源王は玉座を譲らない   作:青牛

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お待たせしました。


イナイレ最新作の新情報が22日公開だそうで。
楽しみですね。


源王は挫折に挫けない

 雨上がりの空の下での、思いがけない再会。

 突如目の前に現れたアフロディ。

 しかし源田は、彼から差し伸べられた手を取ろうとすることができないでいた。

 手が伸ばせない。腕が上がらない。

 

 それは警戒か。

 

 アフロディ率いる世宇子イレブンは源田自身を含めた帝国イレブンを蹂躙し、痛めつけた。

 黒幕は彼らに“真・神のアクア”を与えた影山だが、実際に仲間たちを傷つけた張本人であるのは間違いないのだ。

 源田が知っているのは、彼らが円堂たち雷門イレブンに敗北したところまで。

 突然現れた仇敵に、身構えているのか。

 

「……ボクが、許せないかい?」

 

 自分を見つめる源田の様子をそう捉えたアフロディは、穏やかな声音を崩さないまま問いかけた。それに対する答えはない。

 ただ静かにこちらを見つめる瞳へ、彼も真っ直ぐに視線を交わらせる。

 

「当然だね。ボクたちの行いは謝っても謝りきれない」

 

「違う!」

 

 しかし、否である。

 源田がアフロディを前にして抱いていたのは、警戒でも、憎しみや怒りなどという感情でもなかった。

 それは、強い光が差したときに光を受けたものが生み出す濃い影のような、神聖なものを前にしたような後ろめたさ。

 以前の試合では強大な力を振りかざしていた彼の、力への驕りと刺すような敵意とが混在した瞳に真っ向から向かい合えたのに、いまはそれらの消えた澄んだ瞳を直視することができなかった。

 

 心身の健全さが、美しさに現れている。

 あの戦いから心を入れ替え、真摯にサッカーと向き合い直してきたのだろう。

 

 ――それに比べ、己の体たらくは――

 

「俺は、お前に謝られるような男じゃない……」

 

 逃げるように、視線をアフロディの瞳から下げて弱々しく呟く源田。

 自分もまた、まんまと影山の口車に乗せられ、過ちを犯した身。かつての彼らと同じ穴の(むじな)だった。

 仲間たちならともかく、自らに謝罪(それ)を受け取る資格はないと。

 アフロディも、源田がここにいる経緯(いきさつ)()()()()()

 言わんとしていることは確かに伝わった。

 

 

「いいや。それは違うよ」

 

 

 それでもアフロディは、源田の手を取った。

 まだ泥の乾ききっていない汚れた手を、躊躇なく掴んで引っ張り上げる。

 そして、手を引かれた拍子に顔の上がった源田の、揺れる瞳と視線を交わらせて言う。

 

「人は変わることができる。もちろん、それは犯した過ちがなかったことになるわけではないけれど」

 

「逆もまた然りだ。キミが一度躓いてしまったからって、いままでの全てが消えるわけじゃない」

 

 その姿はさながら、迷える人間を導く神のようだった。

 

「キミだって、もう一度立ち上がれる。だからいま、キミにこそ。ボクたちの生まれ変わった姿を見て欲しいんだ」

 

 整った顔に浮かぶ微笑みと優しく握られた手。

 かつての傲慢さと冷酷さではなく、人間らしい温かさのあるそれらをはね除けることはできなかった。

 

「さあ、戻ろう。皆、キミを心配してる」

 

 

 

 アフロディと、彼に連れられて戻った源田の2人をまず出迎えたのは、

 

「お前らすっかりずぶ濡れになりやがって! 風邪引くぞ、2人ともまず身体洗ってこい!!」

 

 という、鬼瓦の出会い頭の怒声だった。

 謝罪を口にしようとした源田にも、アフロディにも、有無を言わせない気迫であった。

 源田は犬か何かのような勢いで洗われて泥汚れを落とされ、次いで雨で冷えた身体を温めろと浴場へと突っ込まれた。

 その浴場は、溝彫りの施された荘重(そうちょう)な柱が並んでいて、どこかの神殿を思わせる構造だった。

 

「……そういえば、ここはどこなんだ?」

 

 シャワーを浴びている最中、目覚めたときに抱き、混乱ですっかり失念していた疑問が思考の奥底から浮上した。

 あまり意識していなかったが、これらの建物の装飾には確かな統一性がある。

 とはいえ、こうしたデザインの病院に心当たりはない。

 口をついて出た問いかけは、特段誰に向けたでもない小さな呟きだったが、それを拾う者がこの場には1人だけいた。

 

「ここがどこなのか、わかってなかったのかい?」

 

 彼より先に浴場に居たアフロディだ。

 美しい長髪を纏めて優雅に湯船に浸かっている姿は、“サッカー少年”という概念の印象(イメージ)とは些か結び付け難い。

 そんなアフロディだが、源田の呟きに振り返って驚く姿には、以前とは違う人間らしさが垣間見える。

 

「いや、無理もないか。だけど、キミも知っている場所だよ。来るのは初めてだろうけどね」

 

 アフロディに言われて見て記憶を辿れば、戻ってくるときに見た外観、廊下、この浴場、それらとよく似た建物の姿が浮かび上がってくる。

 それは、今年のフットボールフロンティア、その決勝戦の舞台となったスタジアム――

 

「もしや、ここは――」

 

「そう。ようこそ、世宇子(ゼウス)中へ」

 

 ここは、大会中は謎に包まれていたアフロディたちの学校であった。

 

 

 

 

 

 雷門イレブンと世宇子イレブンの決戦の後。

 アフロディたちは“真・神のアクア”の禁断症状で苦しんでいるところを鬼瓦たち警察に保護され、それ以降は治療に努めていた。

 治療は順調に進み、アフロディなど一部の者は早くも再びサッカーができるまでに回復していたものの、そこである一報が入る。

 それは退院間近だった源田が病院から消えたという事件であった。次いで帝国イレブンのメンバーの2人も消えたことで、影山の暗躍を察知した鬼瓦はその魔の手が世宇子イレブンにも伸びる可能性を考慮し、彼らを1ヶ所に纏めるという保護と治療を兼ねた処置を執った。

 

 そこで使われたのが、選手たちの“真・神のアクア”によるドーピングというスキャンダルと、経営・運営に携わっていた人間たちの影山との後ろ暗い関係が明らかになったことで体制が崩壊し、事実上の機能停止に陥っていた世宇子中だった。

 扱いとしては休校中で、他の生徒や職員も居らず人の出入りが少なく済むため警備が容易で、子どもたちには合宿のような感覚で過ごさせることができるだろうという判断である。

 

 問題は、なぜそこに真・帝国で倒れた源田まで運ばれてきたのかだが――

 

「包み隠さずに言えば、人手不足だ」

 

 身体を洗い終え、新しい病衣に身を包んだ源田の問いに、響木はそう答えた。

 それというのも、エイリア学園の起こした問題はあまりにも多すぎるのだ。

 各地での学校の破壊活動はもちろん、一時は総理が誘拐される事態。そのうえ、真・帝国の一件では影山という犯罪者との繋がりが発覚した。

 彼らのもたらした被害への対応、再発防止のための総理の厳重な護衛、そしてエイリアの黒幕の捜査、いずれにしても大規模な人員を投じなければならないものだ。

 

「だが、鬼瓦の親父としてはお前にも警護の人員を付けておきたいとなってな。病院で治療中の佐久間と寺門(帝国のふたり)の保護で一ヶ所。世宇子中の警備で一ヶ所。大人の都合としては、ここでさらに人を割く場所を増やすのは避けたかった」

 

 そして、守る場所を増やせないならば、守るべきものを纏めておけばいい。

 

「なるほど、それで……」

 

「お前には世宇子(ここ)で療養してもらうことになったわけだ。影山の誘拐(ぜんれい)がある以上、病院に戻すのも危ないだろうってな」

 

 そこで響木は一度言葉を切り、源田に向き直って言った。

 

「ここまでは大人(おれたち)の都合なわけだが……お前は大丈夫か? 一時とはいえここで、()()と過ごすことに」

 

 サングラス越しでも感じられる視線に籠っているものは明白だった。

 アフロディたちと源田の関係は、言ってしまえば加害者と被害者である。

 響木としては彼らがかつての行いを悔い改めていることに疑いはないが、そんなことは彼らに傷つけられた者にはなんの関係もないことだ。

 

「彼らを受け入れられんのならば、俺から話をつけて別の方法を――」

 

 その響木の申し出に対して源田は、静かに首を横に振った。

 

「……いいのか?」

 

「お心遣いありがとうございます。しかし俺は、彼らを許す、許さないと偉そうに決められる人間じゃありません」

 

真・帝国(あれ)は影山が裏で糸を引いていたんだ。全ての罪はやつにある。お前が責任を背負い込むことじゃないだろう」

 

 真・帝国学園で起こった悲劇の原因は、それらを仕組んだ影山の悪意にある。

 元凶たるあの男に拐かされ、誑かされ、利用された立場である源田になんの責任もないと、響木は言葉を尽くそうとする。

 それに、源田は再び首を横に振った。

 なにもそうした罪の意識で、彼らに腫れ物のように関わるつもりではないと。

 

「ただ。アフロディの、彼らのサッカーへの向き合い方を、俺も見たいんです。俺の原点を見つけるために。もう一度立ち上がるために」

 

 響木の目の前の少年には、まだ弱々しさがあるものの、確かな意志が見て取れた。

 

「……そうか。目覚めてすぐにお前とアフロディが対面したのには、俺たちとしては不安があった。が、却ってよかったのかもしれんな」

 

 自罰的になって塞ぎ込んだりしないのならばいい。

 当人に強い意志があるのならば、何度だってサッカーは応えてくれる。

 師の教えと、それを体現しているその孫である教え子を思いながら、響木は胸にあった懸念を拭い去る。

 くれぐれも無茶はせず、当分は安静にするように、という忠告を残して世宇子中を後にした。

 

 

 

 それから数日後。

 

「さあ、みんな! しっかり声を出して!」

 

「はいっ!」

 

「おう!」

 

 夕陽に照らされるグラウンドには、回復したメンバーがアフロディに率いられ、特訓する世宇子イレブンの姿があった。

 過ちを乗り越え、再起しようとするキャプテンのアフロディを、ポセイドンやヘラといった3年生、デメテルなどの2年生の主力メンバーが盛り立てようとしていて、絶大な力を失ったものの、チームの雰囲気は悪くない。

 

 メニューの分の特訓を(こな)し、解散したメンバーが各々校舎に戻っていくのを、アフロディはグラウンド端のベンチに腰掛けて見届ける。 

 少しして、ベンチに人が歩いてくる。

 アフロディは近づいてきたその人物に振り返ると、既に特訓をした疲れを見せない、やる気に満ちた凛々しい表情(かお)を向ける。

 先の特訓は治療生活で落ちた体力を取り戻すための特訓。

 ここからは、もっと強くなるための個人練習なのだ。

 

「今日も、よろしく頼むよ。源田くん」

 

「……ああ。任せておけ」

 

 

 




源田幸次郎
心が折れかけだったが、アフロディに諭され踏み止まる。
再起へ向け、一時的に世宇子での療養生活となる。
本格的な立ち直りは次回。

アフロディ
人間になった神さま。
回復した仲間たちと、源田と特訓し、雷門イレブンへの加勢を目指す。
帰りは徒歩。

響木正剛
エイリア皇帝陛下()の捜査の傍ら、世宇子イレブンや帝国イレブンなどの影山被害者への慰問もしてる。
説明役。

鬼瓦源五郎
今回の展開の理由付けのため、色々奔走したことになったできる大人。
一刑事でできることかこれ……?
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