源王は玉座を譲らない 作:青牛
「アツヤ!?」
アツヤは最初、自分が倒れたのだということすら認識できていなかった。
突然低くなった目線。霞む視界。自分の名を呼ぶ声は、頭蓋で反響して何重にもなって聞こえてくる。
明らかな身体の異常だが、彼は精一杯に強がってみせる。
「……大丈夫、だ。汗でちょっと滑っただけ……」
そう言って笑いながら立ち上がろうとするが、その意思に反して身体は一向に動かない。
支えにしようと地面へ突き立てた腕にいざ起き上がろうと力を入れれば、足と同じようにあっさりと折れてしまい、支えの役目を果たさなかった。
その動作を、何度も何度も繰り返す。
もぞもぞとして、端から見れば滑稽にも映る光景だったが、本人は至って真面目に試合を再開させようとしていた。
(……くそ、動けよ、俺の身体! なんでだ! なんで立ち上がれねえ!?)
アツヤは強がる笑みの下で、いつまで経っても思い通りに動かない身体へ焦りを募らせる。
そして、彼の異変に焦ったのは彼自身だけではない。
「アツヤくん!」
事態を見た瞳子が、マネージャーたちと共に彼の下へやって来たのだ。
彼女はすぐにアツヤの体調を診ようとして、真っ先に額へ手を当てた。掌が彼の額に触れた瞬間、彼女は苦々しげな表情に変わる。
「……! アツヤくん、あなた凄い熱があるわよ。それに汗も、その量は尋常じゃないわ」
言われて、他の者たちも彼の全体から見た異常に気付く。
激しい運動をしていたから、では片付けられない量の汗を彼は今も滝のように流していた。
その様子は真・帝国学園で倒れた源田が見せた姿に瓜二つ。
「監督! アツヤは、どこか怪我を!?」
「いいえ、おそらくは怪我じゃなくて……そう、言ってしまえば体力切れ」
「えぇ!?」
「バテちまったのか?」
瞳子の見立てを聞いた雷門イレブンには、そんなことで、と驚くメンバーも少なくない。
しかし、人間の身体は適切な休息を取らなければ、それが原因で命を落とす可能性も冗談ではなくなるほどにデリケートなもの。
ましてや、未成熟な子どもの身体ならば尚更に。
アツヤはこの、沖縄という故郷とはあまりにもかけ離れた常夏の環境で、この地にやって来る以前と同じペースで自主練習を行っていた。
チームで熟す普通の特訓とてハードなものを、それに続けての慣れない暑さ、慣れない気候の中での激しい運動。それらは彼から着実に体力を奪っていたのである。
その状態でイプシロン・改との全力の激闘を繰り広げたために、残り僅かな体力もあっという間に使い切ってしまったのだろう。
「デザーム相手のシュートの連発。加えて、さっきまでの大立ち回りも余計に体力を削ったんでしょう」
そんな無茶の末に、先ほどのデザームとの戦いの決定的な決着が、アツヤの心身への
もはやデザームを倒すことはおろか、フィールドに立っていることすらできはしない。
「……交代よ。あなたはこれ以上戦わせられません」
彼女の言葉に従い、円堂と鬼道がアツヤを助け起こしてベンチの方へ連れていこうとする。
しかし瞳子の宣告は、いまのアツヤにとっては死刑宣告にも等しい。もうプレーできる状態ではないと現実を突きつけられても受け入れられなかった。
「まて、放せよ……!」
二人の手を振り解いたアツヤはいまにも再び倒れそうな足取りで、イプシロン・改のゴールを、デザームを睨んで叫ぶ。
「まだ前半だぞ! 俺がこんなことで下がれるかよ!」
「アツヤッ!!」
そのアツヤの叫びさえ掻き消して、士郎の一喝が響く。
アツヤは今度ばかりは従えないと言おうと兄の方を振り向き、彼の顔を見て言葉を失う。
「お願いだから、言うことを聞いて」
その兄の言葉は、アツヤもはね除けられなかった。
立ち尽くすアツヤに向けて、鬼道が重々しく口を開く。
「……アツヤ。俺たちは、お前を頼り過ぎていた」
「鬼道?」
「お前がエースの在り方について思い悩んでいることに、俺は薄々だが気付いていた。気付いていながら、なにもできずにずるずるとここまで来てしまった」
「ううん、鬼道くんのせいじゃないよ。僕のせいだ。僕が一番、近くに居たのに……」
「いいや。これは誰のせいでもない、チームの問題だ。“アツヤにさえ繋げば、点を入れてくれる”……そんな思いは、かなりの重圧だったはずだ」
「そんな……」
殆どの者にとって、鬼道の語った内容は青天の霹靂だった。
しかし、反論はできない。
染岡が居なくなってから、ますますボールはアツヤに集中することになった。
そんな期待を、この勝ち気だった少年の背に乗せていなかったと言えば嘘になる。
彼もまた、自分たちと同じ子どもだったというのに。
「すまなかった、アツヤ。だが、仲間としてこれ以上の無茶はさせられない。いまはとにかく休んでいてくれ」
俯くアツヤの表情は見えない。
しかし、今度は円堂たちの手を拒むことはなかった。
ベンチに座らせた彼に、円堂が語りかける。
「……アツヤ。ごめんな。陽花戸中での夜の話、お前にとっては精一杯のSOSだったのかもしれないのに。俺、自分のことばっかりで全然気付いてやれなかった。こんなに無茶するまで、なんにも知らないままだった」
そこで言葉を区切り、円堂はその瞳に強い光を宿して、弱々しいアツヤの瞳を見つめる。
「ここで見ていてくれ。お前の分まで、俺たちが戦い抜くから」
その宣言の後、円堂は自陣のゴールへ戻っていく。
「……惜しむらくは、身体がまだ出来上がっていなかったことか。せめて、やつがもう一年早く生まれていればな。なんともつまらん決着だ……」
一連のやり取りを遠目に眺めていたデザームは、誰にともなく呟く。
「さて、他に私を楽しませてくれるやつが居るかどうか」
居ないのならば、楽しみを守りから攻めへと切り替えるまで。
サッカーへの熱さを抱きながらも、彼は鋼のように冷たく、雷門イレブンを見定めていた。
程なくして再開した試合。
彼らの戦う様を前に、アツヤは彼らの言葉と表情の映像を脳裡で反芻していた。
(兄貴の方が、泣きそうな顔してた)
ずっと一緒だった兄。
その兄のそんな顔を、アツヤはいままで見たことがなかった。
自分は彼らに心配をかけたくなくて、
だというのに、結果はこの有り様だ。
大きな攻め手を欠いた雷門イレブンはイプシロン・改相手に防戦一方となり、デザームの前に辿り着くことすらできずにいる。
「今度こそ取らな!」
「アツヤくんの分まで――うわぁー!!」
時折上がるパスも、それを受け取るべきFWである浦部と目金がイプシロン・改のDFたちに太刀打ちできず、悉く奪われてしまう。
「アイスグランド!」
「チッ……」
「はぁ……はぁ……通さないよ……!」
攻め上がるゼルを凍りつかせた士郎だが、その息は上がってきている。
否、彼だけではない。雷門の守備陣全体が、著しい消耗を見せていた。
延々と続く防衛は、守る側には多大なプレッシャーとなる。そして緊張は動きの無駄を増やし、動きの無駄は余計な疲れを招くのだ。
「ガニメデプロトン 改!」
「正義の鉄拳!」
堰を切ったように、守備を突破して雷門ゴールへ流れ込むイプシロン・改。
ゴールに立つ円堂が、そんなギリギリの守備の最後の砦だった。
究極奥義を以て、イプシロン・改の猛攻を防ぎ切る。
前半の終了が迫る中、幾度も攻防を繰り返した末に、ようやく浦部と塔子がイプシロン・改のゴールを捉えた。
『バタフライドリーム!』
二人の放ったシュートは、ふわふわと飛び回る蝶のような不可思議な軌道でゴールへ向かう。
大阪での試合では、その動きで円堂の放った“爆裂パンチ”をかわして点を奪った必殺技でもある。
「子ども騙しだ!」
しかしデザームには通じず、握り潰さんばかりにボールを鷲掴みされて止められてしまう。
大海原中GKの必殺技を打ち破るだけの威力があったにもかかわらず、デザームは必殺技も使わずに防いでみせる。
彼はそのまま、そのボールを鬼道へ向けて投げつけた。
「いつまで経っても来ないものだから待ちくたびれたぞ。打ってこい! 全て受けてやる!」
「……! 一之瀬!」
「ああ!」
『ツインブースト 改!!』
今度は鬼道と一之瀬の連携シュートがデザームへ迫る。
「……ワームホール V2」
しかしそれも、デザームの開く異空間に捕らわれて彼の足下へ収まってしまった。
さらにデザームはボールを雷門へ投げる。
『ザ・フェニックス!!!』
三度目の正直。
そう言わんばかりに、円堂、一之瀬、土門の必殺技が放たれた。
凄まじいシュートの数々だが、デザームの眉間にできた皺はだんだんと深くなっていく。
「ワームホール V2」
先ほどまでの高笑いが嘘のような冷たい声音で、不死鳥もあっさりと落としてしまった。
彼は眉間に深い皺を刻む程に顔をしかめ、ベンチで虚ろに腰掛けたままの
「やはり、やつが
そして掴んだボールを、フィールドの外へと投げ捨てた。
最後のチャンスを雷門は不意にした。
故にここからは、自分がシュートを楽しむ番だ。
デザームが、そう決めた。
「聞けぇい、雷門イレブン! もはやお前たちのシュートに興味は失せた! よって、ここからは……
――私とFWのゼルとで、ポジションチェンジだ。
その宣言は、雷門イレブンに衝撃を与えた。
彼がしたのはルール上なんら問題のない行為だ。
しかしこれは大抵の場合、
当然だが、ゴールに立つのはただユニフォームを着せただけの急造GKなどより、本職のGKの方が望ましいのだから。
そのため本来は滅多に起こらない出来事の筈だった。
「宣言しよう、円堂守。お前の“正義の鉄拳”を、希望を、闘志を、全てこの私が破壊し尽くすと!」
そんなイレギュラーを起こしたデザームは、ユニフォームの姿を他の者と同じ真紅の装束へと変えて告げた。
傍目からも感じられるのは、彼の心身に満ち満ちている自信。
雷門イレブンは、すぐにそれがハッタリや酔狂でないと思い知ることになる。
「……くっ!?」
「とはいえ前半は残り18,5秒。手始めに先の失点を取り返そうか!」
雷門のコーナーキックから再開された試合。
鬼道からボールを瞬時に奪ったデザームが、燃え上がる爆炎の如き荒々しさでゴールへ駆け出したのだ。
「私の望みは円堂守だ! 楽に終わりたくば道を開けるがいい!」
「誰が……おわ!」
「うぅっ!」
立ちはだかる雷門イレブンのディフェンスをものともせず、ただドリブルのパワーとスピードで圧倒して一直線に円堂の下へ走るデザーム。
あっという間にペナルティエリアまで侵入した彼は、そこでボールを踏みつけながら停止した。
「さぁ、覚悟はいいか!」
「来い! アツヤたちの取った一点、絶対守ってやる!」
円堂の決意に満ちた言葉に、デザームはそうでなくてはと笑って――
――足下に開いた異空間へ、ボールと共にその姿勢のまま落ちるようにして消えた。
姿のなくなったデザームに動じず、円堂は構える。
あの男がここまでして小手先の技で来るわけがないと確信して。
「受けてみろ! 我が最強の必殺シュート、最強の槍の一刺しを!」
どこからか響くデザームの声。
それに続くように、空中に先ほど彼が消えたものと同じ穴が開いた。
しかし、そこから出てきたのはデザームではない。
「――グングニル!!」
禍々しい紫色の光でできた巨大な槍が、流星のように飛び出してきたのだ。
「ハァァァ! 正義の……」
凄まじい速さで迫るシュートを、円堂は最大限に力を込めて迎え撃った。
「……鉄拳!!」
巨大な黄金の拳が、槍の穂先を受け止める。
一歩も引くまいと地面を踏み締める円堂だが、その意志とは裏腹に、足はずりずりと押されて身体が後方へと下がっていった。
(なんてパワーだ……! けど、じいちゃんの究極奥義が負けるわけない!)
それでも祖父の遺した究極奥義を信じて、負けじと拳を突き出した円堂だったが、その思いは儚く打ち砕かれた。
ここまで雷門のゴールを守り続けた鉄拳がついに貫かれ、霧散してしまう。
「なに!? ぐあぁっ!」
風を切って進む槍は、円堂も邪魔だとばかりに弾き飛ばして、ゴールネットに突き刺さった。
同時に、前半終了のホイッスルが鳴る。
スコアとしてはまだ同点だ。しかし、ここまでイプシロン・改の猛攻を防ぎ続けた究極奥義の敗北は、雷門イレブンへ点以上のダメージを与えた。
「そんな……」
「“正義の鉄拳”が、破られるなんて……」
「言い忘れていたが、私の本来のポジションはGKではない。
満足げにデザームは笑って、ベンチへと戻っていった。
ハーフタイムを挟んで始まった後半は、デザームの独壇場だった。
彼がボールを持つだけで、そのままシュートへ直結する。
誰も彼を止められなかった。
ただドリブルをしているだけの彼にフィールドプレイヤーたちは撥ね飛ばされ、GKである円堂は、シュートを受けて傷ついていく。
「地球では、獅子は兎を全力で倒すという。……手加減するなどとは期待するな。私もお前たちを、全力で叩き潰すぞ!」
「当たり前だ……! 俺は、諦めない。絶対にお前を止めてやる……!」
そして再び、紫色の閃光が走る。
ボロボロの身体で円堂はそれを、鉄拳が砕けても尚全身で止めようとして、ゴールネットへ張り付けにされてしまった。
「くっ……円堂……」
「キャプテン……」
それを鬼道たちは、倒れ伏しながら見ていることしかできない。
彼らもまた、進撃するデザームを相手に幾度も身体を張って立ち向かい、限界に達している。
誰もが満身創痍。
円堂がまた倒れるのをベンチから見ていたアツヤは、己の不甲斐なさに身体を震わせる。
「……っ…………ぅ。………ちくしょう…………!」
その姿が、誰にも見えないように。
頭から被ったタオルで顔を隠し、俯きながら、静かに彼は涙を流した。
このままではチームが本当に壊されてしまう。
しかし、いまの自分には何もできない。
肝心なときに何の役にも立てないやるせなさ。情けなさ。悔しさ。無力感。
これまでずっと、自信という氷に包んで騙し騙しに耐えてきた思いが、雪解け水のように眼から溢れていく。
そんなアツヤへ、不意に上から何かが覆い被さった。
「……?」
その正体は、橙色を基調にしたフード付きのパーカーだった。
デザームたちの纏う何もかもを焼き尽くすような危うさを秘めた真紅ではない。その色合いは、凍えた身体を癒す暖かい炎のようだった。
ベンチを通り過ぎてフィールドへ歩いてくるパーカーの持ち主の顔を、全国大会を戦った面々は穴が開く程に凝視する。
逆立った白髪。稲妻を思わせる眉毛。切れ長の鋭い目付き。
瞳に宿る、炎のようなサッカーへの情熱。
アツヤの目に映るのは、逞しく、頼もしい力強い背中。
彼らは、その男を知っている。
「お前は……」
忘れるはずもない、雷門の誇る炎のエースストライカー。
「……待たせたな」
「~~っ! いつもお前は遅いんだよ!」
豪炎寺の言葉を噛み締めて、円堂は軽口を返す。
すぐに交代した彼は、10の数字を背負ってフィールドに力強く立ったのだった。
「豪炎寺修也……!」
デザームはその登場を歓迎する。
ジェミニストームに手も足も出ずにチームを去った彼が、力も付けずに戻ってくるはずがないと。
「見せてみろ、お前の実力を!」
試合再開直後。
豪炎寺は、暴走機関車のような
「……なにぃ!?」
ゴールへ向かう前に力比べをするつもりだったデザームが、完全な肩透かしを食らって思わず声をあげる。
ボールも持たないまま敵陣へ駆け込んでどうするというのか。
「いいだろう……! ならばお前がシュートを打つ暇も与えず、私が円堂守を破壊してやろう!」
デザームはそれを挑発と受け取ったが、円堂はこの光景に覚えがあった。
それは彼らの原点。
当時は敵として相対していた鬼道も、豪炎寺の狙いに当たりをつけて笑う。
「
放たれた神槍が、今度こそ円堂を完膚なきまでに打ち倒さんと迫る。
それを迎え撃つ円堂の心はこの空のように晴れ渡っていた。エースの信頼ならば、何度だって応えてみせようと。
目の前のシュートを防ぐ手立ても、いまようやく理解できた。
「これ以上、点は渡さない! 正義の鉄拳――」
ハーフタイム中、立向居は円堂の“正義の鉄拳”を
その言葉通りに捉えるならば、究極奥義もまた、子どもが大人になるように成長する筈。
「G2!!!」
進化し続ける必殺技。故にこそ円堂大介は、これを究極奥義と呼んだのだと。
「こういうことなんだな、じいちゃん! “究極奥義に完成なし”!」
「なんだと……!? この短時間で、やつの技までもがパワーアップを……!」
その攻防はこれまでとは真逆の決着となった。
光の槍が、幾度も貫いた黄金の拳を前に、粉砕されたのだ。
吹き飛ばされたボールが、相手ゴールの方向へ飛んでいく。
「いけ、豪炎寺!」
かつて、帝国学園の“デスゾーン”を初めて防いだときのように。
円堂が守り抜くと信じた豪炎寺が、そのボールを受け取った。
その練習試合の結末を覚えている鬼道は、しかしそれだけはかつてと違うものになるだろうと見越していた。
(これは、決まるな)
この一瞬だけ、豪炎寺の意識は勝負の次元からなくなっている。
彼にとってこれは、チームへの誓いであり、ある意味では儀式に近いのだろう。
そして鬼道から見て、今の彼を止められる可能性があるGKは、この場に居ない一人だけだった。
「真……」
「ワームホール V2!」
「ファイアトルネード!!!」
以前とは桁違いの量の炎を纏ったボールがゴールへ迫り、ゼルの開いた異空間の穴へ吸い込まれて姿を消す。
「ふん、この程度か?」
あっさりと防げたことに拍子抜けしたゼルが笑う。
しかし豪炎寺は涼しい顔をして、彼に背を向けながら言った。
「おい、お前。そこに居ると危ないぞ」
ゼルは豪炎寺の言葉の意味が理解できなかった。
もうこの男の放ったシュートは“ワームホール”の向こうに消えた。一体何が危ないというのかと。
問い質そうとしたとき、視界で火の粉が舞った。
シュートの
まるで、次元の壁を越えて、抑えきれない熱が漏れ出してきているかのように。
「まさか」
その言葉と、“ワームホール”の異空間を突き破った炎の渦が姿を現すのは同時だった。
「なっ、ば、あっガア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
断末魔の絶叫を残し、ゼルの姿が炎に巻かれて消える。
ゴールの一帯を覆った炎のベールが晴れた先にあったのは、ネットに身を委ねる焼け焦げたボール、そして全身と口からプスプスと黒煙を立ち上らせて膝から崩れ落ちていくゼルの姿だった。
「あれが、豪炎寺くん……!」
「破壊力は相変わらず……いや、大きくパワーアップしたな」
「なんかカッコいいやん!」
「かぁーっ、痺れるぜ!」
以前の彼を知る者も、知らない者も、等しく彼に目を奪われる。
1点。このシュートで生み出されるのはたったの1得点だ。
しかし、この得点もまた、数字以上の力を持っていた。
吹雪アツヤ
前半から飛ばしすぎてバテる。ゲーム的にはTPとGPが0の状態。
泣いちゃった。
吹雪士郎
抵抗するアツヤを一喝。
いまにも死にそうなくらいに弱って見えたので、つい叫んでしまった。
デザーム
独壇場でお楽しみになった。
豪炎寺修也
帰還。「これからはストライカーを全うする」という仲間たちへの宣誓代わりにゼルを焼却。
ゼル
断末魔の声を三回書き換えられた。