源王は玉座を譲らない 作:青牛
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今回は切りどころの関係でいつもより若干長めです。
沖縄にて雷門イレブンの前に現れ、勝負を仕掛けてきたイプシロン・改。
勝負を受けなければこの一帯の学校を破壊して回るという宣言もあっては引き下がれない。
北海道から始まり、京都、大阪、そしてこの沖縄まで続いた彼らとの戦い。
今回こそ決着を着けるという意気込みで、雷門イレブンは試合に臨んだ。
雷門中と
「通さへん!」
イプシロン・改のキックオフで始まった試合。
攻め上がる彼らを止めようと先陣を切ったのはリカだったが、素早いワンツーパスで
僅かなその一連の動きだけで、雷門イレブンに彼らのパワーアップしたという言葉が
「させねェよ!」
しかし無論、パワーアップしてきたのはイプシロン・改だけではなかった。
横合いから現れたアツヤが、迅速なドリブルで駆けるメトロンから一瞬でボールを奪ったのだ。
「なっ!」
「やるじゃねえかアイツ!」
この試合で加わった綱海がその鮮やかな手際に感嘆の声をあげた。
開始早々に攻守が交代し、他のメンバーもイプシロンサイドへ攻め上がる。
デザームは、そうでなくては面白くないとばかりに口元を愉悦に歪め、恋人との待ち合わせのように、迫るストライカーをウズウズとしながら待ち受ける。
「アステロイドベルト・改! ――なにっ」
「
立ち塞がった、否、立ち塞がろうとしたイプシロン・改の面々もものの数ではないようにかわして、アツヤはあっという間にペナルティエリアに侵入した。
「調子に乗りやがって……!」
「いや、打たせろ。さあ、あれからどれ程成長したのか味見といこうか……!」
それに対して動こうとしたDF陣もデザームが制し、彼は赤く爛々と輝く両の瞳でアツヤを見据えて静かに気を高める。
これまで数え切れないほど繰り広げられた一騎打ちの形だった。
「来るがいい。魅せてみろ!」
「喰らいやがれ、エターナルブリザード・V3!!」
結局“ウルフレジェンド”は、実戦投入できる段階には至らなかった。
しかし、代わりに常夏の熱気を打ち払うような冷気を纏って打ち出したそのシュートは、沖縄での特訓の日々で確かに進化していた。
「やつのシュート、さらに強くなっている!?」
「フフフ、フハハハハ! いいぞ、吹雪アツヤ!! この
――ドリルスマッシャー!!!」
デザームはけだもののような笑みと共に、掲げた右手に巨大な鋼鉄の
ナニワ地下修練場の試合で見せた、“ワームホール”を上回る彼の奥の手である。
高速回転する鋭い槍のような先端が冷気の渦を帯びたボールを真正面から捉えて激突し、激しく火花を散らす。
「ヌゥゥ、ォォオオオ……ふ、ハハハハ!!」
「いっけェェェ!!」
せめぎ合うボールとドリル。
だが、長い拮抗の末、ボールが弾かれる決着となった。
「なに……!?」
「クク、期待通りだ。実に滾ったぞ。……さあ、試合は始まったばかりだ。まだまだ打ってこい。次は決まるかもしれんぞ!」
歯噛みするアツヤをそう煽り立てながら、デザームは手にしたボールをチームメイトへ投げ渡す。
開始早々の激しい一騎打ちから一拍置いて、改めてイプシロン・改の攻撃が始まった。
「お前遅い! マキュア止められない!」
「あっ……待て!」
マキュアが嘲笑いながら立向居を突破する。
追いかけようとするが、マキュアは彼を知ったことかと無視してパスを回した。
それを受け取ったメトロンは、フォローに回る塔子や土門を前に飛び上がり、必殺技を浴びせかける。
「メテオシャワー・V2!」
降り注ぐ隕石が塔子らを行動不能にして、その間にメトロンは更に攻め上がった。
そして彼の他の二人のFWであるマキュア、ゼルも合流し、三人がかりで円堂の守るゴールを狙う。
放つのは、以前の試合でも彼から点を奪った必殺技。
『ガイアブレイク・改!!!』
三人の気で現れた岩石がボールを包み、パワーの込められたそれを放つシュート。
岩石が砕け散った中から飛び出したボールは、凝縮された力をそのままに円堂へ迫る。
迎え撃つ円堂が見せるのは、この数日の特訓で習得した究極奥義だ。
サーフィン仕込みの、腰が入った力強い構え。
捻りながら突き出された拳は、そのまま回転して飛び出す拳を具現化させた。
「正義の鉄拳!!」
究極奥義はその名に恥じぬ威力で、危うげなく“ガイアブレイク”を吹き飛ばす。
「なに!?」
以前は点を奪えた必殺技があっけなく防がれたことにゼルが思わず声をあげるが、後方で眺めているデザームの笑みは崩れない。
彼のポジションはGKであるにもかかわらず、まるで自分が挑むのが楽しみだとでも言うように。
「円堂に負けちゃいられねえぞ!」
「ああ!」
それからもイプシロン・改は攻撃を仕掛けたが、円堂の活躍に士気を上げた雷門イレブンによって悉く阻まれる結果に終わった。
ボールを奪い取り、雷門イレブンが敵陣に切り込んでシュートを放つ。
「ローズスプラッシュ・V2!」
リカの蹴ったボールが、薔薇の花びらを噴水のように撒き散らしながらゴールへ向かった。
しかし、彼らの勢いはそこで止まることになる。
「ワームホール・V2」
幾度となく雷門の勝利の最後の壁となったデザームは、今度もリカのシュートを容易く止めてしまった。
彼女のシュートは物足りなかったと言いたげな様子を隠そうともせず、デザームは拾ったボールを持ったままアツヤに目を向ける。
「……やはりお前だ。お前が打ってこい! もう一度だ!」
そう叫ぶとデザームは、アツヤ目掛けてボールを蹴り飛ばした。
風を切りながら転がってきたその挑戦状をアツヤは見もせずに足で受け止め、力で地面に押さえつける。視線は、デザームと交わらせたままで。
「アツヤ、奴のペースに呑まれるな。お前はお前のプレーをするんだ!」
「ああ、わかってるさ」
危うさを感じる佇まいの彼に、冷静さを失うなと鬼道が声をかける。
だが、返事とは裏腹に、その言葉は届いているのかいないのか。
「いつも通り、点を取る! それが
アツヤはそう言い残して駆け出してしまった。
そのまま彼は止めようとするファドラ、ケイソン、イプシロン・改のディフェンスを次々にドリブルで抜き去り、瞬く間にデザームの前に立つ。
「エターナルブリザード・V3ィ!!」
そして再び自慢のシュートを打ち放った。
今度こそは、デザームの必殺技を破って点を奪ってみせようと。
肌を刺す冷たい風を心地よさげに味わいながら、デザームは再び右手を高く掲げた。
「ドリルスマッシャー!!!」
渦の回転に真っ向から反する回転で、ドリルが冷気の嵐の中心へ突き出される。
凍えるような暴風が手足を蝕み、しかしドリルの高速回転の生み出す熱でそれに持ち堪える。
僅かにでも気を抜けば、すぐにでもドリル諸共に氷に包まれて砕け散るであろう絶体絶命の瀬戸際。その緊張感から伝わってくる悦楽にデザームは口の端を吊り上げ、高らかに笑う。
「フハハハハハハハハ!!」
(なんで、笑ってられる……!)
その様に、アツヤはそう思わずにはいられなかった。
彼はこの戦いに身を投じてから、サッカーをしていて屈託なく笑えた覚えがない。
反対に、デザームは常に笑っている。一歩間違えれば確実に失点に繋がる駆け引きの中で彼は、荒々しくも純粋な情熱を見せつけている。
そんな心の内の惑いがシュートにも影響を及ぼしたのか。
拮抗の時間は先ほどよりも短く、ボールは再びデザームの手に収まった。
「フム……」
「くそっ、俺にボールを回せ! 次こそ決めてやる!」
アツヤの意識が試合に戻ったのは、デザームがボールをスオームに投げた瞬間だった。
心の中の負の感情が溶け出しそうになるのを抑えて叫び、イプシロン・改の運ぶボールを追って駆け戻る。
そこから試合はヒートアップしていき、絶え間なくボールが行き交うようになっていく。
「フレイムダンス・改!」
「ぐぁっ!」
一之瀬が炎を操る舞いでゼルからボールを奪えば、
「アステロイドベルト・改!」
「くっ……うわぁ!」
ケイソンが展開した小惑星帯の如き岩石群が、立向居の行く手を阻む。
取っては奪い、奪っては取られの繰り返し。
そのなかでフィールドを縦横無尽に駆け回り、最もボールに触れたのはアツヤだった。
(アツヤ……)
彼の様子は、士郎に幼少期を思い出させた。
現在のような二人のコンビ戦術が固まるより前。アツヤはFWでありながら、ポジションに囚われずディフェンスにも思い切り参加していたのだ。
その結果、却って士郎やチームのディフェンスの邪魔になることもしばしばだったので、当人は“サッカーは自由に、楽しくやればいい”と言っていたものの、成長してチームの形が確立したこと、オフェンス・ディフェンスの全てで働くのは難しいという現実から、鳴りを潜めていったプレースタイルだった。
彼はいま、その頃に戻ったかのようなプレーを見せているが、その心の内は当時とはまるで違う。
ボールを持つその度に、一人ゴールへ駆け込んでデザームへぶつかっていく。
「エターナルブリザード・V3ィィ!」
「ドリルスマッシャーァァァ!!」
繰り返される激突。
普通の試合でもそう見られないシュート回数、しかしそれを防ぎ続けているデザームにはまるで疲れが見えない。
事実、ここまでの攻防でも彼は一切ゴールを許していないのだ。
「悪くはないが、これだけ食らい続ければ食傷してしまうというものだ。……味付けを変えてみようか」
七度目のシュートを止めたところで、デザームはそう呟きながらボールを投げる。
それを受け止めたのは、アツヤではなく、士郎であった。
「知っているぞ。お前たち兄弟が真・帝国学園で放った必殺技を!」
「!」
「かのキング・オブ・ゴールキーパーから点を奪ったシュート。出し惜しみなどするな」
私が止めてやるのだから。
そう言外に笑うデザームを睨みつけるアツヤの傍に、士郎がボールと共に歩み寄った。
互いに点を取れていない以上、先制点は重要だ。
ここまで来て、打てる手を打たないわけにはいかない。
「いくよ、アツヤ。いいね?」
「……ああ」
兄の言葉に、今度はアツヤも重々しく、無念さを滲ませて俯き加減になりながらも頷いた。
それを確認してから、二人は息を合わせて駆け出した。
徐々にスピードを上げていき、気を高めていく。
「うおォーー!」
「っらァ!」
『ウルフ――』
狼の爪のような鋭いキックを、ボールを切り裂かんばかりに打ち込む二人。
ボールの限界寸前まで打ち込んだ末に、遠吠えのように吠えてそれを放った。
『――レジェンドォォーー!!』
シュートの距離に過不足はなく、威力のほぼ100%を保ったままゴールへ到達するだろう。
これこそが、現在の雷門イレブンの最大火力。
まさに待ち望んでいた勝負に、デザームは凶悪な笑みを深めて気を放つ。
「ドリルスマッシャーァァァ!!」
吠え猛る狼の牙を微塵に粉砕せんと、高速回転するドリルが突き出された。
その余波は、誰もが固唾を飲んで見守ることしかできないほどに激しい。
「いけェェェーーー!」
喉が張り裂けんばかりの声量で、アツヤが叫ぶ。
これが通じなければ、もう後がない。
必ずこれで突破してみせようとその一心で、少しでもその声がボールに力を与えてくれないかという思いで声を張り上げる。
「ムゥゥゥオォォォォ!!」
その思いが通じたのか。
デザームの操るドリルの回転がだんだんと鈍っていき、ぎりぎりという擦れ合うような耳障りな金属音を鳴らしながら、やがて完全に動きを停止する。
「なに……!?」
そこからは一瞬だった。
回転を止めた鉄の塊はあっさりと狼の牙に噛み砕かれて、ボールがゴールネットへ突き刺さったのだった。
「よし!」
後方から見守っていた円堂が、ガッツポーズを決める。
他の皆も、彼と同じ気持ちだった。
この緊迫した試合における先制点、それを自分たちが勝ち取ったのだから。
「デザーム様!?」
イプシロン・改では、奥の手を破られたチームのリーダーの姿にゼルや他のチームメイトたちが、その名を呼び掛けながら彼の下へ駆け寄っていく。
しかし、微かに敗北のイメージが脳裏に現れ出したのが表情に滲み出ている彼らに比べ、デザームは未だに不敵な笑みが崩れていない。
「……狼狽えるな。取られた分は取り返す」
それだけ言って、デザームは彼らに
イプシロン・改の面々は困惑を抱えながらも命令に従って配置に着くが、再開のキックオフを経ても動揺は鎮まらなかった。
無論、雷門イレブンはその反対だ。
このまま追加点を取り、勝負の天秤をさらにこちらへ傾けるつもりで猛攻を仕掛けたのである。
その中心になったのもアツヤだった。
「オラァ!」
体格で上回られているファドラなどにも億さず体をぶつけて迫り、ボールを奪い取る。
照りつける日差しが、そんな彼から飛び散る汗の雫をキラキラと眩しく見せていた。
(このまま勝負を決めてやる!)
自力のみで破ることができていれば最良だったが、それに拘って試合に負けてしまえば元も子もない。
兄の言葉に素直に頷いたのは、そんな彼なりの責任感によるもの。
しかし、士郎と走って再びゴールを狙うアツヤは気づいていない。
兄との協力を拒んでいたのは、そうして勝っても自分の力とは言えないから。
それは、兄と二人ならば
もし二人の必殺技も通じなかったら。
そんな可能性を、意識から排除していたことに。
『ウルフレジェンド!!』
遠吠えとともにゴールへ向かう巨狼。
それを待ち受けるデザームの口は、禍々しく弧を描く。
「そうだ……更なる成長に必要なのは、今のままでは打ち勝てぬ逆境……!」
デザームが、研ぎ澄ました気を放って顕現させたのは、いままでよりもサイズを増した
「ドリルスマッシャー――」
回転はより速く、鋭く。
そして自壊して砕け散らんとばかりに激しく。
「――V2ゥ!!!」
大気を巻き込んで渦巻く気流を生み出しながら、その先端がボールと激突した。
「なっ……」
アツヤが目を見開くが、不思議なことではない。
しかしそれは、彼らだけの特権というわけでもないのだから。
「……ハ、ハハハハハハ! 私のっ、勝ちだ……!」
ボールがデザームの手に収まるという決着が、そのことを雄弁に物語っていた。
「うそ……だろ……」
呆然として、立ち尽くすアツヤ。
その身体からは先ほどまで味わっていた暑さが嘘のように消えていき、背筋に氷が入ったかのような寒気に反転する。
「感謝するぞ、雷門イレブン。お前たちのお蔭で、私は更なる成長を遂げた」
「アツヤ!」
得意げに語るデザームを他所に、だらりと腕を下げて動かないアツヤへ士郎が声をかけるが反応はない。
いまのアツヤの耳には兄の声も届いていない。
彼の視線が向いているのは、デザームが握るボールのみ。
「さあ、もっと強く打ってこい! それが更なる成長を生み、更なる熱き勝負の糧となる!」
「……上等だ……!」
纏わりつく“もうダメだ”という諦めを振り払い、アツヤはデザームの投げようとするボールを受け止めるべく足を動かそうとした。
「――え」
そのとき、間の抜けた声を出したのは、アツヤ自身だった。
雷門イレブンの誰もが、目の前で起こった出来事で、思考に一瞬の空白を生む。
見守る全ての人間が、言葉を失って静寂を作る。
彼らの視線の先では、踏み出した足の膝がガクリと折れたアツヤが、前のめりに倒れ込んでいたのだった。
吹雪アツヤ
倒れた。
デザーム
必殺技を進化させた。
取られた点は自分で取り返すつもり。