源王は玉座を譲らない   作:青牛

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前話で予告した通り、ここからしばらく雷門サイド、アツヤメインの話です。

今回は3日連続での更新となりますので、明日、明後日もお楽しみに。



エースの肩書は軽くない

 世宇子中で2人の少年が特訓を進めている頃。

 

 大阪の遊園地、ナニワランド地下の修練場。

 もう殆どの者が眠ろうという夜更けに、士郎はトレーニングルームを回っていた。

 それというのも、弟を探してのことだ。

 

「うおぉーー、ラァ!!」

 

「アツヤ!」

 

 そして幾つかの部屋を通りすぎた先で、丁度キーパーマシーンへ向かってシュートを打ち込んでいるアツヤの姿を見つけたのである。

 

「っ! ……んだ、兄貴かよ」

 

 アツヤはバツが悪そうに、ふて腐れたように、自分を呼ぶ声におざなりに応えた。

 士郎はそんな彼に、眉を寄せた顔で詰め寄っていく。

 

「こんな時間までなにやってるのさ。明日は出発で朝が早いんだから、もう戻って寝るよ」

 

 彼ら雷門イレブンは、理事長から送られた、円堂の祖父大介のノートが見つかったという情報により、福岡の陽花戸(よかと)中学へ向かうことになっていた。

 明日の朝には出発となる。

 今夜はもう寝ようという仲間たちが集まっている中で姿のなかったアツヤを、こうして呼びに来たというわけだ。

 

()だ。まだ戻らねえ」

 

 しかし、普段ならば素直に従っていたアツヤが、今回は首を横に振った。

 

「なに言ってるの。はやく――」

 

「戻らねえって言ってんだ! 兄貴は先寝てろよ!」

 

 言い募ろうとした士郎へ、アツヤは声を荒げた。

 アツヤは、情熱はあるものの短気でがさつで、それでも兄の士郎が真剣に言うことは素直に聞いていた。

 そんな弟の荒ぶる姿に士郎は思わず目を見開いた。

 言葉を失う兄に構わず、アツヤは捲し立てる。

 

「またイプシロンを倒せなかった! ()()()()()()()()()()()()! もう俺がシュートを決めなきゃならねえんだ、呑気に寝てられねえよ!!」

 

 彼の叫びで思い起こされるのは、先日この地下修練場で行われた彼ら雷門イレブンとイプシロンとの試合だ。

 真・帝国学園との試合を経た彼らはエイリアのアジトの情報から大阪へやって来て、地元の女子サッカーチーム“大阪ギャルズCCC”との一之瀬を巡った一悶着の末、ここにたどり着いた。

 雷門中のイナビカリ修練場とさえ比べ物にならない性能のトレーニングマシーンが揃ったこの修練場で、彼らはデザームの言い残した再戦の期日までの残り時間を過ごしたのである。

 

 そしてやって来た、運命の日。

 デザームは10日前に漫遊寺中で宣言した通り、10日後のまったく同じ時間に、イプシロンを率いて雷門イレブンの前に現れた。

 対する雷門イレブンも、トレーニングを経て体力・気力共に十分。

 否やはなく、すぐに試合の火蓋が切られた。

 

 試合開始直後から、10日前と現在の雷門イレブンの差、成長の程は歴然に現れていた。

 

ガニメデプロトン・改!

 

マジン・ザ・ハンド!

 

 彼らは、早々に放たれたゼルのシュートを円堂が止めてみせたのを皮切りに、以前の戦いでは文字通り圧倒されていたイプシロンを相手に渡り合っていく。

 少なくとも、ただの身体能力とチーム戦術だけで蹴散らされた漫遊寺中での試合とは別物だった。

 

『……クク、なるほど。10日も与えた甲斐があったというもの』

 

『澄まし顔も今のうちだぜ!』

 

『おいアツヤ! ……もういいよな監督!? 俺もいくぜ!』

 

 不敵に笑うデザームに戦意を旺盛にするアツヤ。

 互いに様子見、小手調べとなった試合序盤を過ぎて。

 リベンジに燃えていた雷門のストライカー陣と、イプシロンのリーダー・デザームとの激しい攻防が幕を開けた。

 

エターナルブリザード・V2!』

 

『そうだ、このときを待っていたぞ……! ワームホール・V2!』

 

 以前は身一つで止めたアツヤのシュートを、必殺技を使って止めたデザーム。

 

ワイバーンクラッシュ・V2!』

 

『ハハハハ! 今日はお前たちでフルコースを味わわせてもらうとしよう!』

 

 さらに染岡も参戦し、修練場での日々で進化したシュートが幾度もイプシロンのゴール目掛けて飛んだ。

 デザームはそれらを高笑いを上げながら迎え撃つ。

 その守りは鉄壁に思われたが、猛攻の末、ついに綻びを見せた。

 

『いくぜ! ワイバーン――

 

『――ブリザード!!』

 

ワームホール・V2! ――むぅ?!』

 

 特訓中に2人の編み出した合体技“ワイバーンブリザード”が、デザームの必殺技を打ち破ったのだ。

 初めてイプシロンのゴールネットが揺れ、雷門の得点となる。

 それによって雷門イレブンは大いに士気を上げたが、その勢いはデザームに更なる力を見せつけられて止まることになった。

 

『ここまで強くなるとはな……ならば、私も応えよう……!』

 

 

 

 ――ドリルスマッシャー!!

 

 それは、これまで見せていた必殺技さえ比較にならない、圧倒的な力の塊だった。

 

『なん……だと……』

 

 大きな壁を越えたと思ったところに、すぐまた立ちはだかる新たな壁。

 アツヤの自信、これまでのアイデンティティが揺らいでいく。

 だが、本当の絶望はその後だった。

 

『ぐっ……うぅ……!』

 

『染岡!?』

 

『監督、染岡くんが!』

 

 それまで果敢にシュートを放っていた染岡が突然崩れ落ち、足を抑えて倒れ込んだのだ。

 瞳子が試合を止めて確認すれば、彼の右足――真・帝国との試合の最後で“皇帝ペンギン1号”を受けた足が、真っ赤に腫れ上がっていた。

 彼は木野の手当てを受けた後、それで大丈夫だと言って本格的な治療を拒んでいた。

 なまじその後の練習・試合でもその負傷をおくびにも出さなかったものだから、皆気づいていなかったが、ダメージは深く、容態は静かに、静かに悪化の一途を辿っていたのである。

 そしてイプシロンとの激しい試合の中で、ついに決壊してしまった。

 

『……あなたはもう試合には出せません』

 

『そんな、待ってくれ監督! 俺は大丈夫だ、まだ試合はこれからじゃねえか!』

 

『できるわけがないでしょう! その怪我……数日休んだくらいで治るものじゃない。そんな状態で、エイリア学園(彼ら)との戦いに出すことなんてできないわ』

 

 瞳子の判断で染岡は交代させられ、後半からはこの土地で加わった浦部(うらべ)リカが彼の抜けたポジションについたが、アツヤとの連携を熟せるFWが抜けたという穴は大きかった。

 

『どうした、動揺しているぞ? もっと、魂を滾らせて打ってこい!』

 

『くっそォ……!』

 

 “ワイバーンブリザード”を失い、アツヤの“エターナルブリザード”ではデザームの“ドリルスマッシャー”の突破は叶わない。

 他に望みがあるとすれば士郎との“ウルフレジェンド”だったが、イプシロンとの拮抗は薄氷のような危ういバランスで成り立っている。

 風丸と並んでDF陣の主力となっている彼を、迂闊に動かすことはできなかった。

 互いに行き詰まったまま、ずるずると時間だけが過ぎていく。

 

『……終盤は些か消化不良だったが、なかなかに楽しませてもらったぞ。吹雪アツヤ、次は貴様があの男の分まで魅せることだ』

 

 ――さもなくば、貴様の後ろにいる仲間を破壊し尽くすことになる。

 

 試合終了とともに、デザームはそう言い放って姿を消した。

 残された結果は1ー1の同点、引き分けである。

 確かな特訓の成果が発揮された試合ではあったが、彼らにそれを喜ぶことはできなかった。

 

「俺が点を取れねえと『完璧』じゃねえ……! 点を取れなくちゃデザームには勝てねえ……!」

 

 とりわけアツヤは、真・帝国学園で聞いた寺門の叫びが脳裏に浮かび、頭から離れなくなった。

 

ストライカー(俺たち)は、どんなときでもシュートを決めなきゃならねえ!』

 

『たとえ他の誰がシュートを止められたとしても、エースだけは点をもぎ取らなきゃいけねえんだ!』

 

 そうして積み重なった焦燥感に突き動かされ、アツヤは寝る間も惜しんで特訓をしようとしていたのである。

 

「気負い過ぎちゃダメだよアツヤ。焦っても簡単に強くなれたりしない。皆で、一緒に強くなるんだ」

 

「でも! 俺、託されたんだよ!」

 

 諌める士郎の言葉に、アツヤは(かぶり)を振る。

 涙を湛える瞳を揺らしながら兄を見つめるその姿は、彼がまだ中学生になって半年も経たない、壁山や栗松らと同じ1年生なのだという事実を思い起こさせた。

 

「染岡に、雷門のストライカーを頼むって」

 

 試合後、染岡は正式にチームを外れることになった。

 長く雷門の主力を担ってきたストライカーの離脱にはチームの仲間たちも抵抗があり、風丸などは強く反発したが、彼の怪我という現実は変わらない。

 最後には自ら離脱を受け入れた彼は、別れ際にアツヤへこう言い残したのである。

 

『雷門のストライカー、任せたぜ』

 

 笑って、すぐに戻ってみせるという言葉を添えて去っていった染岡だったが、それが叶わないのは明らかだった。

 

「……俺。試合で初めて、シュートを外すのが怖えって思ったんだ」

 

 それは、アツヤが今まで感じたことのなかったものだった。

 

 エイリア学園の事件が起こるまで、彼に源田(ただ1人の宿敵)以外の敗北を知らなかった。

 

 チームのエースとしてフィールドに立つということの本当の意味を知らなかった。

 

 人類の命運を背負うという、あまりにも巨大な責任の重圧を知らなかった。

 

 事件以前ならば、背中を預ける(士郎)こそが唯一無二の拠り所だった。

 そして、先日までは共にエイリアに立ち向かう染岡がいた。

 

 しかし染岡はいなくなった。

 兄も、自分が勝てない相手にすぐ助けに来られるような状況ではない。

 

「でも、俺がやらなきゃ。いまは俺が、雷門のストライカーだから……!」

 

 自分(ひとり)で、やらなければならないのだ。

 そんな悲壮な決意を固める弟に対し、士郎はなんと言葉をかけたらいいのかわからなかった。

 

「……じゃあ、僕も練習に付き合うよ。あと10分だけね。そしたらちゃんと寝ること」

 

「わかったよ……」

 

 せめて、練習で無茶をしたりしないように目を光らせておくことぐらいしか思いつかなかった。

 

 

 

 

 

 エイリア学園に纏わる世間の喧騒から縁遠い屋敷の一室。

 そこに、敷かれた座布団に座る大仏のような風貌の男と、その人物にひれ伏す痩躯の男がいた。

 

「源田幸次郎の行方は掴めませんか」

 

「はっ、申し訳ございません。影山の手による誘拐からか、警察も警戒を強めているようで」

 

「……致し方ないでしょう。例の“神のアクア”に対抗した身体能力、データが取れれば“ハイソルジャー”にも活かせたかもしれませんが……所詮、計画としては横道です」

 

「……かしこまりました、旦那様」

 

 痩躯の男は、旦那様と呼んだ男に恭しく礼をして部屋を後にする。

 振る舞いは洗練されており、まさしく忠臣といった風情があったが、それは襖を完全に閉じ切るまでだった。

 

(……クソッ! あっさり諦めるとは、節穴め!)

 

 舌打ちは抑えたものの、男――研崎(けんざき)竜一(りゅういち)は躊躇なく、まだ襖の向こうにいる主人への悪態を頭の中で吐き捨てる。

 

 そもそもやり方が非効率的なのだ。

 エイリア石を身につけた人間との特訓で鍛え上げた人間を兵士にするなど。

 そんな手間と時間ばかりかかることをせずとも、エイリア石のエナジーを高めて与えれば、それだけであっという間に超人の兵士が出来上がるというのに。

 無論、もともと強い人間を操り人形にしてエイリア石を与えたならば、なおのこと。

 

(だがまあ、そもそもあの男とは目的が違うのだ。それに、もとを正せば……影山! あの男のせいだ!)

 

 自分が手を回して病院からあの子どもを拐うことができていれば、それで終わりだったのだ。

 それを影山が横から掻っ攫ったうえ、奪い取ろうと送った人員も影山が意図的に洩らしたとしか思えない情報で誘き寄せた帝国学園に邪魔され、まんまと取り逃がした。

 失敗を悟ってももはや後の祭り。

 魚が大きいことなどわかっていたのに、手の届かない水底へと逃げられてしまった。

 

 まるで自分の心を見透かしていたかのように、的確に邪魔だけしていったのは許しがたいが当人は既に海に消えた。

 もういない者への恨み言を吐いても仕方がない。

 

 それに遠回りになるが、“ハイソルジャー”を仕上げてからでも手に入れるのは遅くないし、その方が邪魔者も排除済みでどうとでもなる。

 自分の計画にはなにも問題はない。

 

 そう自らに言い聞かせ、沸き上がる怒りを静めた研崎は不敵な笑みを取り戻す。

 

(雷門中もエイリア学園も、勝手に遊んでいるがいい。エイリア石は私のものだ。この力で世界を手にするのはこの私だ!)

 

 エイリア石の力で全てを操ることを目論む研崎だったが、その彼自身がエイリア石の虜になっているかのようだった。

 




吹雪アツヤ
小学生時代の源田以外に敗北はなく、中学生になっても予選大会で敵になる相手はいなかった。
緊迫した試合の空気を知らずに人類の命運を背負わされて宇宙人()とサッカーをする。
染岡という相棒の喪失を切っ掛けに、そんな状況のプレッシャーが背中へ遅れてやってきた。
豪炎寺にも比肩する天才ストライカーだが、まだ中学1年生である。

吹雪士郎
お兄ちゃんだが、本職DFなのでFW、エースとしての重圧を完全には共有してあげられない。

染岡くんならなんて言ったかな。

デザーム
染岡も気に入っていたので、試合途中で離脱したのは結構残念だった。
まだ変身(ポジションチェンジ)を残している。

研崎竜一
影山ァーー!
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