源王は玉座を譲らない   作:青牛

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雷門に頑張らない者はいない

 ダイヤモンドダストの急襲を乗り越え、一夜を明かした雷門イレブン。

 彼らの姿は、新校舎の建設が続く雷門中のグラウンドにあった。

 やることは当然、新体制での練習である。

 その目玉はやはり、円堂が黄色のユニフォームを身に纏って練習している姿だろう。

 

 雷門の黄色とは即ち、フィールドプレイヤーだ。

 キーパーとしての円堂を長らく見ていたチームメイトには、その姿は新鮮に映る。

 そして肝心な、リベロとしての特訓はというと。

 

「手を出すなと言っているだろう円堂!」

 

「だーっ! 仕方ないだろ!?」

 

 難航していた。

 なにせ彼はずっとキーパーをしていたのだ。ユニフォームを変えたところで、その身体に染み付いた感覚を切り替えるのは容易ではない。

 実際、今もアフロディから放たれたシュートに対し、頭ではなく手を出してしまっていた。

 

「特訓のやり方、考え直した方がよくないか?」

 

 そう提案するのは、先ほどから豪炎寺とアフロディにボールを上げている土門だ。

 現在行っているのは豪炎寺とアフロディのシュートを円堂がヘディングで迎え撃つという、新たな必殺技のための特訓なのだが、今のところは必殺技以前の地点で躓いてしまっている状態である。

 このまま続けても、彼からして不毛と言わざるを得ない。

 

「大介さんのノートを読み解き、必殺技をモノにしてきた円堂のアイデアなんだ。俺は円堂を信じる」

 

「……! ありがとう、鬼道!」

 

「とはいえ、土門の言うことも尤もだ」

 

「鬼道!」

 

 鬼道が土門の主張にも理解を示したそのとき、源田の元気よく呼ぶ声が聞こえてきた。

 次いで響くのは、ずん、という鈍い音。練習中だった面々の視線が何事かとグラウンドの外を向く。

 音のした方から歩いてきていたのは、これまでグラウンドに居なかった源田である。

 雷門イレブンは彼を、そして彼が背負っていた物を見て言葉を失った。

 

「源田くん……それ、は、いったい?」

 

 アフロディが間近に迫った”それ“を前に漂うゴムの臭いで呆然と(フレーメン反応)しながらもか細い問いを投げ掛ける。

 なんというかそれは、アフロディの常識を真っ向から粉砕する概念の結晶だった。

 

「これか? すまないがこれは円堂用だ」

 

(俺?)

 

 源田は絞り出した彼の問いにさらりと答えると、そのままずんずんと地響きすら起こす重量感たっぷりの歩みを進め、同様に固まっている円堂の傍までやって来て”それ“を一度地面に下ろした。

 瞬間、グラウンドに起こる一際大きな地響き。

 

 置かれた黒いそれは大きく、ぶ厚く、何より人間が持つには重過ぎた。

 

 というか見紛うことなきタイヤそのものだった。

 それも、一般に見る自動車に付いているものではない、間違いなく大型車両に使われるような特大サイズの代物。

 円堂や彼の特訓を知る者には見慣れた特訓アイテムだが、源田が持ってきたのは、それを三つ重ねた状態で、崩れないようにロープで固定されたもの二つだ。

 それぞれから一本、太く固そうなロープが伸びている。

 源田はそのロープを掴み、円堂に差し出した。

 

「さあ円堂、こいつを使うといい。これを持っていればボールに手を出す余地はないぞ」

 

「お、おぉ……どうしたんだ? これ……」

 

 流石の円堂も、目の前で地響きを立てて着地した重量物を言われるがまま受け取るほど鈍くはなかった。

 ここで選択肢を誤れば、命に関わる(ゲームオーバー)

 そんな直感に従い、話を逸らして時間を稼ぐ。

 

「さっき鬼道から、お前の腕を封じられるものを用意してくれと頼まれてな。作った」

 

(鬼道くん???)

 

(鬼道……)

 

(俺はあんなもの作れとは言ってない)

 

 彼らのやり取りを聞いていたアフロディと豪炎寺からなんとも言えない目を向けられた鬼道は毅然とした佇まいで、自らの無罪(セーフ)を主張する。

 

――ああ。そういえば源田(こいつ)はこんなやつだった。

 

 鬼道はいままさに思い出していた。

 雷門での濃い日々のせいですっかり失念していた、帝国の守護神の有り(よう)を。

 まだ鬼道たちが帝国学園に入学し、サッカー部員となってまもない頃のことだ。

 

『源田か。精が出る――なんで…寺門が…倒れてる…』

 

『ああ、鬼道か。お前も早いな。朝練前にトレーニングしていたらさっき寺門も来て、俺もやると……』

 

『……それで?』

 

『寺門が寝てしまった』

 

『……そうか』

 

 その日の午前中、寺門は使い物にならなかった。

 午後にはなんとか復活したのは、彼の帝国選手としての意地がなした業であろう。

 

『……? 源田、なんだそれは?』

 

『これか? 特訓場のボール発射装置の威力がどうにも物足りなくてな。この前総帥に相談したところ……今日こいつが届いた』

 

『(……従来のものが鉄砲なら、これは大砲だな)』

 

 後日、試しにその発射装置を使った三年のキーパーが背後のゴールに叩き込まれた。

 帝国の特訓場には、導入したものの彼以外にまともに使える者がいないという理由で源田専用となっている特訓マシーンが数多い。

 このように、帝国サッカー部では度々源田が中心となった騒ぎが起こっていた。

 “禁断の技”に纏わる騒動もその一つ。

 

――帝国学園には……こういう男がいたのだったな。

 

 そんな帝国での日々を思い出して遠い目をする鬼道に、アフロディと豪炎寺も大体の事情を察せてしまった。

 彼らがそんな視線だけで通じ合える信頼関係の無駄遣いをしている最中も、源田から詰め寄られる円堂はいまにも、問題のタイヤの塊を手に取らされそうだ。

 

「俺も持ってみた感じ、なかなかいい負荷だと思うぞ。こいつを使えば必殺技と一緒に身体も鍛えられて一石二鳥だ!」

 

「あ、ああ……」

 

 源田の屈託のない笑顔とサムズアップに、円堂は曖昧な笑みしか返せなかった。

 イメージとしては、両手にバケツを持って廊下に立たされる感じが近いだろうが、いま持たされそうなのは水入りバケツの比ではない。

 源田がここまでこの拷問具を持ってくる様を見ていた円堂の脳裏には、これを持ち上げようとした己の腕が比喩でなく引っこ抜ける光景が浮かんでいた。

 

「キャプテンがキーパーに戻れなくなっちゃうっス……! め、目金さん……」

 

「君が言ってきたらいいじゃないですか壁山くんっ」

 

 様子を見ていた者たちの一員である壁山と目金が源田(アレ)を止めろとお互い小突き合うが、二人はもちろん、なぜか皆が動けなかった。

 形容し難いが、円堂へ拷問具を勧める源田のにこやかな姿には“それはムリだ”と割って入るのを躊躇わせるオーラがあったのだ。

 しかし円堂も、源田の100%善意の行いにいつまでも抵抗することはできない。

 誰かが止めなければ、間違いなく円堂は新必殺技どころでなくなってしまうだろう。

 

 エイリア学園と戦う前に味方にキャプテンが殺されるなど笑えない。というかなぜ特訓で命の危険を感じなければならないのか。

 そんな不条理への反感さえ覚え始めた雷門イレブンだったが、この奇妙な時間はあっさりと終わることになる。

 

「なにやってるのあなたたち?」

 

 救世主は、作ったスポーツドリンクを持ってきた夏未であった。

 彼女は異様な状況にひきつった顔を、学生でありながら雷門中運営に携わる才女としての凛とした表情に変え、その空気の元凶へと突き進んだ。

 そこからは早かった。

 

「その危険物は没収します」

 

「えっ」

 

「これは理事長の言葉と思いなさい」

 

「俺は別に雷門中の生徒では……」

 

「黙りなさい」

 

「はい」

 

 斯くして、雷門夏未の活躍によって源王の野望は阻止された。

 帝国はもちろん、雷門でも自分の感覚が受け入れられないらしいと知った源田は肩を落として自分のトレーニングに戻っていく。

 その背中は、彼の異名が嘘のような哀愁に満ちていた。

 

 

 

 

 

 ハプニングがありながらも順調に進み出した円堂の特訓。

 一方の立向居の特訓であるが、彼が習得を目指す、裏ノートに記されていた究極奥義の一つの“ムゲン・ザ・ハンド”がまた難解だった。

 唯一大介の字を解読できる円堂の言葉でも、その極意は擬音のみで全く要領が掴めない。円堂の推測では全身を目と耳のようにしてシュートを見切る、ということだそうだが――

 

「シュタタタタタン、ドバババ――へぶっ」

 

「立向居!」

 

 現状、習得へは遠いようだ。

 目を閉ざし、音だけでシュートを見切ってみようとしている立向居だが、今のところまともにボールを取れていない。

 言うまでもないが、視覚は人間の知覚の殆どを占める。

 普段頼り切っている感覚を封じれば、大抵の者は真っ直ぐに歩くのも覚束なくなるだろう。

 ましてや飛んでくるボールを受け止めることなど夢のまた夢。

 

「大丈夫か?」

 

「まだまだ……次、お願いします!」

 

「いいガッツだな。こっちも遠慮なく行くぜ!」

 

 しかし、雲を掴もうとしているような心地でも、立向居はその目標にめげずに挑み続ける。

 その姿には、鬼道が評した通り円堂の後継者と呼ぶのに相応しい魂が宿っていた。

 究極奥義をモノにするまではの道のりは長そうだが、彼は大丈夫だろう。

 そうなると、残るは――

 

「――アツヤ! お前本当に一緒にやらなくていいのか?」

 

 昨日()()()()と特訓をして満身創痍だという、ベンチに腰掛ける彼へ綱海が声をかけた。

 

「ああ……いまはな。足棒みたいだしよ」

 

「そうか! 蹴りたくなったらいつでも言えよな!」

 

 綱海はその返事に朗らかに笑いかけて、立向居のゴールへ向き直った。

 彼らの姿を、アツヤは目に焼き付けるように見る。

 

(いまは……見ていたい)

 

 これまで自分がちゃんと見れていなかったチーム、共にサッカーをする仲間たちを。

 それが、ただ漫然とボールを蹴っているだけでは駄目だと考えたアツヤなりの向き合い方である。

 アツヤの目に映る彼らは皆、これがエイリア学園との戦いのための特訓であっても、楽しそうだった。

 緊張感がないのではない。

 自分たちが、何のためにこの戦いを続けているのか。それが、彼らにはわかっているのだろう。

 

『アツヤ。染岡くんが、“また風になろう”だって』

 

 大好きなサッカーを取り戻す。

 いまは会えない仲間たちと、あの日と変わらず笑い合うために。

 

 もしあのまま逃げ出していたら自分はそれを忘れたままでいたかもしれない。

 大切なものを拾い直すように、アツヤは彼らとボールの一挙手一投足を見つめていた。

 

(立向居……アツヤ……皆、頑張ってる)

 

 そして、仲間たちの懸命な姿に力をより一層漲らせていたのは円堂だ。

 彼らの努力に応えようと、自らもまたキャプテンとしての姿を見せ、それが仲間たちの力となる好循環。

 新たなチームの形を得た雷門イレブンは、着実に出来上がっていく。

 

 数日後に円堂がモノにした必殺技は、そのチームの新しい力の象徴のようだった。

 

 

 

 彼らの進化は、帝国学園にて加速する。

 




源田幸次郎
ちょうじげんのかんかくわからない

昔は前世の常識に沿ったトレーニングをしていた。
しかしパワーシールド習得後、覚醒。

①今のトレーニングで満足できなくなる
②(超次元だし)もう少し負荷を強くしてみるか
③トレーニングのレベルが上がる
④一時的に満足する
⑤身体がトレーニングに順応する(①に戻る)

円堂守
タイヤを背負ったり引っ張って走ったり受け止めたりはするが、流石にタイヤ6個は無理だと感じる。
普通の中学生はタイヤ一個でも背負うのは無茶だと思います。

鬼道有人
(源田が勝手にやったので)俺はセーフだ!

吹雪アツヤ
建前っぽい源田の特訓だが、実際はベンチに座っている今も足が棒のよう。



次回
雷門イレブン、帝国学園へ

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