源王は玉座を譲らない   作:青牛

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雷門は悪事を見逃さない

 北海道でのジェミニストームとの決戦を制し、京都では“漫遊寺中のイタズラ小僧”木暮(こぐれ)夕弥(ゆうや)を仲間に加えた雷門イレブンを乗せるイナズマキャラバンは今、愛媛への道を辿って爆走していた。

 その理由は一つ、雷門イレブンの下へある映像が届けられたからだ。

 

『久しぶりだな、イナズマイレブンの諸君。私は貴様らに復讐するため、エイリアの力を授かって舞い戻ったぞ。私を止めたければ……四国は愛媛、我が新たな牙城“真・帝国学園”へ来るがいい。鬼道、お前には特別ゲストも用意している。歓迎するぞ。クックックックック……!』

 

 その内容は雷門イレブン因縁の相手、影山からの宣戦布告。

 彼の野望を再び打ち砕くため、雷門イレブンはその本拠地だという愛媛へ向かったのだった。

 やがて目的地に近づいたところで昼食を兼ねた休憩時間となり、最寄りのコンビニの駐車場に停車したキャラバンからメンバーが降りていく。

 

「なー染岡。帝国学園って強かったか?」

 

 真っ先に降りて買ったおにぎりを頬張りながら、アツヤが兄の隣に座る染岡に尋ねた。

 もともと年上への敬意の類いはないようなものだったが、いよいよ北海道に居た頃のような“サン”付けもなくなった呼び方に染岡がなんともいえない顔をする。 

 

「アツヤお前、いよいよ遠慮なくなったな……まあいいけどよ。そりゃ強かったさ。初めて戦った時は、皆手も足も出ずにボコボコにされたぜ」

 

「へへ、なっさけねー!」

 

「うっせ! ……だが俺達は、特訓に特訓を重ねて予選決勝でもう一度戦った。それでも負けちまったが、初めての時とは比べ物にならねえ熱い勝負だったよ。そして俺達は全国でのリベンジをあいつらと約束したんだ」

 

「でも、帝国学園は世宇子中に負けてしまった……?」

 

「……ああ」

 

 士郎に、染岡は重々しく頷いた。

 

「結局、俺達はまだ一度も帝国学園に勝ててねえ。でも次こそは勝つし、影山なんかが操る真・帝国なんかにも負けねえ! 今は、お前らも居るしな」

 

「うん、そうだね」

 

「へっ。俺に兄貴、それに……出る幕はねえけど染岡……も居りゃあ敵は居ねえな」

 

 染岡の信頼を語る言葉に士郎は微笑み、アツヤも満更でない風に返す。

 

「イプシロンの奴らも今度は絶対倒してやる! 次は負けねえ!」

 

 アツヤは目を闘志に燃やして意気込んだ。

 雷門イレブンは北海道で、吹雪兄弟という新戦力の加入とメンバーの目覚ましい成長によってジェミニストームを相手に有利に戦いを進めていた。

 これまで10点以上もの大差をつけられていた相手に、こちらが3点ものリードを奪って前半を終えたという快挙に雷門イレブンは皆特訓の成果を実感していたところへ、新たな脅威が襲来したのだ。

 

『もうよい、ジェミニストーム。これよりは我ら“イプシロン”が、雷門イレブンを破壊する!』

 

 全力でかかって、なお押し負けていることに打ち拉がれていたジェミニストームは、現れた男に追放を言い渡され、狼狽える暇もなく姿を消し去られた。

 そして、消えた彼らに代わってその男――デザームが率いるエイリア学園ファーストランクチーム“イプシロン”が、後半から雷門イレブンの前に立ちはだかったのである。

 

 彼らの実力は、ジェミニストームを軽くあしらっていた吹雪兄弟でも目を見張るものだった。

 イプシロンの面々はアツヤのことを徹底的にマークし、後半開始から終了までボールに触れさせなかった。

 もう一人のストライカーである染岡も的確なディフェンスでゴールへも辿り着かせて貰えない。

 更に、デザームの巧みな指揮によって雷門のディフェンスは切り崩され、勝ち取った点を取り返されてしまった。

 そうしてあっという間に試合を逆転させ、目の前にまで来ていた宇宙人からの初勝利を奪い去って、イプシロンは姿を消したのである。

 

 この卓袱台返しに等しい逆転劇は2度も苦汁を飲まされたジェミニストームに反撃を決めて喜んでいた雷門イレブンはもちろん、吹雪兄弟にも衝撃をもたらした。

 次いで、破壊活動を開始したイプシロンとの漫遊寺中での再戦。

 そこではアツヤも“エターナルブリザード”をデザームに見舞ったが、彼の鉄壁の守りを破ることは叶わなかった。

 ここまでエイリア学園との戦いで勝ちらしい勝ちを拾えていないというのは、チームの雰囲気にも影響を及ぼしている。

 アツヤの場合は、対源田以来の敗北に対し激しく闘志を燃やしているが。

 

「どういうことですかっ!」

 

 鬼道の声が、外から突然響いてきた。

 思わず染岡達はキャラバンを降り、外に居た円堂達も彼の大声を聞きつけて何事かと思い集まってきた。

 声を辿ってみれば、鬼道はコンビニの陰で瞳子と何やら言い争っているようだった。 

 

「あなたに伝える必要はないと判断したまでよ」

 

「しかし! 源田達が行方不明だったなんて……」

 

「鬼道、どうしたんだ?」

 

 何やら尋常でない様子に、円堂が見ていられずに声をかけた。

 鬼道は声をかけられて、自分が声を荒げていたことや周りに仲間が集まっていたことに初めて気づいたらしい。

 普段広い視野で仲間達をサポートしてくれる彼が、それほど感情的になっていることに、いよいよただ事ではないと円堂は確信を強めた。

 

「行方不明って、源田達に何かあったのか?」

 

「…………」

 

 言うべきか迷っていた様子だったが、鬼道は観念して口を開いた。

 

「さっき響木監督から連絡があったんだが……源田と佐久間と寺門の3人が行方不明になっているらしいんだ」

 

「なんだって!?」

 

 円堂はその言葉に目を丸くした。

 円堂と共にフットボールフロンティアを戦ったメンバーは動揺を隠せない。

 

「そんな、一体どうして!?」

 

「わからん。佐久間と寺門は、病院から消えた源田を探していたそうだ」

 

「つまり、源田はそれより前に消えてたってことか?」

 

「ああ。あいつは俺達が北海道に行く頃に、病院から居なくなってしまった、と」

 

「そんな……」

 

「源田は退院間近だったが、それで脱走なんてするようなやつじゃない。何者か……いや、影山が関わっている可能性は高いだろう」

 

「影山……!」

 

「待てよ。さっき聞こえた感じだと、監督はそれを知ってたんじゃねえのか?」

 

 先程聞こえていた会話の断片を踏まえながら、染岡が瞳子にぎろりと目を向けた。

 染岡は吹雪達とは打ち解けたが、それはそれとして彼女が豪炎寺を追放したことには納得していない。

 まだ瞳子への不信感が消えたわけではないのだ。

 しかし、瞳子は染岡の言葉で集まった様々な感情の視線に対して、毅然とした態度で向き直った。

 

「……ええ。私も、帝国学園の行方不明者のことは聞いていたわ」

 

「じゃあなんで黙ってたんだよ。俺達はまだしも、鬼道はあいつらの仲間だぜ」

 

「こうなることがわかっていたからよ」

 

 瞳子は、染岡の厳しい目に表情一つ変えずに答えた。

 

「あなた達にこのことを伝えたとして、何ができるの? エイリア学園との戦いで、私達は未だに勝利を掴めていないのよ。その様でそんなことまで知らせても彼らが帰ってくるわけではないし、あなた達がサッカーに集中できなくなるのが関の山よ」

 

「ぬぅ……けどよ」

 

「いい、染岡。監督の言う通りだ」

 

 瞳子の言葉には染岡も言い返せない。

 そんな彼の肩に手を置いて鬼道が諭した。

 一番の当事者である彼に言われては、染岡も矛を収めざるを得ない。

 

「それに……あいつらを拐ったのが恐らく影山である以上、真・帝国を追えばあいつらを連れ戻すことができるかもしれん。やることは変わらない」

 

「そうだな。皆、キャラバンに戻ろう! 一刻も早く、真・帝国学園を見つけ出すんだ」

 

 円堂の号令で話は締められ、雷門イレブンは複雑な心情を燻らせながらもキャラバンに乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

 そして、雷門イレブンはついに目的地へやって来た。

 陽光が遮られて薄暗い曇天。並ぶ倉庫の屋根に留まる(からす)の群れ。霧が立ち込める海。

 彼らが辿り着いた埠頭は重苦しく、不気味な雰囲気に包まれていた。

 

「ここに真・帝国があるでやんすかぁ?」

 

「なんにもないッスねぇ……それにちょっと怖いッス」

 

「影山の送りつけてきた情報では、ここだと言っていたが……」

 

 栗松と壁山のぼやきに異存を唱えようとする鬼道だったが、それらしいものが見当たらないのは事実で、その口調は弱々しい。

 

「影山が嘘吐いたんじゃねえのか?」

 

「でも、わざわざ嘘吐いて俺達をここに来させる意味もよくわかんねえぜ? 大会じゃねえんだから、不戦敗も何もねえしよ」

 

 アツヤの言葉に染岡が意見を述べた。

 影山が雷門イレブンを憎んでいるのは間違いない。

 意図は読めないが、彼の目的がただ自分達を埠頭に誘うだけなんてことはないだろう。

 雷門イレブンはわからないながらも周囲を警戒していたが、状況が変わるのにそう時間はかからなかった。

 突然、海中から巨大な影が飛び出してきた。

 それは思い切り体を海面に叩きつけて水飛沫を散らす。

 

「なっ……」

 

 風丸はその異様な光景に、開いた口が塞がらない。

 

「潜水艦ーー!?」

 

「そうか、これが真・帝国学園……!」

 

 彼らが威容に圧倒されている間に、潜水艦から舷梯(げんてい)が下りてきた。

 その根元、(ふね)の入口に立っていたのは、彼らに挑戦状を叩きつけた張本人。

 

「影山……」

 

「久しぶりだな、円堂。それに鬼道」

 

「影山ァーー!」

 

 姿を現した宿敵に、鬼道が思わず叫ぶ。

 教え子のその姿を見て、何が可笑しいのか、影山は愉快そうに笑みを零す。

 

「ククク……来てくれて嬉しいぞ。再会を祝いたいところだが……」

 

 影山がそう言葉を途切れさせ、雷門イレブンの後方へ視線を遣った。

 彼らも視線を追って振り返ると、そこにはゴーグルとスキンヘッドの怪しげな男達が何人も立っていた。

 

「こいつら、エイリアの手下だ!」

 

「うぅ、挟み撃ちにされたってことじゃないかー!」

 

 塔子が皆に警戒を促し、木暮がいち早く状況を理解して叫んだ。

 仲間達もそれを聞いて身構えるが、男達は20を超す大人数。

 対して、こちらは大人は女性の瞳子のみ。円堂達は優れたサッカー選手ではあるものの皆子供。

 彼らが襲いかかってくればひとたまりもないだろう。

 

「くっ、影山……!」

 

 こうして自分達を消す罠かと、鬼道が影山を睨む。

 

「…………」

 

 当の影山はまだ何かを待っているようで、現れた男達にも興味が無さそうな佇まいであったが。

 

「雷門イレブン……排除する」

 

 先頭に立っていた男が、呟くように後ろの男達に告げた。

 それを聞いて壁山や目金、マネージャー達は怯え、瞳子は雷門イレブンの前に出て彼らを背に庇う。

 男達が距離を詰め寄ってきて、その手が届く距離にまで近づこうとしたその時――

 

「――ぐぁっ!」

 

 飛んできた幾つかのサッカーボールが、男達の横っ面を捉えて吹き飛ばした。

 男達は堪らず倒れ込むか、よろめいてふらつき足を止める。

 

「くぅ……だ、誰だ!」

 

 男の一人が身を起こして、ボールが飛んできた方向へ誰何(すいか)した。

 雷門イレブンも男達と同じ方へ顔を向けたが、霧の向こうに見えた、ボールを放ったであろう人影達はおおよそ自分達と同年代に見えた。

 不意に潮風が吹いてきて、霧を晴らしていく。

 

「なんだぁ? 宇宙人ってのは、日本にサッカーで喧嘩売っといて俺達のことを知らねえのか?」

 

 中学生離れした巨体の大男が、心底不思議そうに言った。

 

「ナメられたもんだな。上等だコラァ!」

 

「宇宙人って世間知らずだねー」

 

 隣にいたマスクの少年が青筋を立て、大男の肩に乗る小柄な少年は歯に衣着せない言葉を口にする。

 

「俺達を知らねえとは、程度が知れるぜエイリア学園……!」

 

「まあ辺見先輩のことは知らなくても仕方ないと思うッスけどねー」

 

「どういう意味だ成神ィ!」

 

 紫色の髪を後ろに撫で上げた少年が両手を使い、“やれやれ”と言わんばかりの仕草をする横でヘッドホンをした少年が味方の先輩を相手に毒を吐く。

 後輩のあんまりな言葉にすかさず紫髪の少年が噛みついた。

 

「ククク……仕方がありませんねぇ。皆さん、彼らに教えて差し上げなさい」

 

『なんでお前(先輩)が仕切るん(ですか)!?』

 

 眼鏡をした少年が薄笑いを浮かべながらそう言って、総スカンを食らった。

 

「……まあ、とにかく。知らねえってんなら、奴らに教えてやろうぜ」

 

 おかっぱ頭の少年がため息を吐きながらも音頭を取り、彼らは胸を張って自分達の正体を明らかにした。

 

 

 

『俺達は帝国学園サッカー部だ!!!』

 

 誇らしげに声を張り上げたのは、サッカー界にて知らぬ者なき王者達。

 名乗りを上げた彼らは各々サッカーボールを持ちながら、雷門イレブンとエイリアの手下達の間に駆け込んだ。

 

「お前ら、どうしてここに……!?」

 

 まさかの救援だったが、鬼道は思わず疑問を口にする。

 その問いに答えたのはおかっぱ頭――万丈だった。

 

「源田が消え、佐久間と寺門まで消え、どうすりゃいいのかと思ってたら、五条が帝国のネットワークから真・帝国学園のことを掴んでな」

 

「それで皆でここまで来て真・帝国について探ってたところ、ついさっきお前らを見かけて、他の奴も集めながら追っかけてきたって訳よ!」

 

 万丈の言葉を大野が得意気な顔で継ぎ、彼らが愛媛にやって来た一部始終を説明した。

 

「悪かったな。源田のこと、佐久間達のことを教えねえで。こうなるなら教えるべきだった」

 

「……いや、大丈夫だ。お前達も気を遣ってくれていたんだろう。それよりもう体はいいのか、大野?」

 

 謝罪に言葉をかける鬼道。

 それに大野は気恥ずかしげに頬をかき、体調への問いかけには逞しい両腕を持ち上げて見せることで答えた。

 

「本当なら影山の奴を倒して、俺達で源田達を助けてえところだったが……」

 

「今年のフットボールフロンティアの王者はあなた方。花を持たせてあげましょう。ククク……」

 

「俺達がこいつらと遊んでる間に、源田達を連れ戻して来ちゃってくださいよぉ~!」

 

「先輩達のことをお願いします、鬼道さん!」

 

 他の者達が、口々に言って、男達に向き直る。

 

「どうした雷門イレブン。早く来たまえ。鬼道、お前には特別ゲストを用意しているのだ」

 

 帝国イレブンに向いていた雷門イレブンに、ここまでのやり取りが見えていないかのように声をかけてくる影山。

 それで、鬼道の心は決まった。

 青いマントを翻し、鬼道は舷梯の前に立つ。

 

「いいのか、鬼道」

 

「……ああ。行くぞ、円堂。何度でもお前の野望を打ち砕いてやるぞ、影山!」

 

 鬼道の言葉に影山は愉快そうに笑いながら、背を向けて艦内に戻っていった。

 それを追って、雷門イレブンも潜水艦――真・帝国学園に乗り込んでいく。

 

「ガキどもが、邪魔を……!」

 

「邪魔はてめえらだぜ! 百烈ショットォ!」

 

 彼らを追おうとする男達には辺見がシュートを打ち込み、行く手を遮る。

 男達は帝国イレブンの前に、蹴散らされていった。

 

 

 

 そして影山を追って廊下を走り、ついにスタジアムまでやって来た雷門イレブン。

 

「……佐久間。寺門……」

 

 その先頭を歩いていた鬼道の前には、別人のような雰囲気を纏う佐久間と寺門が立っていた。

 

 

 




吹雪アツヤ
イプシロンへの敗北で熱くなっている。
染岡とは割と打ち解けた。

鬼道有人
メールで源田達が行方不明になっていることを初めて知り、瞳子を問い詰めた。

帝国イレブン
真・帝国学園の情報を入手して愛媛へ来る。
雷門イレブンを援護した。

ジェミニストーム
北海道で蹂躙された。前半の内に点差をつけられたために身限られる。

イプシロン
ジェミニストームに見切りをつけて乱入する。
北海道で雷門を蹂躙したこと以外はおおむね原作と同じ流れ。

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