源王は玉座を譲らない   作:青牛

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20時の新PV、楽しみですね。




サッカーの熱は収まらない

 帰還した豪炎寺の放ったシュートによる得点。

 これによりスコアは2-2、同点である。

 

「うそ……」

 

 しかし、微かな怯えを零すマキュアのように、イプシロン・改は動揺を抑えられない。

 確かにゼルはGKとしてデザームに及ばない。

 だがそれでも、デザームに代わってエイリアのゴールを守るのに不足ない力があった筈だ。

 その彼があんなにも容易く、必殺技ごと焼き払われて敗れるなど、俄には信じがたい異常事態だった。

 

「メラメラさせてくれるじゃないか……!」

 

 それほどの力を見せつけた豪炎寺に燃え上がったのはデザームだ。

 己の必殺技を止めてみせた円堂といい、つくづく楽しませてくれるものだと、笑って猛る。

 

「で、デザーム様、ゼルが!」

 

 そんなデザームに対して、メトロンが慌てふためいた様子で倒れ伏したGK姿のゼルを指し、GKへ戻るよう訴えかける。

 イプシロンにおいてGKをできるメンバーは、ゼルと、そして他ならぬデザームしかいない。

 ゼルが焼却された以上、必然的にゴールに立たねばならないのはデザームだ。

 

 しかし、デザームにはまだその気はなかった。

 無論、ゼルから一撃の下にゴールを奪った豪炎寺のシュートを己の手で迎え撃つのは望むところだが、それで防いでも引き分けにしかならない。

 しかしデザームには、また同点引き分けなどという中途半端な結果にするつもりなど毛頭ない。

 彼らか、自分たちか。勝負はどちらかが(こわ)れるまでと、そう決めて挑んだ以上は必ず天秤を傾けてみせる。

 

 得点で並ばれたのならば、もう一度突き放すまでだ。

 今度こそ円堂の究極奥義を打ち砕くことで。

 そのためには、デザームがFWとして再びシュートを放つ必要があった。

 

「フム……ケイソン、ゴールに――」

 

「ぉ……お待ち、ください……!」

 

 とはいえ、GKが不在というわけにもいかない。

 一先ず自分がシュートを打つまで、適当な者をゴールに立たせておこうとデザームが指示を飛ばしかけた間際、後方からの声がそれを遮った。

 

「ゼル……!?」

 

「かぁっ……かは……俺は、まだやれます。お気になさらず……!」

 

 全身にこびりついた煤を払う手間も惜しいとばかりに、力を振り絞って立ち上がったゼル。

 彼は明らかに無理をした笑みで、まだ戦意までは焼き尽くされてはいないと主張する。

 それを受けてデザームは、やはり笑った。

 

「それでこそだ……!」

 

 そうしてイプシロン・改は、デザームをFWに据えたままで試合を再開した。

 キックオフと同時に、デザームはゴール目掛けて爆走する。

 もはや余興は不要。血と汗を煮えたぎらせて円堂を睨む。

 

「いくぞ円堂。今度こそ、終わりだ!」

 

「来い! もう、絶対にゴールは割らせない!」

 

「お前を倒す! お前らの全てを打ち壊す!」

 

 互いの闘志を叩き付け合う、チームのキャプテンたち。

 そしてペナルティエリアを前にして、デザームはまた異空間へと飛び込み、シュート体勢に入った。

 もう一度、進化したあの鉄拳を穿ち貫くべく、足へ力を漲らせる。

 

グングニル――」

 

 その足を打ち込んだ瞬間、ボールは光の槍へと姿を変える。

 輝きはより強く、威力はさらに跳ね上がって、異空間の出口へと走っていく。

 

「――V2!!」

 

 デザームの熱狂的な情熱、執念が見せた更なる進化。

 その結晶である神槍を、固い決意を全身に漲らせた円堂が堂々たる姿で迎え撃つ。

 

正義の鉄拳 G2!!」

 

 進化した究極奥義。輝く拳が風を切り、真っ向から槍を受け止める。

 しかし、確かに進化した“正義の鉄拳”が“グングニル”を打ち破ったが、今度は“グングニル”も進化していた。

 

「ぬっ……ぐぐ……!」

 

 再び押され始めた円堂。

 全力で踏ん張るが“正義の鉄拳”が打ち砕かれるのは時間の問題だった。

 飛び出した拳が、受け止めているシュートに徐々に押し返されていく。

 

「勝つのは私だ! 勝利は我々のものだ!」

 

「くぅっ……」

 

 “正義の鉄拳”は、生身の拳の寸前まで押しやられた末、ついに粉砕されてしまう。

 もはや防ぐ手立てはなく、またゴールを奪われるしかない。

 それでも円堂は食い下がり、手だけと言わず()も使い、足は地面にめり込まんばかりに踏み締め、文字通り全身全霊を懸けてボールを抑え込もうとした。

 

 今度こそゴールを、エースの勝ち取った一点を、守ってみせるという一心で。

 その一念が円堂に更なる力を与えたのか。

 

「だあぁぁぁーーーー!!!」

 

「!?」

 

 円堂に額へ思い切り激突したシュートは、彼の頭から新たに飛び出した拳によって弾き飛ばされたのだった。

 その光景に瞳子と鬼道が目を見張る。

 他の者たちも、円堂の見せた新たな技の片鱗と(おぼ)しき現象に目を奪われる。

 

「新たな必殺技……なぜお前はこれ程までに……っ!?」

 

 さしものデザームも、更なる進化を遂げた渾身のシュートさえ防がれたことには動じずにいられなかった。

 円堂に満ちる力の源とはなんなのか。

 そんなことを考えて、彼はすぐ近くを通り過ぎたボールを取り損ねてしまう。

 すぐにイプシロン・改と雷門イレブンが殺到するも、激しい取り合いの末にボールはラインを割って試合が止まる結果となった。

 

(……いや、やつの力がなんなのかなどどうでもいい。重要なのは、やつらの力の全てを打ち砕くこと!)

 

 眼前で行われた競り合いなど意識の外にしてそう思い直したデザームは、雑念を散らすように吠えた。

 攻撃が防がれたのなら、次は防御だ。

 間違いなく、あの男は再びシュートを放つ。

 ならば次にそのシュートを受けるのは、己をおいて他にいない。

 

「審判、ポジションチェンジだ! 私がキーパーに戻る! そして――」

 

 額に青筋を立てた凶悪な形相で豪炎寺に指を向けて告げる。

 

「お前を止める! お前らの全てを叩き壊す!」

 

 そうして再びゴール前にデザームの姿が戻り、試合が再開する。

 イプシロン・改のスローインから始まり、ボールを取ったイプシロン・改の攻撃が再び行われようとしたが、そこに立ち塞がったのはあらゆる意味でこの試合の中心となった男だ。

 

「……!」

 

「うっ……くっ……」

 

 ボールを取った勢いそのままに攻め上がろうとしたゼルは、豪炎寺の眼差しを前に、彼を避けた進路を取ってボールを回す。

 敢えて強力な相手とぶつからずにチームとして勝利を狙うのは立派な戦術であるが、この場合は完全に、豪炎寺に気圧されて逃げた形だった。

 それはあまりにもわかりやすく、復活した雷門イレブンには隙だらけだ。

 

フレイムダンス・改!」

 

「あががっ!?」

 

 すかさず襲いかかった一之瀬に、スオームがボールを奪われる。

 

「鬼道!」

 

 彼からボールを受け取った鬼道は豪炎寺を確認するが、彼はケイソンとタイタン、イプシロンでも特に大柄なDFたちにマークされていた。

 これではパスを出しても彼らに奪われてしまうし、取れてもまずシュートには移れない。かといって、豪炎寺抜きでデザームを破るのはやはり困難。

 八方塞がりに思われたが、二人は頷き合うと駆け出した。

 

「リャアァーー!」

 

「フッ」

 

 メトロンのスライディングを軽やかにかわして、鬼道はボールを蹴った。

 真っ直ぐに飛ぶボールは、ケイソンたちの正面へ。

 パスミスかと油断したケイソンたちだが、彼らのギリギリでボールがぐにゃりとカーブしたことで目を見開いた。

 軌道を曲げたボールの行く先には豪炎寺。

 ミスなどではなく、計算ずくでの連携だったというわけだ。

 豪炎寺は長い時間チームを離れていたにも関わらず、二人はまさに阿吽の呼吸であった。

 

「やはりな……! 来い!」

 

 完全にフリーになった豪炎寺と、向かい合うデザーム。

 自らを睨むデザームと言葉の代わりに一瞬視線を交わらせた後、豪炎寺は炎を巻き起こした。

 うねる炎は一塊のようになって、筋骨逞しい巨漢――魔神のように姿を変える。

 

「あれは……」

 

 彼もまた、以前は未完成だった必殺技を完成させていたのである。

 炎の魔神は掌の上に主を乗せて、高く高く投げ上げた。

 燃え盛る炎を帯びて高度を上げる豪炎寺は、身に纏う爆炎の全てをボールに込めるように蹴り抜いた。

 

爆熱ストーム G2!!

 

 ボールは火球になって、ゴール目掛けて降ってくる。

 それを前にデザームは欠片も臆することなく、右手を掲げた。

 

「必ず止めてみせる……! ドリルスマッシャー V2ゥゥゥ!!!」

 

 そして現れた巨大ドリルを、アツヤとの戦いのように炎の渦へと差し向けた。

 激突は、まるで地上にもう一つの太陽が現れたようだった。

 フィールド、観客席、一帯を炎が明るく照らす。

 

「オォォォ……!」

 

 デザームはドリルを支える腕を力強く突き出し、シュートを弾き返そうとする。

 しかし、シュートの力は彼の予想を超えていた。

 

「ッ、なんだ、このパワーは!?」

 

 この試合で初めて、彼の足が後ろへ動く。

 力で、彼が押し負けているのだ。

 ドリルの回転が鈍るのに反比例するように、爆炎は勢いを増してきている。

 

「くっ……負けるものかァァァ!!」

 

 回転の止まったドリルが砕かれ、無手になってでも、デザームは抑え込もうとする。

 

「ムゥゥゥ……ォォオオアアア!」

 

 襲い来る炎を吹き散らさんとばかりに轟くデザームの雄叫び。

 いま身体を満たす熱はこの炎か、それとも内側から込み上げているものなのか。

 どちらでも構わない。

 いま自分は、使命ではなく、一人の選手としての意地のために眼前のシュートへ挑んでいたのだから。

 

 踵がゴールラインの、最後の一線まで押し込まれる。

 やがて抑えきれなくなったボールが手から外れたその瞬間、デザームは悟った。

 円堂の、そして豪炎寺の力の源を。

 

(これが、エースか)

 

 期待は時に、受ける者の心を押し潰す重圧となる。

 しかし彼らにある繋がり――信頼は、時として能力以上の力を引き出させるのだ。

 炎が周囲へ燃え広がって勢いを増すように、信じられているという意識が豪炎寺に力を与え、彼が信じて背中を預ける姿が円堂に力を与えたということだろう。

 

(全く。やつらの方が楽しそうだ、などと思うとはな)

 

 溢れ出した炎を前に、少年は笑った。

 

 次の瞬間に、ゴールネットが内側から突き伸ばされた。

 雷門イレブンの三点目、逆転である。

 同時に鳴る、試合終了のホイッスル。

 それは雷門イレブンの勝利を称えるように、高らかに大海原へ響き渡った。

 

「やったァァーーー!」

 

 感極まった円堂たちが、この大逆転の立役者である豪炎寺の元へ集まっていく。

 あっという間に、彼を中心とした輪が出来上がった。

 向き合う円堂と豪炎寺は、静かに見つめ合い、固い握手を交わす。

 

 雷門の炎のストライカー、その完全復活だった。

 

 友との再会を喜ぶ彼を、それまでの苦悩を知る土方が涙ながらに祝福する。

 

 

 

 その光景を、煤を払って立ち上がったデザームは、凪いだ海のように落ち着いた雰囲気で見渡していた。

 

「デザーム様……」

 

 彼らを見つめる彼の心中を計り兼ねたゼルが、その名を呼ぶ。

 その声に振り向いたデザームは、自分を見るイプシロンに問いかけた。

 

「お前たち。サッカーは、楽しかったか?」

 

「はっ?」

 

「我々はこれまで、使命のためにサッカーをしてきた。それが今日、使命を果たせずに敗れた。それでも、楽しかったか?」

 

 穏やかな声音と瞳。

 イプシロンたちはその表情が、エイリア学園のデザームではなく、ただの■■■■(しょうねん)に戻っていることに気付く。

 皆、ふっと笑顔になりながら、問いに答えた。

 

「えぇ、もちろんです」

 

「……そうか」

 

 デザームが彼らの言葉を噛み締めるようにしていると、そこへやって来た円堂が手を伸ばした。

 握手を求めるように開かれた掌に、デザームがきょとんとする。

 

「地球では、試合が終われば敵も味方もない」

 

 そして円堂の言葉に、目を見開いた。

 

「お前たちのしてることは許せない。けど、サッカーが楽しいってことは、俺たちもわかり合えるはずだって思うんだ」

 

「……フッ。そうだな。サッカーとは、そういうものだな……」

 

 長らく忘れていたことを思い出したように、デザームは清々しい表情で空を仰ぎ、そして円堂の手に自らの手を伸ばす。

 

「次は、必ず勝つ」

 

「ああ。何度だってやろう」

 

 相容れない者同士でも、サッカーを通じれば、一瞬でもこうして手を取り合える。

 そう思える光景が生まれる、その寸前。

 

 青白い光が、彼らを照らした。

 

「ムッ……」

 

「なんだ!?」

 

 光の中から姿を現したのは、雪の如く白い髪を風に靡くように流した少年だった。

 腕を組んで立つ彼はゆっくりと目を開け、冷たい闇を孕んだ眼光を露にする。

 

「私はガゼル。マスターランクチーム“ダイヤモンドダスト”を率いる者」

 

「ガゼル様……」

 

「今回の負けで、イプシロン(君たち)は完全に用済みだ」

 

 彼もまた、グランやバーンと並ぶ実力者。

 それがやって来たのは、敗北者の処分と、次いでイプシロンを下した雷門イレブンの観察のためだ。

 まずは前者を手早く済ませようと、腕を振り上げてデザームたちに冷たい視線を向ける。

 

「…………」

 

 デザームは静かに円堂の側から後退(あとずさ)り、チームメイトの元へと身を引いた。

 それに気付いて見つめる円堂の目に、デザームは穏やかな微笑みを見せる。

 最後にベンチに座るままの少年を一瞥すると、彼は遊び疲れて眠る子どものように満足げに目を閉じた。

 

「……! 待っ」

 

 これから何が起こるのか察した円堂が声を上げかけるが、それより早くガゼルが腕を振り下ろした。

 すると、宙に浮かぶ青白い球がイプシロンへと向かい、彼らを光で包み込む。

 それが晴れたときには、イプシロンの姿は跡形もなく消え去ってしまっていたのである。

 

「そんな……」

 

 ようやくわかり合えると思った彼らの結末に、円堂が下手人たるガゼルの姿を探すが、彼もまた姿を消していた。

 氷のように透き通った声だけが、彼らの耳に届いてくる。

 

「円堂守。君と戦える日を楽しみにしているよ」

 

 そんな嘲笑うような言葉を最後に、ガゼルの声も聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 雷門中とイプシロンとの決着の報せは瞬く間に日本中を駆け巡った。

 吉報を受けた世間では、エイリア学園の破壊活動が鳴りを潜めたのも相まって、このまま宇宙人の侵略も終わるのではないかという噂も広まり出している。

 

 しかし、そんな期待とは反対に、彼らの戦いはここからが本番だ。

 三つのマスターランクチームとの戦いは、イプシロン戦をも凌ぐ激しいものになるだろう。

 だからこそ、()()は行く。

 

「行くんですか、キャプテン」

 

「あぁ。ボクは雷門の皆に、返すべき恩がある。それに、彼らの戦いを見ていて湧き上がったこの闘志は、抑えられそうもない」

 

 両脇に女神の彫刻が施された門の前で、少年たちが言葉を交わしている。

 これから出発しようとする少年を、仲間たちで見送りに出ているのだ。

 

「俺たち、絶対見てますから! キャプテンの、俺たちの生まれ変わったサッカー!」

 

 仲間たちの健気な言葉に、少年は深く頷いた。

 必ず、自分たちの新たなサッカーを証明してみせると誓うように。

 

「準備はいいか?」

 

 その背が、門の外側から話しかけられる。

 声の主は自身と同じくここを出発する、もう一人の同志たる少年の声。

 呼ばれた少年は笑って振り返り、ついに外へと足を踏み出した。

 門という境界を跨ぐ一歩は、その胸に秘めた情熱のように力強い。

 

「もちろん。さあ、行こうか、源田くん」

 

「ああ。行くぞ、アフロディ」

 

『イナズマイレブンの下へ』

 

 二人の少年が歩き出す。

 サッカーを守るこの戦いを未だに続ける戦士たちの、新たな力となるために。

 

 

 




円堂守
新たな必殺技(メガトンヘッド)の片鱗を見せた。
サッカー聖人っぷりは健在。

豪炎寺修也
離脱期間の特訓で爆熱ストームを進化させた。
なぜか眼光だけでゼルが怯む。

デザーム
退場。そのサッカーへの情熱は、最後まで。そしてこれからも。



源田&アフロディ
世宇子を出発。雷門中への合流を目指す。

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