源王は玉座を譲らない 作:青牛
影山を倒すため、そして囚われた仲間達を救い出すため、真・帝国学園に乗り込んだ鬼道と雷門イレブンが見たのは、別人のように変わり果て、影山の側に立つ佐久間と寺門の姿だった。
「佐久間……寺門……」
「久しぶりだな、鬼道」
鬼道が、
しかしその呼び掛けに答えた寺門の目に、仲間を見る温かさは宿っていなかった。
彼は元々細身な方だったが、今は頬も随分
その様はさながらゾンビの如く。
ただ、その死人のような、幽鬼のような姿でも、こちらを見る瞳だけは燃え盛る執念でギラついていたのだった。
隣に居た佐久間も、その姿は鬼道の知るものとは程遠い。
整っていた髪は無造作に伸び、ボサボサだった。
彼のトレードマークだった眼帯には破れて穴が開き、血走った右目を曝け出していた。
その姿は、帝国で共にサッカーをしていた彼とはどうしても重ならない。
「ククク……
「おいおい、黙りこくってるんじゃねえよ鬼道クン。感動の再会だぜェ?」
影山はそう言い残して距離を取り、不動も彼らにかける言葉を探していた鬼道を煽り立てて影山の後を追った。
雷門イレブンの誰もが、その動きに意識を割くことはできず、彼らの目は佐久間達と向かい合う鬼道に集まっていた。
鬼道は変わり果てた仲間達の瞳を見つめて、口を開く。
「なぜだ2人とも……なぜ影山なんかに従う!」
「なぜか、だと? そんなの決まってる」
「強さだよ。勝つための……もう、負けないための強さを得るためさ」
「強さだって!? それだけを求めた結果が、あの影山のチームじゃないか!」
「俺達は奴の支配と決別し、新しいサッカーを始めた筈だろう!?」
聞いていて逆に恐ろしくなるほど落ち着いた風で、なんてことないように答えた佐久間と寺門に、鬼道と円堂は揃って言い募る。
影山はサッカーを己の私欲のために汚す悪党だ。
勝利のために手段を選ばないばかりか、自分の教え子である帝国イレブンを世宇子中を使って潰す非情さを持ち、加えてその世宇子イレブンさえ、“真・神のアクア”という薬物で苦しめていた、人を人とも思わない邪知暴虐の男である。
佐久間達とて、それを身を以て知っている筈。
そう訴える2人だったが、佐久間と寺門の心にその言葉は届かない。
「……鬼道、お前にはわからねェよ」
「雷門に行って勝利を掴んだ、お前にはな」
「そんな言い方ないだろ! 鬼道はお前達のためにも、世宇子を倒そうって……」
「……俺はあの日、お前達と一緒に戦えなかった。仲間を守れなかった自分を許せなかった。だから――」
「綺麗事を言うな、鬼道。どんなに言い繕っても……お前が求めたものもまた、強さだ」
「だが……だからって、あの影山についてもいいのか! 奴こそが、あの日の悲劇の元凶なんだぞ!」
「鬼道。お前には、あの時の俺達の絶望などわからないだろう。お前は、あの日だって世宇子に一矢報いることができたんだからな」
「何を言うんだ佐久間!」
鬼道が叫ぶ。
フットボールフロンティア全国大会の1回戦。影山の妨害により試合に遅れた鬼道は、後半残り僅かでスタジアムにたどり着き、仲間達との連携で圧倒的な力を誇った世宇子から1点をもぎ取った。
彼にしてみれば、あの得点は仲間達が諦めずに立っていてくれたから取れた、チームの絆による得点だ。
「確かに、俺達がお前が来るより先に倒れていたら、あの得点はなかった……だが、逆に言えば。お前が来なかったら、そもそも俺達はいくら耐えたって無駄だったんだ」
「病院のベッドに居る時頭に浮かんだのは、手も足も出せずに蹂躙された悔しさばかりだった。あの思いは、お前には絶対にわからない」
「…………っ」
彼らの言葉が、決して心にもないことを言わされているわけではないことは鬼道には誰よりもはっきりと感じられた。
確かに、自分がスタジアムに辿り着くまでの間の、彼らと世宇子の戦いがどのようなものだったのか、鬼道は
自分達の攻撃は何一つ通じず、圧倒的な力によって仲間達が倒れていく。そんな極限状態で、彼らが味わった屈辱がどれ程のものだったのかは、とても計り知れなかった。
思わず口を噤んだ鬼道だったが、徐に一歩前に進み出て、頭を下げた。
「……すまなかった。お前達の気も知らず、自分だけの考えで行動してしまった。何度でも謝る。だから、影山に従うのだけは、やめてくれ……!」
「……遅いんだよ!」
「鬼道!」
鬼道の誠心誠意の謝罪が、彼らの心を覆う闇を晴らすことは叶わなかった。
佐久間は怒声と共に、脇に抱えていたボールを鬼道の腹部目掛けて蹴り飛ばした。
円堂が叫ぶが、鬼道を庇うには距離が離れていて間に合わない。鬼道自身も、頭を深々と下げている体勢から、佐久間の強力になったシュートをかわすことは不可能だった。
風を切るボールが鬼道に迫ったその時――
ゴン、という鈍い音が響いた。金属を強く蹴ったような重い反響音。
それを円堂達が耳にしたのとほぼ同時に、鬼道と佐久間の間を滑るように影が走った。
影はボールを鷲掴みながら2人の間を通り抜け、足でグラウンドを重く踏みしめて、勢いを殺しきる。
「っ!」
「な……」
この場の誰もが、現れた闖入者に目を向ける。
獣のような低い姿勢で、右手と地面で挟んでボールを押さえ込んでいたのは、鬼道達が救出に来た帝国の仲間。
佐久間と寺門。残る最後の一人だった。
「源田……!?」
しかし、源田もまた鬼道達の知る姿ではなかった。
乱れた髪。虚ろな瞳。佐久間と寺門とはまた別の方向で危うさを感じる姿だ。
「ククク……源田も気が
「佐久間ァ。残念だが、お前の力を見せつけるのは試合でだ」
「……フン、言われなくても。敗北の屈辱は、この勝利で晴らしてみせる」
源田が飛び出してきた通路から、先程姿を消した影山と不動が揃って現れた。
佐久間と寺門は彼らの言葉に従い、源田に目もくれずにベンチへ向かおうとする。
当然、鬼道達がそれを黙って見ていられる筈がなかった。
「源田! ……源田!」
「…………」
「どうしちゃったんだよ、源田!」
こちらに一瞥もせず立ち上がり、影山達に続く源田の背へ鬼道と円堂が必死に呼び掛けるが、全く反応がない。
「やめときな鬼道クン。そいつに何言っても届きやしねェよ」
「なんだと?」
「鬼道。雷門の諸君も、御影専農のことは覚えているだろう」
不動がその様を嘲笑い、影山が源田の身に起こったことを語る。
「あれから更に進化させた技術の力で、奴は更なる強さを手に入れたのだよ」
「ヒャハハハ! “サッカーサイボーグ”を超える“サッカーモンスター”になったってことだ!」
「源田が、そんなことを望んだというのか」
「……無論だとも」
白々しい顔で嘘を語る影山だが、雷門イレブンにその真偽を確かめる術はない。
源田を見て鬼道らが歯噛みする中、静観していた瞳子が口を開いた。
「影山零治。響木さんの名を騙って鬼道くんに源田くん達のことを伝えたのは貴方達ね」
「ほう。その通りだ、吉良瞳子監督」
「この俺、不動明王がメールを送ってやったのさ。先に少ーしだけ教えてやった方が、サプライズもインパクトが強くなるだろう?」
「……影山! 不動! もうこれ以上、お前らの好きにはさせない!」
彼らの明かす、どこまでも人の心を弄ぶ所業についに円堂の堪忍袋の緒が切れる。
「鬼道、皆、やろう! 俺達のサッカーを見せて、佐久間達の目を覚まさせるんだ!」
「……ああ!」
鬼道、そして仲間達も頷く。
深い闇の中に落ちた彼らにもう言葉は届かない。
サッカーによって、言葉でない心を届かせるしかないのだと、円堂は悟っていた。
決意を固め、雷門イレブンは試合の準備に取りかかった。
そして雷門、真・帝国両チームが位置に着いた。
ベンチから円堂達を見守る木暮が、彼らの相対する真・帝国イレブンを見て身震いする。
「宇宙人も怖かったけど、あいつらもおっかねぇ……」
イプシロンには相手を破壊する、その圧倒的な力への恐怖があった。
だが、今回の真・帝国イレブンに木暮が感じた怯えは、それとはまた別だ。
彼らの姿は、非常に精巧に作られたが故に却って不気味さを帯びる人形に似ていた。
「源田の野郎、なさけねえザマ見せやがって……」
いつも通り染岡とツートップを務めるアツヤが、ゴールに立つ源田を見つめる。
まさか、3年ぶりの再会がこんなことになるとは思ってもいなかった。
“ライバル”と認めた男の、あのような姿は見たくなかった。
必ずシュートを決めて、あの虚ろな目を叩き起こしてやると、彼は意志を強くした。
「ふふふ……鬼道、お前に俺の力を見せてやる……!」
「勝つ……俺が、点を取る……!」
真・帝国は、佐久間と寺門が両サイド、比得が中央に立つスリートップの攻撃的な陣形だった。
佐久間と寺門は何やらぶつぶつと呟いていて、不安定な様子が見て取れる。
源田達を引き戻そうとする雷門イレブン。
彼らを下し、勝利を目指す真・帝国イレブン
それぞれの思いは、ホイッスルが吹き鳴らされると同時に激突する。
「へっ……」
不動が不敵に口角を持ち上げながらボールを蹴り、切り込んでいく。
そして彼のドリブルに並ぶように、佐久間が走り込んできた。
「見せてやれよ、佐久間! お前の力を!」
「まさか……」
そう叫んで、不動は佐久間にボールを渡した。
ボールを受け取った佐久間は、ドリブルもせずにその場でゴールを見据える。
彼の様子に不穏なものを感じた鬼道が駆け寄ろうとするが、佐久間の行動には間に合わない。
指笛が、高らかに響く。
その音に応えて、体が血のように赤い5匹のペンギンが現れ、飛び立つ。
「やめろ、佐久間ァ!」
「ふーっ……」
「それは禁断の技だァーーッ!」
叫ぶ鬼道の声に構わず、真っ赤なペンギンが振り上げられた佐久間の右足に噛みついていく。
「……ッ! 皇帝ペンギン――1号!!」
激痛によって生まれた微かな嗚咽を掻き消そうとするように雄叫びを上げて、佐久間はそのシュートを打ち放った。
ペンギンが打ち上げられたボールと共に飛行し、円堂へ迫った。
「くっ、ゴッドハンド・改!」
円堂はこれまでの戦いで進化した“ゴッドハンド”で迎え撃ったが、かつて帝国イレブンの“皇帝ペンギン2号”の前に敗れた時の焼き直しのように、ペンギンが突き刺さった光の掌は砕け散った。
「ぐああっ!」
そして、光の掌を破ってなお勢いの衰えないボールがそのまま円堂の腹に突き刺さり、彼ごとゴールに突っ込んだ。
真・帝国による開始早々の先制点が、電光掲示板に反映される。
「こんなシュート、初めてだ。身体中が、痛い……」
「あははははは! 素晴らしいィ!」
不動1人が、シュートの成果に狂ったように手を叩き、笑う。
円堂を見ていた仲間達がその次に気づいたのは、シュートを打った佐久間自身が、異様な程苦しんでいることだった。
「どうだ、鬼道……俺の“皇帝ペンギン1号”は……?」
「2度と使うな! あれは禁断の技だぞ!」
脂汗を浮かべながら顔を向けた佐久間に、鬼道は怒鳴った。
影山零治考案の最悪のシュート、“皇帝ペンギン1号”。
威力の代償である身体への負担の凄まじさから封印された、“ビーストファング”と並ぶ禁断の技。
1発放つだけでも恐るべき激痛が全身を襲い、3発目を放てば、2度とサッカーができなくなる程に体が傷つけられる。
「ククク……」
鬼道の手をはね除ける佐久間。
相手の選手生命まで懸かった戦いとなって、緊張に包まれたスタジアムを眺め、影山が笑った。
潜水艦が離れた埠頭では、情報を流して呼び寄せた帝国イレブンとエイリアのエージェント達の戦いも決着している。
この愉快な時間に邪魔が入ることはない。
眼下では、更に雷門を追い詰める策が実行されようとしていた。
「郷院! 帯屋!」
とにかく点を取り返そうと走った雷門イレブンだったが、不動の指示に動いた2人のディフェンスにボールを奪われてしまう。
再び真・帝国の攻撃となるが、既に士郎と土門が佐久間をマークしている状況でどう攻めてくるのかと鬼道が見極めようとしたその時、走り込んできている寺門に嫌な予感が頭を
(まさか――)
「ヒャハハハ! おら寺門!」
「俺は、ストライカーだ……! 皇帝ペンギン――」
「寺門、お前まで……!?」
「1号ォォォォオ!!」
その命まで燃やすような絶叫と共に、寺門までもが、禁断の技を打ち放った。
鬼道有人
闇堕ちした仲間達の姿を見せられる。
真・帝国学園
佐久間と寺門の二連主砲を放つ。
響木監督を騙って鬼道に行方不明を伝えたのは、仲間を助けると意気込んだところへの闇堕ちしてるというショックを狙うため。
メンバーとしては、寺門を出すために
影山零治
わざと真・帝国の情報を帝国学園に流した。
前話で現れたエイリアのエージェント達は影山と連携していたわけではない。
是非感想お願いします(感想乞食)