源王は玉座を譲らない   作:青牛

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帝国の威名は伊達ではない

 新しい必殺技――“メガトンヘッド”を習得した円堂。

 しかし、それだけでリベロとして完成したわけではない。

 更なる必殺技が必要だという鬼道の言葉に従い雷門イレブンがやって来たのは――

 

「これが……」

 

「帝国学園か!」

 

 都会のど真ん中を占有し、余人を寄せ付けない威容を誇る巨大な黒鉄(くろがね)の要塞――帝国学園だった。

 全国最強と名高い超名門校の鋼のように硬く冷たい佇まいは、かつての雷門イレブンが地区大会決勝戦で訪れた時から少しも変わっていない。

 今回はここへ練習に来たのだが、壁山や木暮は校舎を見上げて思わず息を呑む。

 

「よし、行こうか。話はもう着いている」

 

「……ああ、そうだな」

 

 帝国を学び舎とする源田は自然体そのもので、気楽に校門を越えて歩いていったが。

 その背を見つめた鬼道は、彼に続いて敷地内へ踏み込んだ。

 

 

 

 帝国学園は外から見てもわかる通り、非常に巨大かつ広大だ。

 校内の施設も、他の学校とは比べ物にならないほど充実している。

 加えて要塞のような校舎が非日常感をこれでもかというほどに溢れさせているからか、FFでやって来たことのあるメンバーもこの旅で加わったメンバーも、源田と鬼道を先頭に校内を歩きながら興味津々にあちらこちらへ視線を向けていた。

 

「凄いな、フィールドが一杯ある!」

 

「あれらは練習用のフィールドだな。練習試合も普段はあそこのどれかでやっていたが……俺たちが向かっているのは、地区大会の決勝でも使ったスタジアムだ」

 

 渡り廊下から眼下に広がる芝生を見下ろしてはしゃぐ塔子に、鬼道が説明する。

 全国の覇者、40年無敗だった帝国サッカー部は学校からも力が入れられており、部員数も他のスポーツとは段違いである。

 フィールド一つではサッカー部総員の内の三分の一も収まり切らない。

 

「スタジアムのフィールドは試合の他に、昇格試験や練習にも使ったりするんだが、基本的に一軍しか使えないんだぜ。なんとかサブメンバーに入ってあそこに立ったときは感慨深かったなぁ」

 

 鬼道と同様に帝国在籍歴を持つ土門が、懐かしそうに語る。

 それは帝国学園の伝統の一つ。

 資格のない者はスタジアムのフィールドに立つことすら許されず、小学生時代に名の知れたプレイヤーが一度もそこの芝生を踏むことなく卒業していくなんてことも珍しくない。

 二軍以下のサッカー部員たちは、一軍の精鋭にのみ許された聖域を見上げ、自らもそこに立つことを夢見て厳しい練習に励むのだ。

 

「二軍かぁ……」

 

「こればかりはな。どうしたって試合に出られるのは11人……それに対して帝国(うち)の部員数は100を軽く超えるんだ。こうした区別は必要になる」

 

「確かにな」

 

 雷門中のサッカー部は、そもそもつい最近まで部員が11人も居ない弱小だった。

 そのためあまりにも縁遠い帝国サッカー部の話に円堂がなんともいえずにいたが、雷門中に来る以前は名門である木戸川清修に籍を置いていた豪炎寺は理解を示す。

 規模が違うだけで、雷門で起こったレギュラーからのベンチ入りとて本質は変わらない。やるならば皆勝ちを目指す。そして勝ちを目指せば、強いメンバーを試合に出そうとする。

 “強い”の基準はチームによって異なるだろうが、それはサッカーが勝負の世界である以上は偽れない真実だ。

 

 ただ、そこまで考えて。

 沖縄で豪炎寺と過ごした夜の話を、円堂は思い出していた。

 エイリア学園との戦いの中で仲間が去り、新たな仲間を加えるいまの自分たち。

 彼らに勝つには力が必要だった。

 しかしこの旅では、得たものと同時に失ったものもあるのではないか、と語った話を。

 

「こっちの部屋はトレーニングルームだ。帝国の誇る特訓マシンがたくさんある。お前たちなら使いこなせるだろう。自由に使ってくれ」

 

「なんかごちゃごちゃしてんな!」

 

「イナビカリ修練場みたいっスね~」

 

「ナニワの特訓場とも見劣りせぇへんわ!」

 

「――凄いな、これが帝国の特訓場か!」

 

 物思いに耽りかけた円堂だったが、源田の紹介に気を取り直して、彼が指し示した広い部屋を入口から見渡してみる。

 中には見たことのないようなマシンがところ狭しと並んでいた。

 これこそが、歴代の帝国イレブンを全国トップに相応しいプレイヤーに育て上げてきた、帝国学園の技術の粋の結晶なのだ。

 

「必殺技の特訓も大事だが、基礎も欠かさずにな」

 

 にこやかに言う源田の姿は、いっそ暴力的なほどの説得力に満ちており、雷門イレブンは先日の一件を思い出しながら揃って神妙に頷いた。

 

 

 

 そんな調子で道中の使いそうな施設を紹介して進みながら、彼らは学園の中心に聳えるスタジアムへ辿り着いたのだった。

 フィールドでいよいよ特訓を始めるわけだが、ここへ来て行う必殺技とは一体なんなのか。

 彼は円堂と土門を呼び集めると、ついにその答えを明かす。

 

「“デスゾーン”をやるぞ」

 

「“デスゾーン”を?」

 

 それは円堂も土門もよく知る帝国の必殺技である。

 鬼道の構想は正確に言うとその進化型なのだが、どうあれ基となる“デスゾーン”が使えねばならないのでやることは同じだ。

 

「鬼道が“デスゾーン”をやるのか?」

 

 彼らの話を聞きつけた源田が、珍しいものを見た目をする。

 

「帝国では、お前がするのはあくまでタイミングの指示だったが」

 

「雷門はそういうチームじゃないだろう。俺だってシュートを打ちもするさ」

 

「それもそうだな……ああ、成程。皆を呼んだのはそういうわけか」

 

「皆?」

 

「後でのお楽しみだ」

 

 そして雷門イレブンは鬼道たちデスゾーン組、立向居と彼に協力する綱海のムゲン・ザ・ハンド組、各々のメニューを持つメンバーらに別れて特訓を開始した。

 

「3……2……1……ストップ!」

 

「うーん……また失敗か」

 

「さっきよりは合ってきてるんじゃないか?」

 

「まあボールを後ろにするよりはな」

 

「うぅ~」

 

 三人がやっている特訓は、ボールを中心に三角形の陣を組んでそれぞれ回転し、ボールを正面にして止まるというもの。

 回転とその息を合わせるのが、ボールにエネルギーを注ぎ込む“デスゾーン”の肝と言える部分だ。

 精密機械のような緻密な連携を持ち味とする帝国の特色が最も表れている技だろう。

 しかし、その帝国の選手でも完成するのに一ヶ月かかったシュートの習得は一筋縄ではいかない。

 

「こればかりは数をこなしてタイミングを掴むしかないな。もう一度だ!」

 

『おう!』

 

 そうして彼らの回転が繰り返される背後のゴールでは、立向居が依然として“ムゲン・ザ・ハンド”の特訓を続けている。

 

「やったな立向居、目を閉じたままキャッチできたじゃねえか。“ムゲン・ザ・ハンド”、完成だな!」

 

「……いえ、いまのは目を閉じてただけで見切れていませんでした。必殺技じゃありません」

 

「んー? まあ確かに、必殺技って感じじゃなかったか」

 

 こちらも進展はあるものの未だ習得には至らない。

 各々が四苦八苦しながら、時間が過ぎていく。

 

「やってるな、鬼道」

 

 そしてしばらくして、鬼道に新たな声がかかる。

 声の方に目を向ければ、そこには歩いてくる帝国イレブンの面々の姿があった。

 

「佐久間、寺門! それに皆、来てくれたか」

 

「ああ。久しぶりだな」

 

 彼らの先頭に並ぶ佐久間と寺門の姿に、鬼道は喜色を滲ませて駆け寄った。

 真・帝国で“禁断の技”を放って身体を壊し、救急車で運ばれた二人だったが、いまは心身ともに完全回復といった様子だ。

 その証拠に、寺門は顔の血色と()けていた身体の肉が戻り、佐久間も破れていた眼帯が元通りになっている。

 源田もまた、彼らの許へ駆け寄って来て回復を言祝(ことほ)ぐ。

 

「電話で聞いてはいたが、二人とも元気になってよかった!」

 

「雷門の監督が紹介してくれた最新医療のお陰でな」

 

「お前の方はボケッぷりが健在で一周回って安心したぜ、源田。鬼道さんから聞いたぞ」

 

「辺見……俺も、お前の憎まれ口が聞けてなんだか安心したよ」

 

「なっっっんだよ気持ち悪ぃな!」

 

 源田は影山に誘拐され、真・帝国では倒れ、仲間たちとこうして面と向かい合うのも久しぶりになる。

 湧き出した気持ちを素直に口に出したが、それを受けた辺見には早口で叫んで顔を逸らされた。

 そんな二人のやり取りを余所に、佐久間が雷門イレブンの中にいるアフロディを見遣る。

 

「アフロディ。鬼道と源田から話は聞いている。お前もまた、影山に利用されていただけだと」

 

 世宇子中を率いたアフロディには帝国学園も浅からぬ因縁があったはずだが、事前に鬼道と源田の口利きがあったとはいえ、意外なほどに彼らは冷静だった。

 内心罵られることも覚悟していたアフロディが逆に少し面食らってしまうほどに。

 

「アン? なんだよ、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔しやがって。俺らに恨み言でも言われたかったのかよ。

 

 

 

 

 ――上等だコラ!」

 

「何も上等じゃねーよ咲山バカヤロー」

 

 目をぱちくりさせていたアフロディに噛み付いた咲山は呆れた顔をした万丈にどうどうと宥められ、二人の様子を尻目に一歩進み出てきた寺門が語る。

 

「そりゃあ俺たちも、お前らのことを許した、綺麗さっぱり水に流したとは、正直まだ言えねえよ」

 

 だがな、と寺門は言葉を区切り、洞面と成神にじゃれつかれている源田を横目に見た。

 

帝国(こっち)でも色々あったし、源田(あいつ)が、電話越しにもうるさいくらい、お前には助けられたって言ったんだよ。その上、そんな神妙な顔をしたやつ相手にグチグチ言うほど帝国(俺たち)は落ちぶれちゃいねえ」

 

「そういうことだな!」

 

 かつてはアフロディのシュートを身体を張って止めた大野が、ニカッと歯を見せて笑いながら寺門の言葉に同意する。

 

「鬼道、源田、そして円堂たちのこと、よろしく頼む」

 

 佐久間の言葉にアフロディは力強く頷いて応えた。

 帝国の絆の強さ、そして彼らから仲間を託されることの意味を、深く噛み締めて。

 

「さっ、積もる話は一先ずこの辺にして、練習始めようぜ! そのために呼んだんだろ」

 

 それまでの固い空気を打ち壊すような大きな声で大野が言う。

 

「お前らと一緒に練習するのか!」

 

「“デスゾーン”だろ? 自慢じゃねえが、俺たちも何度も打ってるんだ。力になるぜ」

 

 思ってもみなかった展開に目を丸くした円堂に寺門が返す。

 帝国での“デスゾーン”主要メンバーである彼と佐久間、洞面が円堂と土門の許へ。

 

「私たちは腐っても全国トップのサッカー部。胸を借りるつもりで来るといいでしょう」

 

「腐ってるとか言うんじゃねえよ五条!」

 

「ククク……言葉の綾」

 

 そして他の者たちも雷門イレブンの練習の相手をするべくフィールドに散る。

 

「よし皆、ここからはフォーメーションの実践だ! 辺見たちを止めるぞ!」

 

「マジっスかぁ!?」

 

「へっ、加減はしねえぞ」

 

「望むところだね!」

 

 ゴールに構える源田の号令に壁山が悲鳴を上げたものの、残念ながら他の者たちは相手にとって不足なしとばかりにノリノリだ。

 そうして、雷門・帝国の合同練習が幕を開けた。

 

「ククク……分身フェイント!」

 

「増えたぞ!? 気味悪い!」

 

「……ククク」

 

「動じるな木暮! 肝心なのはボールを奪うことだ、お前ならそれができるはずだぞ」

 

「わ、わかってるよ! 旋風陣

 

 ある時は、五条の切り込んでくるオフェンスに木暮が動揺するのに源田が叱咤激励を飛ばし。

 

「おらおら、もっとしっかりコース塞ごうとしろ! 俺らみてえなでけえのは、立ってる位置取りだけでオフェンスの邪魔ができるんだぜ!」

 

「は、はいっス!」

 

 ある時は、大野が自らと負けず劣らずの体躯を誇る壁山に助言を行い。

 

「行かせへんで!」

 

「スピードはスゲーけど……大切なのは相手のリズムだぜ! イリュージョンボール!」

 

 ある時は、迫った浦部を、成神が翻弄して抜き去る。

 長いエイリア学園との戦いの中で、確かに雷門イレブンは強くなった。

 だが帝国学園にも、40年連続大会優勝を果たすだけの蓄積がある。

 栄光の裏には影山の暗躍があったにせよ、彼らの培ってきたサッカーの実力が全国トップクラスであることには疑いようがない。

 その技術は、ここまでエイリア学園との戦いを進めてきた雷門イレブンをして目を見張るものだった。

 

 汗水流す練習は夕方まで続き、概ねタイミングが合うようになってきた鬼道たちの“デスゾーン”実践も兼ねた練習試合を明日に行う、と決まって一区切りとなった。

 

 

 




源田幸次郎
影山に病院から誘拐され、真・帝国では話せるような状態ではなかったので、仲間と話すのも結構久しぶり。

デスゾーン2メンバー
アニメだと鬼道が「帝国は完成に一ヶ月かかった」と語ったうえで、描写的に一日で習得&進化を果たしているやべーやつら。

帝国イレブン
佐久間と寺門は皇帝ペンギン1号の三発目を打たずに済んだため、すぐにサッカーが出来るまでに回復した。

帝国学園のサッカー部事情は捏造。





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