源王は玉座を譲らない   作:青牛

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2日前から2話続けて更新しており、今話は3話目となります。

まだ見ておられない方は2話前からご覧ください。


焦りは成果をもたらさない

 船旅を終えて沖縄に到着した雷門イレブン。

 

「あっちーーー……あっっっっっぢーーー……」

 

「アツヤくん、船からずっとそんな調子ね。ちゃんとこまめに水分取らなくちゃダメよ?」

 

 船に乗るまで沖縄に興味津々だったアツヤは活発さが見る影もなく、南国の暑さですっかりグロッキーになっていた。

 滝のような汗を流しながら力なく歩く彼に、音無が冷えたドリンクを渡しながら言う。

 何度叱っても懲りずにイタズラを繰り返す木暮との攻防戦から、彼女も親のような振る舞いが板についてきている風だった。

 

「あはは、北海道じゃこんな暑さはまずないからね」

 

「雪国育ちじゃなくても十分暑いっスよ~……あっ、士郎さんの近く涼しいっスね」

 

 そう言って笑う、同じ雪国育ちの筈の士郎は(アツヤ)と違って暑さが(こた)えているようには見えない。1歳の差とはそこまで大きいものなのか。

 アツヤに次ぐ勢いで汗を流して暑がる壁山は、士郎から微かに漂う冷気を感じて引っ付いたが、暑苦しいとニッコリ断られた。

 そんな和気藹々としたやり取りを繰り広げるのもそこそこに、彼らはここへやって来た本題に入る。

 

 彼らが探しに来たのは、豪炎寺と目される“炎のストライカー”。

 本当に豪炎寺その人かはまだ不明だが、円堂をはじめとした仲間たちはそう信じている。

 とはいえ有力な情報はなく、足を使った聞き込みしかないという円堂の号令の下、雷門イレブンは数人で分かれて情報収集へと回った。

 

「行こっダーリン! ウチ、着くまでにいろいろチェックしとってん!」

 

「ええっ、ちょ、土門!」

 

「行ってこい、ダーリン」

 

「どもォーーーーん!」

 

「アホらし」

 

 完全に観光気分ではしゃいでいる者も見られたが。

 リカに引きずられていく一之瀬を潔く見捨てた土門と吹雪兄弟の3人は、燦々と降り注ぐ陽の下で“炎のストライカー”の捜索を進めていく。

 

「豪炎寺くんだといいね、噂の“炎のストライカー”」

 

「ああ。俺も久しぶりに会いたいぜ」

 

 彼がチームを去ったのも、いまでは随分昔に思えた。

 それだけに、ここで戻ってきてくれるかもしれないという期待は膨らんでいく。

 

「豪炎寺……」

 

 染岡もよく豪炎寺の話をしていたと、アツヤは彼のありし日を思い起こした。

 雷門のピンチを救ったエースストライカー。

 いまもまた、チームに駆けつけてくれたのならばさぞ頼もしいことだろう。

 

 以前の自分ならば、戻ってきてもエースの座は渡さない、とでも息巻いていたかもしれない。

 染岡が、彼の居場所を守ろうと出会ったばかりの自分たちに噛みついたように。

 しかしいまのアツヤにはどこかで、この重荷を渡せるのなら、と思う自分の存在が否めなかった。

 

(……くそっ、弱気になるな!)

 

 それを恥じ、誤魔化すようにタオルで汗を拭う。

 

「あんたらそのジャージ、雷門中だよな?」

 

 その背中に声がかかった。

 アツヤ、そして士郎と土門も振り返る。

 自信に満ちた声の主は、サッカーボールを小脇に抱えて佇む、燃え盛る炎のような赤髪の少年であった。

 

「なんだァ? お前……」

 

「アツヤ。いきなり失礼でしょ。……それで、僕たちになにか用かな?」

 

「おう。あの雷門中が俺を探してるって聞いてな」

 

「なに言ってんだ?」

 

 すっかり“炎のストライカー”を豪炎寺と思っていた土門が首を傾げるが、少年の自信に満ちた表情は変わらない。

 

「俺、南雲(なぐも)晴矢(はるや)。あんたらの探してる“炎のストライカー”ってのは多分、俺のことだぜ」

 

「なんだって!?」

 

 少年――南雲の明かした衝撃の真実に、土門が思わず声を上げた。

 その反応に満足げな笑みを見せた南雲は続けて言う。

 

「証拠代わりに見せてやるよ。俺のシュートを!」

 

 瞬間、沖縄の暑さをも塗りつぶす紅蓮がその場を包んだ。

 

アトミックフレア!!」

 

 南雲が放ったのは、高く飛び上がってのオーバーヘッドシュート。

 彼のキックを受けたボールは小さな太陽のようになって、紅蓮の炎の尾を引きながら飛んでいった。

 “炎のストライカー”と呼ばれるのも得心がいくというもの。

 

「すげえじゃねえか!」

 

 それを見て土門は惜しみない賛辞を贈る。

 街中だったこともあり加減していたのか、飛距離はそこまで延びずに火が消えたボールは地上へ落下したが、秘められた威力の程を感じられないほど彼らの眼も節穴ではなかった。

 噂のストライカーが豪炎寺でなかったことは残念であるが、どうあれそれに勝るとも劣らない収穫だ。

 

「どうだ?」

 

「ああ! 早速皆に紹介するよ。ついてきてくれ」

 

「おうよ、願ったり叶ったりだ」

 

 こんなにも早く目的の人物が見つかり、しかも凄まじい実力の持ち主だとわかって興奮気味の土門が、集合場所の方向を指しながら言う。

 そんな土門を先頭に歩き出した一行だが、一瞬南雲は足を止めてアツヤに目を向けた。

 

「お前も知ってるぜ、吹雪アツヤ。宇宙人相手によく頑張ってるってな」

 

「……なんだよ」

 

「いやぁ、これからよろしく頼むぜ。現・エースくんよ」

 

 その観察するような目付きにアツヤはやや眉を寄せて応対したが、それに南雲ははぐらかすように笑ってまた土門の後を追う。

 

(……エースか)

 

 現状の雷門の一番強力な(エース)ストライカーといえば、まず自分(アツヤ)だろうというのは、自惚れでもなくチームの誰もが認識している事実だ。

 だが、南雲は明らかにその自分よりも強い。

 彼の最後の呼び方も、()()()()()()なのだろう。

 戦力の強化は間違いなく喜ばしいものである。しかし、チームを去る仲間(そめおか)を見てしまった自分では、それを手放しに喜べない。

 如何(いかん)ともしがたい矛盾だ。

 重みを感じ出したその座を渡してしまえば、いよいよ自分がここにいる意味を失われてしまうのだから。

 

「アツヤ」

 

「兄貴……」

 

「アツヤはアツヤだ。自分のサッカーをしなよ。……行こう」

 

 士郎に促されて土門と南雲の後を追う。

 しかしアツヤには、自分のサッカーがなんなのかも、もうよくわからなかった。

 

 

 

 その後の展開は衝撃の連続だった。

 

 集合した雷門イレブンの前に連れられて来た南雲が、自分の実力テストと題して雷門イレブンに1人で挑み、自信があると豪語した通りに全員を突破してしまったことなど序の口。

 彼が正式にチームに加わるかと思われたが、瞳子の質問と、そこに現れた新たな人物の言葉で空気が変わる。

 

 現れたグランが南雲をエイリア学園と呼び、彼もその正体を明かしたのだ。

 燃えるような赤を基調としたユニフォームに身を包んだ姿。

 自らを、“プロミネンス”のキャプテンを務めるバーンであると。

 

 結局、グランとバーンは雷門イレブンを他所に、真っ向からいがみ合うようなやり取りを繰り広げながら姿を消したのだった。

 

 ジェネシスに続き、彼らと同格のチームの存在が明らかになって、更なる動揺が雷門イレブンに走ったのは言うまでもない。

 当然、アツヤもその例に漏れず。

 

 それから、彼は特訓に次ぐ特訓に明け暮れた。

 

 沖縄への途上で出会ったサーファーの綱海(つなみ)条介(じょうすけ)と再会し、実は現地の学校大海原(おおみはら)中のメンバーだったという彼の頼みで(おこな)った大海原中サッカー部との練習試合。

 何度か点を取ったものの、その程度で満足できはしない。

 

 今度こそ必殺技の完成を。

 その一心で、彼はもてる時間の全てを特訓に注ぎ込む。

 浜で。森で。駆け回り、汗をだくだくと流しながら。

 

「うおぉーーー! ウルフレジェンド!」

 

 ボールへの、狼の爪のような鋭いキック。

 それを瞬時に幾つも叩き込むことがこの必殺技の極意だったが、やはり足りない。

 

「……くそっ」

 

 全身から吹き出す汗を拭くのも忘れてぼやく。

 もともとは士郎との二人がかりの工程。これを1人で熟そうとすれば、士郎の分までキックを、それだけ素早く叩き込まなければならない。それはスピードに優れるアツヤであっても困難なことだった。

 

「アツヤ! 休憩はちゃんとしたの!?」

 

「…………」

 

 うちひしがれる背中に、兄からの声がかかる。

 アツヤは振り返ったが言葉の意味を理解してから黙り込み、ばつが悪そうに目を逸らす。

 そんな様子を見て、士郎は厳しい表情になって詰め寄る。

 

「焦りすぎだよ。……やっぱり2人でやろう。“ウルフレジェンド”なら、きっとデザームも倒せる」

 

 無理に1人でやろうとせず、いままで通りにやろうと説く士郎。

 それにアツヤは頑として頷かない。

 

「兄貴だって見ただろ? バーンのやつのシュート」

 

「それは……」

 

 確かに、2人で放つ“ウルフレジェンド”ならばデザームを打ち破る可能性はある。

 むしろ彼からゴールを奪うということだけを求めるならばそちらの方が確実かもしれない。

 しかしそれでは駄目だとアツヤは語るのだ。

 

「ジェネシスにプロミネンス、この2つだけでもとんでもなく強いやつらだ。デザームに勝つのにも兄貴の力借りてたら、あいつらには勝ち目がねえ!」

 

 ジェネシスとプロミネンスに加え、まだいるかもしれないエイリア学園のチーム。彼らを倒すのなど、イプシロン相手にこの“ウルフレジェンド”を完成させるぐらいしなければ夢のまた夢だと。

 言い分は一応わからないでもない。

 しかし士郎には、彼を突き動かしているのはそんな理屈だけではないだろうことの察しがついていた。

 このままではアツヤにかかる負担が多すぎる。もうこれ以上見ていられない。

 

 そうして滅多にない、兄弟の激しい口論になったが、どちらも退かず話は平行線で終わってしまう。

 

 彼が思い詰めてしまっているのは明白だ。

 この調子では遠からず心身に限界が訪れてしまう。そんな予感がしてならないが、どうすればいいのかわからなかった。

 

「……染岡くん」

 

 彼がまだここにいてくれたなら、アツヤに自分とは違う言葉をかけられたのだろうか。

 考えても詮ないことばかりが頭の中を廻る。

 その間にもアツヤは特訓を続け、時間は過ぎていった。

 

 ついに根本的な解決策が浮かぶことのないまま、運命の日は訪れる。

 

「時は来た! パワーアップした我々“イプシロン・改”が、貴様ら雷門に勝負を挑む!」

 

 円堂が綱海との特訓を経て“正義の鉄拳”を完成させたその矢先、鮮血の如き禍々しい眼光を放つデザームたち、イプシロン・改が現れたのだ。

 

「デザーム……!」

 

「ククク……吹雪アツヤ、どれほどレベルアップしたか見せてもらうぞ」

 

「……お望み通り、やってやるよ」

 

 向かい合った宿敵から逃げる選択肢などアツヤにはなかった。

 緊張も不安も闘志の吹雪で凍りつかせて、彼は役目(エース)を全うしようとフィールドに立つ。

 

 

 




吹雪アツヤ
バーンという新たな敵の登場で更に焦りが加速する。
全部凍りつかせたメンタル、あとは砕けるだけ。

バーン
自分の潜入を邪魔したグランに、「騙されちゃダメだ」とかどの口で言ってるのかと不満。


次回はイプシロン・改戦。ようやく明るくなる兆しです。
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