源王は玉座を譲らない 作:青牛
源王は北の吹雪を忘れない
FF全国大会の決勝戦を制し、日本一に輝いた雷門イレブン。
彼らの母校は、その日の内に瓦礫の山と化していた。
犯人は自らを宇宙人と名乗るサッカーチーム。
彼らを止めるため、雷門イレブンは戦いを挑んだ。
「イナズマブレイク!」
しかし、世宇子中との死闘を終えたばかりな上に主力が欠けていた彼らでは宇宙人――エイリア学園“ジェミニストーム”の相手は荷が重すぎた。
「ブラックホール!」
主力3人の連携シュートは、ジェミニストームのキーパーを務める大男ゴルレオが手の内に作り出した黒い渦にあっさりと飲み込まれた。
「我々に必殺技を使わせるとはな……多少やるのは認めてやろう。だが足掻いても無駄だ。地球にはこんな言葉がある――
――“骨折り損の草臥れ儲け”」
「ワープドライブ!」
「フォトンフラッシュ!」
「グラビテイション!」
「アストロブレイク!」
世宇子中をも凌ぐ圧倒的な身体能力と見たことのない異質な必殺技に雷門イレブンは手も足も出ず、その戦いは10点もの失点と、世宇子戦で疲労の溜まった体を押して戦った一部メンバーの入院という惨憺たる結果に終わってしまう。
それでも諦めなかった雷門は今、宇宙人に対抗するため地上最強イレブンを結成しようと日本各地を巡る旅に出ていた。
「――そして奈良で総理の娘がチームに加わったが、再びエイリア学園に敗北。その上豪炎寺が離脱。欠けた攻撃力を補うために北海道のストライカーをこれから勧誘しに行く、か……」
病院の近くにある公園で、ベンチに腰かけた源田は携帯で鬼道から彼らの旅路の内容を聞いていた。
「それで、その北海道のストライカーの名が“吹雪”か」
『ああ。だが調べても名前と、事実かどうか疑わしい逸話ぐらいしか出てこなかった。源田、お前は中学に上がる前に全国各地を飛び回って戦っていただろう。吹雪という名前に覚えはないか?』
鬼道がキャラバンから源田に旅のことを話していたのは、謎に包まれたストライカー吹雪について手掛かりを得るため。
響木に代わって雷門イレブンの前に現れた新監督
離脱した豪炎寺の代わりに得体の知れないストライカーを加えるということにも、小さくない抵抗が見られる。
そして鬼道はチームの一員として、件のストライカーがどんな人物なのか予め知っておこうと考えたのだ。
「そうだな……小学生の頃は手当たり次第に名のあるチームやプレイヤーに勝負を仕掛けていたからな。今思うと、あれで折れてしまった者も居たかもしれんが、面白い奴にもたくさん出会えた。沖縄では一つ年上でそれまで素人だったのに凄い動きをした人が居てな……」
『源田。俺が聞いているのは北海道でのことだ』
「ああすまない、話が逸れたな。北海道……北海道……吹雪兄弟か?」
『兄弟?』
「ああ。FWの弟とDFの兄の2人兄弟だ。弟の方がかなり血気盛んで、強烈なシュートを撃つ奴だったからよく覚えている」
北海道に才能溢れるストライカーが居るという情報を聞きつけた当時小学生の源田は、戦うために試される大地に足を踏み入れた。
殆どのサッカー少年達にしてみれば、地元の友人達と共に優勝を目指す、あるいは競い合う大会にそれまでの常識を塗り替える
そんな理由で、決勝戦までの道のりはあまりにも簡単なものだったが、吹雪兄弟の所属するチームとの激突はその肩透かしを食らって緩んでいたチームの気分を一気に吹き飛ばす激戦となったのだ。
「懐かしいな……あの戦いで俺は――」
――数年前。北海道。
激しい雪により、1日の延期となってしまったが、なんとか行われることになった決勝戦。
『さあ! 大雪に見舞われるアクシデントもありましたが、無事行われることとなりました“道産子少年サッカー大会”決勝戦! 前年度優勝チーム“ホワイトラバーズ”と相対するはここまで無失点で勝ち上がってきた東京の刺客! 特別招待チーム“リトルプライド”ーー!』
実況の興奮を抑えきれていない声が会場に響き渡る。
観客席はそれなりに埋まっており、遠い所からやって来た強い少年達の試合を見ようという人々で賑わっていた。
そんな様子に、リトルプライドのメンバーが苦笑いをする。
「いやー、また決勝戦来れちゃったな……」
「あんまり期待されてもなぁ……源田が全部シュート止めるから一点だけでもとれば自動的に勝てるってだけなのに」
「源田ほんとたのむぞ!? おまえが吹雪兄弟と戦いたいって言うから北海道まできたんだからな!?」
「わかっているが……どうしたみんな。元気がないぞ? これから試合なのに」
『これから試合だからだよッ!』
純粋な疑問を投げかける源田を、彼を除いたチーム全員が怒鳴りつけた。
単なる一サッカークラブには似つかわしくない実力をした源田の“全国強い奴巡り”に彼らは既に数回付き合わされている。
いつも話題になっているチームのことを聞きつければ手当たり次第に試合をしたいと叫び、実際に試合に漕ぎ着けてしまう源田。
戦う相手は殆どが名の知れた強豪、明らかにチームの力と釣り合っていない格上の相手ばかりだった。
しかし、今のところは源田がどんなシュートも止めているからどんな勝負も勝利か引き分けで無敗。
明らかに次元の違う戦いを見せられても彼らが付き合うのは、一重に源田のサッカーへの熱量故。
もはや仕方ないと半ば諦めながら、それで一周回ってチームメイト達も思い切りのいいプレーができていたのだがそれはそれだ。
そんなやり取りをしている彼らに、1人の少年が駆け寄ってきていた。
橙色の髪をしたつり目の少年である。
これから戦うチーム所属の、源田が目当てにしている兄弟の片割れの突然の接近に気づいたチームメイト達が慌て出すが彼はそれを完全に無視して源田に向かって口を開いた。
「おい、お前だな! 源田って奴は! キーパーの!」
こちらを指差して大声で話しかけてきた少年に、源田も向き合って答える。
「そうだが、そういうお前は吹雪だな?」
「アツヤだ! 吹雪アツヤ! お前、今までの試合で一回も点を取られたことないんだってな。今日はオレがお前から点を取ってやるから覚悟しておけよ!」
「ほう……」
「こらアツヤ、なにしてるの!」
「いててて!」
言いたいことを言い切ってふーっ、と息を吐いている少年――吹雪アツヤを後ろから駆け寄って来た銀髪の少年が耳を引っ張りながら叱りつけた。
「また失礼なこと言って! 喧嘩しちゃダメでしょ!」
「宣戦布告だっつーの! 父さん、オレがこいつから点をとるの大変かもって言ったんだぞ。簡単だそれくらい!」
「もう、油断はしちゃダメだって話したでしょ? ……僕は
「かまわないさ。お前達との試合が楽しみだ」
アツヤの首根っこを引っ付かんで自チームの下へ戻っていく士郎を見送りながら、源田は気を引き締め直した。
彼らとの戦いを、必ず強さへの糧とするべく。
『両チーム整列。いよいよ試合開始です!』
リトルプライドのキックオフで火蓋が切られた決勝戦。
細かくパスを回して堅実に攻め込んでいく彼らだったが、素早いアツヤのパスカットで早々にボールを奪われてしまう。
「へへっ、遅いんだよ!」
「くそっ」
アツヤはドリブルで次々とディフェンスを抜き去ってあっという間にペナルティエリアに侵入した。
彼は、ゴール前に立ちはだかる源田を見据えて勝ち気に笑う。
「おらぁー!」
そのまま鋭いシュートを放った。
風を切って飛ぶボールはサイドを狙ったものだったが、源田は完璧にキャッチして防ぐ。
「ふぅ……いいシュートだ」
受け止めた後も衝撃が遅れて体に伝わってくるような、強力なノーマルシュートに源田は素直に賞賛を送る。
「へー、まあまあやるみたいだな」
今やこの北海道では負け知らずのストライカーとなった彼のシュートが止められたことに、兄である士郎以外のチームメイトが動揺を示す。
だが、アツヤは不敵な笑みを崩さない。
彼にしてみれば、この程度のシュートはまだまだ本気の欠片も出していない小手調べ。
源田というキーパーの実力の確認に過ぎない。
「よし、反撃だ!」
ボールを受け取ったリトルプライドが反撃に攻め上がる。
彼らも十分、大会で通用する実力を持つ少年達だ。
順調にディフェンスを抜き去ってゴールへ近づいて行く。
だが、ボールを運ぶキャプテン
「通してもらうぞ!」
「いや、行かせないよ――ホワイトアウト!」
「うおっ!?」
微笑みを浮かべて士郎が足を振るう。
すると足下から雪が舞い上がり、獅子王の眼前を真っ白に埋め尽くした。
そして視界が晴れた時には彼の足下にボールは既になく、怯んでいる間に士郎が奪い取っていた。
士郎は華麗なドリブルでボールを運び、それを弟に渡す。
「ハハッ! 止められるかよ!」
切り込んでいくアツヤの前には、ディフェンスは全く障害とならず再びゴール前に到達した。
今度は本気だ。アツヤは加減なしでゴールを狙う。
「ぶっ飛べ…! アイシーシュート!」
回転をかけ、浮き上がらせたボールを氷が包む。
彼自身も飛び上がり、引き絞った右足を振り抜いてそのボールを蹴り出した。
通った空間に氷の細かい結晶を散らしながらボールはゴールへ向かう。
アツヤ自慢の必殺シュートだ。
そのシュートを源田が迎え撃つ。
彼は右拳をその場で振り上げて、地面に叩きつけた。
しかし、何も起こらない。
「……うおお!」
即座に動きを切り替えた源田。飛びかかってボールを抱え込むように両手で挟む。
「――フンッ!」
そして空中で体を思い切り捻り、ボールを真上に投げ飛ばすことでゴールを防いだ。
空へ向かって飛んでいき、力を使い果たしたボールが彼の掌の上に落ちる。
『と、止めたーー! ここまで誰も止められなかった吹雪アツヤのシュートを、源田が止めました! 絶対防御と称される腕前は伊達じゃない!』
「……」
決勝戦まで、放てば必ず入ると言っても過言ではない程強力だったアツヤのシュートが防がれたという事実に興奮した実況が叫ぶが、源田本人は不満げな顔をしていた。
サッカーを始めた頃から飛び抜けた才能を示し、更に必殺技を習得してからは正に向かうところ敵なしだったアツヤからすれば面白くない。
「舐めやがって…! 余裕でいられるのも今のうちだからな!」
「アツヤ、あんまり熱くなりすぎちゃダメだよ」
「わかってるよ!」
「わかってないでしょもう……」
自慢のシュートを必殺技も使わずに止めておいて、物足りなそうな源田の態度にアツヤは眉間に皺を寄せる。
兄である士郎に窘められるが、今まで止められたことのない必殺シュートを止められて燃え上がった彼の負けん気は収まりそうにない。
士郎は自分の言葉でも効果がないことを察して、肩を落とした。
「オラッ!」
「むん!」
「まだまだぁ!」
「やらせるかっ」
それからもアツヤはノーマル・必殺問わず数え切れない程撃ち込んだが、遂にリトルプライドのゴールネットを揺らすことはなかった。
「アイシーシュートォ!」
「ぬ――」
放たれた氷のシュートを相手に、源田はまた拳を地面に打ち付けた。
だがやはり何も起こらない。
「くっ……オオォ!」
『源田怒涛の連続セーブ! 北海道が誇る若きストライカーを前に一歩も退きません! おっと、ここで前半終了ーーー!』
迫るボールを思い切り拳で殴り地面に叩きつけて止めた所で、ホイッスルが吹かれる。
両チームが各々自チームのベンチに戻っていく中、アツヤは歯軋りしながら源田を睨みつけていた。
「あんにゃろー…! 必殺技も使わないってどういうつもりだ……!?」
ここまで、源田は必殺技を一度も見せていない。
あれだけの実力があるのなら、当然必殺技もある筈だとアツヤは考えている。
彼は自分のシュートにそれを使う程でもないと思っているに違いない、と信じて疑っていなかった。
(やはりできん。どうすれば“パワーシールド”が使える……)
彼が、未だ必殺技習得に四苦八苦していることなど、知る由もない。
源田幸次郎
小学生時代は名のあるプレイヤーやチームにひたすら挑んでいた。
チームメイトにはかなり恵まれてる。
この時点では必殺技を習得できてない。
リトルプライド
源田の近所のジュニアチーム。
プライド=ライオンの群れの呼び名
獅子王吼
リトルプライドのキャプテン。
ライオンが好き。
吹雪兄弟
北海道の最強コンビとして名を馳せる。
今回の相手。
オリジナル必殺技
アイシーシュート
氷を纏わせたボールを、飛び上がって蹴り飛ばす。
エターナルブリザードから回転を抜いたイメージ。
ホワイトアウト
雪を巻き上げて相手の視界を塞ぎ、その隙にボールを奪う。
ジェミニストーム
思ったより雷門が強くて「話と違くね?」ってなってる。
豪炎寺が不調だったお陰で負けてはいないが、実は奈良で既に一点取られている。