源王は玉座を譲らない   作:青牛

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源王の存在は薄らがない

 アフロディに続いて現れた源田。

 その登場には誰もが、一時衝撃で言葉を失った。

 そして、それから立ち直った円堂は浮かべたのは、満面の笑顔だった。

 

「源田!!」

 

「久しぶりだな、円堂」

 

 駆け寄る円堂のいまにも飛びかかりそうな勢いを受け止めながら、源田は続けて、鬼道や士郎らへ目を向ける。

 

「源田」

 

「源田くん……」

 

「久しぶりだな、鬼道。それに士郎も。お前たちの戦いは特訓の最中も見ていたぞ。真・帝国では世話をかけたな」

 

「……大丈夫なんだな?」

 

 自ら以前の悲劇のことを口に出した源田へ、鬼道が問う。

 それが指しているのが、身体だけのことではないのを理解した上で、彼は頷いた。

 

「ああ。アフロディのお蔭もあって、なんとかな」

 

「アフロディの……」

 

 源田の言葉で再び視線が集まるのに対して、アフロディは控えめになって首を横に振った。

 

「ボクはそんな大したことはしていないさ。源田くんの、サッカーへの情熱の賜物だよ」

 

「んー? んー……あぁーっ!」

 

「綱海?」

 

 そこで突然、集団の後ろの方で唸っていた綱海が、電撃が走ったようにびくりとしながら声を上げた。

 彼は怪訝な顔をする周囲を他所に、そのまま源田へ一直線に駆け寄る。

 

「ゲンダってお前か、源田!」

 

「綱海さんか! 懐かしいな、あれからサッカーを!?」

 

「綱海でいいって言ったろ! やっぱり源田だな!」

 

「知り合いだったのか? 二人とも」

 

「おう! 昔な!」

 

 円堂の言葉に快活に答える綱海と頷く源田。

 綱海が雷門イレブンと出会ったとき、彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのには源田との関わりがあったのだが、それは雷門イレブンには知る由のないことであった。

 そのまま綱海が昔話に興じかけたところで、瞳子が話に割って入る。

 

「旧交を温めるのは結構だけど、それは試合を終えてからにしなさい」

 

 彼女に言われて、彼らはこれからダイヤモンドダストと試合を行うのだと思い出した。

 こちらへ向けられているガゼルの視線には感情の色がなく、まさしく絶対零度と評すべき冷たさであった。

 源田はそれに悪いことをしたか、と呟きながら気合いを入れ直すと、改めて雷門イレブンを向く。

 

「とにかく。俺たちはお前たちに力を貸しに来た。過去は変わらないが……いまのアフロディが以前と違うことは俺が保証する。信じてやってくれないか」

 

 困惑はあるが、決勝で世宇子中の力を味わったメンバーもそれを撥ねつけることはできなかった。

 なにせ、一度はアフロディによって大怪我を負わされた彼の言葉だ。相応の重みがある。

 

「本気なんだな」

 

「あぁ」

 

「……わかった。一緒に戦おう! よろしくな」

 

「ありがとう。君の信頼には必ず応えてみせる」

 

「いいですよね、監督!」

 

「認めましょう。試す価値は大いにあるわ。ただ、作戦に変更があります」

 

 アフロディと源田をチームに加えることを認めた瞳子だが、その物言いには含みがあった。

 

「変更?」

 

「ええ。円堂くん、あなたにはキーパーをやめてもらいます」

 

『えっ!?』

 

 続く彼女の言葉は、雷門イレブンにそれまで以上の衝撃を与えた。

 これまで雷門の守護神としてチームを支えてきた彼の根幹に関わる爆弾発言。再びチームメンバーに激震が走る。

 

「ちょ、待てよ監督! そりゃ源田は強いが、だからって円堂をやめさせることはないだろ!?」

 

「キャプテンがキーパーじゃなくなっちゃうんスか……?」

 

「俺はありだと思う」

 

『鬼道!?』

 

「鬼道くんも、同じことを考えていたみたいね」

 

 瞳子の言葉に鬼道は頷いて、彼女の考えを代弁する。

 

「円堂。お前の、キーパーでありながらシュートにも参加するスタイルは雷門の攻撃力に大きく貢献している。だが、お前が必殺シュートのためにゴールを空けるのは、大きな隙でもある」

 

 彼の語ったことには、誰も反論できなかった。

 いままでの円堂は仲間との連携技で、キーパーを務めながら幾度も点を挙げてきた。

 彼の参加する必殺シュートは“ザ・フェニックス”、“イナズマ1号”、“イナズマブレイク”など数多く、これだけのシュートを持つキーパーは彼だけだろう。

 しかし最後の砦であるキーパーが攻撃に参加すれば当然、守るべきゴールががら空きとなる。

 例えば、シュートのために円堂が上がったところでボールを奪われてカウンターをされてしまったら。そんな失点に直結しかねないリスクが常に付きまとうのだ。

 

「弱点は克服しなければならない。そしてそのためには、ときに大胆に変わることもしなければならない。そのチームの変革の鍵になるのが、円堂なんだと俺は思う」

 

「俺が……鍵……」

 

「つまり、円堂にはフィールドプレイヤーになってもらうのか」

 

「理屈はわかったけどよ、具体的に円堂はなにするんだ?」

 

 一口にフィールドプレイヤーと言うが、サッカーのポジションはGKを除いても大別して三つ、細かい分け方をすればもっと多い。

 土門の尤もな疑問に、鬼道は間を置かずに答えた。

 

「円堂には、リベロになってもらう」

 

 聞き慣れない単語に、一部のメンバーは目を点にする。

 リベロ――イタリア語で自由を意味する言葉。転じて、サッカーに於いては主にDFをしながらオフェンスにも参加する、単一のポジションに囚われないまさに自由なプレーをする選手のことを指す。

 円堂にはフィールドプレイヤーになって、後顧の憂いなくその力を発揮してもらおうというわけだ。

 

「その肝は、お前がデザームとの戦いで見せたあのプレーだ」

 

「ええ。あのヘディングを必殺技としてマスターできれば、あなたは攻守に優れたリベロになれる。それが、このチームに集まった戦力を最大限に発揮する方法よ」

 

「円堂がリベロか……」

 

 円堂が、キーパーユニフォームではなく自分たちと同じユニフォームを着てフィールドに立つ。

 長らく彼に背を預けてプレーしてきた面々には、なかなかその光景はイメージし難い。

 しかしそれこそが、まさしくこれまでの雷門に革命を起こす一手なのだ。

 

「わかった。俺、リベロやるよ。勝つために、強くなるために、変わってみせる!」

 

「それで、キャプテンに代わってゴールを守るのは……」

 

「源田くん。早速だけど、あなたの力を見せてもらうわ。任せていいわよね?」

 

「望むところだ、監督」

 

 円堂がリベロとしてゴールを離れる。

 そうと決まって、彼に代わるゴールの守護者として白羽の矢が立った人物は、やはり源田だった。

 彼は瞳子の指名に力強く頷いた。

 

「話は終わりかい? 待たせてくれたものだ……」

 

 そこで、再びガゼルの声が届く。

 

「神。王。それで安心したかい、雷門イレブン? その肩書など、凍てつく闇の前には無意味だと思い知らせてあげよう……!」

 

 ガゼルの、闇を孕んだ瞳の放つ視線。

 それが雷門イレブンを睥睨(へいげい)するが、源田は真っ向から向かい合った。

 背筋も凍るような眼光に睨み返し、跳ね返して言う。

 

「そうだな、肩書で勝てれば苦労はしない」

 

 当然のことだ。

 最強の名は、勝つことで後から付いてくるもの。

 それを頼みにするなどあり得ない。

 

「故に、お前たちを打ち砕くのは、最強と(そう)呼ばれるだけのプレーだ」

 

「源王……君は念入りに凍てつかせ、砕くことに決めている。覚悟をしておきたまえ」

 

 そして、いよいよ試合開始となった。

 

「源田……雷門のゴールを、頼む」

 

「任せろ、円堂」

 

 雷門のキーパーユニフォームが今日、初めて円堂以外の者の手に渡る。

 それを見届けて雷門イレブンがフィールドへと歩いていった。

 編成としては、アフロディが浦部と交代したスリートップ。

 リベロになるとはいっても、いま円堂がいきなりフィールドプレイヤーとしてダイヤモンドダストと戦うのは無謀だということで、彼はベンチから見守る形となった。

 

「さて……」

 

 彼に代わってゴールに立った源田は、雷門イレブンの背中を観察する。

 自身に背を預けて立つ彼らには、アフロディ、豪炎寺や鬼道に土門、その他加入して日の浅いメンバーを除き、緊張があるのがちらほらと見て取れた。

 壁山などは頻りに背後をチラチラと振り向いていて丸わかりだ。

 

(まあ、仕方がないな)

 

 雷門イレブンとしては、蹂躙とメンバーの離脱を伴ったジェネシス戦は未だ記憶に新しい。

 それと同格のチームが相手となれば、不安はあって然るべし。

 加えて、以前の敵だったアフロディや源田の加入、円堂のポジション転向までもがたったいま怒涛の如き勢いで押し寄せてきたのだ。

 強いことは身に染みてわかっているといえども、ついさっきまでの、後ろに居るのは円堂だという常識が覆されたのは、彼らには心の柱が取り払われてしまったような心地だろう。

 

(あの監督……)

 

 そんなことなどわかっていて、彼女はこの場でいきなり源田(じぶん)をGKに据えた。

 チームを変化させる方針が決まった以上、遅かれ早かれ円堂はキーパーでなくなる。ならば早くに新しいチームの形を確立させ、選手たちに慣れさせるべきという判断か。

 無論、急激な変化はチームのリズムを崩しかねないが――

 

「やってやろうじゃないか」

 

 源田はこの試合最初の仕事を、チームでの自分の立場を築くことだと決めた。

 代理ではなく、在り方がどうあれ雷門のキーパーなのだと、認識をはっきりさせるのだ。

 方法は、もちろんプレーで。

 

 源田がそう決意を固めたところで、雷門のキックオフのホイッスルが鳴り響いた。

 

「!?」

 

 キックオフがされた瞬間、豪炎寺は眼前の光景に眉根を寄せる。

 それまで普通に陣形を取っていたダイヤモンドダストが、開始と同時に割れた海のように左右へ別れ、ゴールまでの道を開いたためだ。

 もはやゴールへの障害は、ダイヤモンドダストのキーパーであるベルガただ一人。

 しかし彼らは皆、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった様子で、元に戻ってディフェンスをしようという気配もない。

 

「小手調べだ、デザームを破った炎のストライカー」

 

 ガゼルが、ボールを持った豪炎寺へ煽るような調子で語りかける。

 打ってこいと誘っているのは明白だった。

 

「……!」

 

 豪炎寺はその侮りに怒りを込めて、センターサークルの中からボールを蹴り放った。

 荒々しい回転のかかったボールは空気の膜を引き裂きながらゴールへとあっという間に迫り、やがてゴールの角に向けて軌道を変える。

 ゴール前中央に立つベルガを避けてゴールの中へ飛び込む形だ。

 

「なに」

 

 だが、それが得点になることはなかった。

 横へ跳び上がったベルガが、片手でボールを軽々と受け止めて見せたのだ。

 進路を遮られたボールはそれ以上進めず、彼の手の中に収まってしまう。ノーマルシュートとはいえ、エースの放ったそれを容易く止めたことに雷門イレブンへ緊張が走る。

 しかも彼らの行為は、これだけでは終わらなかった。

 

「フッ――!」

 

 ボールを握ったベルガは、そのままそれを雷門のゴール目掛けて投げつけたのだ。

 振りかぶった腕から放たれたボールは、一直線にフィールドを縦断して源田目掛けて飛んでくる。

 

「……」

 

 源田は右手を突き出し、バシンという音を立てながらボールをその場で難なく受け止めたが、ゴールからゴールへボールを投げるというサッカーの常識では考えられない所業に、雷門イレブンは衝撃を抑えられなかった。

 

 無論、この行為に試合の勝敗に繋がる要素はない。

 味方選手へのパスならばともかく、ゴールからゴールへ直接投げれば相手にもキーパーが居る。現に源田が受け止めたように、ボールがゴールラインを割ることなどあり得ないのだから。

 しかし彼らが常識では捉えられない力を持つことを示すには十分。

 

「なんてやつだ……!」

 

 ベンチから一部始終を見ていた立向居が戦慄する。

 少なくとも自分には、あの長距離でボールを直線軌道(ストレート)に飛ばす腕力はない。

 フィールドに立つ殆どの者たちにも、少なからず立向居と同じ心情が窺えた。

 この示威行為は、ダイヤモンドダストの思惑通りの結果を出していたのである。

 

「大丈夫だ、立向居」

 

「円堂さん?」

 

「狼狽えるな、お前たち」

 

「鬼道……?」

 

 雷門のゴールに立つのが、彼でなかったのならば。

 彼は丁度いい、と一人呟いてボールを握った腕を振りかぶる。

 

「遠投が自慢か?」

 

 その声にはそこまでの声量はなかったが、不思議とダイヤモンドダストの陣地までよく届いた。

 次の瞬間、源田は投石機(カタパルト)のようにボールを投げ飛ばす。

 

「――っ!? アイスブロック――V2!」

 

 空気の層を突き破るスピードで眼前まで迫ってきたそれを、ベルガは咄嗟に必殺技で凍りつかせる。

 

「なにっ」

 

 このまま雷門イレブンが衝撃を受けている間に雷門サイドへ入り込むつもりでいたガゼルが、自分の横を突き抜けた風に勢いよく振り返った。

 ベルガももちろん、ボールは完璧に受け止めた。しかし、傷のような白い模様の入ったバンダナで覆った表情は読めないものの、そこから先ほどまでの余裕が消えているのは明らかだった。

 

「……!」

 

 衝撃はビリビリとした痺れとなって未だにベルガの右腕を走り回っている。

 もし、必殺技を使っていなければ、ボールを取り損ねたかもしれない。

 そんな想像が脳を過り、ベルガは思わずその張本人を見遣って、息を呑んだ。

 

 自分の正面に立つ男から、先ほどまではなかった威圧感が強く感じられたのである。

 ガゼルのそれとは違う野獣の如き眼光、あるいは燃え盛る炎。それに圧倒されたのだ。

 そして仁王立ちする彼の姿は、味方にも影響を与える。

 

「これが……俺たちの味方っスか……!」

 

「心強いじゃねえの、源田」

 

 円堂が、彼らを後ろから支える雄大な山のようなものとするならば。

 対する源田は、彼らの背後で燃え上がり、その前方まで照らすほどの強烈な炎だった。

 たった一プレーで、源田は雷門のゴールキーパーとしての存在感を示したのである。

 

「やってくれるね、源王……!」

 

 ガゼルが忌々しげに源田を睨む。

 彼のプレーで先ほどの衝撃が完全に雷門イレブンから掻き消されたどころか、ダイヤモンドダストの方に若干の動揺が起こってしまったのだから。

 

 所詮、これは試合開始早々の小競り合い。

 しかしそれでも、王者はここに在りと、(しか)と知らしめるには充分過ぎる時間だった。

 

 

 

 

 




円堂守
急展開でポジション転向。
GK同士のキャッチボールは、相手(ベルガ)ができるなら源田もやるだろうという判断。

綱海条介
吹雪兄弟よりも後、小学6年生時代の源田と出会い、サッカー部へ入部している。
だが源王=源田の認識はなかった。

立向居勇気
本作では残念ながら出番減少。
ムゲン・ザ・ハンドは習得してもらう予定。

ガゼル
試合始めるって言ってるのに長々と話されてご立腹。
凍てつく闇の冷たさを教えてやる……!

アイスブロッ
ベルガ君。パフォーマンスのつもりでボール投げたらわからされた。

源田幸次郎
加入と同時に雷門GKへ。
復活早々に超次元フィジカルを見せつける。





源田加入と同時に「円堂君にはキーパーやめてもらいます」展開は急じゃね?と思われるかもしれません。
でも、それでもベルガにボールを投げ返すシーン書きたかったんや……!



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