源王は玉座を譲らない   作:青牛

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新体制の先行きは暗くない

 試合終了のホイッスルが鳴ったと同時に、対峙する両チームの間に現れた赤毛の少年。

 フィールドの空気がなんでもないように自然体で歩いてきた彼は、にこりと源田に微笑みかける。

 

「凄いね、君」

 

 友好的な態度だが、それが向けられた源田の表情は固かった。

 

「お前がグランか」

 

「俺のこと、知ってるんだ。……なんだか恥ずかしいね」

 

 赤毛の少年――グランが頬をかくのに対し、源田は警戒心を隠しもしない。

 全国のテレビがジャックされ、陽花戸中でのジェネシスの試合は中継されていた。そこではジェネシスの者たちが人間離れした力を見せつけていたが、その中でも際立った力を見せたのがこの男。中継されていた試合中の姿とは違う地球人らしいものであるが、その身に漲る力は誤魔化せない。

 

「それはともかく、本当に凄いよ。あんなにガゼルのシュートを止められるキーパーなんて初めて見たな。俺も油断していられないって思っちゃったよ」

 

「……よく言う」

 

 一見しおらしげに思えるが、仮にも同格の筈のガゼルが全力を尽くしてようやく一点をもぎ取った試合を見ても、“油断できない”程度の言葉であることに、グランの自信が見て取れた。

 楽勝とは間違っても考えていないのだろうが、逆に、負ける可能性もまた微塵も感じていないのだ。

 そしてグランは、源田が自分の内心に気づいていることに気づいて、笑みを深める。

 

「嫌いじゃないよ、源田くん。君のその目」

 

「ヒロト!」

 

 そこでベンチから、円堂がグランの地球人の姿での名前を呼びながらやって来た。

 呼ばれたのに対し、グランは以前散々に蹂躙した相手へにこやかに振り向いた。

 

「やあ円堂くん。キーパーの君が見れなかったのは残念だったけど、代わりに良いものが見られたよ。チームの力が随分上がってる。短い間によくここまで強くなったね」

 

「エイリア学園を倒すためなら、俺たちはどこまでだって強くなってみせるさ」

 

「いいね。戦うのが楽しみだ。……それじゃあ、またね」

 

 グランがそう言うと、ダイヤモンドダストが現れた時と同じ青白い光が、置いてあった黒いボールから溢れ出した。

 ダイヤモンドダストと一緒に沖縄で出会ったバーンも居る。彼も試合を見ていたらしい。

 彼らが集まっているのは、引き揚げるということなのだろう。

 ガゼルは眩い光に顔を照らされながら瞬き一つせずに源田を睨みつけて、告げる。

 

「源田幸次郎……次は必ず、君たちを倒す!」

 

 冷たさの中に、煮えたぎる雪辱の念を滲ませたその言葉には、彼らの姿が消えた後も残雪のように染み付くものがあった。

 

「……次、か」

 

 自分たちは彼らエイリア学園を完全に止めなければならない。

 そのためには、次に引き分けではなく勝利を掴むには、新たな体制、生まれ変わったチームを完成させるしかないのだろう。

 円堂はその決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 静けさを取り戻したスタジアム。

 激戦を演じて一息ついた雷門イレブンは、その外のキャラバンに集まっていた。

 

「それじゃあ、一緒に戦ってくれるんだな!」

 

「ああ。よろしく」

 

「歓迎するわ。アフロディくん、源田くん」

 

「感謝します、監督」

 

「……そういえば、自己紹介をしていなかったな。帝国学園サッカー部の源田幸次郎だ。知らない者もいると思うが、よろしく頼む」

 

「ボクも改めて名乗っておこうか。世宇子中サッカー部のキャプテン、亜風炉照美だよ。アフロディと呼んでほしい。みんなよろしく」

 

 その最中、大事なことをすっかり忘れていたと目を丸くした源田、そしてアフロディが雷門イレブンにそれぞれ名乗る。

 とはいえ、いまさら彼らのことをなにも知らない者などこのチームにはいない。

 少なくとも実力に関しては、もういやというほどに見せてもらったところなのだから。

 

「ウチは浦部リカや。アフロディ、クイーンの座は渡さへんで! そのつもりでよろしゅうな」

 

「俺、木暮」

 

(あたし)は塔子。よろしく!」

 

 こうして正式に、アフロディと源田のチームへの加入が認められる。

 今日が初対面のメンバーが各々簡単に自己紹介をするが、最後になった人物の名乗りで源田の魂に衝撃が走る。

 

「立向居です! よろしくお願いします!」

 

 つい最近キーパーに転向した彼からすれば、源田はまさしく大先輩である。

 そんな有名人との対面による緊張で微かに頬を染めながら、若干裏返った声で挨拶した立向居に、源田の視線は釘付けだった。

 その名と顔が彼の記憶の断片を呼び覚ます。

 この少年もまた、円堂と同じく玉座を争うことになる男なのだと。

 

「……そうか……お前だったな……」

 

「源田さん?」

 

「いや、なんでもない。よろしくな」

 

 見つめられて怪訝な顔をした立向居。彼には呟きまでは聞こえておらず、源田は首を振って流す。

 こうして二人の加入という話題を終えて、いよいよ新体制のチームの話だ。

 

「試合前にも言ったように、円堂くんにはキーパーをやめてリベロになってもらうわ」

 

「キャプテンに代わってキーパーをするのが……」

 

「キーパーは源田くん。そして……立向居くん。あなたたちにしてもらうわ」

 

「…………。…………へっ? 俺もですか!?」

 

 まさかの指名に、呼ばれた立向居本人が()頓狂(とんきょう)な声を上げた。

 彼にとっては完全に不意打ちだったのだから無理もないが、瞳子もこの場面で冗談を言うタイプではない。

 彼女は立向居を見据えたまま話を続ける。

 

「これからの戦いはもっと激しくなるわ。マスターランクチームと戦えるほどのメンバーの補充はまずできないでしょう。そこでもし源田くんが試合に出れないことがあったら、どうするの?」

 

「そうか、円堂さんがキーパーに戻ったら折角のリベロが……」

 

「チームの攻撃力と防御力の両立体制を磐石にするためよ。あなたにはこれから本格的にキーパーをしてもらうわ」

 

「俺が……」

 

「大丈夫だ、立向居!」

 

 自信がなく、まだ迷いの見えた彼に円堂が朗らかな声をかける。

 

「うまく言えないけど俺、お前には可能性を感じるんだ。きっと凄いやつになるって」

 

「“ゴッドハンド”も“マジン・ザ・ハンド”も覚えることができたお前だ。円堂の後継者に最も相応しいと言えるだろう」

 

 円堂に続き、陽花戸中での彼のひたむきさを見ていた鬼道も言葉をかけた。

 

「なにより……いまこのチームには全国トップクラスのキーパーが二人も居る。またとないチャンスだぞ?」

 

「……!」

 

 鬼道の言葉に、今のこのチームがどれ程の奇跡なのかを立向居が実感する。

 なにせこのチームのメンバーの殆どは、本来別のチームの選手。エイリア学園を倒すという一つの目的で集まった仲間たち。

 何事もなかったら、そもそも出会うことさえなかったかも知れない数奇な運命だ。

 それを、成長の糧にしていけない理由などないのである。

 

「やってみろよ立向居! 源田の代わりなんて小さなこと言わずに、超えちまうつもりで強くなろうぜ!」

 

 数々の激励を受けた立向居は不意に、また視線を感じて源田を振り向いた。

 目と目が合う。瞬間、身震いが彼の体に現れる。

 その震えの源は恐怖ではない。

 立向居は、源田の瞳に炎を見た。煌々と燃える闘志が、彼の心まで照らし出す。

 

 

 

――負けるつもりはない。

 

 

 

 単純とさえ言える飾り気のない対抗心。

 それが彼の闘志にまで燃え移る。

 自分を、対等な競走相手と見ているのだ。

 こんなに真っ直ぐな強い心をぶつけられてすべきことは、ぐずぐず遠慮することではないだろう。

 全力でその思いに、応えるしかない。

 彼の憧れた円堂もきっと、そうしたのだろうから。

 

「……はい! 俺、頑張ります!!」

 

 ピシッと、固すぎるくらいに背筋を伸ばした立向居の元気のいい宣誓に、源田は満足げに頷いた。

 

「これは、まさに革命です!」

 

 チームの新体制の話も纏まったところで、目金が眼鏡を光らせながら興奮気味に語り出す。

 

 アフロディのフォワード。

 

 円堂のリベロ。

 

 源田と立向居のゴールキーパーの双璧。

 

「このチームが完成すれば攻守において磐石な、まさに地上最強イレブンの誕生です!」

 

 彼の言う通り、ここに集まった選手たちがチームとして纏まれば、地上最強という枕詞もけして過大ではないだろう。

 敵は強大であるが、こちらもまだまだ強くなる余地があるとなれば俄然やる気が湧いてくるというものだ。

 

「…………」

 

 アツヤ一人を、除いては。

 

 

 

 ダイヤモンドダストの襲来を凌いだ雷門イレブンは稲妻町へ帰ってきた。

 思わぬ激戦を繰り広げたこともあり、新体制での練習は明日からと決まっている。

 つまり今日は身と心を休める自由時間というわけで、円堂らは久しぶりの故郷で過ごす時間にリラックスし、そうでない者たちは円堂らの故郷ということで興味津々だ。

 

「よーしそれじゃあ、みんな(うち)に来い! みんなまとめて泊まってくれ!」

 

「おお太っ腹! 世話んなるぜ!」

 

 円堂を皮切りに続々とキャラバンを雷門イレブンが降りていく。

 長い間留守にしていた家へ向かう鬼道や壁山、夏未などの雷門生。そして円堂の先導で彼の家へ向かう塔子や綱海ら新加入組。

 彼ら皆が降りたのを確認した瞳子が、最後にキャラバンを降りる。

 

「アツヤくん?」

 

「……監督」

 

 するとそこには、アツヤが彼女を待ち受けていたように佇んでいた。

 

 

 

 夕陽に照らされる稲妻総合病院の屋上では、染岡の見舞いに来た士郎が彼と話し込んでいた。

 士郎はこれまでの旅の様々な思い出を染岡に語っていくが、やがてその顔が浮かないものに変わっていく。

 

「……最近、アツヤの考えていることがわからなくなってきたんだ。悩んでるのなんて、見ればわかる。けどなんて言ってやればいいのか。どうしたら、昔みたいに楽しくサッカーができるのかわからないんだ」

 

 今回のダイヤモンドダストとの試合でも、アツヤには焦りが見えた。

 そして彼の打ったシュートをガゼルに打ち返されて、それが得点となって同点に終わったのだ。

 責任を感じてもおかしくない。

 しかし打ち返されたシュートに撥ね飛ばされた彼は、心配する誰に対しても気丈に振る舞うばかり。

 

 北海道でサッカーをしていた頃は、弟の考えることなんて手に取るようにわかった。

 単純で、すぐに熱くなって、自分は時々その手綱を引きながら、二人でプレーする。

 それがいままでの兄弟のサッカーだった。

 だが、長く険しい戦いはそんな在り方を打ち砕いたのだ。

 

「僕……兄失格なのかな」

 

「んなことねえよ!」

 

 それまで静かに話に耳を傾けていた染岡が、士郎の零した言葉に口を挟んだ。

 

「兄弟だからって、何もかもわかったりしてたまるかよ。結局二人は違うんだよ。歳も、性格も、ポジションもな」

 

「……」

 

「でも、そんな違う奴らがみんなでやるのがサッカーなんだぜ」

 

 だからいいんだと、染岡はベンチから松葉杖を支えに立ち上がって笑う。

 

「言葉じゃ伝えられねえことがあっても、サッカーで伝えられることだってあるはずだ。アツヤにそれを見せてやるのが、一番兄貴らしいんじゃねえか?」

 

「……染岡くん」

 

「アイツとの出会いは……正直言って最悪だったけどよ。アツヤもお前も、もう立派な雷門イレブンだ。俺たちの仲間だ」

 

 染岡の語る言葉に、俯き加減だった士郎の顔が上がった。

 

「アツヤはきっと立ち上がれる。お前は、立ち上がろうとするアイツを全力で支えてやってくれ。俺の分まで……ぐぅっ!」

 

 そこまで言って、染岡の顔が苦痛に歪む。

 転げ落ちるような勢いで元のベンチへ座り込んだ彼へ、慌てた士郎が駆け寄った。

 

「染岡くん! 大丈夫……?」

 

「……なんてことねえさ。お前らに比べればな」

 

 脂汗を滲ませた顔で、染岡はそれでも笑ってみせる。

 そんな彼の男気が士郎の心に染み入り、温かくしたのだった。

 

「……ありがとう、染岡くん」

 

「でも、ここでのことをアツヤには言うなよ。小っ恥ずかしいからよ」

 

「そう言うと思ったよ。もちろん言わないさ」

 

「それで、これは伝えてくれ」

 

 その時、屋上で風が流れ始めた。

 横から吹き抜ける柔らかな風が士郎の髪と、染岡の患者衣の襟を揺らす。

 

「また一緒に、風になろうぜ」

 

「…! うん。絶対だよ、染岡くん」

 

 染岡の言伝てを、必ず弟にも届けると頷く士郎。

 差し込む夕陽は彼らの友情を照らしているようだった。

 

 

 

 

 

 染岡と別れて病院を後にした士郎が、泊まらせてもらう円堂の家へと歩いている頃。

 日が暮れ始めた河川敷で怒鳴り声が響く。

 

「お前に、何がわかんだよ……!」

 

 ただ、その声は感情が爆発していると同時に、ひどく弱々しい。

 そこには震える唇を噛み締めたアツヤと、胸ぐらを掴まれながら静かに彼を見る源田の姿があったのだった。

 

 

 




立向居勇気
円堂に憧れてキーパーとなった彼だが、キーパーの動きは源田の映像もたくさん見て参考にしている。シンプルに強いため。
源田からすれば立派なライバルの一人。

吹雪士郎
アツヤの力になれない自分に不甲斐なさを感じていた。
染岡相談室で精神状態が改善。

染岡竜吾
入院中。不器用ながら仲間への気遣いをみせる。

グラン
ザ・ジェネシスのキャプテン。
間接的にガゼルを煽ってるような言葉は無自覚。


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