源王は玉座を譲らない   作:青牛

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帝国の連携は淀みない

 源田が行方知れずとなってから、一週間以上もの時が経った頃。

 早朝。愛媛県のとある埠頭に、三つの人影があった。

 先頭に立っていたのはユニフォーム姿の不動。彼の後ろについてきた二人の少年は、帝国学園の制服に身を包んでいた。

 

「おい」

 

 海を見下ろして立つ不動の背中に、制服の少年が声をかけた。

 抑えられてはいたが、声にも立ち姿にも、微かな苛立ちが現れている。

 振り向いた不動に、制服の少年が言葉を続ける。

 

「本当に、ここで源田に会えるんだろうな?」

 

「ああ? そんなにカッカするもんじゃねえぜ、佐久間クンよぉ」

 

「お前……」

 

「……やめとけ佐久間。本当に源田に会えるまでは、どうせ何聞いたって信じられやしねえよ」

 

 へらへらと神経を逆撫でする笑みを浮かべた不動に声を荒げかけたのは佐久間。それを宥めたのは、帝国イレブンの誇るエースストライカー・寺門だった。

 源田捜索を続けていた帝国学園サッカー部の一員だった彼らは今、こうして不動に連れられて埠頭までやって来ていた。

 ことの発端は、つい先日まで源田の行方について一向に手掛かりが掴めず煩悶していた二人に突如不動が接触してきたことにある。

 彼の言ったことは単刀直入。

 

『俺について来れば、源田に会えるかもしれないぜ』

 

 その言葉は、初めから明らかに不自然であった。

 まだ世間に出ていない源田の行方不明という事件。彼の家族や自分たち帝国イレブンくらいしかまだ知らないそれを、何故この全くの初対面のこの男が知っているのか。

 その上、誰かにこのことを伝えてはいけない。もし伝えれば、二度と源田とは会えないだろう。などという脅しまでしてきた時点で、彼が源田の行方不明に関わっていることは明白だ。

 それでも、何一つ手掛かりが掴めていない現状では、罠であれ何であれとにかく行くしかないと、彼らは不動に従って愛媛までやって来ていたのだった。

 とはいえ、それで辿り着いたのは港。ここまで連れてきた不動は埠頭に立って海を眺めているばかり。

 藁にもすがる思いでやって来たというのに一体どうなっているのかと、佐久間が苛立ち始めたのも無理からぬことだった。

 

「安心しろよ、ちゃーんと会わせてやるからな。……そろそろだな」

 

「なに? どういう意味……」

 

「――なんだ、ありゃあ……!」

 

 不動の言葉尻の呟きを佐久間が追及しようとしたのを、寺門の叫びに遮った。

 佐久間も海を見てみれば、先程まで静寂と霧に包まれていた海面に、巨大な影ができていたのである。

 

「おっ、来た来た」

 

「な、何が来るってんだ!」

 

 影の大きさは鮫や鯨、どころではない。明らかにもっと巨大な何かが、海中に潜んでいる。

 こうしている間に影がみるみる大きくなっていることから、それが今まさに急速で浮上してきていることも寺門には察知できた。

 そしてそれに気づいた瞬間、影は海面から勢いよく飛び出して、その正体を現す。

 

「潜水艦……!?」

 

 激しく水飛沫を上げながら浮上したものの正体は、巨大な潜水艦である。

 暗い色の装甲に包まれていたそれに付いていて揺らめいている旗の紋章に、寺門は見覚えがあった。

 その疑問を口にする前に、不動は潜水艦を背後にして両腕を広げて叫んだ。

 

「真・帝国学園へお二人様ご案内ィ! ようこそ、歓迎するぜ」

 

「真・帝国学園だと!?」

 

 言葉通りに捉えるのならば、旗にある紋章が帝国学園の校章に酷似しているのも納得は行く。

 だが、帝国学園に所属する自分を前にして”真・帝国学園“などと名乗られて、二人の心中が穏やかである筈がなかった。

 

「ふざけた名前しやがって、どういうつもりだ!」

 

「そう怒鳴るなよ。当然のことだぜ? あのお方が居る所こそが“帝国“なんだからなぁ」

 

「あの方……? まさか――」

 

 不動の示唆に、かつての帝国学園の支配者にして、卑怯卑劣な悪の権化を二人が想起した瞬間、潜水艦から橋が展開され、埠頭にまで伸びてきた。

 そして橋の上に姿を現したのは、彼らの思った通りの人物。

 

「久しぶりだな佐久間、そして寺門よ」

 

「影山! なんでお前がここに居る!」

 

 世宇子学園を使い自分達を痛めつけた元帝国学園総帥、影山零治に対し、佐久間は憤怒のこもった声を張り上げた。

 寺門も同様の怒りを込めた目で影山を睨む。

 

「ククク…このような所で立ち話もなんだ。積もる話は中でしようではないか」

 

「お前とする話なんかあるか! 今度は何を企んでいやがる」

 

「ククク……する話はないと言いながら、私の目的を尋ねるとは、随分余裕がないのだな。望むなら語ってやってもいいが……自分達が何をしにここへ来たのか、忘れたわけではあるまい? 源田もお前達を待っているぞ。随分寂しがっていたものだ」 

 

「くそっ。源田が消えたのは、お前の仕業ってわけかよ……!」

 

「そういうことだ。さぁ、早く来るといい。我が真・帝国学園へ」

 

 怪しい笑顔で手招きする影山に従う気はさらさらないが、源田の身が懸かっている以上、ここで帰るというわけにはいかない。

 二人は忌々しげに舌打ちしながらも、この潜水艦に乗り込むしかなかった。

 

 

 

 影山を先頭にしてその後に佐久間、寺門、最後尾に不動が続いて艦内の通路を歩いていく。

 会話の全くない、重苦しい空気の流れる時間が一同の関係を端的に表していた。

 総帥たる影山は今も昔も、選手達を勝利のための駒としか考えておらず、そして二人も、もうそんな彼に心を許す気はない。

 かつての監督と選手というには、あまりにも冷えきった関係であった。

 ただ、純粋に沈黙に堪えかねてか、あるいは少しでも情報を引き出そうと思ったのか、佐久間は口を開き、沈黙を破る。

 

「捕まった筈のお前がここに居るのには、エイリア学園と関係があるのか?」

 

 佐久間の問いかけを細長い背中で受け止めた影山は、歩みを止めず、振り返りもせず、ただ声だけで答えた。

 

「いかにも。この真・帝国学園も、エイリア皇帝陛下のお力によって建設された」

 

「じゃあなんで、宇宙人なんぞと手を結んだお前が、俺達にちょっかいをかけやがる。俺達はお前と決別した。お前も俺達を切り捨てた。なのになんで……」

 

「勘違いするな。帝国イレブン(お前達)など私の眼中にない」

 

「なに――」

 

 寺門が影山の発言に噛みつこうとしたその時、開いていた扉から差し込む外の陽光が彼らの目に入った。

 眩しさに驚いて一瞬立ち止まったのを境に、話は終わりだとばかりに影山はスタスタと扉の向こうへ歩き去る。

 その背を追って佐久間達が扉をくぐった先に広がっていた光景には、思わず目を疑った。

 彼らが辿り着いたのは、帝国にあったようなそれと遜色ない広さと、ゴールからベンチに至るまでに一流の備品を備えているサッカースタジアムだったのである。

 奥には、真・帝国学園の選手らしい少年達が屯しているのも見えた。

 暇潰しにボールを弄っていた面々がやって来た影山達に気づき、顔を向ける。

 

「おい不動、急に俺らを集めてどういうつもりだよ?」

 

 ピエロメイクの少年――比得の言葉は、ここに集まっていたメンバーの意見を代弁していた。

 彼ら真・帝国イレブンは、早朝からスタジアムに招集されていたが、来てみても不動(キャプテン)は居らず、指示も来ずで、少なくない不満が溜まっていたのだ。

 

「……さて、役者は揃ったな」

 

 これで理由が下らないものであれば反乱も辞さないといった雰囲気のチームメイトからの視線を一身に受けながらも、不動は欠片も臆することなく口を開く。

 

「真・帝国イレブンの諸君。こちらが追加メンバー、帝国の佐久間に寺門だ。仲良くしてやれよ」

 

「はぁ? なに言ってんだ?」

 

「俺が真・帝国だと!?」

 

「ふざけたこと抜かすな!」

 

 当然ながら真・帝国イレブンからは拒絶が、そして帝国イレブンの二人からは怒号が出た。

 中学で日の目を浴びることができなかった者の多い真・帝国イレブンからすれば、今年伝説が破れたとはいえ、栄光を恣にしていた帝国学園の一員がチームに加わるなど気に入らない。

 二人にしてみれば真・帝国など、源田を拐かした影山に現在進行形で従っている一味である。

 その仲間になれ、などと言われて唯々諾々と従う筈もない。

 影山は無言で静観している。

 一瞬で四面楚歌となった状況で、不動は笑みさえ見せて舌を回す。

 

「まあ最後まで聞けよ。これは悪い話じゃない。もちろん、帝国(お前ら)にとってもな」

 

「敵の仲間になることの何がメリットだって言うんだ」

 

「ああ、ちゃーんと説明してやる。……俺達真・帝国学園は近い内に、目的である雷門中との戦うことになる!」

 

「雷門だと……!?」

 

「――だが、お前らは如何せん我が強すぎて扱いづらい。てめえら、言うこと聞かねえだろ?」

 

 不動の言葉に、真・帝国イレブンの面々は“当然だ”と肯定を示した。

 キャプテンである不動自身も野心を持ってここに居るように、真・帝国にやって来た彼らはエイリア学園直属のチームと違って、チームにやって来た経緯も思惑もバラバラなのである。

 

 誘拐同然の手法で連れてこられ、強制されて従う者。

 

 野心とサッカーの腕前を持ちながらも燻っていて、一旗揚げようと目論み勧誘を受けた者。

 

 そして、純粋に影山の思想に心酔し、勝利を得るために戦う者。

 

 個性的と言えば聞こえがいいが、殆どの者が自己中心的。不動の指示を無視したり、反抗することも少なくない。

 如何に司令塔として優れた手腕を誇る不動でも駒が命令を無視して動くようでは、雷門との試合が完全勝利に程遠い見苦しいものになるだろうと考えていた。

 そこで、決戦が近づいているこの機会に、

 

「頭ごなしに命令しても意味ねえし……どっちが上なのか、ここで改めて決めようじゃねえか」

 

 彼はチームに“躾”を行うことに決めたのだった。

 見る間に殺気立った、自分の言葉に乗ってきてくれた彼らに笑みを深めながら、後方にあったゴールを指し示す。

 

「やることは簡単。日暮れまでに、一本でもそこのゴールにシュートを決めた奴の勝ちだ。俺はディフェンスに回るが……勝者にキャプテンの座を譲る。全員キャプテンに絶対服従だ。お前ら二人(佐久間と寺門)もチャレンジしていい。どうだ、悪くねえ話だろう?」

 

 その説明に、真・帝国イレブンのみならず帝国の二人も気を引き締めて向き直る。

 敗者は勝者に従うというシンプルなルールは、彼らも臨むところ。

 不敗伝説が破れたとはいえ、佐久間と寺門は依然として全国トップチームのレギュラーメンバーであり、それに相応しい実力を持っている。

 二人で協力すれば、勝機はあるだろう。

 ここでこのチームを止め、影山の陰謀を打ち砕き、雷門中の鬼道も守る。

 

 なにより仲間として、今度こそ源田を助ける。

 

 そう固い決意を胸に抱いて、佐久間と寺門は制服に手をかけた。

 

 

 

 

 

 帝国のユニフォーム姿になった二人と真・帝国イレブンの内の九人。

 センターサークルに置かれたボールを囲んで立つ十一人の意識は、不動とその背後にあるゴールに向いていた。

 ゴールを狙う十一人もまたキャプテンの座を奪い合う敵同士であるということを加味しても、常識的に考えて、不動の持ちかけた勝負はあまりに無謀に思えた。

 何かがあるだろうと真・帝国の誰もが思ったが、場所はここに来てからの練習で慣れ親しんだグラウンド。それに自分達の力があれば小細工など蹴散らせるという自信によってその疑念はあっさりと消えていく。

 

「……さて。用意はいいな? 始めるぜェ!」

 

 影山が見下ろすピッチで、不動が狂気的な笑顔を浮かべながら叫ぶ。

 その声に応じて、黒服が(ホイッスル)を咥えて、甲高い音で勝負の幕が上がったことを宣言した。

 

「うおぉぉ!!」

 

「おらぁぁ!」

 

 音と同時に、一斉に十一人がボールへ走り出す。

 

「オオォォォアァァァ!!」

 

「うっ!」

 

「ちぃっ!」

 

 雄叫びを上げながら小鳥遊や他のメンバーを押し退けて、佐久間が走る。

 この勝負で肝心なのは、最初にボールを確保することだと佐久間は確信した。

 他の方向から走ってきたFWの比得、DFの弥谷であった。郷院は単純な走力で一歩遅れている。

 そのまま佐久間は、勢いを乗せた足を比得・弥谷とボールを挟んでぶつけ合った。

 複数の方向から強い力を加えられたボールは、唯一の逃げ場であった上へ思い切り弾け飛ぶ。

 

「くそが!」

 

 比得が忌々しげに、迫る郷院を見ながら悪態をつく。

 ボールが落ちてくる頃には郷院も到着する。体のぶつけ合いで郷院相手に勝ち目はないからだ。

 

(こうなったら、無理にぶつかるより郷院(アイツ)に取らせてから奪うか)

 

 そう判断して下がろうとしたその時、比得は佐久間が微かに口角を上げたのを目撃した。

 

「行け、寺門!」

 

「ああ!」

 

 佐久間の呼び掛けに寺門が気合いの籠った返事をしながら比得の頭上を飛び越えて、空中のボールを胸で受け止めながら着地する。

 そして他の者達がその現実を理解し、行動に移す前に寺門は洗練されたドリブルでゴールへ走った。

 二人は、佐久間がボールを寺門に託し、寺門がシュートを決めるというそれぞれの役割を決めていたのである。

 話し合っていた訳ではない。この状況で勝つ為にどうするべきなのか、二人が独自に判断したのだ。

 

 真・帝国イレブンの実力も戦法も知らない二人の唯一のアドバンテージは、乱戦必至の勝負でお互いという仲間が居ることだった。

 しかし、開幕の争奪戦に二人ともが突っ込むだけでは、その一瞬はボールを奪えても、四方八方が敵だらけでゴールまでそれを持っていくのは至難の技。

 そこで、佐久間は唯一空いている空中にボールを打ち上げたのだ。

 彼は寺門が必ずそれを取ることを信じ、そして寺門はその信頼に応えてみせた。

 

 巨漢選手である大野や雷門の壁山と違い、決してパワータイプではない佐久間が周りの選手を押し退けて強引にボールを狙ったことの意図を、寺門はすぐに理解したのである。

 故に、寺門はボールに群がろうとする者達から一歩引いた所で状況を見て、打ち上がったボールを確保した。

 ほんの数秒での高度な連携は、仲間同士の信頼関係をよく表している。

 

「決めさせてもらうぞ不動!」

 

 佐久間から託されたそのボールを確実にゴールに入れるべく、寺門は叫ぶ。

 

「お前にも影山にも、源田と鬼道には手出しさせねえ!」

 

「仲間思いだねェ……まあ、鬼道クンはともかく、源田は……」

 

 不動が呟いたのと同時に、地響きのような轟音が響いた。

 グラウンドに立っていた不動を除く全員の動きが、一瞬止まった。

 そして、震動と音の発生源である、ゴールに皆が目を向ける。

 

 そこに居たのは――

 

「源田……!?」

 

「もう、手遅れだと思うぜ?」

 

 鉄仮面でも被ったように感情が読み取れない、無表情の源田であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




佐久間&寺門
源田捜索活動中不動に接触。
真・帝国に乗り込み、連携を見せる。

不動明王
佐久間達に接触し、真・帝国学園へ誘い込んだ。
対雷門中へ向けチームの掌握を目論む。

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