源王は玉座を譲らない   作:青牛

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不動の非道は止まらない

 佐久間に続き、寺門が打ち放った“皇帝ペンギン1号”が円堂に迫る。

 もう1度まともに受ければ、円堂自身も立っていられなくなる威力を持ったシュートは生半可な必殺技では止められない。

 円堂を守ろうと、壁山と塔子がシュートの前に立ちはだかった。

 

ザ・ウォール!」

 

ザ・タワー!」

 

『――うあぁぁぁ!』

 

 二重の防壁は、破られはしたものの、確実にボールの勢いを削いでいる。

 

マジン・ザ・ハンド! ――くぅ……」

 

 今度は円堂も万全の守りで、なんとかペンギンの突撃を防ぎきった。

 しかし、そこに達成感といったものはない。

 

「ぐ、うおぉぉぉぉお……!」

 

 全身を走る激痛に呻き、手足を痙攣させる寺門の姿を見ながら、そんなものが湧く筈もなかった。

 同じシュートを放った佐久間も、先程から運動量以上の汗を掻いており、激しい消耗を全身で物語っている。

 

「もうやめろ2人とも! 禁断の技を使えばどうなるか、お前達は知っている筈だろう!」

 

 苦しむ仲間の姿を見ていられず、鬼道が必死に呼び掛ける。

 だが、2人は彼の言葉に聞く耳を持たない。

 

「ふふっ……禁断の技か。そう言ってこの技を封印させたのはお前だったな」

 

「だが、源田は“ビーストファング”を使っているだろう」

 

「っ!」

 

 佐久間達の指摘に、鬼道は帝国時代のとある出来事を思い出した。

 切っ掛けは1年生時。試合形式の練習が行われたある日、源田が新しい必殺技を披露したのだ。

 それこそが“ビーストファング”。

 もともと“パワーシールド”の鉄壁の守りでチームのキーパーの中で頭一つ抜ける実力を見せていた彼が、新たに見せた必殺技。

 何も知らなかった鬼道達は、ぎょっとして源田を見つめる上級生達の様子にも気付かず、彼の許へ駆け寄っていった。

 必殺技について尋ねられて、源田はこう答えた。

 

『何日か前、図書室で自習をしていた所に総帥が通りがかってな。この技の秘伝書を教えて貰ったんだ』

 

 源田が語ったのは、影山に書庫へ連れられて必殺技の秘伝書というものを見せて貰ったこと。他の必殺技もあるようだったこと。

 帝国は40年無敗を誇る強豪だ。

 それまでの歴史、在籍していた選手達の必殺技なのだろうと当初の鬼道は思ったが、それが誤りであることにはすぐ気づかされることになった。

 数週間後の練習で、書庫から秘伝書を見つけたという佐久間がその必殺技を披露し――

 

『あっ、ぐ、ガァァァァ!!』

 

 “皇帝ペンギン1号”の反動に襲われた。

 キーパーを吹き飛ばした程の凄まじいシュートを放ちながら、放った本人が激痛に悶え苦しんでいるという異様な光景に、一年は誰もが呆気に取られた。

 思いもしない事態。佐久間は保健室に運ばれ、練習は続行されたものの、皆とても集中などできなかった。

 その日、鬼道はすぐに総帥室へ駆け込んだ。

 

 源田が“ビーストファング”を使った頃からどことなく落ち着きのなかった上級生達を問い詰め、書庫の秘伝書の必殺技の反動のことを知ったからだった。

 一発放つだけで全身が悲鳴を上げ、複数回使用すれば選手生命にすら危険を及ぼす恐るべき必殺技。

 それが容易く手に取れるように書庫にあったこと、さらには源田に直接教えまでしたこと。鬼道は厳しく直談判を行い、これらの必殺技の封印という約束を影山に取り付けた。

 実際に“皇帝ペンギン1号”を使用して苦痛を味わった佐久間や、その様子を見た仲間達から封印に反対の声は上がらなかったが、源田の“ビーストファング”はその封印の対象とはならなかった。

 

『源田は使っても問題ないのだろう? なぜ封印せねばならん』

 

 源田の場合は身体に異常もなかったため、彼に関しては放置となった。

 影山のこの主張には、鬼道も強く言えなかったのだ。

 このまま源田だけが“禁断の技”を使えるという構図に、言語化できない不安を抱えながらも。

 

 その不安とは“今”を指していたのかもしれないと、そんな思いがふと鬼道の脳裏を過った。

 

「あいつがあの必殺技を使えたのは……強いからだ。だから、勝てる」

 

「じゃあ俺達は、勝つための役に立つ必殺技を知っていながら手をこまねいて、“全力を出した”と言って負けを慰め合うのか?」

 

「お前達……」

 

「そんなのはゴメンだ。あの時は身体の苦痛を理由に()()を封印したが……病院のベッドで味わった苦しみに比べれば、こんな代償は安すぎる」

 

「もう負けないためなら。あの思いを味わわないためなら! 俺達は何度だって“皇帝ペンギン1号”を打つぞ、鬼道……!」

 

 そう言って、足を引きずりながら2人は走り出した。

 鬼道は歯を食い縛りながら、彼らの背を追って駆けることしかできなかった。

 

「オラオラァ!」

 

 一方、円堂の止めたボールは雷門イレブンに運ばれ、アツヤの下へ渡った。

 彼は凄まじい、雪風のような速さでグラウンドを駆け抜け、ゴールへ向かう。

 真・帝国イレブンはそれを眺めるばかりで、殆ど動かないように見えたが――

 

「弥谷! 帯屋!」

 

 不動の命令を受け、彼らは即座にアツヤへ向かって動き出した。

 2人がかりで進路を塞いでくるが、そのような取って付けたような薄っぺらの守備でアツヤは止められない。

 悠々と抜き去り、彼はゴール前の源田を視界に捉えた。

 

「帝国の事情は知らねえが、俺がやるのはこれだけだぜ!」

 

 3年前の戦い以来の邂逅。その上、なにやら紆余曲折があったようだが、事情はなんであれ、自分と彼はこうして向かい合っている。

 リベンジを誓った男を相手に、アツヤは渾身のシュートを用意する。

 

「喰らえ源田。エターナル――」

 

 ボールに集まる雪風は、かつてとは比べ物にならないほど冷たく、鋭い。

 

「――ブリザード!」

 

 放たれたシュートが、猛吹雪を吹き散らしながら真・帝国ゴールを襲いかかった。

 

「源田ァ! シュートだ!」

 

 不動に名を呼ばれて、立ち尽くしていた源田がゆらりと動き出す。

 彼は“気”が籠った両腕を振るい、黄金の獅子の盾を作り出した。 

 

――キングシールド

 

 躊躇なく出された源田最強の必殺技。

 それに吹雪を纏ったシュートが激突し、しばしの拮抗の後、源田の手に収まっていた。

 

「っ!」

 

 アツヤがその結果に目を見開く。

 彼は3年前から劇的に成長した。既に全国屈指のストライカーと称されるに相応しい程に。

 だが、それでもまだ、あの男の守りを破るには足りなかった。

 

「“キングシールド”……あいつが編み出した最強の必殺技だ」

 

 鬼道がアツヤの背に、そう声をかけた。

 

「おい、あれも“禁断の技”だって言うんじゃねえだろうな? あれは俺達との戦いでも使ってたじゃねえか」

 

 鬼道の浮かない声に、外れていてくれと思いを多分に込めた染岡が口を挟む。

 佐久間達にシュートを打たせないのはまだいいが、もし源田にシュートを打てなければ、既に点を取られた自分達ではますます厳しい戦いとなる。

 それを危惧しての問いだったが、鬼道はそれに頷いた。

 

「あれは“禁断の技”から改良された必殺技で、反動がある。あいつのことだ。1度や2度なら佐久間達ほど深刻なダメージは負わないと思うが……病み上がりだ。不安が残る」

 

 あの源田の虚ろな佇まいが、その不安を倍増させる。

 もし彼が、こちらがシュートを打つ度にひたすら負担のある“キングシールド”を出してくる状態なら、世宇子戦のようになりかねない。

 

「ちぃ……軽はずみにシュートは打てねえってことか」

 

「慎重に攻略法を見つけ出すぞ。いつもと違う、あの状態の隙を探り当てる」

 

 鬼道がそう言ったのと同時に源田が、持っていたボールを投げた。

 

「っと、考える暇もねえな……アツヤ戻るぞ、ディフェンスだ!」

 

「っああ!」

 

 歯を食い縛っていたアツヤは、染岡の声に従う。

 これは試合だ。悔しがって俯いている時間はない。

 

 再び攻勢に回った真・帝国イレブンは、2点目をもぎ取るべく雷門の守備に切り込んでいく。

 その中でもシュートチャンスを狙って盛んに動くのは、佐久間と寺門だ。

 

「もう1点取ってやる!」

 

「俺に寄越せ! 次こそ決めてやる!」

 

 彼らには、シュートを打たせないために士郎と一之瀬を中心とした重点的なマークが着いている。

 パスが回ったとしても、まず間違いなくボールを奪えるだろう。

 だが、お互いにチームは11人。どこかに人手を集中させれば、必ず守備に穴ができるものである。

 

「ハッハァ! ど真ん中、がら空きだぜェ!」

 

 佐久間と寺門の両サイドに人手を集中させた隙を狙い、手薄な中央を駆けて抜けて不動が高笑いした。

 壁山と塔子が対応しようとするが、軽く抜き去られてしまう。

 

「比得! 小鳥遊!」

 

 不動の声に名を呼ばれた2人が、それまで消極的に見えた動きを一変させ、不動の下へ走った。

 

「…………」

 

「ヒッヒ! ヒッヒッヒィ!」

 

 覇気のない瞳で走る小鳥遊。狂ったように笑い声を上げ続ける比得。

 それぞれボールを蹴る不動の前に入り、ゴールを前に縦に1列になった。

 その陣形が出来上がったのを見計らって、不動が足を振りかぶる。

 

「いくぜ……トリプルブースト!」

 

 不動が前に蹴り飛ばしたボールを、小鳥遊が更に蹴って前へ進める。

 最後に先頭の比得が思い切り蹴り飛ばし、3人分の力の籠ったシュートが円堂に迫った。

 

スピニングカット!」

 

 すかさず土門が衝撃波を飛ばしてシュートの行く手を遮るが、ボールは容易くそれを突き破り、ゴールを目指す。

 

「円堂!」

 

 既に“皇帝ペンギン1号”を受けて消耗している彼を案じて、風丸が叫ぶ。

 

「うおぉぉ! ゴッドハンド・改

 

 円堂は光の掌でボールを受け止めるが、暴れ狂うボールの勢いは殺しきれず、取り落としてしまう。

 飛んだボールは風丸が確保し、痛みを堪える円堂を見てラインの外へ出した。

 

「……全然、ダメージが抜けない……」

 

 身に染み込んだ先程のダメージは、まだ円堂を(さいな)んでいる。

 その彼の様子を見て、ディフェンス陣はもうシュートを打たせまいと気を引き締めた。

 それこそが不動の策であるのだとも知らずに。

 

 まず佐久間と寺門の“皇帝ペンギン1号”が彼らの注意を引き付ける。

 2人にシュートを打たせないため、雷門イレブンはマークを着けるが、今度はこうして不動達でゴールを狙う。

 決まるのならそれでいいし、決まらなくても問題はない。

 開始直後に“皇帝ペンギン1号”を受けた円堂に無理はさせまいと、雷門イレブンが過剰な緊張を抱えてプレーを始めるからだ。

 

 そもそも、相手にシュートを打たせないなど、余程実力差がなければまず不可能だ。

 しかし佐久間達の選手生命が懸かっている以上、彼らはそれをやるしかない。

 2人の運命を背負う緊張は、雷門イレブンの神経を磨り減らしていることだろう。

 この状況で不動達もオフェンスを行えば、彼らの処理能力が限界を迎える。

 円堂に無理はさせまいと不動達にも対応しようとすれば、必ず佐久間達のマークに隙ができるのだ。

 佐久間達が再びシュートを放てればしめたもの。

 そうなればいよいよ、雷門イレブンのプレーは穴だらけになる、というのが不動の思惑である。

 

「佐久間! 寺門! 源田! 3人とも目を覚ませ! こんな、自らを傷つけるサッカーの果ての勝利に、なんの意味がある!?」

 

 鬼道が叫ぶが、佐久間と寺門は振り向かない。源田は、そもそも聞こえているのかも怪しい様子だ。

 

「無駄無駄。あいつらは本気で勝利を求めてるんだよ。綺麗事じゃどうにもならねえほどに、飢えてるのさ」

 

 紫色の石の首飾りを揺らしながら、ボールを持った不動が歩み寄ってきた。

 そして、徐にボールを鬼道の下へ転がした。

 

「シュートしてみろよ」

 

「くっ……づあぁっ!」

 

 挑発に、鬼道は渾身のシュートで応えたが、不動はそれを胸で軽くトラップする。

 そして2人の激しい攻防が幕を開けた。

 抜き去ろうとする不動に、追い縋る鬼道。

 先へ行かせまいと立ちふさがる鬼道に、弾き飛ばしてでも進もうとする不動。

 

「なぜだ、なぜあいつらを引き込んだ!?」

 

「俺も負けるわけにはいかねえんだよ!」

 

 熾烈なぶつかり合いに決着は着かず、互いの足が激突してボールを打ち上げたのを終焉に、前半終了のホイッスルが鳴った。

 

「チッ……」

 

 それを聞いて舌打ちをした不動と、真・帝国イレブンがベンチへ向かっていった。

 佐久間と寺門を除いたメンバーは、ホイッスルの音への機械的な反応が否めなかったが。

 

「……おい、源田ァ! ハーフタイムだ!」

 

 不動が声をかけて、棒立ちしていた源田もようやくのそのそとベンチへ歩き出す。

 その様子、一部始終を鬼道はゴーグル越しに余さず観察していた。

 

 

 

 少し遅れて鬼道が戻ってきた雷門ベンチは、騒然としていた。

 傷つく佐久間達を見かねた木野の、試合の中止という提案にチーム内からいくつか賛同の意見も上がったところで、瞳子がその意見を切り捨てたからだ。

 

「ここからは、勝つためのプレーをしなさい」

 

「でも監督、それじゃあ佐久間くんたちは……」

 

「私の使命はエイリア学園を倒すこと。この試合も、負けるわけにはいかないの」

 

「だが! あいつらを見捨てるなんて……」

 

「――試合を続けよう」

 

「鬼道、いいのかよそれで!?」

 

 染岡が反抗を示していた所に、他ならぬ鬼道が瞳子への同意を示した。

 

「ここで試合を中止すれば、この試合であいつらが“禁断の技”を使うことはない。だが、このままあいつらが完全に影山の支配下に置かれてしまえば、俺達も何もできない所で、あいつらは“禁断の技”を使うだろう。あいつらの目を覚まさせるには、この試合で勝つしかないんだ」

 

「鬼道……」

 

 そう言いながらも、鬼道は悩んでいた。

 前半中、こちらは防戦一方だった。

 不動の指揮による猛攻で反撃のタイミングが中々掴めなかった上、相手のキーパーとして立つ源田は生半可な攻撃では破れない相手。

 佐久間と寺門のマークにも人手を割かされている現状では、源田の守りを破る・或いは揺さぶる程の攻撃をする余裕もない。

 あまりにも大きすぎるハンデは、天才ゲームメーカーの思考を鈍らせる錆となっていたのである。

 

「――なぁ。源田の方は1、2回なら大丈夫なんだよな?」

 

 そこへ、アツヤが自信ありげな様子で声をかけた。

 

「ああ。あまり楽観視はできないが……あいつは頑丈だからな」

 

「俺だって知ってらァ。だから、1点なら取れるシュートに心当たりがある。俺と、兄貴ならな」

 

「なに? 本当か!」

 

「うん。僕とアツヤ、2人の必殺技があるよ。アレなら源田くんの必殺技を破れるかもしれない」

 

「俺達そんなの知らねえぞ?」

 

「2人で対源田くんに作った必殺技だったんだよ。イプシロンの時は、使うタイミングがなかったけどね」

 

「それでまず1点は取ってやる。2点目の取り方は、アンタが考えてくれ。天才ゲームメーカーさんよ?」

 

 アツヤの挑戦的な笑みに、ここまで深刻な面持ちだった鬼道が、フッと笑う。

 頭の中を覆っていた責任感と罪悪感の黒い靄が、吹き抜けた雪風で晴れたようだった。

 

「……ああ。1点目は任せるぞ。俺も、真・帝国(やつら)の弱点を探る」

 

 守るも攻めるも塞がれていた状況。

 しかし鬼道は、反撃の光明(イナビカリ)を、この暗雲の奥に見出だそうとしていた。

 

 




源田幸次郎
帝国時代、“ビーストファング”を影山によって教えられる。
恐ろしい密度の鍛練により、当時既に反動は若干の筋肉痛、程度だった。

不動明王
チームを完全に掌握し、心を揺さぶる策を以て雷門との試合を進める。

吹雪アツヤ
源田と再会するが、サッカーモンスター化。
成長したエターナルブリザードを止められたが、兄との必殺シュート使用に踏み切る。

影山零治
帝国時代、源田に“ビーストファング”を教える。


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