源王は玉座を譲らない 作:青牛
早く試合書きたいけど、そこまでの過程もおざなりには書けないジレンマ。
真・帝国学園での屈辱の初日が過ぎ、影山の言うエイリア石治療を受けた源田は、世宇子戦以来の万全の肉体を、これまでの時間を取り戻すように動かしていた。
(下手な医療より進んでいる……この力、ドーピングなどではなくもっと
安静を言い渡され、負荷をかけるなと厳命されていた右腕が、以前通り動かすのに何の支障もない。
恐らく、骨折でもあっという間に完治してしまうだろう。
万全の肉体となった源田は、早速専用の修練場というのを訪れていた。
修練場へ行くために使われたワープ――エイリア学園の技術だという――に驚愕したものだが、そんなものの印象は目の前の修練場の光景にたちまち塗りつぶされた。
広がるのは薄暗い空間。
各所に見えたのは帝国学園でも見たことのなかったトレーニング用具たち。
これらがどれだけの力を与えてくれるのか、考える間もなく源田はトレーニングを開始していた。
「ぬぉっ!」
1日目。
足場を蹴って横っ飛びした源田の伸ばした手も届かず、ボールが後方のネットに突き刺さる。
彼が影山の配下に紹介され、そして真っ先に挑戦したのはいくつかあった特訓コースの内の1つ、キーパーコースだ。
巨大なゴールを背に、グラグラと不規則に揺れる足場で飛んでくるボールを止めるという内容のトレーニングだが、これが非常に難しい。
威力が強いシュートを受け止める練習ならば飽きる程やってきた源田だったが、自分の立つ地面の方が障害となるのは初めての経験だ。
ボールがネットのある後方を除いた四方八方、さらに高低差もフルに使ってあらゆる場所から飛んでくるとなれば、キーパーも俊敏に動き回って対応する必要があるのだが、不安定な足場ではそれも覚束ない。
「くっ、うぉぉ!?」
今度はぐらりと大きく傾いた足場で踏ん張れず、源田はバランスを崩して足場からゴロゴロと転がり落ちてしまう。
ここまでは揺れる足場でも難なくボールを抑えることができていたが、10段階あるレベルの内の折り返しであるレベル5を超えたところで特訓の難易度は一気に跳ね上がった。
レベル6からは揺れの激しくなった足場で動くことすらままならず、源田はボールに触れることなど考える暇も与えられなかったのである。
(だが……少しずつ慣れている。この調子なら、明日にはこの足場でもボールを捉えられる筈だ)
初挑戦の結果は芳しいものではなかったが、成果を感じて特訓を終えた源田は他のコースにも挑もうとキーパーコースの部屋を後にする。
「おおおおーーッ!」
次に挑戦したのはスピードコース。
巨大なランニングマシンを、備え付けられた砲身から放たれる障害物をかわしながら走り続けるというもの。
しかもこのランニングマシン、それだけでなく踏み台が坂になったり、デコボコと波打ったりと徹底的に走者の体力を奪い、振り落としにかかっている。
「む――」
盛り上がる踏み台に躓いて体勢を崩しながらも走り続けようとした源田に、砲身から飛来したボールが迫った。
咄嗟に出た手が顔面に当たる寸前でそれをキャッチしたものの、その瞬間マシンのスピードについていけなくなり振り落とされて、配置されていたマットに叩き込まれることになる。
結局、このコースもレベル5を超えたところで頭打ちとなった。
「よし……始めてくれ!」
「はっ」
次に挑んだのはスタミナコース。
スピードコースから更に幅の広くなったランニングマシンを走るというもの。
その幅の広さは複数人、それこそ11人で一度に走ることさえも想定していると思われたが、生憎今の源田に一緒に走るようなチームメイトは居ないので、少しやり方を変えてみた。
控えていた影山配下の黒服の男達に頼み、シュートを蹴ってもらうことにしたのだ。
流れていく踏み台の向こうから飛んでくるボールを必ず全てキャッチしなければならないという縛りを設けた上で、である。
「はぁっ……はぁ……っ! まだだァ!」
スピードコースに匹敵する速さで流れていく踏み台の上で、飛んでくるボールを受け止めるために左右にも目一杯動かなければならなくなり、普通に走るのと比にならない勢いで体力は削られていく。
その上1つでも取り逃せばやり直しというルールでやり続けた結果、源田はレベル5にもたどり着けず、レベル4で力尽きることになった。
初日の特訓は、これで完全に体力を使い果たしてしまったため幕を閉じる。
2日目。
復活した源田がまず挑んだのは主にフィールドプレイヤーとしてのスキル向上を目的としたコース達だった。
他のポジションになった時も問題なく動けるように、フィールドでのスキルを忘れないためだ。
全国トップの王者であり、完璧主義者の影山が統べていた帝国学園は、得意ポジション以外でも一定以上のプレーが出来るように選手を育成していた。
源田もその例に漏れず、GKとして鍛える傍らでしっかりと他のスキルも身に付けさせられていたのである。
『そらっ!』
『ギャアァァァ!』
『大野ーーっ!』
源田は入学直後の実力テストを受けた際、GKとしてはこれまでの記録を大きく塗り替える力を示した一方、キック力テストではシュートを蹴る度にその場に居た者達の顔面にボールを命中させるという惨劇を引き起こしていた。
彼が蹴る度にボールはゴールポストに轟音を立てて跳ね返り、コーチやチームメイトに炸裂するという悪夢。
そのため、彼のスキルの習得は急務となり、最も優れたストライカーだった寺門直々に指導をさせるまでに至る。
寺門の指導の記憶を思い起こしながら、ボールを保持しようとするマシンを源田はタックルで吹き飛ばしていた。
(寺門の教え方は凄く丁寧だったなぁ……本当に世話になった)
理論派のストライカーだった彼は源田の“非常にパワフルで個性的なシュート”に高度な指導を行い、なんとか最低限体裁が立つレベルにまで仕上げたのである。
根気強くシュートの極意を叩き込んでくれた寺門には感謝の念が尽きない。
そんなことを考えながら、源田は蹴り飛ばしたボールでキーパーマシンの振り回していたアームをへし折っていた。
「まだ100回も蹴っていないというのに……」
「修理の手配をしておきます」
一応狙った場所には飛ぶようになった源田のシュート。
しかし、彼の強烈なキック力によって下手な必殺技を上回る威力で放たれるシュートを相手に、健気に弾き続けたマシンは早くも限界を超えてしまう。
(まあ、比得達も使っていたのだし、ガタが来ていたんだろうな)
これらのコースは強制終了となって、昨日挑戦したキーパーコースに再び挑む源田。
前回、レベル6はまともに動くこともできなかったため、レベル5から再開する。
「ふっ――」
源田はグラグラと傾く足場を思い切り踏みしめ、体幹を意識しながらボールへの反応を速めようと試みる。
注意が散っていくつかのボールを取りこぼしてやり直すことになったものの、動体視力と反射神経が研ぎ澄まされた結果、前回は動くことすらできなかったレベル6でボールをキャッチすることに成功した。
「よし、行ける……行けるぞ……!」
程なくしてレベル6を突破した直後、レベル7で滅多打ちにされて足場から叩き落とされたが。
続いて挑んだのはスピードコース。
飛び交うボールをかわしながら、うねったり坂になったりと盛んに姿を変えるマシンの上で源田は走り続ける。
こちらもレベル6、及びレベル7を突破することに成功した。
続くスタミナコースではなんとかレベル4を突破し、レベル5に挑むようになる。
だが、そこからはまた伸び悩み、3日もの日々が過ぎることになる。
(今日こそは、突破する…!)
特訓開始から数えて5日目。
「よう。精が出るねぇ、源田クン」
「……不動か」
マシンを起動させようとした源田の背に、声がかかった。
声の主は、真・帝国学園キャプテンの不動である。
源田が彼の登場に冷めたように対応するのだが、不動は特に気分を害した様子はない。
「何の用だ? 俺はただ真・帝国として雷門中と戦えばいいのだろう」
「別に用事らしい用事はねえよ。ただ少し、話してみたいと思っただけさ」
「どうだかな。帰れ、気が散る。トレーニングに集中させてくれ」
「へへっ、お友達を人質に脅されて嫌々加入したって割には熱心に鍛えるんだな」
「――」
その言葉に源田の動きが止まった。
目を見開いて、その言葉に動じた自身に動じているようだった。
「やるからには全力かい? いやぁ、気持ちが入り過ぎな感じは否めないねぇ」
「……何が言いたい」
「さあ?」
鋭くなった視線を受け流し、小馬鹿にしたように首を傾げて不動はとぼけた返事をした。
「――源田幸次郎。今時サッカーに関わっててお前を知らねえやつなんて居ない。負け知らず、常勝の守護神……まぁ、無失点伝説は雷門中に。無敗伝説は帝国学園共々
芝居がかった立ち振舞いで、語り出す不動。
彼は悪魔が人間に誘惑をかけようとしているような妖しい雰囲気を放っていた。
「その上、真・神のアクアもエイリア石も、ドーピングは認めないと来た。俺はな、お前のことを大層なアマちゃんだと思ってたんだ。でも、どうやら違ったらしい」
ひどく落ち着き払った様子で話し続ける不動の言葉を遮ることは、源田にはできなかった。
「お前の本質は……俺や、影山総帥に近い。それこそ、総帥お気に入りの鬼道クンよりも、な」
「なんだとっ!」
自分を仲間を傷つけた影山と同列に並べられた不動の言葉は源田には到底受け入れられず、食って掛かった。
不動は詰め寄ろうとする源田に猛獣を宥めるような仕草をしながらも、口を閉じない。
「おおっと、怒るなよ。俺が言いたいのは、要するにだ。自分で気づいてるのか知らねえが、お前の“勝利への執着”は普通じゃないってことだ」
「…………!」
「……普通、世宇子中の力を見せられて戦い続けるか? 自分の腕を壊すまでよ。鬼道クンを信じてたと言えばお綺麗だが、そもそも自分が持たないって、一瞬でも考えなかったか?」
瞳の揺れる源田を、不動は逃がさない。
口を歪な笑みで歪めたまま、まっすぐと瞬き1つせずに源田を直視している。
「ああ、考えたか、それとも考えた上で無視したんだろうなぁ。それで本当に、試合に負けて勝負に勝ったんだ。大したもんだぜ。ああ、大したもんだ」
称えるような口調とは裏腹に、その目は笑っていなかった。
「ただなぁ……1つ気になったことがあるんだよ。本当に単純な疑問だ。
――なんでお前は、そこまでして勝ちたいんだ?」
「……何を、言っている」
「もちろん勝つことはいいことだ。俺だって勝つのが好きだぜ。何せ、敗北の醜さ・惨めさってやつを存分に知り尽くしてるからなぁ……! ……だから不思議なんだ。対象が他者か、自分か。その違いはあっても、勝利の為に躊躇わず犠牲を差し出せるのが。負けたことのないお前が、なんでそこまで“負け”にビビってるんだ?」
「なん、だと――?」
「ふん」
修練場で源田を問い詰める不動をカメラ越しに眺めながら、影山はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
影山の知る源田の本質は、異様なまでの勝利への渇望だった。
彼は如何なる状況でも勝ちを求め続ける。
『どうだね、源田くん。小学校を卒業したら、我が帝国学園の守護神となる気はないか?』
北海道にて彼を戦力として加えることを決めた勧誘。
全国大会40連覇を誇る王者の一員になれるのならばと、影山の勧誘に頷かなかった者は今までに居ない。
ただ、彼は1つ問うた。
『帝国学園なら、俺は王者に近づけますか?』
帝国学園にやって来て、キング・オブ・ゴールキーパーの異名を恣にした源田だが、彼が鍛練を止めることも、慢心を見せることもなかった。
己の実力に慢心せず常に上を目指し続けると言えば聞こえはいいが、明確な目標もなしに、競える相手も居ない状況で更に強くなろうと本気で思える者は希だ。
それも、一度も負けたことがない状態では。
そんな中で、彼は未だに目指す場所があるように、挑むべき相手がいるように己を鍛え続けていたのを、影山は知っていた。
(なぜ奴は、そこまでして勝ちを求められるのか)
世間では敗北は成長に繋がるなどという綺麗事が蔓延っているが、影山にしてみれば敗北とは即ち終わりだ。
あらゆる栄光に泥を塗り、歓声を罵声に変え、幸福を不幸に貶めるもの。
だが、綺麗事が世間に蔓延っている通り、その真実を知る者とはつまり本当の敗北を知る者しかいなかった。
敗北の先を知っているからこそ、彼らは勝利を何よりも求める。
そんな中で、勝ち続けながらも、体を壊す禁断の技から並の者が一発で選手生命を失うような必殺技まで作り、己の身も顧みずに戦ってまで勝利を求める源田は、異質だったのだ。
(源田よ。お前はなぜ戦う)
「――ここに居ましたか」
総帥室に響いた声に、影山は部屋に映していたカメラの映像を切って入ってきた男達に顔を向ける。
青白い顔をした痩せぎすの男が、3人のエージェントを引き連れてずかずかと影山の前に現れた。
男が口を開いた。
「全く、困りますよ。例のGKには私どもも興味を持っており、引き込む準備を進めていたというのに……勝手にあなたの私兵にされては」
「ククク…いや、私はエイリア皇帝陛下の御為、雷門中を潰すために集められる最大限の戦力を集めただけだとも。まさかそちらもあれに目をつけていたとは、露程も思っていなかったのでな、不幸な行き違いだ」
「……ええ、旦那様も非常にあれには興味を示しておられます。すぐに私に預からせて頂きたい」
「いやいや、今のあれは陛下の前に出すにはあまりに弱すぎる。調整を終え次第、私が
「……わかりました。あなたを信用しましょう。必ず旦那様のご期待に沿うよう、励むように」
そう言って、要求を突っぱねられた男は引き下がったが、部屋を出ていきざまに鳴った舌打ちの音を影山は聞き逃さなかった。
「ククク…」
彼は再びカメラの映像を映し出し、眺め始める。
状況は彼の掌の上だ。
チームを揃え、最高傑作を出迎える準備を、影山は整えていく。
源田幸次郎
特訓中に不動に絡まれる。
不動明王
源田に疑問をぶつける。
影山零治
少年2人の絡みを監視中。
痩せぎすの男
影山に要求を突っぱねられた。
源田を自分が預かることに拘る。
柴猫侍様から素敵な表紙絵を頂きました!(遅すぎる紹介)
【挿絵表示】
目次のあらすじにも同じものが貼ってあり、活動報告には差分もありますので是非ご覧ください。