源王は玉座を譲らない 作:青牛
最後の更新が約2ヶ月前。
大学って……忙しいね。
ワールドトリガーって……面白いね!(有罪)
再びホイッスルが吹き鳴らされ、幕を開けた後半戦。
既に1点奪われている雷門は開始と同時に攻めかかろうとしたが、不動が指揮を取る真・帝国イレブンの守備陣を破ることは容易ではない。
後半開始早々に、中盤でボールを巡る激しい攻防が展開された。
「風丸!」
「ああ!」
「おんりょう・改――ッ!?」
その一進一退の攻防の末、持ち前の駿足で
彼は止めようとした小鳥遊も続けざまにかわして前進するが、不動も黙って見てはいない。
「ちっ……郷院!」
「……」
不動の命令で、自身の持ち場に立っていた巨漢が動き出す。
狙いは当然風丸。そのまま体当たりでも仕掛けそうな勢いで迫ってきた。
猛進する巨体の威圧感は、ベンチで見ていた目金が思わず悲鳴をあげかける程のものだったが、生憎風丸には、この大男への恐怖などなかった。
確かに、この男には帝国の大野などの名DFにも匹敵する力があるのだろう。だが、数日前に自分達を圧倒したイプシロンと比較すると、一歩及ばない。
単純な実力というよりも、今一つ覇気がないように風丸には感じられるのだ。
「ホーントレイン・V2」
そう思われているのも知らずに突っ込んでいく郷院は、距離が縮んだのを見計らって姿勢を低くする。
風丸の腹を、掬い上げるように頭突きで突き上げるために。
その突進の勢いはさながら暴走列車、或いは鋭い角を備えた猛牛。
だが、頭突きは風丸を捉えられずに空振ることになった。
「疾風ダッシュ!」
風丸は、郷院の突進のもう曲がれないタイミングを見極めて急加速し、脇をすり抜けていったのだ。
「……! ああ、俺だって、強くなってるんだ……!」
思った通りに身体が動き、見事突破できたことを噛み締めながら、彼は染岡にパスをした。
「よし――うおっ、こいつ!」
「……」
ボールを受けた染岡は走ろうとするが、ボールを受けた瞬間から弥谷にマークされてしまう。
彼は郷院や壁山のようなパワーを持たない。風丸のような俊敏さもない。
しかし、マンマークという一点においては非常に高い技術を持っていた。
やっとゴールに近づいたのに、思うように進めない状況に歯噛みする染岡に、不動はニヤリと笑みを浮かべた。
彼は風丸に中盤を抜かれた時点で、始めから郷院で相手ボールを止めるつもりはなかった。
風丸自身ではなく、彼が自陣まで切り込んできてパスを出すFWを徹底的に止めるつもりだったのである。
染岡が弥谷に手こずっている間に郷院も戻ってきて、逆サイドのアツヤへのパスコースも塞がれた。
「時間の問題だな」
あとは、染岡が後方にボールを戻そうとするタイミングでパスをカットして、カウンターを決める。
そう考えて染岡が隙を見せるのを待っていた不動。
「くっ――オラァ!」
しかし、逆に染岡は前進した。厳密には、前方へ思い切りボールを蹴り飛ばした。
弥谷に勝るパワーを発揮して、強引に染岡はボールを前に進めたのである。
「ハッ、ヤケになったか!?」
だが、それだけではただ奇抜なことをしただけで、無意味だと不動は笑う。
シュートにしては少々遠すぎる。ロングシュートで源田を抜くことなどできはしない。
もちろん、あんなところに雷門の選手も居ないので、パスにもならない。
ボールの行く手に近い選手に、拾いに行くよう不動が指示を出そうとしたその時――
「いや、ドンピシャだぜ」
不敵に笑う染岡。不動が染岡の思惑に気付いたのは、自チームの守備をすり抜けていった2つの風を見てからだった。
「行くぜ兄貴!」
「ああ!」
「パスだと!? 奴らボールに追い付きやがった!」
それはアツヤと、前半はDFだった士郎だ。
彼は佐久間のマークについていたのだが、そちらは土門に任せ、一之瀬と入れ替わりでMFの位置まで上がってきていたのである。
アツヤとの必殺シュートで、真・帝国からゴールをもぎ取るために。
彼らは染岡の
「今度こそだ。受けてみやがれ、源田ァ!」
「これが、君に勝つために作った必殺技!」
アツヤと士郎が、浮かせたボールに掠めるような連続キックを入れる。
それはまるで、狼がその爪で獲物を引っ掻くようで。
『ウルフレジェンドだぁ!!』
そしていくつものキックを入れられたボールを、2人は猛々しく吠えながらシュートした。
牙を剥く狼のオーラを帯びながら、ボールはゴールを狙う。
「チッ……源田ァ!」
シュートの秘める凄まじい威力を遠目にも察した不動が、阻止できなかったことへの苛立ちを舌打ちで
彼の声を受け、源田は前半同様に腕を打ち合わせて“キングシールド”を発動した。
構えられた黄金の獅子の盾に、巨大な狼が喰らいつく。
「破れやしねえよ! 全国最強GKの出す、最強の必殺技だ!」
「うおぉぉぉぉ!!」
嘲るような不動の声を、吼える吹雪兄弟が掻き消す。
揺るがない盾が輝きを増すが、相対するこの必殺技はかつての戦い以来、吹雪兄弟が開発し、仕上げてきたシュートだ。
その籠った想いが鋭さを増したのか、狼の牙は打ち込まれた楔のように盾に深々と突き刺さった。
「なっ……バカなっ!」
不動が、信じられないと目を見開いた。
だが、そう言っている間にも牙は次々に刺さり、盾に罅を広げていく。
程なくして、獅子の盾は黄金の破片を撒き散らして砕け散ったのである。
源田の腕を弾き飛ばしてゴールネットに突き刺さったボールは、雷門の得点をこれ以上ないほど明確に証明していた。
「よっしゃあ! やったな兄貴!」
「うん、練習の成果だ!」
「よくやったお前ら!」
拳を合わせた2人に駆け寄ったのは、先ほどパスを出した染岡。
彼もまた、今の得点の立役者である。
「染岡くんも、ナイスパスだったよ!」
「よくあんなパス出せたよな」
「へっ、お前らの走りは今日まで何度も見てたからな。あれぐらい取れるだろって思ったのさ」
「あいつら……」
鬼道が、そして雷門イレブンが、得点を喜び合うストライカーたちに頬を綻ばせる。
この得点は、ただ真・帝国に同点で並び立ったというだけでない。
間違いなく、チームの士気を上げる1点だった。
不動は忌々しげに舌打ちしながら、活気を取り戻しだした雷門イレブンを睨み付けていた。
点を奪われた真・帝国が反撃を開始する。
雷門イレブンに点を取られた彼らだが、その動きは基本的に淡々としていて、静かだった。
しかし、喜びに沸いていた雷門イレブンはその姿に言い知れない不気味さを感じて、緊張感を持ちなおして臨む。
「……取られたなら、取り返すまでだ!」
不動は盛んに指示を飛ばし、雷門の守備を掻い潜ろうとした。
雷門の守備の人員は佐久間と寺門に集中している。またその隙を突くことでゴールを狙うか、或いはそれに対応しようとしてマークの緩んだ佐久間達に2発目の“皇帝ペンギン1号”を打たせるか。
どちらでも点を取れる、ないし士気を取り戻した相手に揺さぶりをかけることができる。
「こっちに寄越せぇ!」
「いや、こっちだァ!」
佐久間と寺門が、額に汗を滲ませながら怒鳴る。
その主張、迫力の強さに、雷門イレブンも意識を割かないわけにはいかない。
「へっ、隙だらけ――」
「いや、そうでもないぞ!」
再び切り込もうとした不動だが、それを鬼道が止める。
しかも、かなり積極的にボールを奪おうとして、プレッシャーをかけるディフェンスだった。
(くそ! 鬱陶しい!)
ボールを取られては元も子もない。だが、このまま自分がいつまでも持っていても仕方がない。
パスできる相手を探すが、動いているのはガッチリとマークされた佐久間と寺門。
他のメンバーは、
「命令などしている暇がないだろう?」
「ッ!」
見透かすような鬼道の言葉に、不動が息を呑んだ。
「ずっと見ていてわかった。お前のチームは、自主性がない! お前の指示を待ってばかりだ。そうだろう?」
鬼道の指摘は、真・帝国イレブンの核心を突いていた。
不動は反抗的なチームメイトに調教を行うことで、チームを掌握していた。
それにより、彼らは不動の指示に必ず従い、勝手な行動をしないようになっていた。
しかし、チームのほぼ全員が不動の思うように動く駒になった代わりに、彼らの自主性は失われていたのだ。
彼らは不動の指示がなければ、最低限、本当に基本的なことしかやろうとしない。
つまり、不動に指示を出す暇がないほどの負荷を与えれば、真・帝国イレブンはチームとしての機能が停止するのである。
「お前は司令塔がチームの支配者とでも思っているんだろうが、それは違う。サッカーは自分のチーム1つでも11人もの人間が動くスポーツだ。お前1人の手のひらの上に収まりなどしないぞ!」
「うるせえ!」
不動は怒鳴ると共に力ずくで鬼道を抜き去ろうとするが、その動きは前半から状況の変わった今では少々迂闊だった。
「アイスグランド!」
(くそっ、そうだ、奴はDFだ!)
横合いから襲ってきた士郎に氷漬けにされて、不動はボールを奪われる。
彼はDFとしても高い力量を持っている。そして、今はMFの位置まで上がってきている。
それにより佐久間へのマークが少し手薄になった代わりに、ボールを奪いに来るタイミングが増えているのだ。
「こういうことだ。俺たちは、試合の全てを操るなんて大層な存在じゃない」
「アツヤ!」
「おう! なんだ、2点目もいけそうだな!」
「くそ! お前ら止めろォ!」
「キラースライド・改!」
「スピニングカット!」
真・帝国イレブンの守備陣が不動の号令で立ち塞がるも、吹雪兄弟のコンビネーションの前には、彼らの守りなどあってないようなものだった。
「オーロラドリブル!」
士郎の独特な足さばきはあるはずのないオーロラを映し出して見せ、DFたちの目を眩ました。
2人はぐんぐんと突き進み、あっという間にペナルティエリアに接近する。
「やった!」
「このままもう1点取れれば逆転です!」
ベンチで音無と目金が喜びの声を上げる。
この得点で試合が終わるわけではない。佐久間たちのこともあるので気は緩められないが、自分たちがリードを取れるというのは、この状況では非常に大きい。
「木暮くん? どうしたの?」
「な、なんだよ……」
ただ、音無はふと、ベンチの端に居る木暮の様子が気になった。
彼は試合開始時から様子が変わっていない。まるで、まだ何かに怯えているかのように。
「大丈夫よ! お兄ちゃんたちがこのまま、真・帝国なんてやっつけて、佐久間さんたちも助けちゃうんだから!」
「違うよ、別にあいつらは怖くない」
元気付けようとした音無の言葉を、木暮は弱々しく否定する。
不動、比得、郷院。正直に言えば佐久間に寺門も。彼らも確かに恐ろしくはある。
「けど、一番怖いのは……アイツだ」
音無たちは気付いているのだろうか。
ゴール前に立つあの男は先ほどの失点以降、ボールを、一度も目を離さずに凝視し続けていることに。
「いくぜ、ウルフ――」
「アツヤ!」
シュート体勢に入り、浮かせたボールにキックを入れようとしたアツヤは咄嗟に身体を止めた。
切羽詰まったような兄の制止があったからではない。
「グウゥゥアァァァァ!!!」
その呼び掛けを掻き消すほどの咆哮と共に、圧倒的な脅威が眼前に迫ってきていたからだ。
「げん――」
ゴールの前に立っていたはずの男が、ペナルティエリアの中央辺りに居る自分の目の前にまで来ている。
それが何故なのか。何が起こったのかを理解する暇もなく。
源田幸次郎は、シュートを打たれるより先に、浮いたボールへ渾身の拳を打ち込んだ。
吹雪兄弟
ウルフレジェンドを放って点を取った。
2人でやるウルフレジェンドを見てみたかった。
染岡竜吾
ドンピシャのパスを出した。
鬼道有人
真・帝国の弱点を見出だす。
不動明王
鬼道にチームの弱点を見抜かれた。
調教で自分に従順なチームを作ることを成功させたものの、代わりに基本的なこと以外は命令しなければできない指示待ち人間集団と化している。
例外は佐久間・寺門・源田。
源田幸次郎
キングシールドを破られる。
必殺技が破られたのでパンチングした。