時点で、慌てきった警備員達の頭には細かいことを考える余裕はなかった。

 とにかくこの少年を捕らえようと、持ち場を離れて走り出す。

 

「お前達などに捕まるか!」

 

「は、速いぞあのガキッ」

 

「右腕吊ってるのになんて速さで走りやがる!」

 

 警備が釣れたことを確認しながら、源田も走り出す。

 彼らの姿はすぐに廊下の奥へ消えて見えなくなった。

 警備員達がろくに確認もせずに通り過ぎていった廊下の角で、鬼瓦が歯軋りしていた。

 

「あんの小僧、いっちょまえに生意気なことを……!」

 

 鬼瓦には彼の意図など丸わかりだ。

 自分が囮となって警備の目を引き、鬼瓦達がその隙に奥の部屋を調べ“真・神のアクア”の証拠を掴む。

 子供がそんなことをしては、彼もお冠だ。

 大人として、とても許容できることではない。

 だが既に事が起こっている以上、手をこまねいて時間を無駄にもできない。

 鬼瓦は少女達と共に、警備が居なくなった扉の向こうへ踏み込んだ。

 

 鬼瓦は刑事らしく素早い手際で。

 マネージャー達も手分けして手当たり次第に。

 “真・神のアクア”に関係する証拠を探した。

 その時、鍵がいくつもぶら下がる棚が夏未の目に留まった。

 

「ねえ、ここにある鍵、控え室って書いてあるわ」

 

「そういえば、さっきの人達“控え室へ準備を”って……」

 

「じゃあそこへ行けば“真・神のアクア”があるかも! 鬼瓦さん!」

 

「ああ。現物が手に入れば話は早い」

 

 そうと決まれば、4人はすぐに動いて世宇子中の控え室へ踏み込んだ。

 鬼瓦がそこにあった容器からドリンクを確保する。

 これで影山は捕まえられるだろう。

 だが、マネージャー達はあることに気付いて顔を曇らせる。

 

「鬼瓦さん、もうハーフタイムが始まります。影山はすぐに捕まえられますか?」

 

「……最大限急ぐが、試合時間中には間に合わないかもしれん」

 

「そんな……じゃあ円堂くん達は“真・神のアクア”を使った相手と後半も戦うの?」

 

「たとえこれを隠しても、すぐに補充されてしまうかもしれないですよ」

 

 そんなことをさせては、もしかしたら雷門イレブンは世宇子イレブンに潰されてしまうかもしれない。

 何かできることはないのかと考えた時、木野にある考えが浮かぶ。

 

「ねえ、じゃあこんなのはどうかな?」

 

 彼女の発案に、異論を挟むものは居なかった。

 

 

 

 

 

 源田は何人もの警備員に追われながら、全く速度を落とさない走りでその追跡を振り切り観客席まで戻って来ていた。

 

(彼女達は無事だろうか……)

 

 あれだけ目を集めてまた戻れば無駄に大きな騒ぎを起こしかねないため、不安はあるが後は決着を見届けるしかない。

 そうしてグラウンドを視界に収め、目を見開いた。

 

 5ー0。

 前半終了も間際の時間で、電光掲示板は絶望的な点差を示している。

 加えて、眼下に広がる光景。

 雷門イレブンは一人残らず、グラウンドに倒れ伏していた。

 

「……これでわかっただろう。神と人間では、勝負になどなりはしないんだ」

 

 アフロディは誰一人起き上がれない様子を見渡して、ゴール前で倒れる円堂に言い聞かせるように呟いた。

 もはや聞こえてはいないだろうが、いくつも必殺シュートを受けながら食い下がり続けたこの男に言わずにはいられなかった。

 当然返事はなく、他のメンバーも動かないことを確認して、主審に判断を促した。

 

「……試合続行不可能につき、この試合、世宇子中の――」

 

何をしている、円堂ーーーッ! 立てッ!

 

 この程度で、彼が終わるわけがない。こんなところで倒れることなど許さない。

 その一念で、思わず源田は叫んでいた。

 しかし雷門の面々は反応せず、アフロディだけが彼に目を向けている。

 

 突然の大声に宣言を遮られた主審が、もう一度言い直そうとした時、再びそれを遮る声がした。

 

「まだだ…! まだ試合は終わってない……!」

 

 円堂はよろめきながら立ち上がり、試合続行を主張した。

 彼一人で試合はできないと続行を躊躇う主審の言葉に、他の面々がさらに立ち上がる。

 既にぼろぼろの身体で、未だに全員が闘志を宿していた。

 

「馬鹿な……! 何故まだ立ち上がれる!?」

 

 散々痛め付けているというのに戦おうとする彼らは、アフロディには完全に理解不能だった。

 ゴール前に立ち続け、こちらを睨み付ける姿。

 それは、初戦での屈辱をどうしようもなく煽り立てる。

 

「ッいい加減にしろ! ――」

 

 止めを刺すべくシュートを放とうとしたが、寸前で笛がなった。

 前半が終了し、雷門イレブンは足を引き摺りながらベンチへ戻っていく。

 彼らも“真・神のアクア”補給のためベンチへ戻るが、アフロディは屈辱と怒りと、本人も無自覚な少しの恐怖が籠る視線で円堂を睨み付けていた。

 

 

 

 その円堂は、ベンチでマネージャー達から聞かされた事実に身体を震わせていた。

 恐怖ではなく、大好きなサッカーを汚された怒りで。

 

「“真・神のアクア”……そんなものをサッカーに持ち込むなんて!」

 

「奴らの強さの秘密はそれか……そうでもなければ、帝国(あいつら)があんなにも一方的にやられる筈がない」

 

「……円堂くん」

 

 同じく聞いていた鬼道も倒れていった仲間達のことを思い返し、世宇子中への怒りを強めた。

 夏未は、円堂に思わず声をかける。

 打てるだけの手は打った。

 しかし、これほどに傷ついて、まだ戦おうとする姿は痛々しくて見ていられなかったのだ。

 その心情は円堂も察するが、戦うことをやめるという選択肢はない。

 自分達は、世宇子のサッカーは間違っていると示さなければならない。

 この試合はただの大会の決勝戦ではなく、自分の大切なサッカーが懸かっているのだと、感じ取っていたのだ。

 安全を考えれば止めるべきだったが、彼らの思いを否定できない響木は後半戦に雷門イレブンを送り出した。

 怪我でベンチへ下がったメンバー、そしてマネージャー達が、その後ろ姿を見送る。

 

 程なくして、世宇子中のキックオフで後半が開始された。

 アフロディが、ドリブルでゴールへ向かっていく。

 

キラースライド!」

 

コイルターン……!」

 

 

ヘブンズタイム

 

 

 DF達がそれを止めようと挑みかかるが、敵わずに吹き飛ばされていく。

 早々にゴール前に到達したアフロディが、試合開始直後と同じように円堂と対峙した。

 円堂が限界を迎えているのは誰が見ても明らかだった。

 その気力で作っている張りぼてを打ち崩してやろうと、シュートを打ち込んでいく。

 

 反応すらできない円堂に何度も何度もボールが彼の身体に命中し、遂には顔にまで当たって、彼は前のめりに倒れた。

 

「サッカーを……大好きなサッカーを汚すなんて……そんなこと、許しちゃいけない!」

 

 しかし、倒れたというのに、円堂は何度でも立ち上がるのだ。

 雷門イレブンは何度倒れても、立ち上がり続ける。

 

「何故立ち上がる! 神の力を得たボク達に、勝てるわけがないだろう!?」

 

「そんなの、神の力なんかじゃない! お前はもう知っている筈だ!」

 

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」

 

 立ち続ける姿に感じる恐れを振り払うように、アフロディが空へ舞い上がった。

 円堂は、怒れる神の一撃に立ち向かう。

 

「終わりだ……!」

 

『円堂!』

 

『キャプテン!』

 

『円堂くん!』

 

『守!』

 

 その姿に豪炎寺達チームメイト、夏未達マネージャー、監督の響木、そして観戦していた彼の母。

 誰もが彼の名を叫ぶ。

 サッカーを愛する全ての者達の思いが、彼に集まる。

 

「円堂!」

 

 その中に混じっていた声が聞こえて、思わず笑みが浮かんだ。

 

 シュートを全霊で迎え撃とうとして、円堂は身に着けていた祖父のグローブが左手だけ黒く焦げていることに気づいた。

 

(そういうことか、じいちゃん!)

 

 円堂はシュートが放たれる直前に、上半身を捻って背を向けた。

 アフロディは怖気付いたのかと思ったが、それは違う。

 円堂から、今までと比較にならない気が立ち上る。

 彼は右手を胸に当て、心臓から溢れる力の全てを余さず右手に移したのだ。

 

「これが俺の……マジン・ザ・ハンドだぁ!

 

 雷が落ちたかのような円堂の怒号と共に、イナズマを纏った巨大な魔神が姿を現した。

 完璧な力の伝導で、遂に魔神の真の力を引き出すに至ったのだ。

 

「終わりだァ! 真・ゴッドノウズ!

 

 その威容に前半との力の違いを感じ取りながらも、アフロディは全てを込めたシュートを叩き込む。

 対する円堂も、魔神と共に右手を突き出し白い稲妻を纏ったボールを受け止めにかかった。

 刹那、スタジアムを閃光が覆った。

 次の瞬間に皆がゴールを見れば、力強く大地を踏みしめる円堂の右手に、回転が止まったボールが収まっていた。

 

「そんな……ばかな!」

 

 本気のシュートが止められるという二度目の経験に、現実を受け止めきれずアフロディが何度も首を振る。

 他の世宇子中の選手もキャプテンのシュートが止められたことに完全に動きが止まっていた。

 

「いっけぇぇー!」

 

 円堂がボールが来るのを待ちわびる仲間達に思い切りボールを投げた。

 雷門の反撃が、幕を開ける。

 

 




源田幸次郎
囮になった。
怪我はしててもそこらの大人より速いし体力もある。

円堂守
主人公。
完全なマジン・ザ・ハンドを披露。

アフロディ
初戦でシュートが止められたのが完全にトラウマ。
再びシュートを止められる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。