源王は玉座を譲らない   作:青牛

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吹雪士郎は雪崩を恐れない

 雷門中は、北海道で吹雪達直伝の特訓を体験していた。

 その内容とは、スノーボードで転がり落ちてくる巨大な雪玉を避けながら斜面を滑っていくというもの。 

 スノーボードを乗りこなしたスピードで、彼ら曰く“風になる”ことにより、速さに慣れて周囲を把握しやすくなるのだという。

 

「ぬ……くっ……おわぁ!」

 

 まだ日が昇ったばかりの時間帯に、ぎこちない滑りで転けて雪山を転がっていく染岡の姿があった。

 吹雪兄弟の紹介したこの特訓法に対して懐疑的な彼だったが、エイリア学園に勝つために必要ならばと、この遊んでいるようにしか見えない特訓にも取り組もうとしていたのである。

 始めに文句を言ってしまった手前、他の皆と並んでやるのは恥ずかしいので早朝から外に出て滑るのは、なんとも素直ではないが。

 

「上手くいかねえもん、どわぁ!?」

 

「お? わりーわりー」

 

 慣れないスノーボードに、起き上がるのにも難儀していた染岡に、軽快な雪を滑る音が聞こえたと共に冷たい雪がかけられた。

 流石に顔面に雪を浴びて平静ではいられず、声を上げた染岡に気づいたのか、少し滑った所でそのスノーボードの主が反応し、染岡より少し下った所で止まって彼を見上げていた。

 

「お、お前、アツヤ! 何しやがんだ!」

 

「俺はここで一滑りするのが日課なんだよ。アンタこそこんな朝早くから何やってんだ、染岡サンよぉ?」

 

「ぬ……」

 

 雪をかけられたことにいきり立った染岡だったが、逆にアツヤに聞き返されて言葉を詰まらせてしまう。

 然もありなん。彼らが紹介した特訓に文句をつけた染岡が、結局その特訓をしているなどと素直に言える筈もなかった。

 そして、なんと答えたものかというあからさまな逡巡に気づかないほどアツヤは鈍くない。

 すぐに染岡の内心に当たりをつけて、いたずらっぽい笑顔を向けた。

 

「へー、そうかそうか。あんなに渋ってたのは、“遊び”もできねえのが恥ずかしかったからか~!」

 

「ああん!?」

 

 笑いながら煽り立てるアツヤに染岡は青筋を立て、元より厳つい顔を更に険しくして怒鳴るが、その態度でまだ起き上がれずにいる姿は滑稽で、ますます彼を笑わせる。

 

「皆の前でスッ転ぶのが恥ずかしいからヤだったんだな~。それで朝早く一人で練習なんて、かわいいとこあんじゃねえの染岡サン!」

 

「てんめ……! いいぜ、やってやらぁ! 絶対できるようになって、お前なんてすぐに越えてやる!」

 

「ははは! アンタは風になれるかな? まっ、精々頑張れよー」

 

 試すような口振りの言葉を言い残し、アツヤは再び滑り出した。

 染岡は歯軋りしていたが、しかし軽快に滑っていくアツヤを見て、次第に彼の動きを観察し始めた。

 むすっと口を真一文字に結びながらアツヤの一挙一動に目を凝らす染岡。

 そんな光景を木々の隙間から、士郎に、円堂と風丸の三人が見ていた。

 円堂達は練習をしようとして朝早くから外に出てきていたのだが、士郎から静かにするよう促されながらゲレンデにやって来た彼らは、染岡とアツヤのやり取りの一部始終を目撃していたのである。

 

「染岡、あいつ……」

 

「素直じゃないよな、まったく」

 

 円堂と風丸が顔を見合せる。その時、野太い悲鳴が彼らの耳に届いた。

 目を離した隙に再挑戦した染岡が、また転んだらしい。

 アツヤにからかわれて、顔を真っ赤にして起き上がっている。

 それを眺めながら、士郎が微笑みをこぼした。

 

「アツヤ、楽しそう。君達が来てくれてよかったよ」

 

「……楽しそう、なのか? 正直に言って、あんまり好かれてる気はしないんだが」

 

 士郎の発言に、ここ最近のアツヤの振る舞いを思い浮かべて風丸が疑問を口にした。

 先の練習試合以来この白恋中に滞在している雷門イレブンだったが、アツヤはといえば、一応円堂達の実力は認めたものの、基本的にはツンとした氷のような対応である。

 だが、士郎はその言葉に頷きで返した。

 

「うん。2人だけの時は皆の話をよくするんだよ。“あいつら、ここではこう動けばいいのに~”とか、まあ大体が練習の愚痴みたいな感じだけど、アツヤがそういうことを言うこと自体が最近はなかったんだよね。……こう言ったらなんだけど、アツヤと同じレベルでプレーができる人は、白恋中(うち)には居ないからさ。“もっとこうしたらいいのに”って思ってそれを口に出すくらいには、皆とのサッカーに真剣に打ち込んでると思うよ」

 

「確かに練習中も注文が多かったが……染岡、よく怒ってたよな。アツヤの方からよく絡んでた」

 

「あはは……同じポジションだし、あれで意外と気に入ってるのかも。アツヤには、競い合える相手が足りなかったんだと思うんだ。僕じゃあ“競争相手”にはなれないしね」

 

「そうだな、あいつらは強くなる。俺もこうしちゃいられない! おーい染岡――ってうわぁぁ!」

 

 早速滑り出そうとした円堂だったが、あっさりとバランスを崩して染岡の傍に転げ落ちていった。

 この場に居るのは自分と、そしてアツヤの2人だけだと思っていた彼は円堂の突然の登場に目を白黒させ、次いで木陰からこちらを見ていた2人にも気づいた。

 

「んなっ、円堂!? 風丸……それに士郎! お前らいつからそこに!」

 

「悪い、お前がさっき転んでた辺りからだ」

 

「ほぼ最初っからじゃねえか!」

 

「怒るなよ、俺達も練習したくて出てきたんだ。強くなりたいって思うのは、お前だけじゃないぞ」

 

「この特訓はエイリア学園の奴らと戦うのに、きっと役に立つ。そう思ったから、お前もこうして練習してるんだろ?」

 

「……それは……」

 

 風丸と円堂の言葉に否定もできず、染岡は黙り込んだ。

 

「はは、恥ずかしいのかよ染岡サン?」

 

「ぬ、ぐ……アツヤてめえ! 待ちやがれぇ!」

 

「捕まえてみなー!」

 

「この、待て、おわぁぁぁ!!」

 

「あーあー……」

 

 からかわれて居ても立ってもいられずに動いた染岡が、また転がり落ちていった。

 それをアツヤが笑い、再起動した染岡が追う。

 

「へっ、まだまだだな!」

 

「いい加減にしやがれこの野郎……くらえ!」

 

「ぶえっ」

 

 一向にアツヤを捕らえられないことに業を煮やした染岡が、その場で拵えた雪玉を投げた。

 雪玉は綺麗に飛んで、アツヤの顔面に当たって砕ける。

 いつも生意気なことを言う相手に叶った仕返しに、染岡も満足げに笑う。

 

「はっはぁ! どうだ!」

 

「……やりやがったなてめぇ!」

 

「ぶほっ!」

 

 顔や髪にへばり着いた雪を身を震わせて払ったアツヤが、足元の雪を丸めて投げ返す。

 染岡も当然、再び投げ返し、そのまま2人の投げ合いが始まった。

 

「おいおい、何やってるんだ2人とも……うわ!」

 

「あっ」

 

「やったな!」

 

 練習をそっちのけにし出した彼らに声をかけた風丸に、流れ弾が飛んできた。

 割れた雪がさらさらと地面に落ちていくのと同時に彼も投げ返す。

 そこに円堂もとりあえず混ざって、なし崩しに雪合戦が幕を開けた。

 

「おらぁ!」

 

「あはははは!」

 

「おいちょっと待て、わぷっ」

 

 彼らの様子を見下ろして、士郎は奇妙な感傷のようなものを覚えていた。

 幼い頃はここで、兄弟2人で雪合戦をしていたものだ。その懐かしさもあるだろう。

 だが士郎にはそれだけでなく、本当はなかったものが手元にあるような、奇妙な感覚があった。

 中学生になった辺りからうっすらとあったものが、彼ら(雷門イレブン)に出会ってから強くなった気さえする。

 

「うわぁっ!」

 

 その何かに思い当たりそうになったその時、顔に冷たいものがぶつかり視界が白で覆われた。

 思わず顔を横に振って、顔に付いた冷たい雪を払うと、その先にはしたり顔で立つ染岡が居た。

 

「はは、お前もまともに驚いたりすんだな!」

 

「何してんだ染岡こらぁ!」

 

 染岡はそう言い切った瞬間にアツヤから投げられたボールが後頭部にヒットし、雪原に前のめりに倒れ込んだ。

 

「兄貴ーー! 何そこで見てんだよ、兄貴もこっち来いよーー!」

 

「――――うん、今行くよ!」

 

 手を振ってこちらを誘う弟の無邪気な笑顔に、感傷は消えていった。

 自然と口許が綻び、士郎は靴をスノーボードから外して駆け出して行く。

 

「アツヤてめえこの野郎ーー!」

 

「えいっ!」

 

「ぐわあぁーー! 背中入った!」

 

「あははは!」

 

 アツヤへの報復を狙った染岡に走りながら作った雪の塊を投げつける。

 騒いでいた影響か、ある木の枝に積もっていた雪がどすんと音を立てて落ちたが、そんなものは気にもならなかった。

 

 

 

 

 

 イナズマキャラバンが北海道にやって来てからの日々が過ぎていってしばらく。

 染岡を始めとした、雷門イレブンが吹雪兄弟の特訓をマスターした頃。

 その日、白恋中の空には不気味な暗雲が立ち込めていた。

 雪国のそれとは違う、背筋を凍らせるような空気が白恋中一帯を包み込んでいる。

 ただし、そんなものをものともせずにグラウンドに立つ少年達が居た。

 

「凍てつく北の大地を、溶かすほどの熱血! 注目の雷門中対エイリア学園ジェミニストームの、世紀の決戦が始まろうとしています!」

 

 先の予告通りに白恋中を破壊すべく襲来した宇宙人達を迎え撃つ戦士達。

 角馬の煽りがその闘志を燃え上がらせる。

 

「地球人とは愚かだな。“2度あることは3度ある”……お前達の星の言葉の意味、お前達にそのまま証明してやろう」

 

 緊急のテレビ中継までやって来ている物々しい人々の様子を眺め、ジェミニストームを率いるレーゼが冷ややかに言う。

 後ろのジェミニストームのメンバーも同じ気持ちである。

 既に2度、彼らは雷門イレブンを圧倒的な力の差を見せて下している。

 ましてや奈良での戦いに於いて、染岡から1点をもぎ取られたことにより“ファーストランク”に叱責を受けた彼らだ。

 今度こそ加減なしで雷門イレブンを叩き潰す心積もりだった。

 

 油断なく、一切の遊びのない本気でかかれば、雷門イレブン程度容易く打ち負かせる。

 その考えは決しておかしな話ではなかったのだが、しかし、雷門イレブンはそのような常識を悉く打ち破っていく者達だというのが、レーゼの計算には入っていなかった。

 

 雷門イレブンは既にかつての雷門イレブンではなく、そして彼らには強力な新戦力も加わっていたのだから。

 

「足引っ張るなよ、染岡サン」

 

「はっ、お前こそな。宇宙人相手だからってビビるんじゃねえぞアツヤ」

 

「ビビるかよあんな奴らに!」

 

「皆ーー! 生まれ変わった雷門の力、見せてやろうぜーー!」

 

『おうっ!』

 

 斯くして、北の大地にてジェミニストームと雷門イレブンの3度目の戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

「始まったか。ジェミニストームが使えんようならば、ここですぐに……」

 

 

 

 密かにその戦いを眺める鋼鉄の男に、誰も気付くことなく。

 

 




吹雪士郎
弟と今もサッカーをしていることに奇妙な懐かしさを感じている。

染岡達が来てから、サッカーするのがますます楽しい。

吹雪アツヤ
北海道で今まで無双状態だったので、生意気ムーブだが張り合ってくる染岡のことは結構気に入っている。
好きな子に意地悪する悪ガキメンタルである。

ジェミニストーム
原作と違い、アツヤが居るため前半から蹂躙されることを彼らはまだ知らない。

鋼鉄の男
観戦中。

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