源王は玉座を譲らない   作:青牛

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明けましておめでとうございます。





遅くなって本当に済まない。

真・帝国戦、決着です。


決着は誰も喜べない

 円堂の身体が限界であることには、真・帝国イレブンを率いる不動も気付いていた。

 雷門の守護神はもはや死に体。ノーマルシュート一発でも蹴り崩せる、倒壊寸前の防壁だと見抜いているために、真・帝国はなりふり構わない攻撃を仕掛けようとする。

 

「何がなんでも奪え! シュートを打ちさえすりゃあ終わりだ!!」

 

「絶対に渡すな!!!」

 

 しかし、鬼道の指揮による縦横無尽のパスワークは不動の指揮でも捉えきれない。

 

キラースライド・改!」

 

イリュージョンボール!」

 

スピニングカット!」

 

疾風ダッシュ!」

 

ホーントレイン

 

オーロラドリブル!」

 

 この攻防が勝負の行方を決定付けると双方が理解しているボールの争奪戦は、互いに全てを出し切るような必殺技の応酬となった。紙一重、間一髪の瞬間が頻発する熾烈な戦いだったが、タイムアップが刻々と迫り来る中でも、今のところボールは一度も雷門イレブンの足から離れていない。

 

「よこ、せえ!」

 

 食らいつくように飛びかかったのは佐久間だった。しかし既に“禁断の技”を二度放ち、更に源田の砲弾(パス)を受けている身体でのプレーには帝国の選手としての精彩など欠片もない。油断なくかわされる。彼もまた限界なのだ。

 

「もう少し……!」

 

 しかし、そうして佐久間をかわしたアツヤも鬼気迫る雰囲気を醸し出していた。今の彼は佐久間の命運だけでなく、背後の円堂の命運まで背負っているためだ。その緊張はこれまでのサッカー人生で感じたことがなく、とても言い表しきれないものだった。

 延々とボールを狙われて追われ続ける、という構図も相当に神経を削る。ここまで激戦を繰り広げてきた末のラストスパートとしては、非常にハードな状況でありながら、ボールを守り抜いているのは両者の想いの差か。

 刻一刻と、残り時間は減っていく。

 

「ボールを渡しやがれェ!!」

 

 だが、想いの強さのみで言うのであれば、真・帝国イレブンにはまだそれを激しく燃やす男が居た。

 〝皇帝ペンギン1号〟を打ったのがまだ一発だけのため、佐久間よりは消耗が少なかった寺門である。

 一発だけと言っても“禁断の技”を放つ代償に味わっている苦痛と消耗は生半可なものではない筈だが、まさに執念が彼を突き動かしていた。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

(この……振り切れねぇ……!)

 

 時間が経ってタイムリミットが迫る毎に、アツヤに食らいつく寺門の動きはだんだんとキレが上がって来ているように思えた。

 それまでパフォーマンスを落としていた原因だった痛みと疲労を忘れ去ってしまう程に、寺門の勝利への執着は強いのか。佐久間と寺門を駆り立てる、もはや狂気のそれは、アツヤには理解できなかった。

 彼とて、勝負ごととなれば勝ちたいという想いはある。むしろ人一倍負けず嫌いな部類だ。

 しかしそれにも当然、限度というものはある。

 自らの選手生命を犠牲にしてまでたった一度の勝利に固執する行為など、その代表例と言えるだろう。

 

「なんで……なんでそんなになってまで戦うんだよ、お前!」

 

 いまにも倒れそうな顔色をしながら執拗に追い縋ってくる寺門を見ていられず、アツヤはずっと胸の内にあった思いを叫んだ。

 

「なんだと……?」

 

 寺門はその叫びに、意味がわからないという風に唸ったが、アツヤは構わず捲し立てるように言葉を重ねる。

 

「源田のやつに、佐久間がぶっ飛ばされたのを見たろ! 鬼道がやめろって何度も言ってるのを聞いてるだろ! お前が仲間の声を振り切って、死ぬ目に合って、なんでまだ戦うんだよ! 二度とサッカーができなくなるんだぞ!?」

 

()()()()()()()()()()()!!」

 

 しかしそれら全てを、寺門は些事だと吠えて一蹴した。

 その勢いに気圧されたアツヤの、意識の一瞬の空白を隙と見て、寺門は思い切りボールへと足を伸ばす。

 

「くっ、うぉぉ……!」

 

 いくら名門帝国学園のエースとはいえ、その細い身体からは考えられない膂力。

 何がなんでもボールは奪われまいと、ボールにかかる寺門の力に対し、アツヤも全力で押し返した。

 さながら、ボールを賭けたストライカー同士による鍔競り合いだ。

 

「どうした、こんなもんかァ!?」

 

「この……!」

 

 寺門の胸元から漏れる光が強くなるにつれて、両者の力の天秤は傾いていく。

 

「いいか一年坊。ストライカー(俺たち)は、どんなときでもシュートを決めなきゃならねえ! キーパーが守りの最後の砦なら、エースこそが攻撃の要!」

 

 加速度的に寺門の正気は失われ、代わりに剥き出しの本能の叫びが吹き出してアツヤに叩きつけられる。

 それは彼の、エースストライカーとしての矜持。

 

「たとえ他の誰がシュートを止められたとしても、エースだけは点をもぎ取らなきゃいけねえんだ!」

 

「そのために、仲間の声を聞き捨てんのかよ!」

 

「点が取れなきゃあ……ねえんだよッ! 俺がアイツに背中を預ける、資格がよォ!」

 

「寺門……!」

 

 彼は既に目の前すらも見失っており、放つ言葉はアツヤとの問答ではなく自身の叫びへと変わっていた。

 その叫びに呼応するように寺門の力がより一層増した瞬間、拮抗していた天秤が傾いた。

 

スピニングカット――」

 

(エースの、資格――)

 

「――改!!

 

 ぶつかり合いの末に寺門は気を纏わせた足を振り抜き、アツヤごとボールを弾き飛ばした。

 “スピニングカット”は本来、足の気を衝撃波にして放つことでボールを奪い取る必殺技だが、その力を直にボールに打ち込んだために、普通の使い方では起こらない破壊力を生み出したのだ。

 

「ガッ……!」

 

 吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられたアツヤはその衝撃で肺から空気を絞り出されながら、自身と同じく飛んでいったボールの行方を視線で追った。

 

「くそォ……」

 

 そして、目に映る光景に歯噛みする。

 ボールを弾いたのは、明らかに力業(ちからわざ)だった。その、普通ならば勢いのままにタッチラインを越えていたであろうボールに、あろうことか弾き飛ばした張本人の寺門がギリギリで追い付いていたのである。

 ここ一番で、彼は吹雪兄弟や風丸にも比肩し得る脚力を発揮していた。

 ボールを手に入れたストライカーのやることは、決まっている。

 

「見せてやるよ。エースストライカーってやつをなァ!」

 

「ッ待て!」

 

(まずい……!)

 

 雷門のゴール――円堂の下へと走り出そうとする寺門。

 すぐさま立ち上がろうとするアツヤだが、それでは彼の背には追い付けない。寺門は髪の束を振り乱しながらコートを駆ける。

 その光景を前に、鬼道のゴーグルの中の瞳に焦りが浮かぶ。

 残り時間は後僅か。彼としては、このタイミングで一気に攻勢をかける想定だったのだ。だというのに寺門にシュートを打たれては、試合はもちろん、寺門の身体も円堂の身体も無事では済まなくなる。

 なんとしても止めねばならない。

 

「行かせないよ!」

 

 無論、アツヤとボールが弾き飛ばされた時点で、雷門イレブンもそのカバーに動いていた。

 いち早く駆けつけた士郎が、ゴールへ向かおうとする寺門の行く手を塞ぐ。

 

「寺門!」

 

「!」

 

 しかし、そこで不動の声が寺門の背にかかった。同時に、彼の指示で動いていた小鳥遊が寺門の横へ駆け込んでくる。

 寺門は即座に彼女へとボールを回し、それに気を取られた士郎の脇を瞬く間にすり抜けて、再び返ってきたボールをドリブルする。

 

(ワンツー……!)

 

 それはオフェンスの2人によるパス交換で敵の守備を突破する技術(テクニック)

 優れたプレイヤーはボールに特殊な回転をかけることにより、一人でパス交換を熟す必殺技を使うが、今回は寺門と小鳥遊による、まさにお手本のようなプレーだった。

 そして、これまでの均衡が嘘のように、続く栗松や土門らも抜き去られていく。

 

「待て、やめろォーー!!!」

 

 抜かれたDFたちと共に寺門を追うアツヤが叫ぶ。

 既にゴールを射程に収めた寺門は、シュート体勢に入っていた。

 

「よせ寺門ーー! ――ぐっ……!?」

 

 寺門へと一直線に走る鬼道に、不動が身体を割り込ませて邪魔をする。

 

「終わらせる……!」

 

 円堂が覚悟を決めた表情で構えを取る。

 

ウオラァァアアア!!!

 

 そして、今試合の最後のシュートが、寺門から放たれた。

 寺門の苦痛を糧とした真紅の(あかい)ペンギン(悪魔)が、円堂目掛けて襲いかかる。

 

 その時、円堂の前に、庇うように人影が割り込んだ。

 

「オラァァァ!!」

 

「染岡!?」

 

「染岡さん!」

 

 染岡が円堂目掛けて飛ぶボールの進路に足を割り込ませ、ペンギン諸ともシュートを受け止めたのだ。

 

「ぐっ、くっ……づァ……!」

 

 しかし、彼に壁山や塔子のようなシュートブロックのできる必殺技はない。

 必殺技もなく、足一本で“禁断の技”に立ち向かうなど、無謀以外のなにものでもなかった。

 抵抗空しく染岡は撥ね飛ばされ、結局円堂はペンギンの嘴の餌食になる。

 

 

 

 

 

「士郎! アツヤァァァァ!!」

 

「「!」」

 

 彼を、DFとしたならば。

 現実には、染岡のポジションはFWである。言うまでもないが、その役割は点を取ること。

 彼は円堂を庇おうという単なる自己犠牲だけのためにやって来たのではない。

 この状況で点をもぎ取るために、勝つために、全力で駆け戻って来たのだ。

 

「来い!!」

 

 “皇帝ペンギン1号”の圧力に片足でジリジリと押されながら、染岡は吹雪兄弟に叫ぶ。

 

「――ああ! アツヤ、行こう」

 

 その意図を汲んだ士郎が、アツヤの背を叩いてから駆け出した。

 アツヤも、言われて意図を理解した。

 しかし、理解したからこそすぐには飲み込めない。

 

「あ、アニキ! いいのかよ、染岡!」

 

「いいからやれ! お前は、雷門のストライカーなんだぞ!」

 

「……ッ! ……うおおォォォォ!!」

 

 それは、先輩(そめおか)から後輩(アツヤ)への檄だったのか。

 アツヤは、葛藤の全てを振り切るように叫んで駆け出した。

 

 染岡は彼らの駆けてくるタイミングに合わせ、シュートと真っ向からぶつかり合っていた足を、僅かに逸らした。

 ボールの進路が、なるべく勢いを保ったまま上に曲がるように。

 そして、ボールが昇った空中で吹雪兄弟が飛び掛かった。

 軌道の逸れたボールならば、真正面から正反対に力を加えるよりも()だ。さらに、二人のシュートならばそのまま空中で放つことができる。

 

(悪ぃな、源田……我慢しろよ……)

 

 痛みを感じるどころかもはや感覚のない右足を今は考えないようにして、染岡はどこか場違いなことを思いながら、空中で猛る狼の姿をその目に焼き付ける。

 

「馬鹿な! そんなの、ありえねぇ! くそ、くそ……!」

 

 不動がこれから起こることを予見して、しかし認められずに頭をかきむしる。

 もはや、止められない。止めようがない。

 

 

 

ウルフ――」

 

「ぁ、げん……」

 

「――レジェンドォォォ!!!

 

 激痛の中で倒れ伏す寺門の譫言(うわごと)のような呟きを掻き消して、そのシュートは放たれた。

 それは、染岡の邪魔で少々削がれているとはいえ、“皇帝ペンギン1号”の威力(それ)をほぼ上乗せしたような一撃だった。殆どフィールドの端から端を縦断するという無茶を、通して余りある力があった。

 ボールに追従する、ペンギンを喰らった巨狼の咆哮は、不動の命令で立ち塞がろうとする真・帝国イレブンの面々を十把一絡げに蹴散らしていく。

 

「チィ、役立たずどもがァ! 源田ァァァア!! 絶対(ぜってぇ)に止めろォ!」

 

 蹴散らされるチームメイトへ罵声を飛ばしながら、不動は源田にこの試合何度目かの命令をする。

 源田もまた機械的にその指示に従おうとして、不意に構えを止めた。

 

「――――」

 

 郷院が、その余りにも強大なシュートとゴールの間に、割り込んだからだ。

 とはいえ、彼はDFであったがただ間に合っただけ。必殺技など出す暇もない。

 その巨体はなす術なくシュートに巻き込まれ、ボールと共にゴールへと向かい――

 

 

 

 動きを止めた源田と共に、ゴールの中に叩き込まれた。

 

 雷門の点が加算され、同時に鳴り響く試合終了のホイッスル。

 

 しかしフィールド上に、この決着を喜べるものは誰も居なかった。

 

 

 

 




雷門イレブン
試合には勝ったけど喜べる空気じゃない。

真・帝国イレブン
試合に負けたので当然喜べない。



次回で真・帝国学園を沈没させます。
……今月中に更新できるようにします。はい。

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