源王は玉座を譲らない 作:青牛
大逆転勝利から優勝が決まり、現実に理解が追いついて来るのに10数秒後。
雷門イレブンは皆一斉に喜びに沸いた。
彼らは輪になってその歓喜を分かち合っていたが、しばらくして、円堂がその中から離れた。
そして、グラウンドに倒れ込んでいたアフロディに歩み寄る。
彼の右足は帝国戦でのシュートの乱射から始まり、激しい練習と試合で積み重なった疲労が溜まり、先程の豪炎寺との競り合いで完全に痛めてしまっていた。
足の痛みに顔をしかめながらなんとか起き上がろうとしていたアフロディに、円堂は手を差し伸べる。
「足、大丈夫か?」
「……どういうつもりだい?」
理解の外にある円堂の行動に、アフロディは目を丸くして問いかけた。
そうして戸惑う彼に対し、円堂は平常運転だ。
笑顔でアフロディの目を見つめて自身の中で決まりきった常識を教える。
「サッカーは、試合が終われば敵も味方もない。そうだろ?」
「だからって……ボク達が何をしたのか、わかっている筈だ。なぜこんなことを……」
「確かに、“真・神のアクア”に頼って戦ってたことは許せない。帝国の奴らを、偽物の力であんなにひどい目に合わせたことも」
「そうだろう? じゃあ……」
「でも、試合の最後にお前達と本当のサッカーができてよかった。楽しかったぜ。いいシュートだった」
「――――」
円堂の言葉に、アフロディは開いた口が塞がらなかった。
この男は、聖人か何かなのか。
自分や仲間達を痛め付けた相手を助け起こし、あまつさえ褒めるなんて。
あるいは彼こそがサッカーの神なのかもしれない。
そんな馬鹿げた事が頭に浮かんでしまう程度には、円堂の対応は慈愛に満ちていた。
「ん? どうしたんだ?」
固まってしまったアフロディに困惑する円堂。
2人にマネージャー達が近づいて来て、言葉を付け加える。
「後半前にあなた達が飲んだのは“真・神のアクア”じゃないわ」
「ただのスポーツドリンクよ」
「ハーフタイム前に容器の中身を入れ換えさせてもらったのです!」
3人が語る事実に、アフロディは試合中に起こった“真・神のアクア”の効果切れの理由を理解した。
“真・神のアクア”は見た目や味、匂いなどは怪しまれないようスポーツドリンクに似せてカモフラージュされていた。
それが仇となり、世宇子中のメンバーはすり替えに気づくことができなかったのだ。
「つまり、後半で出したのはお前ら自身の本物の力なんだよ」
「……そう、か。ボク達の、本物の……ッ」
「どうした? アフロディ!?」
自分の手を見つめ、円堂の言葉を噛み締めるように復唱したアフロディだったが、苦しげなうめきと共にその言葉が途切れた。
興奮で紛れていた“真・神のアクア”の症状がぶり返してきたのだ。
頭を抑える彼に心配する円堂達だったが、それをアフロディ自身が制した。
「本当に大丈夫ですか?」
「……キミ達の手助けには及ばないさ。――皆、行こう」
アフロディの呼びかけに従い、他のメンバーもグラウンドの外へ歩いていく。
皆が廊下の中へ消えていくのを見届けて、彼は円堂達を振り返った。
「円堂くん。鬼道くんや源田くん達に伝えておいてくれ。すまなかったと」
「……いや。自分で謝るんだ、アフロディ。サッカーをしてれば、またいつでも会えるんだからな」
「フフ、手厳しいなぁ。でも、うん。わかった。ありがとう、イナズマイレブン」
そのやり取りを最後にアフロディもグラウンドを去っていった。
世宇子イレブンを見送り、円堂も仲間達の輪に戻っていった。
その頃、影山は自室でグラウンドを映すモニターを前にして歯軋りしていた。
「馬鹿な、こんなことが……ッ!」
なぜ神の力を与えた世宇子中が負けたのか。
なぜ忌々しい円堂大介の孫が試合を終えてもグラウンドで笑って立っているのか。
なぜ、自分が勝てなかったのか。
どれを考えても答えは出ない。いや、受け入れられる答えが出ない。
負ける要素などなかった筈なのに。敗者に存在価値などないというのに。
そうして敗北にうちひしがれている影山の背に、低い声が投げ掛けられた。
振り向かずともわかる。
しつこく自分を追い回す刑事、鬼瓦以外にはいない。
「終わりだ、影山。世宇子中の子供たちは保護させてもらった。“真・神のアクア”から見つかった成分と服用した彼らの症状が動かぬ証拠。もう逃げられんぞ、お前には今度こそ罪を償ってもらう!」
糾弾するその声に、影山は返事をしなかった。
代わりに、不敵な笑みを浮かべる。絶望などあり得ない。
こんなことで、自分のサッカーへの
そして、源田はこの聖戦の決着を見届けた。
グラウンドの真ん中で、舞い落ちる紙吹雪を浴びる彼らを眺めながら一言呟く。
「流石は円堂、か」
最後にアフロディが放ったあのシュートはどう甘く見積もっても“ゴッドノウズ”とは比較にならない威力だった。
自分はその“ゴッドノウズ”を相手に捨て身で止めるのが精一杯だったことを考えると、円堂が常にあれ程の巨大な魔神が作れるかは疑問があるものの、確かに彼は自分の先へ行っていると言える。
「……俺も強くならなければな」
早く怪我を治して鍛え直さなければならない。
その決意を新たにして、源田は観客席を後にした。
スタジアムを出て入り口を見てみれば、まだ雷門イレブンが屯していた。
我先に優勝トロフィーに触れようと取り合って騒いでいるメンバーを避け、そこから少し距離を置いている円堂達を見つけて声をかける。
「円堂。鬼道」
「源田か」
「源田ぁ! 見てたか!? 俺達勝ったぞ!」
「見ていたから落ち着け。……お前達、よく勝ったな、あの世宇子中に。優勝おめでとう」
駆け寄って来た円堂を左手で受け止めながら、源田は微笑んで彼らに賛辞を送った。
「これでお前達、雷門中が日本一のチームというわけだ。……キーパーの日本一はまだ譲る気はないが」
「細けえなおいっ!」
褒め言葉で感動させてからの、微妙に器の小さい発言に聞いていた染岡が思わず突っ込む。
同じく聞いていた風丸も苦笑いだ。
ただし、突っ込みを受けても源田は大真面目な顔で言い返す。
「何を言う、大事なことだ。ああ、世宇子中には負けたが、それに勝ったからといって俺が円堂に負けた訳ではないからな、うん。治ったらまた勝負だ」
「まったく、変な所で小さいというか、なんというか。そんなこと気にしないでもお前の座は……」
不動だ。
鬼道がそう言おうとして、円堂を見て言葉に詰まる。
源田は仲間だが、円堂も仲間だ。
彼らの優劣を自分がどうこう口にするのが憚られて、何も言えなくなってしまう。
「……まあ、また今度だな」
「ところで、土門はどうした? あいつだけ――いや、一之瀬もだが――姿が見えんぞ」
鬼道が密やかな葛藤の末に出した言葉をスルーして、源田がこの場に不在のメンバーについて言及した。
辺りを見回しても、円堂達雷門イレブン以外に人は居ない。
2人だけ居ないというのが気にかかったが、他校にいる幼馴染みにいち早く会いに行ったと聞かされて納得する。
「そうか……俺も戻るとするか。佐久間達にも優勝を教えてこないとな。鬼道、お前の戦いぶりもしっかり話してきてやる」
「ああ。この報せが元気を与えてくれるといいんだがな……」
「心配ない。皆近い内に退院できそうだからな。だいでんももう、洞面を肩に乗せて歩けるぞ」
「フッ……なら、安心してよさそうだな」
帝国イレブンの中でも特に重い怪我をしていた男の快復の具合を語る源田。
順調に彼らも元気を取り戻していっていることに、鬼道も安堵の笑みを浮かべて息をついた。
「佐久間や寺門達も、早く特訓したいと言っていたからな。退院しても、病み上がりで無理をしてオーバーワークになったりしないようにしっかり注意しておかなければ」
「お前が
「?」
「……まあ、復帰するのはお前が最後だろう。佐久間達の面倒は俺が見る」
「はは、それもそうだな」
「あーっ! そうだ源田さん!」
いつも尋常でない自主トレーニングを行っているお前が言うのかと鬼道が口を挟んだが、首を傾げる彼の姿に諦めて話を終わらせる。
と、そこへ何か思い出したように音無が大きな声をあげて近づいて来た。
なにやら頬を膨らませて可愛らしい怒りを表現している。
「ダメじゃないですか! 怪我してたのに囮になったりして! 鬼瓦刑事も怒ってましたからね!」
「ちょっと待ってくれ、春奈ちゃん。あれは仕方のないことだ……」
「ほう……詳しく聞かせてくれ春奈。お前達が試合の裏で何をしていたか、俺達は要点しか聞いていないからな……」
「要点だけでいいだろう鬼道…! 別に怪我したわけでもないんだ、わざわざ聞くことじゃ――」
「それは俺が聞いて判断することだ」
そうして、音無の源田を咎める言葉から鬼道の尋問及び説教が始まってしまう。
解放されたのは、帰りのバスを待たせている響木が雷門イレブンを呼びに来た時だった。
バスに乗り込んで雷門中に帰ろうとする雷門イレブン。
「じゃあな、源田ー!」
「俺も手続きをしたら帝国に戻るからな。待っていろよ」
「ああ。気をつけて帰れよ」
円堂・鬼道と別れの挨拶を済ませ、源田も病院へ向かう。
帰り道で、視線を感じて振り向くと、通りがかった黒服にスキンヘッド、ゴーグルという癖の強い格好の男の姿があった。
(……凄い肌の色だな。染めてる、のか?)
すぐに道の曲がり角で姿を消したその人影に気のせいかと警戒を捨てて病院へ戻る。
とにかく、これでまた当たり前のサッカーができると信じていた。
突如日本に宇宙人が現れたと源田が知ったのは、病院に戻ってからのことだった。
源田幸次郎
試合の裏での行動を音無にチクられる。
一応怪我人。
円堂守
ドーピングして痛めつけてきた相手に手を差し伸べる。
聖人か?
鬼道有人
怪我した状態で源田が無茶をしたのに怒る。
これにてFF編終了です。
次回より脅威の侵略者編スタートとなります。