源王は玉座を譲らない   作:青牛

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お待たせしました。


アツヤは雷門を信じない

 身震いするような冷たい風が吹き抜ける空の下、22人の少年達がサッカーグラウンドに立っている。

 スカウトの目的であるストライカー、吹雪アツヤの実力を見るための練習試合が彼の所属する白恋中サッカー部と雷門イレブンの間で行われようとしていた。

 

「日本一の雷門中と試合できるなんて、嬉しいけど緊張するべ……」

 

「心配すんな」

 

 つい先日までテレビの向こうの住人だった日本最強チームを目の前にして身を強張らせていた荒谷の肩に、歩み寄ったアツヤがそう言ってポンと手を置いた。

 顔を上げた荒谷にアツヤは勝ち気な笑みを見せながら言う。

 

「日本一だろうがなんだろうが、この俺が今日もバンバンシュート決めてやるよ!」

 

「あ、アツヤくん、あんまりそういうこと言っちゃ――」

 

「あぁん!? 舐めてんじゃねえぞ一年坊ォ!」

 

「ほらぁ~!」

 

 アツヤの不遜な発言に、地獄耳で聞きつけた染岡が噛みついてきた。

 雷門イレブンでも強面な彼の怒号に、荒谷は試合前から涙目でびくびくとしながらアツヤの後ろに隠れてしまう。

 元々アツヤ――新ストライカーの加入に乗り気でなかった染岡と、他者と衝突しやすい気の強い性格をしたアツヤの関係は、ファーストコンタクトの時点から既に険悪な状態だった。

 

 

 

 それは数時間前に遡る。

 

「吹雪くん達~! どこに行ってたの2人とも? お客さんが来てるんだよ~」

 

「「客?」」

 

 他の白恋中サッカー部のメンバーに遅れて部室に入ってきた2人の少年。

 兄弟らしく、よく似た顔をしている彼らだったが、雷門イレブンはまず先程荒谷の呼んだ名前が聞き捨てならなかった。

 2人の方はつい先程あった者達とのあまりにも早い再開に呆気に取られている。

 

「あー! お前達は!」

 

「あれ? 君達……」

 

「ちょっと待て、吹雪ってこいつらか!?」

 

 彼らは雷門イレブンが白恋中へ向かう道中、道端で震えていた兄弟だった。

 途中までキャラバンに乗せていた間に話して、2人もサッカーをやっているということは聞いていたが、目当ての相手に既に出会っていたというのである。

 

「全然大男じゃないでやんす!」

 

「というか2人!」

 

「なんだよテメエら、人の顔見ていきなり不躾だな。そもそも何者(なにもん)だぁ?」

 

 自分達を見るなり口々に騒ぎだしたよそ者達に、橙色の髪をした少年がつり目をさらにつり上がらせながら詰め寄る。

 非常に柄が悪い。

 壁山など、自分の方が体格はずっと大きいというのに完全に怯えきってしまっている。

 見かねた後ろの銀髪の少年が、橙髪の少年のしているマフラーを引っ張って自分の側に引き戻した。

 ぐえっ、と掠れた声を洩らしながら引き戻された橙髪の少年は不服そうな顔で銀髪の少年に振り向く。

 

「何すんだよ兄貴……」

 

「お客さんにいきなりガンつけないの。それで、君達はどちら様かな?」

 

「俺達は雷門中サッカー部だ。俺、キャプテンの円堂守」

 

「君達が日本一の……そうだったんだ。僕は吹雪士郎。白恋中サッカー部のキャプテンをしてるよ。こっちは弟のアツヤ」

 

「じゃあ、お前らが“熊殺し”か!?」

 

 彼らが“吹雪”だと確定したところで、今度は染岡が吹雪兄弟に詰め寄った。

 少林や帝国の洞面程ではないが、小柄な彼らにそんな異名がつくような大層な事ができるとはにわかには信じられなかった。

 その染岡の迫力に面食らいながらも、士郎が質問に答える。

 

「まぁ、そう呼ばれてはいるね。うち(白恋中)は田舎の弱小チームであんまり注目されてないからか、出回ってる噂では僕とアツヤの事がごっちゃになってるんだ。僕はDFで、アツヤがエースストライカーさ。……噂を聞いてきた人達は、いつも僕らを見てびっくりしちゃうんだよね」

 

「そーそー。どいつもこいつも俺達のことを大男だとか思ってやって来て、いざ会ったら『弱そう』だの『チビ』だの言って舐めやがるんだ」

 

「……どうやら、源田の言っていた吹雪兄弟のようだな」

 

「――今、源田って言ったか?」

 

 吹雪兄弟の語る噂の真相を聞きながら、鬼道は1人確信を固めた。

 そして彼の呟きを聞き逃さなかったアツヤが、知っている名前に反応する。

 

「……ああ。ここに来る前に、あいつからお前達のことは少し聞いている」

 

「へえ、源田くんが。懐かしいなぁ……アツヤは彼にコテンパンにされてたねぇ」

 

「もう負けねえよ兄貴! 次こそあいつに勝つために強くなったんだ俺は」

 

「そうそう。熊殺しと言えば、源田くんも凄かったんだよ」

 

「なに……? どういうことだ」

 

「いや無視すんなよ兄貴っ!?」

 

 アツヤの言葉を流して鬼道と喋り続ける士郎。

 彼の発言に今度は鬼道が聞き返した。

 士郎は朗らかに笑い、壁際にあった棚から1枚の写真を持ってきた。

 

「ほら、これ」

 

 鬼道に手渡された写真を、円堂達も周りに集まって覗き込む。

 手前には士郎らしき少年、そして奥にアツヤらしき少年と獅子を思わせる髪をした少年が並んで立っている光景が写っていた。

 並んでいる2人は胸を張っていてどこか誇らしげだ。

 

「これは……お前達と、源田か」

 

「ちょっと待て。こいつらは……()の上に立ってるんだ?」

 

 風丸が、写真の風景の異常を感じ取った。

 アツヤと源田が並んで立っている場所は茶色い。

 ふさふさとした巨大な毛の塊に見える。

 ある可能性に行き着きながらも、明らかに常識から外れた回答故に彼は問わずにはいられなかった。

 違っていてくれという、風丸の小さな願いを士郎が笑顔で粉砕して、その異常の正体を明かす。

 

「ああ、それはヒグマ(山オヤジ)だよ。皆もさっき見たでしょ?」

 

 雪原に横たわっている毛の塊は、キャラバンが白恋中に来る道中で遭遇したヒグマであった。

 その時は、飛び出していったアツヤが倒したのだが。

 士郎は雷門イレブンが引いているのに気付かず、懐かしげに当時の思い出を語る。

 

「試合をした後も源田くん達はしばらく北海道に居たからね、アツヤと一緒に勝負したりスキーしたり色々遊んだりしたんだ。その時に出会った山オヤジを源田くんが倒しちゃったからアツヤも対抗して倒そうとして……今ではいい練習相手になってるんだ」

 

「マジの熊殺しッス……」

 

「噂、本当だったでやんす……」

 

「何をやってるんだあいつは……いや……」

 

 壁山と栗松が噂には真実があったと実感している中、鬼道は呆れながらもここに来る前の源田の発言に思い当たった。

 

『“熊殺し”は本当だぞ』

 

「だからか……」

 

 実際に熊殺しを見ている、というかその一員になっている。

 あんなことを言うわけだ。

 

パワーシールド!』

 

『グォォ!?』

 

『食らえ! エターナルブリザード!』

 

『ガァ……!』

 

 雪原で出会った少年3人と熊。

 常識的に考えれば絶体絶命の危機だったが、この世界に於いてサッカーに携わる者は須らく常識に囚われない。

 源田は習得したての衝撃波の壁で、突っ込んできた山オヤジを怯ませる。

 その隙に、アツヤがシュート体勢に入り万全の状態でボールを蹴り放った。

 顔面に猛烈なシュートを食らった山オヤジは絶大なダメージを受けながら、辛うじてまだ倒れなかったが、止めの一撃が加えられる。

 

『フンッッッ!!』

 

 源田の“パワーシールド”の力を溜めた拳による直接のボディブロー。

 まともに食らった山オヤジは、今度こそ意識を刈り取られて雪の中に顔を埋めることとなった。

 

『……倒しちゃった』

 

『……ああ。なんか、倒せてしまったな。はしゃいでいたからつい挑んでしまった』

 

『くっそー、今度は一発で倒してやる! おら起きろ熊! もう一回だ!』

 

『アツヤ、アツヤ。それは無茶だよ』

 

 それからというもの、源田が北海道を去った後、アツヤのシュートを真っ先に受ける役目を負うことになった山オヤジは、基本的にアツヤ達に絶対服従の立場となっている。

 中学生になったアツヤのシュートは、本当に一撃で山オヤジを伸してしまう威力になっているので、山オヤジには災難でしかない。

 

「――士郎くん。アツヤくん。少しお話いいかしら」

 

「僕達に?」

 

 そこで、瞳子が口を開いた。

 ここにやって来たのは、ただ有名人に会うためではない。

 強力な選手をスカウトしてチームの戦力を補充するためだ。

 彼女は自らの使命に従い、行動する。

 

「雷門中サッカー部の監督をしている吉良瞳子よ。私達は、エイリア学園と戦う仲間を集めにやって来ました。あなた達にも、一緒にエイリア学園と戦って欲しいの」

 

「へー……」

 

「おいちょっと待てよ、本当にこんな奴らをチームに入れる気なのか監督!」

 

 単刀直入な勧誘の言葉にアツヤが興味を示したのに対し、染岡が反発する声を上げた。

 それに対して、瞳子の姿勢は揺るぎなかった。

 

「私達がここに来たのは白恋中のエースストライカー、吹雪アツヤのスカウトのためよ。エイリア学園に勝つための判断です。チームで戦う以上は従って貰います」

 

「くっ……でもよ」

 

「実力は一応後で見せて貰うけど、間違いなく本物でしょう。彼らはエイリア学園との戦いで大きな戦力となるわ。私の使命はエイリア学園を倒すこと。あなたの我が儘でチームの弱点をそのままにしてはおけません」

 

「そうだな。“こんな奴ら”なんて言ってくれたが、そんな余裕あんのか? アンタら2回もエイリア学園に負けたんだろ?」

 

「ってめえ!」

 

「コラ、アツヤ」

 

 瞳子の命令に近い言葉に染岡が歯噛みしていたその時、アツヤが薄ら笑いを浮かべながら()()を言う。

 その物言いには雷門イレブンも険しい顔になり、いきり立った染岡は風丸と一之瀬に抑えられていなければ彼の胸ぐらに掴みかかっていただろう。

 流石に士郎にも少し真剣な声音で注意されるが、アツヤは考えを改める気がないようだった。

 

「だってよ兄貴、こんな奴らと一緒に戦うまでもねーだろ。宇宙人なんて俺と兄貴の2人が揃ってれば敵じゃねえよ! 何があったか知らねえが源田の野郎も居ねえ、俺達も居なかった決勝戦で日本一になったとかいう奴ら、どれだけやれるかわかったもんじゃねえよ。2人だけの方がマシだね」

 

「この野郎……!」

 

「やめろ染岡」

 

 アツヤのあまりに歯に衣着せぬ言葉に、染岡が歯軋りして思わず腕を振り上げたが、その腕は円堂に押さえられて振り下ろされることはなかった。

 

「円堂……」

 

「染岡。監督の言う通りだ。俺達は、仲間を集めるためにここに来た。エイリア学園を止めるために」

 

「……悪い。頭を冷やしてくる」

 

 諭された染岡がそう言って部室を出ていったのを見送ってから、円堂は次にアツヤに向き直った。

 

「アツヤ。確かに、エイリア学園に負けちゃったのは本当だ。でも、俺達だって負けた時のままじゃない。その証拠は、俺達のサッカーで示す。構いませんよね、監督?」

 

「ええ。元々、彼の力を計るために試合をするつもりだったもの」

 

「決まりだな! お前のシュート、受けてみるのが楽しみだぜ!」

 

「……フン」

 

 ニカッと笑顔を向ける円堂にそっぽを向いて、アツヤも部室を出ていってしまった。

 士郎が円堂に、申し訳なさそうに近づいて話しかける。

 

「ごめんね、アツヤは気が強くて。自信家というか、すぐ突っ掛かっちゃうから」

 

「こっちこそ、ごめん。染岡の言い方も、ちょっとよくなかったしな。あいつも本当はいいやつなんだけど……」

 

「私、染岡くん呼んでくるわ」

 

 木野がそう言って出ていったのを皮切りに、雷門・白恋両チームが練習試合のためグラウンドへ動き出した。

 

 

 

 

 

 そんな衝突もあり、染岡は非常に気が立っていた。

 彼がアツヤの加入に抵抗を示す理由は1つ。

 

(雷門のエースストライカーは、豪炎寺なんだ!)

 

 今は居ない自分達の仲間、豪炎寺修也。

 吹雪アツヤという新たなストライカーを認めてしまえば、チームに彼の居場所がなくなってしまう。

 共に戦ってきた仲間を想うが故の反発だった。

 わかってはいる。そんなことを言われても、吹雪達には知ったことではない。

 自分が彼らに噛みつくのが筋違いだということは。

 だがあれだけ言われて、アツヤというストライカーをすんなりと認める訳にもいかない。

 

(見せてもらうぜ、吹雪アツヤ!)

 

「さあ、雷門中対白恋中の練習試合。いよいよキックオフです!」

 

 新たな仲間となるかもしれない少年を見定めるべく、もはや聞き慣れた実況の声を背景にして、染岡はボールを蹴り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北海道でそんな戦いが繰り広げられている頃。

 源田が不自然な揺れに目を覚ました時、視界に映ったのは、見覚えのない薄暗い天井だった。

 聞きなれない機械音と共に、微かに耳に届くのは、波がぶつかる音。

 

(海、か……?)

 

 退院を間近にして病院で眠っていた筈の源田は、海の上に居た。

 

 




吹雪アツヤ
白恋中1年生。強気で口も悪い。
一応擁護するならば、今回は源田を倒すべく特訓していたのに、日程ずらしを食らってFF本戦には出れず、その上源田もどこともしれない無名の学校に敗れたため非常にストレスがたまっていた。
天才ストライカー。源田と共に熊殺しをした。

吹雪士郎
白恋中2年生。キャプテン。
こちらでは何かとアツヤの保護者的な立場にいる。
熊殺しの際には、素早い動きで残り2人が準備を整えるまでの時間稼ぎをしたりしていた。

源田幸次郎
小学生の頃、吹雪兄弟と共に熊殺しをした。
現在、海の上に居る。

山オヤジ
熊。雪原で遊んでいた源田達に出会したばかりに、現代でもアツヤに半ばサンドバッグにされている。
アツヤの必殺技の特訓は、山オヤジへのダイレクトシュート。
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