源王は玉座を譲らない 作:青牛
FF地区予選決勝戦。
無敗の王者帝国学園は自校を会場にして、挑戦者である雷門中を迎え入れた。
鬼道が影山の罠を探ろうとしてスタジアムを駆け回っている中、源田は雷門中の控え室に向かっていた。
「俺達が勝ったら、鬼道達は……」
その向かう道筋で、何か思い詰めた様子の
「随分と情けない顔だな、円堂守」
「え? お前は……源田!?」
円堂は、雷門において対帝国最大の障害と目されていた男が突然目の前にやって来たことに驚きをまるで隠せなかった。
「なんでこんなところに……」
「
「俺? 何か用か?」
「別に大したことじゃない。個人的な宣戦布告だ。円堂、お前へのな」
圧倒的格上と思っている相手から、まさか名指しで宣戦布告をされることなどあるのか。
先程
その円堂の疑問に思う様子は尤もだ。
以前の練習試合において彼らに因縁ができるようなやりとりはなかった。
どちらかと言えばそれは豪炎寺達ストライカーに向けられるものではないかとも思う。
源田もそれはわかっている。だからこれは『個人的な宣戦布告』なのだ。
自分の知っている王を玉座から引きずり下ろした挑戦者への。
「実際。今キーパーとして優れているのは、俺だろう」
「自慢しに来たのか?」
「違う」
話の腰を折るなと視線を強めて、戸惑っている円堂を黙らせ話を続ける。
「ただ、俺はお前が俺を超えうる男だと思っている。だから、お前には負けないと宣言しに来た。それだけだ。どうもお前は別のことに意識が向いているようだが……舐めるなよ」
「べ、別に舐めてなんて――」
「試合以外のことに気を取られたまま相手ができるほど
「勝ちだけを、考える……」
「何に悩んでいるのか知らないが、それがサッカーに関係のないことなら置いておけ。何度でも言うぞ。お前と直接対決するわけではないが、俺はお前と戦うつもりでいる。
――俺は、お前に負けない」
源田が円堂に向けた対抗心とその言葉は、じんわりと円堂に染み込んでいった。
鬼道兄妹のことは、試合の後に、置いておく。
これからやる試合は、鬼道兄妹だけのものではないのだ。
自分。雷門の皆。そして帝国の皆。一人一人の夢が懸かっている。
フィールドに立つ一員として勝負に全力で臨まないことは、その全員に対する非礼だ。
「わかった。なんでお前が、そんなに俺のことを警戒してるのかはわからない。でも、俺も負けない!
――勝つのは
円堂は、そう啖呵を切って源田に向き直った。
源田はそれに笑って、来た道を戻っていった。
帝国VS雷門の試合は、開始直後に炸裂した
『FF地区予選決勝戦! 今年も帝国が優勝か、あるいは雷門が大番狂わせを引き起こすのか! 雷門はかつての練習試合で帝国に圧倒され、そのリベンジに燃えており気合い十分! 今、キックオフです!』
かつての練習試合と同じく、試合は雷門ボールからスタートした。
以前と違うのは、初めから帝国の守備が本気であること、そして雷門の実力が練習試合とは比べ物にならないほど高まっていることだ。
「疾風ダッシュ! 染岡!」
「前のようにはいかねえぞ……! いくぜ豪炎寺!」
「ああ!」
帝国の守備が迫る前に、染岡がシュート体勢に入った。
声をかけられた豪炎寺は意図を察して走り続ける。
「ドラゴンクラッシュ!」
蒼い竜がボールに宿り、咆哮しながらゴールへ向かった。
豪炎寺はそのシュートにもう一度シュートを加えるべく走る。
(尾刈斗が試合で最後に教えてくれた、“パワーシールド”の突破法……! 利用しない手はない)
「雷門。お前達なら
源田は、そう言いながら
「あの構えは……“パワーシールド”じゃない!?」
“パワーシールド”は気を込めた右手を地面に叩きつけることで衝撃波を発生させる必殺技だ。
源田の動きは、それと明らかに違った。
「いや、“パワーシールド”さ。ただし――」
「――通常の3倍だ」
雷門が源田の構えが“パワーシールド”と違うことに気付き、訝しむ。
その疑問に帝国の参謀役
ゴールキーパーの王者は、言葉に応えるようにその腕を振り下ろした。
「
なんと、ゴールを囲う壁が3重になって現れたのである。
源田は“パワーシールド”の弱点など元々知っていた。
だが薄さが問題ならば、数を増やして重ねることで厚くすればいい。
その考えで開発した上位互換の技。
これが彼の“パワーシールド”に出した答えだった。
『なんとーー! 源田、“パワーシールド”を3枚も展開! 我々が見ていた彼の実力はまだまだ氷山の一角に過ぎなかったのです! キング・オブ・ゴールキーパー、底知れません!』
実況が興奮しきった声をあげる。ただでさえKOGの絶対防御の代名詞として名高い壁が、3重にもなって立ちはだかるのだ。
だが、まだシュートが止まったわけではない。どのみち撃ち抜けば同じことだと、豪炎寺は構わず跳び上がる。
「ドラゴントルネード!」
炎の後押しで赤く染まった竜は、行く手を阻んでいた壁の1枚目を確かに粉砕した。
しかし2枚目の壁に阻まれ、シュートはその壁にひびを入れるに留まり弾かれてしまう。
「これでも通じないか……!」
「まだ終わってねえぞ豪炎寺、なんとか突破するしかねえ!」
「ああ、わかっている」
FWの2人は自分を奮い立たせるが、雷門のダブルエースの連携が止められた。その動揺は小さくない。
帝国は僅かな隙を見逃さずに攻め込んでいく。そしてボールを持った鬼道の指笛の音が、フィールドに鳴り響いた。
「早速あれを撃つのか」
その必殺技の練習に付き合った源田が呟いた。
鬼道の足下から5匹のペンギンが現れる。ペンギンは鬼道が蹴り出したボールとともに飛び上がっていく。
「皇帝ペンギン――」
「――2号!」
そのボールを両脇から佐久間と寺門が息を合わせて蹴り、さらに威力を上乗せする。
使用者への負担が大きすぎたことから禁断の技として封印されていた“皇帝ペンギン1号”を3人で放つことで負担を分散させて抑える形に改良した必殺技“皇帝ペンギン2号”。
「止めてみせる! ゴッドハンド!」
その威力のほどは推して知るべし。
「うわあ!」
『おおっと! 円堂、帝国の披露した必殺技“皇帝ペンギン2号”の前に敗れるーー! 帝国先制点! 圧倒的な実力を見せつけました!』
「ごめん皆!」
「気にするな円堂。取られたなら取り返すだけだ。絶対に
かつて“デスゾーン”を止めた“ゴッドハンド”は、突き刺さるペンギンの前に破られた。
反撃して点を取り返すべく試合再開と同時に駆ける雷門の選手達。だが、帝国の守りは源田だけではない。
「シュートはさせねえぞ! アースクェイク!」
「ぐあぁ!」
帝国でも体格のいいDF
「よくやった“だいでん”!」
「寺門!」
「任せろ。成神ィ!」
「わかりましたよっと!」
大野は奪ったボールをエースストライカー
ボールを持った寺門は、後輩を呼びながらそれを打ち上げた。
二人が飛び上がり、空中からそのシュートを放つ。
「二百烈ショット!!」
元々“百烈ショット”が、ボールに目にも留まらぬ速さの蹴りを連続で浴びせて、連続蹴りの威力の集約されたボールを放つシュートだ。
それにもう一人が加われば、単純に考えて威力は2倍。その速さも凄まじい。
「うおお! 熱血パンチ改!」
“ゴッドハンド”では間に合わない。そう悟って技を切り替えて迎撃する円堂。
進化したその熱いサッカー魂を体現する拳は、しばしの拮抗の後、ボールを弾くことに成功した。
「くそっ、やるじゃねえか」
「ナイスだ円堂!」
寺門が悔しげにしながら円堂を誉めるのを他所に、弾いたボールを風丸が拾いストライカーに届けるべく蹴り出す。
陸上部あがりの彼の俊足はサッカーでも遺憾なく発揮される。
「行かせるかよ! サイクロン!」
「くっ……頼む、マックス! ――うわあ!」
「風丸! くっ、半田!」
しかし襲い掛かるDF万丈の“サイクロン”にかわしきれないと悟った風丸は、吹き飛ばされる前にマックスのあだ名で呼ぶMF
「壁山!」
「は、はいッス!」
上がってくるボールを前線から見ながら、豪炎寺は壁山を呼び寄せた。
“ドラゴントルネード”が通じなかったからと言って万策尽きたわけはない。
「行くぞ……! イナズマ落とし!」
豪炎寺は壁山を踏み台に“ファイアトルネード”より高く跳び上がり、ゴールの遥か上空からオーバーヘッドを撃ち込む。
落下する重力も助けとなって、まさに落雷のような高い威力を引き出す。これが円堂大介の残した必殺シュートだ。
「俺を破るには足りんぞ! トリプルパワーシールド!」
それでも源田の守りは揺るがない。
だが、弾かれたボールは運良く染岡が確保した。
「このまま攻め続ける……! ドラゴンクラッシュ!」
これもまた防がれる。
だが源田とて体力が無限ではない。必殺技を出せば消耗するはず。
いかに堅牢であれ、“パワーシールド”は発動の予備動作が大振りで隙も大きい。
さらには、防いだボールを弾くため、それを確保すれば連続で攻撃もできる。
故に今はひたすらシュートを撃ち込み、休む間を与えずに攻め立てることで隙を作り出すことを狙い、雷門は間髪いれない猛攻を仕掛けていた。
「ファイアトルネード!」
「グレネードショット!」
「ローリングキック!」
「この程度で、このゴールを許せるものか! トリプルパワーシールド!」
『雷門、シュートを連発ーー! しかし決まらない! 厚すぎる! キング・オブ・ゴールキーパーの壁は、あまりにも厚すぎるーー!』
(成程な)
源田は、この雷門の作戦に気付いた。
これだけシュートが撃てたのは、弾かれたボールを取るため、最低限の守備を残して雷門の選手達の殆どがフィールドの帝国ゴール側まで上がってきていたからだ。
確かに何度も攻撃すれば、雷門の攻撃力ならば、源田相手でも隙を作れるかもしれない。
では、帝国も対抗して守備を増やすか?
(その必要はないな)
鬼道も雷門の動きを見抜きながら、そう冷静に判断した。
雷門は決して侮っていい相手ではないが、ここは自分達の守護神を信じるべき場面だと。
「ああ、任せろ」
仲間達の言葉のいらない信頼を感じて、源田はさらなる力をその身に漲らせる。
(このままただ弾き続けるのは得策ではないな。ならば……)
「ファイアトルネード!」
「……あれをやってみるか」
『おおっと、源田動かない!? 一体どういう……あ、ああ!?』
向かい来る炎のシュートに対し、源田は仁王立ちで動かない。
代わりに、
「なんだ!?」
「キーパーが増えてるッス!?」
「分身……洞面から何か教わっていたのはそういうことか」
ゴール前に立つ源田も含めて3人になった源田。
中央の両脇に動いた2人の源田が腰を落とし、両腕を上げる。
それに連動するように、ゴール前から巨大な岩の壁が無数に生え、並び立った。
「無限の壁!」
“ファイアトルネード”はその壁を破れずに力を失い、既に1人に戻った源田の掌の上に落ちたのである。
「おい源田、あれは
大野が去年全国大会で戦ったことを思い出しながら問いかける。
千羽山中。鉄壁の防御で定評のあるチームだ。
チーム一丸となった守りの堅牢さは、去年当たった帝国も破るのに少々骨を折った。
たった今披露された“無限の壁”はそんな彼らの代名詞と言うべき必殺技なのである。
「去年は苦労させられたからな、研究も兼ねて覚えてみたんだ。手こずったが分身を教えて貰ってからは案外簡単だったぞ?」
「……全国で
色々言いたいことはあるが長話をしてる時間はないので、話をそう切り上げた大野がボールを受け取り走り出す。
だがそれを、誰かにパスが回る前に染岡が素早く奪い取った。
「――舐めんなよ! GKのキングだかトングだか知らねえが、まだ俺達の攻撃は終わっちゃいねえ!
――ドラゴンクラッシュ!」
源田の余裕の態度にいきり立った染岡が、今度こそ破ってみせると再び竜を放つ。
「
それに向かい合うキング・オブ・ゴールキーパーの取った構えは、今度こそ“パワーシールド”のそれではなかった。
シュートの進路に立ち塞がり、その胸の前で両手を
それは、本来“皇帝ペンギン1号”と同じく帝国で封印されていた技。
「ならば見せてやる。これが俺の――ビーストファングだ!」
咆哮する黒い野獣の姿が、源田に重なる。
獣の
誰もが、竜が獣に喰い殺される姿を幻視した。
そしてボールは、練習試合のあの日のように源田の両手に収まっていたのである。
同時にホイッスルが鳴る。
試合のスコアは1ー0。雷門は前半中、源田の守りを突破することは叶わなかった。
源田幸次郎
円堂に宣戦布告に行った。雷門との戦いは彼にとって色々な意味で試練でもある。
その後は王者の実力を見せつけた。
王の前に死角はない!
無限の壁
去年手こずったので試しに覚えてみた。
当初は1人で3人分の動きをやろうとしていたが、分身した方が早いと気付き最近習得。
オリジナル必殺技
トリプルパワーシールド:やってることは要するにパワーシールドの三枚がけ。薄いから近くからなら破れる?なら重ねればいい!という発想である。
フルパワーシールドは根本的には性質が変わらないだろうということで弱点そのものを克服するために作り出した。
円堂守
源田に宣戦布告された。
迷いが晴れて豪炎寺医師のファイアトルネード療法は回避している。