源王は玉座を譲らない 作:青牛
それからも試合は続いたが、もはやホワイトラバーズに源田の守りを突破する術はなかった。
「負けてたまるかァーーー! エターナルブリザード!」
「パワーシールド!」
衝撃波の壁は吹き荒れる
その一際激しかった攻防を最後に、審判が笛を鳴らす。
『ここで試合終了ーー! 必殺技を披露してからはますます強固な守護神となった源田幸次郎、ついに一点も渡すことなく勝利! 優勝は、リトルプライドだーーっ!』
スコアは1ー0、リトルプライドが後半の得点を守り切った形となった。
チームメイト達は優勝の喜びに打ち震え、立役者である守護神の少年に駆け寄っていく。
リトルプライドの面々は、これまで全てのシュートを素の力と技術で止めてきていた彼がついに必殺技を習得したことへの祝福の思いでいっぱいだった。
「ついにやったな。あれがお前の必殺技か」
「はい」
駆け寄ってきた者達の1人、杉森が称賛を余さず示す。
周りのチームメイト達も彼と同じ気持ちだった。
「“パワーシールド”か……いい必殺技だな、源田」
「これはもういよいよ源田さん、無敵じゃないっすかぁ!?」
「よしてくれ2人とも……その辺で勘弁してくれ――」
「源田さん? 後ろに誰か――ひえっ」
感慨深げに褒める下鶴、興奮気味に話しかけてきた出前、源田が流石に照れ臭そうにして、言葉が止まった。
何かと思い、源田の視線の先に出前が振り向いてみれば、そこに立っていたのは今日一番に険しい表情をしたアツヤ。
その形相に小さな悲鳴を残して出前が離れていくのと入れ替わりに、彼がずんずんと近付いてきた。
アツヤは威嚇する狼――実際の所、小学生の身長では精々が子犬だが――のように唸りながら睨み付けてくる。
「…………」
「…………」
そして、こちらを睨み付けたまま黙り込んでしまった。
時折口をもごもごとさせるが、肝心の言葉が出てくる気配はない。
明らかに無視できる様子ではなく、かといってどう対応したものか、と困惑する源田。
アツヤはというと、初めての敗北という大きすぎた屈辱とこのままではいられないという負けん気だけに突き動かされて源田の前にやって来て、それからなんと言うかを考え出しているだけで、大した意味はないのだが。
とにかく、周りの者達が固唾を飲んで見守るお見合い状態がしばらくの間続くことになった。
やがて心身に整理が着いたのか、アツヤは軽く息を吸ってから口を開いた。
「俺ともっかい勝負しろ!」
「あ、ああ」
「試合は、俺の……ま……ま……」
「ま?」
「~~~ッ! 負けだッッ! でも負けっぱなしじゃいられねえ! 後で勝負だぞ! 逃げんなよ!」
アツヤはそう捲し立てて、走り去って行ってしまった。
嵐のような、あるいは吹き抜ける雪風のような少年に呆気にとられる源田とリトルプライドの面々。
そこに、吹雪のもう一方の片割れが新たにやって来る。
「凄いね、君。アツヤのシュートをあんなに止めちゃった人は初めてだよ」
「俺もあんなストライカーに会ったのは初めてだ。いつ破られるかひやひやしたぞ」
「はは、結局一点も取れなかったみたいだけどね。あいつ、今まで全然負けることがなかったからこの負けはいい薬になると思うよ。よければこの後も付き合ってあげてね」
「もちろんだ。あいつ程のプレイヤーと戦えれば、俺にも得られるものは果てしなく多い」
「ありがとう。……先に言っておくけど、アツヤは負けず嫌いだからしつこいよ?」
「生憎だな。それは俺もだ」
お互いに笑いながら、2人は固い握手を交わした。
表彰式を終え、コーチの話も終わった所で、ホテルに向かおうとするチームに事情を話して送り出された源田は走る。
そしてスタジアムの出入口まで来たところで立ち止まった。
(――どこで勝負するんだ……?)
よく考えてみれば、待ち合わせも何もしていない。
アツヤは「勝負!」とだけ言って走り去ってしまっていたし、源田もそこが完全に頭から抜け落ちていた。
折角の勝負がお預けになるという可能性に思い当たって、一瞬本気で落ち込みかけた源田だったが、横から飛んできた大声に喜色満面に振り向いた。
「見つけたぞ源田ァ! うろうろするな……ってなに笑ってんだ気色悪ぃ!」
「こらアツヤ。何かいいことがあったのかな、源田くん?」
「気にするな。俺が勝手に落ち込んで、勝手に喜んでるだけだ」
地元の少年2人の案内で近場のサッカーグラウンドにやって来た3人。
アツヤがシュートを打ち、源田が防ぐ。
そんなやり取りが、士郎に見物されながら延々と繰り広げられていた。
「エターナル――」
もはや何度目になるかわからないアツヤの必殺シュート。
彼を中心に雪風が巻き起こり、氷がボールを覆っていく。
そして、試合と遜色ない力で思い切り蹴りだした。
「――ブリザード!」
「パワーシールド!」
だが、その猛攻を源田はものともしない。
彼の放つ衝撃波の壁は、繰り出される度にその力を増しているようにさえ感じられた。
しばらくの間、ボールが壁とせめぎあったが再び弾かれた。
「ああもう! 何で勝てねえんだよチクショー!」
「あっ、アツヤ、上!」
「うえ? ――ぎゅぇっ!」
悔しさで叫んでいたアツヤの頭上に、弾かれて打ち上がったボールが落ちてきた。
彼は潰れた蛙のような声を上げて蹲る。
「ふはっ、いや、すまない。覚えたてでな、弾き方などはよくわからなくて……」
「気にしなくていいよ源田くん。周りが見えてなさすぎるアツヤが悪いんだしね。……ふふっ」
「何笑ってんだお前らぁ! わかってんぞ!? くっそー、こうなったら……源田! お前シュート打ってみろ!」
「俺が?」
立て続けに負けて、どうしても勝ちたくなったアツヤが形振り構わぬ提案をしてきた。
負けず嫌いにも程がある、と流石に士郎も呆れて苦言を呈する。
「アツヤ。源田くんキーパーだよ? 空しくないの?」
「るっせ! キーパーだろうが一端のシュートくらいはできるだろ? それに俺だってキーパーなんてやったことねえ! 五分五分だ!」
「……わかった。シュートを打つのは久しぶりだが、やってみよう」
兄の視線に顔を羞恥で赤くしながら、それでも勝ちたい彼は譲らない。
頷いた源田がアツヤと位置を交換し、ボールを足下に置いて立った。
それを睨み付けながら、アツヤは鼻息荒くシュートを待ち受ける。
「よし、いくぞ」
「来いやぁ!」
源田が、思い切りボールを蹴ろうと動いた。
助走をつけ、軽い駆け足でボールに接近し、右足を振りかぶる。
そしてボールが、源田の足下から消えた。
甲高い音が鳴り響いた。
「は?」
アツヤが、何が起こったか理解するのには5秒程の時間を要した。
ゴールラインの内側にボールが無いことと、鳴った音からして、シュートはクロスバーにぶつかって弾かれたのだろう。
それはわかる。
だが、蹴られたボールが殆ど見えなかった。
アツヤ自身がいつもシュートを放つ側で、シュートを捉えるのに慣れていないにしても、相当な力がボールには込められていた。
「どうした、驚いたか?」
「あぁん!? 別にビビってねえし、ゴール入ってねえじゃん! 次打ってこいよ!」
「誰もビビったとは言ってないよアツヤ」
呆気に取られていたのを見た源田が、得意げになって口元に笑みを見せる。
それに火がついたアツヤが、更なるシュートを促して怒鳴った。
源田が、再びシュート体勢に入った。
力強いシュートが次々と放たれる。
「ふんっ!」
蹴ったシュートの軌道は上に逸れてまたクロスバーに激突した。
「ぬん!」
蹴ったシュートの軌道は右に逸れてゴールポストに当たった。
「ぬあぁ!」
蹴ったシュートの軌道は左に逸れてゴールポストに当たった。
「うおぉ!」
蹴ったシュートの軌道は――
最終的に、源田のシュートは10本程放たれた。
源田は顔に汗を滲ませている。下手をすれば試合中に匹敵する量の汗が流れたのは何故か。
一部始終を眺めていた士郎が、なんとも言えない表情を浮かべた。
そして、最初に立った場所から一歩も動いていないアツヤが心底呆れた表情で口を開いた。
「お前、シュートど下手くそだな」
告げられた現実に、源田は膝から崩れ落ちた。
源田の悩みの一つである。
それを眺めながらもアツヤは追及の手を緩めない。
「まさか1本もゴールに来ないとか思わなかったぞ」
「…………」
「パワーは凄いし、フォームも普通に見えるのに何故か逸れていったね」
「…………」
士郎にも続けてダメ出しされるが、源田は何も言い返せなかった。
「あんな腕前でなんで自信満々だったんだよ……」
「今回は入るかと思ったんだ……たまには入るんだぞ。必殺技も習得出来たし、今日は運が来てると思ったんだ」
「完全にギャンブルとかの思考だね」
勝ちたかった筈なのに、アツヤは何故かひたすらに空しかった。
「手でシュートが出来ればいいんだがな……投げたりするのは得意だぞ」
「もうそれはシュートじゃないでしょ」
「お前は何を言っているんだ」
手段を選ばずに奪い取った勝利に価値はない。
神様がそれを教えてくれようとしたのかもしれないと、アツヤは空を見上げながら思った。
そろそろ解散しようという空気になり、源田と吹雪兄弟はそれぞれチームと親の元に戻ろうとする。
「俺達は他のチームと練習試合をするからしばらくこの街のホテルにいる。気が向いたらまた来い」
「ならまた勝負だ、逃げるなよ! なぁ兄ちゃん、2人で練習しようぜ、新必殺技!」
「うん。今日はアツヤがずっと打ってたけど、僕も少しシュート打ってみたくなったよ。……またね、源田くん」
「またな源田ー!」
「ああ。またサッカーをやろう」
源田と吹雪兄弟の北海道での出会いはそうして幕を閉じる。
そんな源田の昔語りを鬼道と、吹雪に興味を持って集まった雷門イレブンが耳を澄まして聞いていた。
『俺が“吹雪”について知っていることはこんなところだな』
「ああ、十分だ。ありがとう源田。お前がそれほど評価するなら、確かに戦力としては申し分無さそうだ」
「……ふん」
鬼道の言葉に対して、豪炎寺がチームを離れたこととその穴を埋める吹雪の加入に納得しきれていない染岡が鼻を鳴らす。
「しかし、そんなに凄いならなんでフットボールフロンティアに参加しなかったんスかね?」
源田から吹雪アツヤの凄まじい実力を聞かされた1人である壁山が雷門イレブン共通の疑問を口に出した。
それほどの強さがあるならば、地区大会の突破くらい朝飯前だろう。
北海道で大人しく、ろくに公式記録もない無名の身に甘んじているとは思えない。
「別におかしな話じゃねえだろ。源田の話だって小学生の頃のことだ。当時は強くても、中学生のレベルでは通用しなかったんじゃねえのか」
「いや、あるいは通用し過ぎたからこそかもしれないな」
「どういうことだ?」
「影山だ。吹雪が強かったからこそ、そちらにも奴が何らかの妨害をした可能性がある」
「強ち、噂も間違いじゃないかもしれないでやんすね」
「ひええ……熊より大きいんスかぁ?」
『お前達がこれから会うのが俺の知る吹雪なら、1つ言えることがある』
「?」
『“熊殺し”は本当だぞ』
それではな、とその言葉への雷門の反応を待たずに電話を切った源田。
結局、まだ見ぬ北海道のストライカーへの不安と期待が入り混じったままで雷門イレブンは北へ向かうことになった。
電話を終えた源田も、ベンチから立ち上がった。
(退院したらどうするか……)
戦線復帰が視野に入ってきたがかといって手放しで喜べる状況ではない。
小学生時代に世話になった先輩、杉森が現在各所に呼び掛けて結成しようとしているというバックアップチームに顔を出してみようか。
そんなことを考え、背後から黒服の男に見つめられながら、源田は病院へ歩いていった。
鬼道達との再会は――
「――あーあ! いきなり試合日程変更で不戦敗とか納得いかねえよ兄貴!」
「――そうは言っても、どうにもならないよ。特訓して、来年こそ頑張ろう」
「おーい! 吹雪くん達ーー! お客さんだよ~!」
「「客?」」
雷門イレブンに、雪原のサッカー少年達が加わってからのことになる。
源田幸次郎
シュートが下手くそ。
中身がキーパーをやってた主な理由でもある。
奇跡的なレベルでシュートがまともに飛ばない。
吹雪兄弟
源田と縁を結ぶ。
この戦いからウルフレジェンドを開発開始。